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地に響く天の歌 〜この星に歌う喜びを〜  作者: 春日千夜
第2部 旅の一座 【第4章 はじめてのユニゾン】
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39:小さなアシスタント2

前回のざっくりあらすじ:セラが女の子だと、メグが知った。


*物語の進行上、一部にセンシティブな表現が含まれます。ご注意下さい*

 メグはセラを連れて、宿屋の主人たちへ話をしに行った。話を聞いた宿屋の主人ベニーノは、笑顔で頷いた。


「セラはいつも真面目に働いてくれるのですが、休むのが下手なんですよ。セラに公演を見せられるなら、こちらからお願いしたいぐらいです」


 セラは申し訳なさそうに、頭を振った。


「そんな、旦那さま! お休みだなんて、滅相もないです!」

「セラはいつもこんな感じでしてね。皆さまのお手伝いが出来るなら、きっと気持ちも楽に楽しめるでしょう。どうぞ、セラをよろしくお願いいたします」


 ベニーノはセラのことを気遣いながら、快く許した。メグとニースは、ベニーノの優しい雰囲気に対し、セラがあまりに腰が低いので、何か裏があるのではと勘繰った。

 しかし女将もエイノも、宿屋の人々は皆、セラのことを大事に思っているように見え、セラが公演の手伝いをすることを喜んだ。

 メグは不思議に思い、セラへ尋ねた。


「ねぇ、セラ。みんなすごく良い人そうだけど、本当は裏で虐められたりしているの?」

「え……なんでですか? 宿の皆さんはとても素敵な方ばかりで、私は本当に感謝しています。そんな失礼なことは、いくらメグさんでも言ってほしくありません」


 真っ直ぐなメグの問いかけに、セラは頬を、ぷぅと膨らませた。全身で怒りを表現するセラに、メグは慌てて謝った。


「ごめんね、セラ。私、勘違いしちゃって……」

「分かって頂けるなら、いいです」


 先ほどとは違い、セラはメグの謝罪を断らずに受け入れた。その様子にニースは、ますます首を傾げた。


 ――セラは、宿の人たちを悪く言われるのが本当に嫌みたいだ。みんなが悪い人じゃないなら、どうして中に入っちゃいけないんだろう? 車馬係だからダメって感じでもなかったし……。


 ニースがいくら考えても、答えは出ない。ニースは不思議に思いながらも、とりあえず深くは考えない事に決めた。



 約束通り、宿の人々から許可を得ると、メグは二人を連れてジーナの部屋へ向かった。


「ハリカの衣装は、私の母が全員分用意してるの。私のお下がりもあるから、それを手直しすれば今夜にも充分間に合うわよ」

「お下がりをお借り出来るんですか⁉︎」

「ええ。古着だけど、手入れはちゃんとしてあるから」

「メグさんのお下がりなら、素敵に決まってます!」

「ふふ。ありがとう」


 期待を滲ませるセラの反応は、女の子らしいものだった。嬉しげなセラの姿に、ニースとメグは微笑んだ。


 ジーナの部屋へ着くと、メグはノックせずに、扉に耳を当てた。中の様子を窺うメグに、ニースは首を傾げた。


「メグ。どうしてノックしないの?」


 ニースの声に、メグは人差し指を口に当て、静かにするように促した。あまりに真剣な様子に、ニースもセラも押し黙った。


「よし、いびきは聞こえないわ。ご飯でも食べに行ったのかしら」


 メグは、そう言いながらも念のためノックをした。すると、メグの予想に反して扉の中からジーナの声がした。


むぁい(はぁい)もうも(どうぞ)ー」


 ジーナのくぐもった声に、メグは呆れたように眉根を寄せ、扉を開けた。ニースたちの目に、ナプキンで口を拭うジーナの姿と、テーブルの上にどうやって乗せたのかと思うほどの、食器の山が飛び込んできた。


「もうっ、お母さんたら! またこんなに食べて! 太るわよ!」


 メグがジーナに怒ると、ジーナは照れくさそうに笑いながら、カップに口をつけた。カップから口を離すと、ジーナの口元には泡立てたクリームが付いていた。

 ジーナはペロリと口元のクリームを舐め取り、うふふと笑った。


「ごめんね、メグちゃーん。でも実は、ケーキも頼んであるのよー。もうすぐ来ると思うから、みんなも一緒に食べないー?」


 メグは両手で顔を覆いため息を吐いた。ニースはジーナの底なしの胃袋に驚き、セラはケーキという言葉に、にへらと頬を緩めた。



 西日に照らされたジーナの部屋に、甘い香りが漂う。運ばれてきた大きな丸いケーキを見て、ニースとセラは、ごくりと喉を鳴らした。


「美味しそう……」

「キラキラしてる……!」


 たっぷりとクリームが塗られ、様々な果物が乗るケーキを前に、ジーナが嬉々としてナイフを手にした。


「これよ、これー。やっぱり、頑張ってお仕事をした後は、甘いものが一番よねー」


 ジーナは嬉しそうに頬を緩め、豪快に四分割していく。その様に、メグが呆れたように声を挟んだ。


「もうっ、お母さんたら。ニースとセラはそんなに食べられないわよ。それに、私は食べないわ」

「あら、そーなのー? じゃあ、メグちゃんの分は、私が食べちゃうわねー」


 ジーナは、八等分にしたケーキを取り分けた。


「はーい。ニースくん、どうぞー」

「ありがとうございます」


 皿を受け取ると、ニースは、ちらりとセラを見た。


 ――セラ、ちゃんと食べるかな。


 ニースは、セラがケーキを断るのではないかと心配していたが、杞憂に終わった。


「はーい。セラちゃんはこれねー」

「うわぁ……! ありがとうございます!」


 セラは夢の世界へ飛んでしまったように、にへらと口元を緩め、ジーナから皿を受け取った。嬉しそうなセラを見て、ニースは微笑んだ。


 ――セラは、甘いものが好きなのかな?


 セラは、慎重にフォークを差し入れ、ケーキを口に運び、一口ごとに頬に手を当て、うっとりとしていた。


「ケーキって、こんなに美味しいんだね、ニース」

「うん。ぼくも、ここまで美味しいケーキは、初めて食べた気がするよ」


 ふんわりしたスポンジに、甘くてとろりとしたクリーム。甘酸っぱい果物の味と合わさって、二人は幸せいっぱいになった。

 ほくほくの笑顔でケーキを食べる二人に、メグは微笑んだ。その傍らで、ジーナは宣言通り、残りのケーキを全てぺろりと平らげた。


「あー。美味しかったわー」


 心も体も癒されたジーナは、口元についたクリームを布で拭き取ると、紅茶を人数分注いだ。紅茶を飲みながら、メグが事情を説明すると、ジーナは満面の笑みで頷いた。


「なるほどねー。セラちゃんに、舞台の衣装ねー。メグちゃんの昔の服があるから、それを合わせましょー」


 女性陣は、これから着替えなければならない。ニースは、羽の仕上げを終えた自分の衣装を渡され、ジーナの部屋から追い出された。



 ニースが次にセラと会ったのは、公演直前の打ち合わせの時だった。舞台衣装に身を包んだニースは、マルコム、ラチェットと共に、グスタフの部屋に来ていた。

 グスタフの部屋もジーナの部屋と似た作りだ。夕焼け色に染まる部屋を、ニースたちは火石のランプで灯した。ニースが大喜びでランプの仕掛けを動かしていると、背中の羽がピコピコと動いた。


「ふはは。いやー、本当すごいな、ジーナは」

「くくっ……まさか動く羽が付くなんて」


 マルコムとラチェットに散々笑われたニースは、本意じゃないと、口を尖らせた。そこへ、扉をノックする音が響いた。


「お父さん、開けるわよ」


 グスタフの返事を待たずに、メグはいきなり扉を開けた。


「メグ。入ってもいいんだが、ちゃんと返事を聞いてからだな……」

「お父さんの部屋なんだから、問題ないわよ。マルコムの部屋なら、気にした方がいいけど」

「お嬢、それはないぜ」


 肩をすくめたマルコムも交え、早速言い合いを始めるメグたちに、ジーナが声をかけた。


「ほらほら、そんなこと言ってないでー。それより、セラちゃんを紹介しないとねー」


 部屋に入ったジーナの後ろから、可愛らしい服を着た女の子が出てきた。

 女の子の赤髪は肩より長く、頭の上で幅広の白いリボンを結んでいるが、前髪は長く瞳は見えない。刺繍やフリルのついた、苺色のワンピースを着た少女は、恥ずかしそうにそばかすのついた頬を染めていた。

 ランプの明かりで柔らかく照らされた少女が、ニースにはとても愛らしく見えた。


「……セラ?」


 ニースが声をかけると、セラは耳まで顔を赤くして、ジーナの後ろへ隠れてしまった。ニースとラチェットは、驚きながらも微笑んだ。


「セラ、似合ってるよ」

「そうだね。服を変えるだけで、こんなに変わるとは思わなかった。髪を下ろすのも似合ってるよ、セラちゃん」


 二人の言葉を聞いて、メグは満足気に胸を張った。


「私の見立てに、間違いはないのよ」


 ニースは隠れているセラに近づき、話しかけた。


「セラ、緊張してるの?」

「うん……。こんなお洋服着たの、初めてだから」

「可愛いんだから、ちゃんと出てくればいいのに」

「か、かわ……!」


 ニースの何気ない一言に、セラの顔がさらに赤くなった。親しげな二人の様子を見て、マルコムがニヨニヨと笑みを浮かべた。


「へえ。ニースもなかなかやるじゃないか。いつの間に可愛い子ちゃんを引っ掛けたんだ?」


 ラチェットが、小さく笑ってネタをバラした。


「マルコムさん。その子は、昨日の車馬係見習いですよ」

「……は?」


 マルコムは目を見開き、口をあんぐりと開けた。グスタフは、こめかみを押しながら目を閉じて、子どもの車馬係との共通点を探し出そうとした。


「前髪ぐらいしか共通点がない……」


 愕然とするグスタフに、メグは笑った。


「しっかりしてよ、()()()()。この子……セラは今夜、私たちのお手伝いをするのよ」

「はぁ⁉︎」


 突然のメグの言葉に、グスタフとマルコムは目を白黒させたが、そのまま打ち合わせは始まった。

 セラの登場で最初は混乱したものの、素人のセラに出来る事など、そう多くはない。セラの手伝いは、マルコムの手品の小道具運びに決まり、打ち合わせは早々に終わった。


「私、精一杯がんばります! よろしくお願いします!」


 セラは緊張しながらも、初めて間近で演奏を観れるとあって、胸を躍らせ、はしゃいでいた。ニースは、セラが舞台を楽しめるように頑張ろうと、心から思った。

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