表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
地に響く天の歌 〜この星に歌う喜びを〜  作者: 春日千夜
第2部 旅の一座 【第6章 二人のハーモニー】
99/647

78:二人のお祭り3

前回のざっくりあらすじ:ニースとセラは演技力も抜群だった。

 ニースとセラは、マルコムと入れ替わって舞台を降りると、すぐに仮面をつけた。手早くローブを脱いで帽子を被り、二人はそのまま広場に走り出す。仮面は舞台用のもので、目の部分しか覆っていない。しかし、舞台で歌った子どもだと気付かれないためには、充分な衣装替えだった。町の人々は皆、舞台に釘付けで、舞台裏から駆けていく小さな二人に気づく者はいなかった。

 広場を一気に駆け抜けると、路地の壁に背を預けて二人は笑った。


「あはは。手品をする方も、あんなに楽しいなんて、ぼく思わなかった!」

「うん! みんなすごいビックリしていたね」


 二人はひとしきり笑うと、手を繋いで屋台を回った。皇国の屋台に並ぶ品は、二人の目にはどれも物珍しかった。


「ニース、あれ何だろう?」


 ニースの袖を引っ張り、セラが指差す先では、大きな水桶に小さな赤い魚が何匹も泳いでいた。興味深く魚を見つめる二人に、強面の店主が柔和な笑みを浮かべて話しかけた。


「お嬢ちゃんたち。金魚すくい、やってかないかい?」

「金魚すくい?」

「金魚すくいを知らないのか?」


 セラがしゅんと肩を落としたので、ニースは苦笑いを浮かべた。


「おじさん。ぼくたち旅をしてるから、ここのお祭りは初めてなんです」


 ニースの言葉に店主は、がははと笑った。


「旅人か。ちょうと今日が祭りで良かったな、坊主たち。金魚すくいは皇国では有名なんだ。この小さな魚が金魚だ。もし掬えたら、そのまま金魚を持って帰れるんだ」


 セラは店主の言葉に目を輝かせた。


「このお魚さん、もらえるの⁉︎」

「そうだよ、お嬢ちゃん。だが、旅人なら連れてくのは難しいか。もし坊主たちの家族がダメだっていう時は、代わりに飴をたくさんやるよ」

「飴ですか?」

「俺の手作りなんだ。金魚すくいは難しくてな。掬えなかった客に飴を渡してるんだが、金魚を飼えない客には、その飴を多めにやるんだ。どうだ、やってくか?」

「ニース、私やってみたい! 掬えたら、ジーナさんたちにちゃんと話すから! お願い!」


 真剣な眼差しで見つめるセラに、ニースは優しい笑みを返した。


「うん、やろう」

「やったー!」


 ニースとセラは、モナカで作られたポイを片手に金魚を追う。袖をまくり真剣な眼差しで、セラが金魚に狙いを定めた。


「えいっ……! ああ、壊れちゃった……」


 奮闘虚しく、セラのポイは金具から外れ、沈んでいった。落ち込むセラを見て、ニースは頑張ったが、やはり金魚はすくえなかった。屋台の店主が、はははと笑った。


「二人とも残念だったな。ほら、これを持って行きな」


 ニースとセラは、小さな飴をもらった。二人は微笑み合いながら、飴を舐めた。


 二人は、輪投げや吹き矢の射的を楽しみ、飲食店を回る。いつの間にか二人の両手は、()()()でいっぱいになった。広場では未だ公演が続いており、町の人々がメグと共に踊っていた。二人は歓声と楽しげな音色に耳を傾けながら、広場の中でも街灯の少ない閑散とした片隅に、腰を下ろした。肉や魚の串焼きに、揚げた芋。飴を絡めた果物や、紐を結んだような形のビスケット。たくさんの()()を小さな屋台のように布に広げ、味見をするように分けあって食べた。


「ニース。このプレッツェルっていうの、美味しいよ」

「こっちの、りんご飴っていうのも美味しいね」


 塩っぱいもの、甘いもの……様々な料理を口に運び、二人は笑みをこぼした。お腹が落ち着いた二人は、祭りの喧騒を聴きながら、空を見上げた。


「仮面をつけてると見えにくいね」

「ニース、外しちゃおうよ」


 二人は、ふふっと笑いあうと、仮面を外して改めて空を見上げた。澄みきった星空には、数えきれないほど星が瞬く。そのうち、ついと一つ星が流れた。


「あ! 流れ星!」

「本当だ。綺麗だね、セラ」


 また星が流れないかと、わくわくしながら見上げるセラの横顔を、ニースは見つめていた。


「なあに、ニース?」


 セラが不思議そうにニースの顔を見ると、ニースはにっこり微笑んだ。


「セラが楽しそうで良かった」


 セラは嬉しそうに、にへらと笑った。


「うん、すごく楽しいよ。ニースと一緒だから」


 ほんのり頬を染めたセラの手を、ニースは優しく取り、手のひらを上に向けさせた。


「見せたいものがあるんだ」


 ニースは、懐から小さな絹布を取り出すと、セラの手に被せた。


「ぼく、これをたくさん練習したんだ。うまく出来るかわからないけど……」


 ニースの言葉に、セラは首を傾げた。ニースは、真剣な眼差しで絹布を見つめた。


「さん、に、いち……はい!」


 するり、と絹布をニースが引き取ると、小さな包みが、ころりとセラの手に乗った。


「うわあ! すごい!」


 セラはキラキラと目を輝かせて、包みを見つめた。綺麗なピンクの花模様の紙に包まれた箱のようなものに、真っ赤なリボンがしっかりと結ばれていた。


「お誕生日おめでとう、セラ」


 微笑んだニースの顔を見て、セラは嬉しさで涙をにじませた。


「ありがとう、ニース……」


 ぐすりと小さく鼻をすするセラに、ニースは戸惑い視線を逸らした。


「ごめん、泣かせるつもりはなかったんだけど……。喜んでもらえるかなって思って……」


 セラは慌てて涙を拭うと、頬を赤く染めて笑みを浮かべた。


「ううん。すっごく嬉しいよ! これは、嬉し涙だもん!」


 セラの言葉に、ニースは笑った。


「あはは。それなら良かったよ。開けてみて?」


 セラは、こくりと頷いて、リボンをするりと外す。丁寧に包みを開くと、中には小さな木箱が入っていた。


「うわあ! これって、羽の形?」


 木箱の表面には、丁寧に羽の形が彫られていた。ところどころ歪な線もあったが、心を込めて彫られたことがセラには伝わった。


「うん……。あんまり上手じゃないけどね」


 照れくさそうにニースが笑うと、セラはふるふると首を横に振った。


「ううん。上手だよ! すごいね! バードちゃんの羽みたい!」

「うん。実は、バードが羽をくれたから、それを見て彫ったんだ」

「そうなんだ……!」


 セラは顔を近づけて箱を眺めたり、彫りを手でなぞったりして、感嘆の声を漏らした。ニースは嬉しくなり笑みを浮かべた。


「セラ。この箱は、ただの箱じゃないんだよ。蛇口を開けるように、左回りにひねってみて?」


 セラは言われたとおりに、きゅっと箱をひねった。すると、箱が上下に分かれて、まるで二枚の木板のようになった。


「あ! これって……!」


 木板の真ん中には、ハンドクリームの缶が、蓋を開いて収まっていた。


「蓋はこっちにあるんだよ」


 セラが取り外した方の木板には、缶の蓋が収まっていた。


「すごい! これって、木箱じゃなくてクリームの缶なんだ!」

「うん。ハンドクリームがなくなっても、缶を外して交換出来るんだ。クリームは、足りなくなったらジーナさんが足してくれるって」


 セラは、さっそくクリームをすくい、手に塗り込む。ふわりと花の香りが漂った。


「いい香り……!」


 はしゃぐセラに、ニースは笑った。


「気に入ってもらえてよかったよ。……それから、これ」


 ニースは、懐からセラが忘れていった小さな缶を取り出す。


「ごめんね。もっと早くに返してあげれば良かったんだけど……。ぼく、その……」


 ニースは気まずさから口ごもり、目を伏せた。セラは、ニースの手から鈍く光る銀色の缶を受け取った。


「ううん。いいの。もうほとんどなくなってたし、どこかに落としちゃったと思ってたの。ありがとうね、ニース」


 微笑んだセラの優しさを感じて、ニースは笑った。


「それからね、セラ。実はもうひとつプレゼントがあるんだ」


 首を傾げるセラに、ニースは木箱を渡すように伝えた。セラから木箱を受け取ると、ニースは一度蓋を閉めた。


「この箱はね、ひねるとクリームが出せるんだけど……」

 

 ニースは、箱の横にある小さな突起を押しながら、箱の上部を上に引き抜いた。すると缶の蓋の上に、小さな首飾り(ペンダント)が乗っていた。


「はい、これ」


 首飾りに付いている青い石は、ほんのり淡く光っていた。柔らかな光の美しさに、セラは瞳を輝かせた。


「うわあ……!」

「これ、蛍石って言うんだ。お日さまの光に当てておくと、夜に光るんだって」


 セラは、さっそく首飾りをつけようとした。しかし、なかなかフックがかからない。ニースに手伝ってもらい、首飾りをつけると、セラはおずおずと尋ねた。


「どうかな……似合う?」

「うん。似合ってるよ、とっても」


 セラは嬉しそうに、ふわりと微笑んだ。


「ありがとう、ニース。私、一生の宝物にするね!」


 ニースには蛍石と同じように、セラの笑顔が光って見えた。


 ニースとセラの、二人きりの小さなお祝いが終わる頃、グスタフたちの公演も幕を下ろした。まだ騒ぎ足りない町の人々は、酒場へと足を進める。ニースとセラが仮面をつけて足早にオルガン馬車へと戻ると、メグが笑みを浮かべて二人を迎えた。


「お疲れ様。二人とも楽しんだみたいね。セラ、首飾り似合ってるわよ」


 グスタフは町長と話をしており、マルコムとラチェットは荷物をオルガン馬車に積み込んでいた。


「あれ? ジーナさんは?」


 ニースが首を傾げると、二人の後ろから声がした。


「私はここよー」


 二人が振り返ると、ジーナが屋台の料理をどっさり入れた大きな籠を持って歩いてきた。


「美味しそうなものが、たーくさんあったから、ついつい買いすぎちゃったー」


 嬉しそうに笑うジーナに、メグが呆れて目を向けた。


「もうっ、お母さんたら。また買いすぎよ!」

「いいじゃない、お祭りの時ぐらいー」

「お母さんは、年中お祭りみたいなものでしょ!」


 言い合いを始める二人に、ニースとセラは、くすくすと楽しそうに笑った。

 一行は宿へ戻ると、グスタフの部屋で、セラのお祝いをした。ジーナが買い込んだ屋台の料理と、宿の食堂から運ばれた料理がテーブルに並ぶ。ジーナは、セラのお祝いのために、きちんと()()を用意していた。


「似合うわー! すっごく可愛いー!」


 セラは、白い猫耳と細長い尻尾、フリルがたくさん付いたピンクのメイド服姿で、肉球つきの大きな手袋をはめていた。


「確かに可愛いけど、ずるいわ! 私の時は鶏だったのに」

「まあまあ、お嬢。セラちゃんの可愛い姿が見れたんだから、いいじゃないか」


 文句を言うメグに、ニヤニヤと笑みを浮かべるマルコム。その向かい側で、ニースとセラは、にこにこと微笑み合っていた。幸せそうな小さな二人の姿に、安心したようにラチェットが笑った。


「よかったね、セラちゃん」


 グスタフは、しみじみと頷いた。


「お化けより、ずっといい」


 町の祭りは終わっても、一座の祭りは終わらない。ニースたちは、心からセラの誕生日を祝った。満天の星空に、流れ星がいくつも輝いていた。


 翌朝。また雨が降り出す前にと、一行はアウクリシウムの町に別れを告げた。街道を南下していくグスタフの馬車で、メグは怒っていた。


「もうっ! お母さんのせいで、ニースがこっちに乗らなかったじゃないの! セラまであっちに行っちゃうし!」


 メグの怒りを受け流すように、ジーナは軽やかに笑った。


「いやだわー、メグちゃん。仕方ないでしょー。ニースくんが、可愛いんだもーん」


 メグは、ぷぅと頬を膨らませた。


「何が可愛いよ! あんな恐ろしいお化けの格好の、どこが可愛かったって言うのよ!」


 金切り声を上げて迫るメグに、御者台に座るグスタフが、小窓を開けて声をかけた。


「メグ。そんなにジーナを責めるな」


 メグは、刺すような鋭い目をグスタフに向けた。


「お父さんだって、被害者でしょ⁉︎ お母さんに甘すぎるわ! それとも、またお化けのニースを見たいわけ⁉︎」


 グスタフは、ぷるりと身を震わせた。


「そ、そんなのは、私も嫌だ……!」


 メグは、味方を得たとばかりにジーナを睨んだ。


「せめてニースが、お父さんと一緒に御者台に乗ってれば、まだ良かったわよ。でも、それすら嫌がるほどなんだから、お母さんは反省してよね!」


 しかし、ジーナはどこ吹く風だ。ゆったりと席に座り、呆れたように肩をすくめた。


「メグちゃんたら、なーんにもわかってないわねー」


 ジーナの言葉に、メグは眉を吊り上げた。


「なにがわかってないっていうのよ……!」


 憎々しげなメグの声に、グスタフが大きなため息を吐いた。


「メグ……。気持ちはわかるが、ジーナに突っかかるな。ニースを御者台に乗せるわけにはいかないんだよ」


 グスタフの言葉に、メグは不思議そうに問いかけた。


「え? なんで?」


 グスタフは真剣な声音で、メグに答えた。


「あと数日もすれば、皇国の国境に着く。そうすれば、次はカランド聖皇国だ。ここから先には、聖皇国の人間も増えてくる。天の導きのニースを御者台に乗せてる所を、聖皇国の人間が見たりしたら、騒ぎになりかねないんだ。実際に聖皇国でそんなことになったら、私たちは()()()()()羽目になるよ」


 ぽかんと口を開くメグに、ジーナが話した。


「カランド聖皇国で尊ばれている聖女様って、天の導きだったのよー。だから、黒いニースが御者台にいたりしたら、私たちはみーんな、あっという間にこれよー」


 ジーナは、首を切るように手を動かして、あははと笑った。


「ちょ、ちょっと、お母さん! それって、笑い事にならないんじゃないの⁉︎ それに、オルガン馬車の荷台にいるのも、マズいんじゃない⁉︎」


 焦るメグの声に、ジーナはひらひらと手を振った。


「大丈夫よー。オルガン馬車は荷台って言っても発掘品だから、問題にはされないわー。それに何より、ニースくんがここに乗れないんだから、あっちに乗るしかないのよー」


 笑うジーナにメグは、怒りで顔を赤くした。


「ここに乗れない原因を作ったのは、お母さんでしょ!」


 ドタバタと取っ組み合いを始める二人に感化されたように、鳥籠でバードたちが騒ぎ出す。騒がしい車内に苦笑いを浮かべ、グスタフは空を仰いだ。二台の馬車が進む先には、抜けるような青空が、どこまでも広がっていた。

これにて、第6章終了となります。

このあと、閑話、幕間劇、人物紹介を挟みまして、第7章へと続きます。


新たな試練と、この世界でのもう一つの歌の形が、ニースを待ち受けます。

引き続きよろしくお願い致します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ