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どこだここ?なのです!

5月1日。

 

 朝起きるとそこは女の子の部屋だった。

 確か自分の部屋で寝たはずなのに、おかしい。

 

 女の子の部屋とは言ったが、それはどうやら普通の女の子の部屋では無いようだった。

 流石の俺にだって普通の女の子がどんな部屋を持っているかくらいはわかっているつもりだ。

 まず第一に、普通の女子はこんなどえらく広い部屋なんかを寝室にしない。

 普通の女子の部屋は壁に油画なんて飾ってないし、こんな大きな鏡なんて置いてないし、見上げてシャンデリアがあるなんていうことがあるわけない。

 この部屋に住んでいるとすれば、相当なお金持ち……それも王族クラスでなければありえないはずだ。

 

 俺は趣味の悪い(俺からすれば派手すぎる花柄の)カーテンを開いて外を見た。

 

 外を見ると、そこは俺の全く知らない異世界であった。

 ゴシック建築でニューヨーク並みの高層ビル群を創り上げたような、この世の中にあってはならないような壮観だった。

 思わず俺は自分の胸を触った。

 

 ムニムニ。

 

 揉める。

 案の定、俺は女の子になってしまっていた。人差し指には赤白い光を放つリングがしっかりとはめられていた。

 今日は5月1日。

 そう、つまりMagiaGameの開催日。

 俺は見事にこのリングを持ってして謎のゲームに招待されてしまったようだ。

 

 遠くからトコトコという足音が俺の方に向かって近づいてくる。

 ガラガラという車輪の音も同時に聞こえる。

 何かを運んでいる?

 

 そして、俺に向かってきた人間を視認した時、俺は驚嘆した。

 

「いやあ、貴方みたいなイレギュラー因子の相手をするのも疲れますよ」

 

 その姿は俺が大好きだった魔法少女アニメ「クリームキャンディーひなの」に出てくる反町ひなのだったのだ。

 クリームキャンディーひなのは超どマイナーな魔法少女アニメなので、まわりにファンは俺しか居なかった。

 俺がそのキャラクターをどれだけ好きかというと、アニメショップに行ってそのフィギュアのパンツを若干無理な体勢で強引にも覗いてしまうくらい好きだ。

 あのフィギュアにはプレミア価格がついていたが、超がつくほどマイナーなアニメなのだから仕方がない。あの店に展示されていたのが奇跡だ。

 つまりクリームキャンディーひなのとは、俺が飛島にあんなからかわれ方をするはめになった最大の要因だ。

 彼女は俺のことを『イレギュラー因子』と呼称した。つまり、それは俺がこの大会に参加する唯一の男であるとかそういう意味で言っているのだろうと思われる。

 自ら望んでイレギュラーになったわけじゃなくて、勝手にイレギュラーに参加させてきたんだから文句なんて言うんじゃねえよと思う。

 

「あ、自己紹介しますね。私は貴方もよく知っている反町ひなのです。大会主催者の紀良さんからの命令で貴方のマネージャーを担当することになったんです」

「ひなのさんって、俺の知ってるクリームキャンディーひなのに出てる反町ひなのなんですか?」

 念のために聞いておく。見た目はそっくりそのままだ。今にも興奮してしまう美貌。

「うーん、それは残念ながらちょっと違いますね。紀良さんのレプリカ魔法で做られた精霊って言えばわかりますか? あの人の魔法は本当に凄いんですよ」

「いや、魔法だなんて全然ついてこれません……。というか俺はなんで魔法少女になってしまったんでしょう?」

「それは――貴方のお父さんとお母さんに関係があること――って光太郎さんは言ってました。お父さんとお母さんは今どうしてますか?」

「父と母は数年前に事故で死にました……」

「そうでしたか……。私、今失礼なことを聞いてしまいましたね」

「いえいえ。しかしそれとこれとではどう関係があるんでしょう?」

「光太郎さんからは――この大会で優勝したら真実を教えてやる、と伝えておけ――と言われています」


 父親と母親は数年前、事故で死んだとだけ伯父(蕎麦屋のおっさん)に伝えられた。

 それとマギアゲームとが何か関係するというのか? 少なくとも、大会主催者の川瀬見紀良は何かを知っているようだった。

 それにしても不思議だ。アニメでさんざん憧れ焦がれてきた反町ひなのが実態となって俺の目の前に顕れているのだ。

 いよいよここは俺の知っている世界ではあり得ないことが平然と起こるのだという実感が湧いてきた。

 そして目の前に居る彼女の顔が限りなくリアル(実写)であることがいやがうえにも実感を強固たるものにした。

 

「すみません! そういえば私、朝食を持ってきたんでした!」

 反町ひなのは運んできた台車から、如何にも美味そうなハムエッグトーストを机に置いた。紅茶もついていた。

「この世界に来たからには最初の食事が大事なんですよ! 特に異世界に来たからにはまず食べないと駄目なんですっ」

「なんで最初の食事が大事なんですか? というかここ異世界なんですか?」

「え、カーテン開けて気づきませんでしたか? ここは普通の世界じゃないですよ」

「それは何故です? マギアゲームを異世界でやる必要ってどこにあるんですか」

「うーん、それは異世界ならつぶしが利くからですかね? あ、ちゃんとテレビで中継はされてるから安心してくださいね! どういう仕組で中継してるかというと、魔法の電波でなんですよね。世界の境界線を越えてまで電波を受信させてるわけですから、通信員の業務は過酷らしいですよ」

 彼女はさらっと恐ろしいことを言う。

「で、なんで最初の食事が大事なんでしたっけ?」

「ああ、それはですねこういう異世界に行った時は食事を摂っておかないと、この世界に上手く固定されなくて、どこの世界にも属さない宙ぶらりんになってしまうんです! 食事をすることで初めてここに住む権利を得られるわけなんですよね」

「いや、よくわかんないっすけど大会はゴールデンウィーク中だけですよね?」

「はい、そうですよ」

「それでも食事は摂っておかないと駄目なんですか?」

「世界に転移してから二時間以内に食べないと宙ぶらりんですよ、それまた酷いくらいに」

「なんだかいろいろあるんすね……」

「あ、戻るときも二時間以内に食べないと同じく宙ぶらりんなのでお気をつけを!」

 

 なんて面倒くさい中途半端な魔法なのだろう。宙ぶらりん? どんな状態なんだ。それはそれで知りたくはあるけどな。

 でもそれはなんとなく怖いから、俺は元の世界に戻ったらおっさんのとこの蕎麦屋に行って真っ先に蕎麦を食うことにしよう。

 

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