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地に響く天の歌 〜この星に歌う喜びを〜  作者: 春日千夜
序章 この星に歌う喜びを
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0:プロローグ

 鳥が鳴き、そよ風が木々を揺らす。大地に空いた大穴の上空に浮かぶ小さな島の上には、鬱蒼とした木立に隠れるように、蔦の這う無機質な白壁があった。森に飲まれてしまいそうな白壁は、奇妙な事に傷ひとつなく、苔も生えていない。


 その白壁に、ぼろ布を纏った男の姿が浮かび上がる。男の肌は影のように黒く、悲しげな瞳は暗い闇色だった。彫りの深い整った顔はやつれており、漆黒の髪や髭もボサボサだ。


 まるで精密な絵のように浮かび上がったその男は、ゆっくり口を開く。男は、落ち着いた穏やかな低音で、切なげに語り出した……。




 今朝、私は最後の仲間を看取った。

 二つの月が浮かぶ、天の高みへ導くといわれた、私の歌の力にも、限界はある。

 私には、人の寿命を延ばすことは出来なかった。

 大穴の向こうには、生き残った人々もいるだろうが、歌い手の多くが亡くなった今、飛空船を飛ばせる者はいないだろう。

 私は、この取り残された残骸の上で、一人寂しく死んでいくのだ。

 人は一人では生きられない。

 きっと私は、じきに発狂するだろう。

 だから私は今日ここで、私の命を終わらせるのだ。

 これを見るあなたがいる世界は、今からどれだけの時が流れているのだろう。

 ここへ来れたということは、あなたも私と同じように、天の導きと呼ばれる歌い手なのだろう。

 私の最後のワガママを、聞いてくれないだろうか。

 どうか、どうか、歌の力に溺れないでほしい。

 どうか、どうか、歌を楽しむものとして、歌い続けてほしい。

 私たちは、大罪を犯した。

 歌を道具として扱いすぎた。

 愚かな私たちの過ちを、二度と繰り返さないでほしい。

 最後に、記憶石(ライブラリ)へ続く歌を教えよう。

 奥の祭壇で歌えば、扉が開く。

 私たちの愚かさを、目に焼き付けてほしい。

 そして、世界が幸せな歌に包まれるようにしてほしい。

 これが、私の最後の願い。

 どうか、どうか……。




 白壁に映る男は、涙を流しながら歌い出す。どこか懐かしく胸に沁みる旋律は、蔦や苔が生い茂る小さな森を包み込み、遥かな時を越えるように、伸びやかに空高く響いた。

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― 新着の感想 ―
[一言] 自分たちの愚かさを思い返しても、もう後戻りする事が叶わぬ、最後の一人。歌の力を、楽しみに使わずに力として使った事への後悔。 良いです、ひじょーに良いです。 ここから彼(彼等)の過去の話が始ま…
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