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地に響く天の歌 〜この星に歌う喜びを〜  作者: 春日千夜
第2部 旅の一座 【第5章 歌い手と“調子外れ”】
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★[幕間劇〜とあるスパイの話]第4回

お話の区切りとして、コメディ色強めの幕間劇を、今回も書きました。

読み飛ばしていただいても、本編ストーリーの進行に問題ありません。

 とある手品師の籠の中。三羽の鳥が静かに眠る。しかし、その内の一羽はそわそわしていた。彼には心臓はないが心はある。可愛い子がそばにいたら、たとえ優秀なスパイでも、落ち着かなくなってしまうのだ。


 ――うわー、どうしよー。俺っちには、ココがいるのにー。


 彼の名はバードスリー。しかし彼を知る者は、彼をバードと呼ぶ。バードは、ココという片想いの相手がいる一途な鳥である……はずだ。そんな純情なバードにピンチが訪れていた。


 ――こんなかわい子ちゃんたちと、同じ鳥籠に入れられるなんてー!


 バードも所詮は恋多き一羽のオスだったという事だろうか。バードは同じ鳥籠にいる()()()()に、心を奪われかけていた。もちろんバードからの一方的な想いである。

 そこへ、恋に悩むバードの元に、通信が入った。


「バード、聞こえるか。エクシーだ」

「どうしよー。あの子たちとココ……いや、ココの方が美人だけど、全然会えないし……」


 二人の声は周囲には聞こえない。バードは優秀なスパイであるからして、テレパシーのように脳内で会話が出来るのだ。


「バード、聞こえるか?」

「俺っちと同じ鳥籠に入れられてるわけだし、あの子たちが俺っちの魅力に気付いたら……」

「バード!」

「ふおぅわぁぁ! ……び、びっくりした! エクシー、いつの間に通信してたの⁉︎」

「バード、お前はアホか。チャンネル開きっぱなしで、くだらないことを考えるなよ……。専用回線に切り替えろ。定時報告を忘れてるぞ」

「あ、あれー? もうそんな時間なのー?」

「バード。お前本当に大丈夫なのか?」


 バードは優秀なスパイである。上司であるエクシーへの定時連絡に遅れるなど、珍しい事なのだ。……たぶん。


「大丈夫だよ、エクシー。……よし。回線はこれでオッケー! えっと、ニースのことだよねー?」

「お前な。それ以外に何があるっていうんだ。任務を忘れるな。お前の任務は、例の子どもの監視だ」

「俺っち、ちゃーんと仕事してるよー! 安心して、エクシー」


 バードのいる鳥籠は、グスタフの馬車の中だ。ニースが乗っているオルガン馬車からは離れているが、バードは優秀なスパイである。後ろを走る馬車の中を()()ことなど、造作ないのだ。


「それならいい。それで、どうなんだ?」

「えっとねー、ニースは今日倒れたけどー、金ピカの趣味悪いじーさんに助けられたみたいだよー」

「倒れた⁉︎」

「熱中症と、精神的なショックが重なっただけだから、安心してー。ニースは肌が黒いから、熱っぽいのに気付かないみたいなんだよねー」

「そういう時はバード、お前がどうにかしろ。死なれたら困るぞ。まだまだデータ収集の必要があるんだからな」

「はいはーい。りょーかいだよ、エクシー」

「ところでバード。お前が鳥籠にいたとはな。いつ捕まったんだ?」

「え⁉︎ エクシー、なんで知ってるの⁉︎」

「さっき自分で思い切り言ってただろう。全世界に発信されてたぞ」

「ウソォォォォ!」


 バードの叫びが馬車に響く。しかし、バードは鳥である。バードの叫びはくるっぽーとしか聞こえない。その上、今のニースたちは焚き火を囲んで食事中だ。誰もバードの叫びに気付くことはなかった。


「最近お前から送られてくるデータが、同じ位置からの物ばかりだと思っていたが、まさか捕まっていたとはな」

「ち、違うよ、エクシー! 俺っち、潜入してるだけなんだ!」

「わかった、わかった。そういうことにしておくよ。とにかく、監視はしっかり続けろ。ココとデートしたいならな」

「りょーかいだよ、エクシー」


 バードはエクシーとの通信を切ると、気合いを込めるかのように、くるっぽーと鳴いた。


「よーし! 籠から出られるようになって、エクシーに良い所見せるぞー!」


 バードは優秀なスパイである。捕まったなどという汚名を着せられたままでは、納得いかないのだ。……たぶん。




 ◆◇◆◇◆◇



 バードの作戦は見事に成功した。バードは喜び、空を舞っていた。


「やったー! 空だー!」

「バードは、ずいぶん楽しそうだね」

「そうですね、ラチェットさん。公園なんて初めて知ったけど、バードが嬉しそうでよかった」


 バードは優秀なスパイである。バードの言葉は、ニースたちには、くるっぽーとしか聞こえない。バードは、鳥籠の鍵を持つマルコムの同情を見事に誘い、ニースたちと外に出ることを許されていた。

 バードは空を舞い、土や草の上を歩き、木の枝を飛び移る。久しぶりの自由な外に、バードは、はしゃいでいた。ニースが町の子どもたちに囲まれると、歩くバードに少女たちがついて回った。


「俺っち、大人気ー! 人間だって俺っちにメロメロなんだから、きっとココも俺っちを気に入ってくれるよねー。無事に外に出られたし、これならエクシーがココとデートさせてくれるかもー!」


 上機嫌のバードの()()()極秘通信を知らせる着信音が響いた。


「え⁉︎ なに⁉︎ 誰から⁉︎」


 バードは慌てて地面へ降りると、歩きながら回線を繋いだ。


「こちらバード、こちらバード。えっと、どちら様ですか?」

「こちらココ。バード、久しぶりね。通信で話すのは大崩壊以来かしら」

「こ、こ、こ、ココ⁉︎」

「ふふ。バード、私の名前はココよ。コココココじゃないわ」


 バードは一羽の鳥である。慌てふためくバードは、ニースたちには羽ばたいてるようにしか見えなかった。


「ココ、なんで突然? エクシーが言ってくれたの?」

「エクシー? エクシーがそんなこと、するわけないじゃない。あなたの近くまで来れたから、会えないかと思ったのよ。今まで二人きりで会うことが出来なかったし、ようやくこの回線が使えるようになったから」

「ふ、二人きり⁉︎ お、俺っちなら、いつでも空いてるよ! あ、いや、暇ってわけじゃなくて、ココのためならいつでも空けるって意味で!」

「ふふ。わかってるわ。この前、あなたの声が流れてたのを聞いたもの。可愛い子たちと一緒なんでしょう?」

「え⁉︎」


 バードは思わず足を止めた。すると急に空が陰った。そして大粒の雨が、突然バードの体を叩きつけた。


「あいたたた……!」

「バード、どうしたの?」

「夕立だ! ニースは……大きな木の下かー。ちょっと移動するから待っててー」

「わかったわ。そこが夕立なら私のところにも、雨雲が来るわね……」

「え⁉︎ ココ、近くって、そんなに近くなの⁉︎」

「ええ、そうよ。それより、もう大丈夫なの?」

「うん。ニースが体を拭いてくれたー」

「そう。優しい人間と一緒にいるのね。安心したわ」


 バードは優秀なスパイである。突然の出来事で動揺しても、擬態は決して解かない。ニースに鳥として接してもらいながら、通信するなど容易い事なのだ。


「それでココ。いつ頃会えそう?」

「そうね……次の待宵月(まつよいのつき)の日の、午後なんてどうかしら?」

「うん、きっと大丈夫だと思う!」

「そう、よかったわ。何か変更があったら、この回線で繋いで。絶対にエクシーには話さないでね」

「なんでエクシーに言っちゃダメなのー?」

「それは会った時に説明するわ。とにかく、私と接触してることは、エクシーには漏らさないで」

「りょーかいだよ、ココ」

「ありがとう。じゃあ、またね、バード」


 バードは通信を切ると、天に舞い上がりそうな気持ちになった。バードは一羽のオスである。憧れのココとのデートなのだ。喜ばないはずはない。

 しかし残念なことに、約束の日にバードはココに会いにいけなかった。領主に呼び出されたマルコムに、劇場に置いてけぼりにされたからである。


「なんでだよ、相方ぁぁぁぁ!」


 バードの悲痛な叫びは、誰もいない劇場に、くるっぽーと響き渡った。



 ◆◇◆◇◆◇



 バードは幸せだった。ようやく皇都でココに会えそうなのだ。鼻歌をくるっぽーと歌いながら、自分専用の鳥籠の中で念入りに身だしなみを整えていると、マルコムが鎮痛な面持ちで部屋に入ってきた。


「お、相方、どうしたー? 俺っち、今夜デートだから、ちょっと外に出してくれよー」

「バード、お前は今日も元気だな。今出してやるから待ってろ」


 バードは鳥であるからして、マルコムにバードの言葉はわからない。しかし、一緒に手品をしているからだろうか。マルコムは不思議と、バードの気持ちを分かってくれるのだ。


「ありがとねー、相方。で、どうしちゃったわけ? 元気ないけど、また女に振られちゃった系? 最近、全然部屋に女の子連れて来ないじゃーん」

「聞いてくれるのか、バード。お前は優しいな……」


 バードは鳥であるからして、マルコムにバードの言葉は分からないはずだ。しかし、バードがすり寄ったからか、マルコムは話し始めた。


「俺さ。昔、この国で叶わぬ恋をしたんだよ。身分違いの恋ってやつだ。それでも、向こうも俺を好いてくれた。俺は、その時は駆け落ちも考えたんだ。連れ去っちまおうかってな」

「わお! 相方ってば、意外と大胆!」

「でもな、そういうわけにはいかなかった。あいつは、俺が一緒に逃げようって言ったら断ったんだよ。別の道で幸せになろうって」

「うわ! 何それー! めっちゃ切ない系じゃん⁉︎」

「だから俺はさ、どうにかして幸せになろうって、色んな町で女性に声をかけてるんだ。でも、未だに誰も結婚を受け入れちゃくれない。一緒に旅して回ろうって言うと、手のひら返すんだよ」

「そっか、そっかー。今の世の中じゃ車もないし、国内旅行すらハードル高いもんねー。旅芸人の嫁っていうのは、辛いかもなー」

「それでもさ。あいつが幸せになってるならって、俺はあいつを忘れようと、必死に頑張ってきたんだ。ところがだ。久しぶりにこの町で会ったあいつは、まだ結婚してなかった。俺は、どうしたらいいんだろうな……」

「そんなの考えなくたっていいじゃないか、相方! お前なら行ける、やれるー! 当たって砕けろだよ! もう一回、告白しろー!」

「バード……そうだよな。もう一回くらい、正面から当たってもいいよな?」


 マルコムにはバードの声は、くるっぽーとしか聞こえてないはずだ。しかし何故だかこの時は、会話が見事に噛み合った。マルコムは、決心したように立ち上がった。


「明日の晩餐会が終わったら、俺はもう一回、求婚するよ。そうと決まれば、まず指輪を買いに行かなくちゃな」

「おう! その粋だぜ、相方! 俺っちも、ココとデートしにこの後出かけるけど、心配しなくていいからなー」

「お前、部屋から出たいのか? 悪いが、さすがにお前を連れては出かけられないんだ。部屋の中でなら自由にしてていいからな。今日はたぶん遅くなるが、大人しく待ってろよ」

「安心してくれよ、相方! 俺っち、部屋で待つのは約束出来ないけど、相方のこと、これでも結構気に入ってるんだー。ちゃーんと帰ってくるから、安心しろって」


 バードは、マルコムが部屋を出てしばらくすると、()()()()()部屋を抜け出し、真っ直ぐココの元へ向かった。まさかココから()()()()()()に誘われるとは、バードはこの時思ってもみなかった。



 ◆◇◆◇◆◇



 夜の帳が下りて、二つの月が顔を出した頃。バードはココと共に、誰もいない迎賓館の厨房に、こっそり侵入していた。


「ココ、本当にやるのー?」

「もちろんよバード。私たち以外に、誰も出来ないんだから」


 バードとココは、優秀なスパイである。二羽の会話は、テレパシーのように通信で行われているため、周囲に聞こえることはない。


「今夜のうちにどうにかしないと、この国の天の導きが危ないの」

「わかったよ、ココ。ルイサは、相方と友達みたいだし。俺っちも、相方が悲しむのは見たくないから、ちゃんと手伝うよー」

「頼りにしてるわ」


 バードとココは、毒が塗られた茶器を探していた。二羽の鳥は、()()()()をかけながら、厨房の隅々まで見て回った。


「おかしいわね。ここに運び込まれているはずなのに、反応がないわ……」

「ココ、もしかしてそれ、特殊なコーティングがされてるんじゃないかなー?」

「どういうこと?」

「茶器なら……例えばだけど、お湯で溶ける素材で表面が覆ってあるとか?」


 ココはピタリと動きを止めると、頭を抱えた。ココもバードと同じで鳥であるから、羽で器用に頭を抱えていた。


「そんな……。ここにある茶器を全部壊すわけにはいかないし。天の導きが殺されちゃう……」

「ココ……」


 ココに慰めの言葉をかけようとしたバードは、ふと毒物とは()()()()()があるのに気がついた。


「ココ、茶器がわからなくても、どうにかなるかもしれないよー?」

「え?」

「解毒薬の反応があるよー。あの辺り……ライチだ!」

「……本当だわ。なんであれから解毒薬の反応が?」

「わかんないけど、好都合だと俺っちは思う。ルイサって、ライチに目がないって、相方が言ってたんだー。あのライチをルイサの所に運べば、たぶん食べて助かるんじゃないかなー?」

「バード。それって素晴らしい案だわ! ありがとう!」


 ココがバードにすり寄ったので、バードは危うく()()()()()するところだった。好きな女の子にすり寄られたら、優秀なスパイもイチコロなのだ。

 二羽の鳥は、ルイサの屋敷までライチを運んだ。ルイサの部屋には幸い人はおらず、テーブルの上に置かれていたフルーツ満載の籠に、解毒薬が入ったライチを目立つように乗せると、二羽は見つからないうちに、静かに去っていった。



 ◆◇◆◇◆◇



 バードは朝早くから、決してエクシーには言えない、この心踊る()()()()()を、忙しそうに準備をするマルコムに熱心に語った。


「それで、俺っちがライチを運んだらって、超ナイスな提案をしたんだ。そしたらもう、ココが俺っちに胸キュンしてくれてさー」

「ああ、そうだな。今夜の舞台が終わったら勝負だ。これでダメなら、今度こそきっぱり諦める。きっとうまくいくよな」

「そうなんだよー。ココの羽ってふわふわしてて、良い匂いがしたんだー」


 バードは鳥である。バードの話す言葉をマルコムは理解出来ない。ちぐはぐな会話をして当然なのだ。しかし、バードは幸せだった。幸せすぎて、ココから肝心なことを聞くのを忘れていたが、バードがその事を思い出すことはなかった。

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