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地に響く天の歌 〜この星に歌う喜びを〜  作者: 春日千夜
第7部 願い【第26章 戦火 】
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451:天の御使い2

前回のざっくりあらすじ:ニースは、王国の地下遺跡の扉を開いた。


*物語の進行上、一部にセンシティブな表現が含まれます。ご注意下さい*


*次話の投稿は、12月31日(火)となります。

 暗い通路に、コツコツと靴音が響く。バードと共に、遺跡の内部へ入ったニースは、やがて開けた場所に出た。


「今度は部屋っぽいね」

『ちょっと狭いけど、ここはたぶんコントロールルームだねー』

「こんとろーる……えっと、制御室のことだよね?」

『それそれー』


 バードは部屋に並ぶ大きな箱型の機械に降り立つと、翼を広げた。


『ニースっち、歌ってー』

「遺跡を動かすんだね。でも、これ動かして大丈夫なの?」

『電源入れるぐらいなら平気だよー。その後は、俺っちに任せて』

「分かった」


 ニースは部屋にある石音を探り、歌い出す。バードが細い紐のようなものを出し、機械に繋ぐと、程なくして部屋の明かりがパッと着いた。


『うん。オッケーだよー』

「うわ……本当に狭いし、ゴチャゴチャしてるね。こんな制御室もあるんだ」


 ニースはランタンの火を消し、辺りを見回した。歩いてきた通路にも煌々と明かりが点き、白壁にはいくつも古代文字が浮かび上がっている。

 そのうちの一つに、地図のような図柄を見つけ、ニースは手を触れた。


「これが地図なら……この遺跡って、西に真っ直ぐ伸びてる?」

『あー。そこ、シャトルがあるみたいだね』

「シャトル?」

『横に動くエレベーターのことだよー。王都の近くまで続いてるっぽいから、乗ればすぐ着くんじゃない?』

「共和国にあったのと同じものかな。もしかしてそれが、殿下の言う特別な品?」


 バードは何もない宙空を見つめ、話を続けた。


『たぶんそうだろうねー。他にそれっぽいのは見当たらないから』

「そっか。僕たちに害がありそうなのは、あった?」

『うーん。何箇所か変な反応があるから、そこは隔離しとくね。シャトルは大丈夫そうだよ。使えるようにしとく?』

「うん。お願い」

『りょうかーい!』


 作業を終えたらしいバードは、紐を仕舞い込む。ニースは地図と思われる図を、じっと見つめた。


「さっきの通路から道が分かれるみたいだね」

『分かりやすく扉開けといたから、迷わないと思うよ。王子様呼びに行こー』

「うん」


 ニースはバードを懐へ入れ、歩き出した。


「ねえ、バード。シャトルで向かった先に、何かあるってことはない?」

『んー。色々ぶっ壊れてるから、俺っちにも全体像がよく見えなかったけど。とりあえず危なそうなのは、なかったよー』

「それなら安心だね。でも、どうしてここだけ残ってたんだろう?」

『さあ? 俺っちには分かんないなー。ココなら分かるんじゃない?』

「ううん。ココも昔の王国には来てないって、前に言ってたんだ」

『そっかー。それならどうにもならないねー』


 ニースが通路の突き当たりへ着くと、壁の向こう側から言い争うような荒い声が響いていた。


「すごく心配かけちゃったみたいだね」

『それはそーでしょー。ニースっちにしか開けられない扉が、閉まっちゃったんだから』

「あ、そっか。閉めたらみんな開けられないんだ。謝らなきゃだね」


 ニースは苦笑して、扉を開けた。唐突に開いた白壁に皆が唖然とする中、ルポルが駆け寄り、ニースの腕を掴んだ。


「ニース、怪我は⁉︎」

「大丈夫だよ」


 ルポルは本当に怪我がないかと、ニースの体をくまなく確認する。ルポルの目には涙が滲んでおり、ニースは面食らった。


「ごめん、心配かけて」

「心配なんてもんじゃない! 死ぬような何かがあるかもっていうのに、このまま二度と開かなかったらどうしようって! それに突然光るし、何が何だか……!」

「ルポル……」


 声を詰まらせたルポルの肩を、ニースはさすり、辺りを見回した。


 先ほどまで真っ暗だった抜け道は、一部に動力が伝わっていたのだろう、青白い光に照らされていた。遺跡特有の白壁と古びた石壁が混ざり合った様は、ひどく不気味に見える。

 何も知らずにいきなりこの景色が見えたら、さぞ怖かったろうと、ニースは反省した。


「びっくりさせちゃったね」

「無茶しないでくれよ。ニースに何かあったら、母さんや兄貴たち、セラさんだって。みんな悲しむんだからな」

「うん……。みんなも、ごめんね」


 ニースは、マルコやエドガーたちにも頭を下げた。いつもと変わらぬニースの声音に、安堵の空気が広がる。

 キールが静かに歩み寄り、語りかけた。


「ニース。中は安全だということだな?」

「はい。殿下の仰ってた特別な品も、たぶん見つけられたと思います」

「そうか」


 キールは満足げな笑みを浮かべた。一方、ルポルは鼻をすすり、問いかけた。


「何も持ってるようには見えないけど。特別な品って何だったんだ?」

「持ってこれないものなんだ。行けば分かるよ。とにかく入ろう?」

「ああ」


 ニースは皆が通路へ入ると、扉を閉めた。そうしてバードが開けていた道を通り、しばらく歩くと、黄色味を帯びた水晶球の並ぶ広間へたどり着いた。


「ここから、王都の近くまで行けるみたいなんだ」

「行けるって……行き止まりみたいだぞ?」


 広間には他に道が見当たらず、水晶球の隣に小部屋が一つ開いているだけだ。困惑するルポルを横目に、エルネストが感心したように呟いた。


「こいつがここにもあったのか」

「エル。ここが何か知ってるのか」

「はい、殿下。共和国にも同じ物がありましたので」

「共和国か。我が国では珍しい物も、他国には当たり前のように存在するのだな」


 エルネストの話を聞いて、キールは忌々しげに眉を寄せた。ニースは小部屋に足を踏み入れ、声をかけた。


「殿下。ここにお乗り下さい」

「乗る?」

「はい。この部屋が動くんです」


 部屋が動くと聞いて、ルポルたちは唖然としたが、キールは笑った。


「なるほど。これが箱舟か」


 箱は理解出来るものの、船と言われた事に、ニースは首を傾げた。


「箱舟ですか?」

「ああ。ここには天使の箱舟があり、馬より速く駆けたと伝えられている。そなたの知る呼び名は違うのか?」

「はい。シャトルっていうらしいです。エレベーターの一種だって、僕は聞きました」

「エレベーターか。上下に動くものだと聞いたことはあるが、こういう使い方も出来るわけだな。古代人とは、面白いことを考えるものよ」


 キールが小部屋へ入った事で、不安げなルポルたちも渋々ながらシャトルへ乗り込んだ。ニースは全員が乗った事を確認し、片隅にあるボタンに触れる。

 音もなく扉が閉まり、小部屋が動き出すと、不思議な揺れにマルコがよろめいた。


「この部屋、本当に動いてんのか⁉︎」

「そうだよ」

「それで行った先も、お前にしか動かせない古代遺跡になってるわけか」

「ええと……王都の近くっていうのは分かるし、危ないのもないって分かってるんだけど。着く場所がどんな所なのかは、僕も分からなくて」

「はあ⁉︎ お前、正気かよ! 何かあったら、どうする気なんだよ!」


 行き先も分からない物に乗せたのかと、マルコがニースに詰め寄る。キールが愉快げに、ふっと笑った。


「案ずるな。伝承通りなら、王墓のそばへ出るはずだ」


 ニースの胸倉を掴んだマルコは、その手を僅かに緩めた。


「オウボって……殿下が知ってる場所ですか?」

「王家の墓のことだ。先ほどの抜け道を真っ直ぐ歩けば、いずれ着くはずだった場所だ。歩くのが嫌だと、貴様らは言ったであろう」

「それは……」


 マルコは気まずそうに視線を逸らし、ニースから手を離す。ニースは、ほっと息を吐いた。


「ごめんね、マルコ」

「いいよ。悪かったな、急に」


 キールの目があるとはいえ、珍しくマルコが謝った事に、ニースは驚き、目を瞬かせた。

 そうしているうちに部屋の揺れは収まり、扉が開いた。


「着いたみたいですね」


 先ほどと同じような水晶球の並ぶ広間へと、ニースたちは足を進める。

 しかし広間を照らす明かりは弱々しく、小部屋の位置も違うため、ルポルやマルコたちも別な場所へ移動したのだと納得した。

 通路を少し行けば、あっという間に行き止まりになっていた。ニースは、突き当たりの壁に浮かぶ古代文字を見つめた。


「これは……。第四区画、管理……こーど入力? これに何か入れるのかな?」


 古代文字の傍らには、四角い物体が付いていた。ニースはペタペタと手を触れるが、ボタンのようなものは見当たらない。どうしたものかと、ニースは目を凝らした。


「他に何か書いてないかな」

「ニース。そなたは古代文字も読めるのか?」

「あ、ええと……はい。少しですけど」


 ニースは物体に手を触れたまま、キールに振り向いた。ニースの袖口から、バードが紐のような物を伸ばし、周りに悟られないよう物体に触れる。

 すると、行き止まりだった壁が開き、淀んだ空気が流れ込んだ。通路から漏れ出た明かりに照らされて、開いた壁の向こう側……暗闇の中に、古びた石壁が浮かび上がった。


「あ……」

「伝承の通りだったな。よくやった」


 驚くニースに、キールは満足げな笑みを浮かべる。ルポルがランタンに火を付け、暗がりへ出た。


「先ほどと同じ、抜け道のようですね。王都の方角が分かりませんが」

「問題ない。すぐそこに印があるはずだ」


 全員が抜け道へ出ると、ニースは扉を閉めた。辺りは一気に暗くなり、ランタンの炎だけが揺れる。疲れを感じるニースの肩を、エルネストが労うように叩いた。


「殿下の信を得られたな」

「エルネストさん。ありがとうございました」


 ニースは苦笑しながらも、どうにかなったと胸を撫で下ろした。



 昼か夜かも分からない暗い地下道でも、機械仕掛けの時計は迷いなく時を刻む。キールの持つ懐中時計の針が、昼を大きく過ぎていたため、ニースたちは軽く休憩を取ってから歩き出した。


「フィリップ殿には、早ければ今日中と伝えておいたが。本当に出来るかもしれぬな」


 ニースが〝箱舟〟を使えなければ、丸二日歩き通しとなる道のりだ。キールは王都奪還作戦に幅を持たせており、最短なら夕暮れ時には()()が出来ると、フィリップに言い残していた。


「目的地まで、あと少しなんですか?」


 問いかけたニースに、キールは頷いた。


「そうだ。この辺りは迷いやすい。離れぬよう気を付けよ」

「はい」


 王都近辺の地下道は一本道ではなく、いくつも枝分かれしている。キールは時折、壁に付けられた印を確認しながら歩いた。

 そうしてしばらく行くと、急に視界が開けた。


「湖だ……」


 唐突に現れた広大な空洞には、美しい地底湖が広がっていた。


「ここが王墓だ」

「これが王家のお墓……!」


 湖の周りには、模様のようなものが刻まれた石柱がいくつも並び、湖の中心部には卵形の巨大な白い物体が湖面から突き出ている。

 透明度の高い水底から不思議な光が発せられ、湖底に敷き詰められている細かな宝石のような小石が虹のように煌めく。

 空とも海とも違う澄んだ水色が、光となって地底湖全体に広がり、ランタンの明かりが届かない場所まで、淡く照らしていた。


 まるで星の海にいるような幻想的な光景に、ニースたちは息をするのも忘れて見惚れる。キールは石柱の一つに歩み寄り、ニースを手招きした。


「ニース。これが読めるか?」


 石柱に刻まれていたのは、古代文字だった。ニースはその文字を読み、首を傾げた。


「天の使い……安らぎ、もたらす……。生きる者に、祝福を? ここ、お墓なんですよね?」

「そうだ」

「でもこれ、墓碑じゃないみたいですけど……」


 困惑したニースの呟きに、キールは微笑んだ。


「分かるか。ならば、ここに書かれているのは?」

「ええと……。もしかしてこれ、王国記ですか?」

「そうだ」


 キールは、ゆったりと湖を見渡した。


「我ら王族に、墓碑はない。我らは死してもこの地に留まり、国と民を見守る存在だ。我ら王族は星を潤す力となり、人々の中に巡る。ここは単に、肉体を還すための場所でしかない」

「肉体を還す……まさか!」


 ニースは、はっとして水底へ目を向けた。無数に敷き詰められた小石のような物は、よく見れば真珠のような玉であり、それが魂片(アニムス)なのだと、ニースは気付いた。


「湖に沈めるなんて……」

「いずれそなたも、ここでの儀式に携わることになろう。その時は、我が死す時だろうがな」

「殿下……」

「さて、寄り道はここまでだ。先を急ぐぞ」


 穏やかだったキールの声が、にわかに真剣味を帯びる。ニースが振り向くと、キールは地底湖の対岸へ足を向けていた。


「ちょうど日暮れだ。地上に出るには、都合が良い」

「この上が、王都なんですか?」

「ああ。ここは王城の真下だ。そなたにはもう一仕事してもらう」


 空洞の片隅には、地上へ繋がっているのだろう。階段と共に、小さな扉があった。キールは階段の前で立ち止まり、エルネストに振り向いた。


「エル。ここから先は分かるな? 案内を頼む」

「はい、殿下。では、手筈通りに」

「頼んだぞ」


 エルネストに連れられて、エドガーたちと王国兵が階段を上がっていく。キールは、ルポルとマルコ、エリックに目を向けた。


「お前たちはここで待て。ニースの歌が終わり次第、我らも地上へ出る」

「はっ!」


 キールはニースを連れて、小さな扉を潜った。扉の先は、岩の切れ目のようになっており、人がギリギリ一人通れるだけの狭い道が続いていた。


「この先に、もう一つ遺跡がある」

「え⁉︎」

「そこで歌ってもらうぞ」


 冷たい岩壁に肩をぶつけながら、ニースはキールの後を追った。キールの言った通り、程なくして道は開け、唐突に古代遺跡の部屋が現れた。

 ランタンの炎に照らされる空間は広々としており、端は暗く見えない。つるりとした独特の白壁で出来た部屋の中央には、円柱状の物体に円盤を乗せたような真っ白な台があった。

 ニースはその台の中に、巨大な雷石が埋め込まれているのに気付いた。


「こんな大きい石があるなんて……」

「アマービレ王家が繁栄出来ているのは、これがあったからだ。長い歴史の中、幾度となく反乱が起き、蛮族に脅かされることもあったが、これのおかげで助かった。……とはいえ、帝国に対しては意味がなかったがな」


 自嘲するかのように言ったキールの言葉に、ニースは小さく震えた。


「これ、何の機械なんですか?」

「今の我々にとっては、福音となるものだ。まず動かしてみよ」

「……分かりました」


 ニースは不安を感じながらも拳を握り、雷石歌を歌い出す。すると円盤に光が満ちて、流線を描く塔のような幻影が円盤上に浮かび上がった。

 歌声が響く中、キールが光る円盤の縁に触れる。すっとキールが指を動かすと、辺りに大きな地鳴りが響き始めた。

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