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とにもかくにも。

わたしも取り敢えずの目標は、一人立ちだ。


現在、わたしはノワールとブランの小屋にお世話になっている。可愛い木造のコテージで、アットホームな良い感じの小屋だ。内装も凝っていて、一言でいうと…そう絵本に出て来そうな感じ。海外の田舎にありそうなわたしの好みド直球、マジローカル癒し空間。


そこの元々倉庫として使っていた部屋を使わせて貰っている。最初はノワールくんのベッドだったんだけど、目を覚ました次の日には大掃除が始まって、三日後には完璧なお部屋として完成していた。埃ひとつない元倉庫とは思えない雰囲気に圧倒されたのが懐かしい。今思えば、それもノワールくんの高い嫁力によって実現していたんだよな。ノワールくんマジ良妻。


最初の一週間は、わたしの療養兼余計な混乱を防ぐための自衛行為として引きこもっていた。動くと言っても、小屋周りの庭くらいで、手入れされていない獣道には近づきすらしなかった。怪我をしてからは、ノワールくんが「外出禁止!」「ひとり禁止!」っと泣いて可愛らしい妨害をしてくるので、図らずも引きこもり状態。正直、そろそろ体重がヤヴァイ。ノワールくんの料理が上手すぎる。


なので、わたしは自分が2X歳ということもわすれて、明らかに年下の二人におんぶにだっこ状態なのだ。これは恥ずかしい。人間として如何なものかと思われる。なので、そうそうにこの事態を脱却すべく、わたしは一人立ち計画を実行することに決めた。


「わたし…町に行こうと思うんだ」


日常となった猫ショタ二匹との朝食風景。暖かいポタージュのスープを飲みながら言うと、二匹が揃ってスプーンを落とした。ちょ、がしゃんって。スープ飛び散ってるぞ。


「___ど、どどどどどどおしてそんなっ突然っな、なにか僕が悪いことっケイさんの気に障るようなことをっ…!」

「いやいや、そんなことないから。落ち着け、なぜそんな驚く」


ぶんぶんと頭を振りながら、涙をたっぷり浮かべて震えるノワールに、心配を通り過ぎて引いてしまいそうだ。っちょ、可愛い顔が台無し。


どうにかしてくれまいかとブランを見る。彼は、相変わらずクールだった。静かな赤と青のオッドアイに、少しだけほっとする。どうやら、ノワールがスプーンを落としたことに驚いて、スプーンを落としてしまったらしい。静かにスプーンを持ちなおし、ぐるぐるとスープをかき混ぜている。


「じゃ、じゃあどうして…! な、なにか足りないなら僕が作ります!ご飯だってケイさんの好きな物たくさん作るしっ繕いだって それにそれにっ」

「お、落ち着いてくださいノワールさん。っちょ、ブランも何か言って!」


テーブル越しに詰め寄ってくるノワールは、完全に我を忘れている。助け船を求めてブランに話しをふると、彼はちらっとわたしを見た。そして直ぐにふいと視線を反らすと、ぼそりと言った。


「___好きにすれば」

「ブラン!!」


おおう。予想通りの反応、だが実際言われるとくるものがある。


(止められるのもイヤだけど背中を押されるのもそれはそれで寂しい…面倒な女だな、わたし……)


「ブラン!どうして、だってそんなことしたらっ」

「本人が行きたいっていってるんだ、勝手にさせればいいさ。ただし、今後は絶対に助けない。危ない目にあっても、それは全部自業自得だ、いいな」


縋っているノワールの手を少し焦った手付きで剥しながら、ぎんっとこちらを睨みつけて来た。その強い瞳はまさに肉食獣だ。鋭いネコ科の瞳孔が、今にもわたしの喉元に食らいつきそうな滾りを孕んでいた。それに怯えてしまいながら、わたしはこくりと頷いた。


すると、ブランががたんっと立ち上がった。うおおおい!なんだなんだ!ビックリするな!!驚いて声を失っているわたしを、ブランの冷たい目が一瞥する。そして切れの良い舌打ちをすると、踵を返してしまう。


「ブラン!どこいくの、キュウリ嫌いだからって残すのは許さないよ!」

(ノワールくん、多分それ違う…!)


あわわと見守るが、心なしかブランの足さばきが早くなったから案外外れていると言う訳でもないらしい。え、そんなキュウリ嫌いなの。可愛いなおい。


そんなこんなで、わたしはノワールくん相手に単独戦を強いられた。しつこく理由を聞いて来るノワールに一人立ちの話は禁句のような気がして、社会勉強という建前で押し切った。やがて納得してくれたのか、ノワールは耳と尻尾を垂らしながらも「…わかりました」と渋い顔で言った。


「だけど今日はダメですっケイさんのお出かけ用の服とか、靴とか、バックとか、いろいろ作ってからです! それから天気の良い日を選びます!」

「いやっそんなに服いらなry」

「良いですね!」


「お出かけ記念日!!」とか叫びながら、ジャッー!とメジャーを伸ばすノワールくんの頭が本当に心配になって来た。いや…あえて言わないようにしていたけどさ。この子わたしのこと大好きすぎだろ。


(…世話好きは生来のものっぽいけど、それにしても粘着質…。なんだ、わたしが生き別れの恋人にでも似ているのか…)

「うぐっえぐっ…」

「…あの、採寸は泣き止んでからでも大丈夫だよ?」


てかこれでガチ泣きって。わたしが出て行ったらこの子どうにかなっちゃうんじゃないのか…?


少し衣食住の…特に衣の話をしよう。

現在の、わたしの洋服はすべてノワールが繕ってくれたものだ。最初に着ていたスーツはドロだらけだったが、綺麗にノワールがしみ抜きしてくれた。現在はクローゼットの中身が増えたため、ノワールが倉庫に閉まってくれている。ノワールは本当に要領も仕事も良く、下着からコートまで作ってくれた。まだ二週間ちょいしか経ってないのに、クローゼットがぱんぱんってどうよ。こぇよ。


「…というか、ノワールが作るのってほとんどワンピースよね。ズボンはないの?」

「ず、ズボンって…それは男が履くものですよ」


チクチクと布を塗っていたノワールが、ぎょっとした顔をで言った。え、この世界で女性はズボンはかないの?


「外で作業する人は男性の洋服を着ますけど」

(お、なんだ。なら価値観的には問題ないじゃん)


「でも…、僕、女の人はやっぱりワンピースを着るべきだと思います」

「oh…真顔」


まあ、作ってもらっている立場なので文句はほどほどにするさ。楽しそうに沢山のレースを棚から取り出すノワールの背中を見ながら、ソファに身を沈めた。小屋の一階は、リビングダイニングとなっている。左はキッチンを含めたダイニングテーブルが置かれており、右はソファを中心に寛ぎのスペースとなっていた。中央の暖炉はいま沈黙している。ノワールが持って来てくれたタオルケットを膝に、わたしはぼんやりとするしかすることがなかった。


(あ…これ、太る)


勉強しようにも、こっちの世界の言葉が読めない。

外にでようにも、そうするとノワールの行動を制限してしまうことになる。

頼みの綱でもあるブランは、お出かけ中。


八方塞とはこのことだ。まあダラダラするのは嫌いではないので良いが。


「そういえば…ノワールくんが作ってくれる服は、黒とか…暗めの色が中心だよね」

「っ……え、ぁ」

「黒好きなの?」


何気ない疑問だった。元々、地球むこうの私服は黒が中心であったので、気にはならない。だが、だからこそこっちではピンクとかミントグリーンとか、淡い色にも挑戦したいと思う。いわゆるフェミニン系女子?スウィーツ系女子になりたいのだ。


(そろそろ喪女からは脱出したい…)

「黒…キライ、でしたか?」


「いんや、好きだよ」


落ち着くし、組合せ気にしなくて良いし。

それにノワールが作る黒いワンピースは嫌味が無い。ワンピースよりか品の良いドレスのようで、わたしは気に入っている。そんなことを思ってうとうとしていたせいで、ノワールが蚊の鳴くような声で「…そ、そうですか…」と呟いていることも、マチ針のついた布に真っ赤な顔を埋めて悶えていることも知らなかった。


(やばい…眠い。このままだと本当にブタる…)

「じゃ、じゃあ髪留めも黒にして良いですか!?」

「あー…うん」

「べ、ベッドシーツもく、黒でも…」

「んぁ…まかせる。すきに、して…くかー」


「~~~~っはい!」






翌日。出来上がったお出かけ用のドレスがどうみても喪服でビビった。白いレースがついていた筈のところには黒いレースが、あしらわれたリボンまで真っ黒になっていて、わたしはノワールの見えない狂気に身震いした。自業自得であることはまだ知らない。


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