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地に響く天の歌 〜この星に歌う喜びを〜  作者: 春日千夜
第2部 旅の一座 【第6章 二人のハーモニー】
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77:二人のお祭り2

前回のざっくりあらすじ:お化け祭り開催のお知らせ。

 昼食を終えたグスタフたちは、ニースとセラをジーナに任せて、一足先に町の広場へと来ていた。空は高く晴れ渡り、ひんやりとした秋風の中で、柔らかな日差しが降り注いでいた。石畳の広場中央に舞台が置かれており、その後ろにラチェットはオルガン馬車を止めた。ハンドルを回して開口部を開くと、グスタフとマルコムは、大きな箱を馬車の陰に運んだ。ラチェットは、そのままオルガンの調律を行い、グスタフもバイオリンの調弦を始めた。整っていく軽やかな音色に、町行く人々は祭りへの期待を膨らませた。

 太陽が西の山に落ち始め、街灯に光が灯る。市壁の物見櫓から、祭りの開始を告げる鐘の音が響いた。マルコムと最後の打ち合わせをしていたメグは、キョロキョロと辺りを見回した。


「鐘が鳴ったということは、そろそろ……」


 広場に続く通り沿いから、時折悲鳴が響きだした。マルコムが、くつくつと笑い声を上げた。


「子どもたちが張り切ってるみたいだな」


 思い思いの衣装を見に纏った、小さな()()()たちが、町のそこかしこで大人を脅かし始めた。物陰から突然顔を出す子。後ろからそっと近づき、大声を上げる子。子どもたちは皆、思いつく限りの方法で大人たちを脅かしていた。

 夕日が空を赤く照らし、広場はだんだんと薄暗くなっていく。オルガンの調律を終えたラチェットが立ち上がり、メガネを外して布で拭いた。


「これって確か、日没まで続くんでしたっけ?」


 グスタフが、辺りを警戒しながら頷いた。


「ああ。日が沈む頃に、もう一度鐘が鳴るそうだ。それを合図に仮装は終わりだ。気が抜けないな……」


 グスタフは緊張した面持ちでバイオリンを置くと、舞台の裏手に荷物を取りに行こうとして悲鳴を上げた。


「ぎゃあぁぁぁ!」


 グスタフの目の前に、頭に斧が刺さった血みどろお化けが現れていた。


「うひぃぃ! 山賊だぁぁぁぁ!」


 現れたお化けは、グスタフの顔を見て悲鳴を上げ、脱兎のごとく逃げ出した。それを見ていたマルコムが、盛大に噴き出した。


「ぶはは。グスタフの顔は、お化けも怖いってよ」


 グスタフは涙目になりながら、ぷるぷると足を震わせ、オルガンを背に座った。


「だったら、私のそばには来ないでくれ……!」


 身を縮ませて怯えるグスタフに、メグが呆れてため息を吐いた。


「まったく、お父さんたら。情けないわね……」


 ラチェットは苦笑いを浮かべると、メガネをかけ直し、メグに目を向けた。


「……あ」


 固まるラチェットに、メグは後ろを振り返り、声にならない悲鳴を上げた。


「ひっ……!」


 メグの後ろには、赤髪と金髪の小さな二人の()()()が、手を繋いで立っていた。背を赤い夕日に照らされた、血の気のない真っ白なその姿は、血に塗れたネグリジェを纏っており、首があらぬ方向へ曲がり、空いた手に壊れた熊のぬいぐるみを、ぷらりとぶら下げていた。乱れた長い髪の隙間から、血走った白目が見え、片頬には皮膚がなく、骨が血と共に剥き出しになっていた。その()()()()()は、にへらと笑みを浮かべると、ぐぎりと首を傾げた。


「おねえちゃん……あそぼう……?」


 重なり合う()()()の声に、メグはくらりと気を失った。倒れるメグを、咄嗟にラチェットが抱きとめた。グスタフが恐怖で白眼を剥いて気を失い、マルコムが盛大に笑った。


「ぶはは! これはすごいな!」


 マルコムの声に、二人の()()()は、()()()()()()


「あ……メグさん⁉︎」


 赤髪お化けはセラだった。セラは、慌ててメグに駆け寄った。


「んん……ひっ!」


 ラチェットの腕の中で気が付いたメグは、血まみれのセラの顔を見て、再び気を失った。ラチェットは、苦笑いを浮かべた。


「セラちゃん。化粧を落としてからじゃないと、無理かも」


 セラは気まずそうに、えへへと笑った。

 金髪の()()()は、真っ直ぐグスタフの元へ向かった。


「グスタフさん、しっかりしてください」


 ゆらゆらと揺すられて、意識を取り戻したグスタフは、()()()の顔を見て悲鳴を上げた。


「うわぁぁぁぁ! 来るなぁぁぁ!」


 必死にオルガン馬車の片隅まで後退りするグスタフに、()()()は苦笑いを浮かべた。


「あの、グスタフさん。わかりませんか?」

「わ、私に近寄るなぁぁぁ!」


 恐怖の涙でぐずぐずに顔を歪めるグスタフに、マルコムは笑い転げた。ラチェットは、グスタフに困った顔を向ける()()()に、声をかけた。


「ニース。ニースも化粧を落とさないとダメだよ」


 グスタフは、ラチェットの言葉に目を見開いた。


「に、ニース……?」


 ニースは、こくりと頷くと、金髪のカツラを外した。


「はい。ぼくですよ、グスタフさん。だから、そんなに怖がらないでください」

「女の子のお化けにするなんて、やり過ぎだよ、ジーナ……」


 グスタフは、へなへなと力を抜き、馬車の外板に背を預けて空を仰いだ。夜闇が混ざり始めた夕焼け空に、笑い転げるマルコムの声と、町の大人たちの悲鳴が響き渡っていた。


 秋の日はつるべ落としだ。()()()の時間はあっという間に終わりを迎え、町には平和を告げる鐘が鳴り響いた。ニースとセラは、オルガン馬車の陰に隠れるようにして、ジーナに化粧を落としてもらっていた。その横でメグは、ジーナに怒りをぶつけていた。


「もうっ、信じられない! 広場の隅からこっそり見てたなんて、酷いわ!」

「うふふー。ごめんねー、メグちゃん。でもでもー、私はとーっても大満足なのー」


 全く反省するつもりのないジーナは、手際よく二人の化粧を落としていった。


「はい。これで出来上がりー。あとは、ネグリジェを脱いで、ローブを着てねー」


 ニースとセラは、ネグリジェの下にいつもの服を着ていた。言われた通りにローブを着ると、ジーナは二人に仮面を渡した。


「二人とも、いーい? 今日は、舞台でこれを被るんじゃなく、舞台から降りたら被ってねー」


 二人にパチリと片目を瞑ったジーナに、メグは首を傾げた。


「なんで今日は舞台で被らないの? それって、舞台用の仮面よね?」


 久しぶりに日の目を見た仮面に喜びながら、マルコムが答えた。


「この町の人はニースがいることを、もう知ってる。だが、仮面をつけた子どものことは知らない。そして今日は仮装の日で、お面をつけた子どもはたくさんいる。だから舞台が終わったあとに、二人で広場をうろついていても、ローブを脱いで仮面をつければわからないのさ」


 ニヤリと笑みを浮かべたマルコムに、メグはさらに問いかけた。


「でも、ニースの髪は?」

「今は夜だからな。帽子をかぶってれば、髪の色はわからないさ。顔や手に色を塗ってる子どももいるから、ニースの肌もバレやしない」

「そういうことなら安心ね」


 町長と話していたグスタフが、皆に声をかけた。


「そろそろ始めるぞ」


 ラチェットは頷くと、ニースの耳に囁いた。


「がんばれよ、ニース」


 ぽんとニースの肩を叩くと、ラチェットはオルガンに向かった。頷きを返し、ラチェットを見送るニースに、マルコムが小さな袋を手渡した。


「ニース、これを持っといてくれ」

「これ、なんですか?」

「今日の()()()()だよ。舞台から降りたら、屋台で何か買って、二人で食べるといい」


 マルコムは、パチリと片目を瞑った。ニースが袋を開けると、銅貨がたくさん入っていた。


「ありがとうございます」


 ニースは、ぺこりと頭を下げた。セラが袋を覗き込み、感嘆の声を上げた。


「うわあ、いいんですか?」

「ああ、もちろん。遠慮するなよ、セラちゃん。今日は誕生日なんだから、君が主役だ。そして、舞台をよろしく頼むな」


 マルコムは笑顔でセラに言うと、舞台袖に向かった。メグが、ふふふと笑った。


「良かったじゃない、二人とも。私たちも後でちゃんとお祝いするけど、ニース、それまでセラをよろしくね」


 メグの言葉にニースが頷くと、メグも準備に向かった。ジーナがひらひらと手を振ってメグを見送り、ニースとセラの髪を整えた。


「さあ、二人ともー。がんばってらっしゃーい」


 笑顔のジーナに送り出され、ニースとセラも位置に着く。アウクリシウムの祭りの夜が始まろうとしていた。

 町長の挨拶が終わると、紹介されたグスタフが舞台へ上がった。


「紳士淑女、少年少女、老若男女のみなさま。旅の一座ハリカの演奏と共に、どうぞ祭りを心ゆくまでお楽しみください」


 グスタフの口上が終わるとラチェットのオルガンが軽快な旋律を奏で始め、祭りの特別公演が始まった。メグが華麗なステップを踏みながら躍り出ると、拍手が湧いた。町の人々は屋台の品を口にしながら、思い思いに公演を楽しんだ。

 メグの後ろで、マルコムとグスタフが大きな箱を舞台に上げた。グスタフがバイオリンを構えると、オルガンの旋律が幻想的なものに変わった。バイオリンとオルガンの音色に合わせるように、マルコムが箱を開けた。人々は何が始まるのかと、胸を躍らせた。大きな箱の中には何もなく、そこにマルコムは入り込む。メグが箱の蓋に鍵をかけ、布を被せた。期待の高まる中で、メグが布を外し、蓋を開けると、中からニースとセラが出てきた。

 会場のどよめきの中で、オルガンの音色が変わった。メグが箱の中身を見せるが、どこにもマルコムの姿はなかった。オルガンの音色に合わせて、ニースとセラが歌い出す。二人が練習して合わせた、歌のハーモニーが、広場に響き渡った。


 柔らかな旋律が人々の耳を優しく撫でる。詞は、高く澄んだ秋の星空のように煌めいて、命の喜びを歌う。実り豊かな大地に感謝を告げるように、慈しみ溢れる歌は、人々の心を優しく包み込んだ。


 温かな歌声に聞き惚れている人々へ、ニースとセラがお辞儀をすると、割れんばかりの拍手が鳴り響いた。空の箱に蓋がされ、その上にニースとセラが乗る。再び幻想的なオルガンの旋律が流れると、メグが大きな布で箱ごと二人を覆い隠した。……次の瞬間。メグが布を取り去ると、小さな二人の姿は消えて、マルコムが現れた。あまりの早業に、唖然とする人々の前で、マルコムの手品が続く。広場が歓声に包まれる中、小さな影が二つ、舞台の裏手から駆け抜けていった。

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