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修正シリーズです。

この世界は、大きく分けて三種族の生命で成り立っている。


一つは、人間。

一つは、亜人。

もう一つは、異人。


人間は、汎用性が高く、全ての生命のベースとも言える生命体であった。その数は他の種族の群を抜き、高い社会性と蓄積された知能と技術をもつ。


亜人は、野性という特徴的な性をもつ。五感を初めとした身体能力が高く、魔力との親和性が強い。


異人とは、異邦者であり、魔女である。ここではないどこから来た生命であり、全く異なる文化・思考・価値観を持っている。三種族の中でもっとも数の少ない希少生命体でもあり、優れた異人が根付いた国家は不朽の繁栄を約束されると伝えられている。





「____これが、この世界の基本的な生命の構成だ。解ったか」

「…」


正直、君の頭の上でぴこぴこ揺れているかわゆい白耳しか見ていませんでした。


だが、そんなこと言えるはずもない。言えば、目の前の壁のような無表情がダガー片手に襲い掛かって来るのは目に見えている。なので、この場の最適解は「黙って頷く」。嘘はついてないぞ、別に「解った」とは一言もいってないし。だからそんな不審者を見るような目はよしなさい!


「なんだその目は。さては信じてないな、この生意気な白猫ちゃんめ!」

「人間全般を信用してないだけだ」


言外に、お前に限ったことじゃないと聞こえて来そうな顔だ。胡乱気に溜息を吐くと、ゆるりと白いものが揺れた。真っ白な短毛に包まれた尾だ、それはまるで意志があるようにゆるりゆるりと弧を描いている。


「ブラン…アンタそれわざとやってるでしょ。わたしの集中力を削ぐために!」

「つまり何も解ってなかったんだな、この嘘つき。嘘つき人間、嘘つき女。嘘つき頓馬」


びしっと指をさして言ったが、撃沈。がりがりと木の棒で地面をかくブランを前に、わたしは大地に伏せることしかできない。すまん、全世界の人間たち。わたしの軽率な行動のせいで、貴重な猫耳ショタの人間株がごりっと減った。


「___っていうかさ、結局『魔女』ってなんなのさ。その辺の説明ぬけてない?」

「……そういう所ばっか目敏いな、性格悪っ」

「ぐぶふつ」


見えないナイフが突き刺さり、ズキズキと痛む心臓を摩る。ブランめ…容赦ない言葉を。だが、どうやら説明はしてくれるらしい。がりがりと地面に絵図を描くブランに、ずるずると這い寄る。


「魔力っていうのは、この星に古くより住まう精霊の力のことだ。これを使役することで、世界のルールに干渉し、一時的な書き換えができる」

「書き換え?」

「例えば、火を熾すとき巻木と火種がいるだろ。魔力を正しく使役できたら『そうしたい』という意思一つで結果を起せるんだ。これが魔法」


説明しながら、ブランがすうと手を掲げた。何かと見れば、成長過程にある幼い親指と中指がパチンと擦れた。その刹那、空気がバチバチと電気花火を起こし、ぶらりと赤い気体が巻き起こった。頬に熱風が掠める瞬間まで、わたしはそれが何なのか理解することもできなかった。


「…、  っ、 火?」

「…オレは『使い魔』だから、これが精々」


いや、十分凄いと思います。

温度のない赤と青のオッドアイが、ぼんやりと宙を見ている。一方わたしの頭のなかでは、ショタ兄弟の手品師がお決まりの台詞を言ってポーズを決めていた。


「あ、えっと…ごめん邪魔、しちゃった?」

「ノア」


そうして沈黙していると、控えめな高い声が茂みから聞こえて来た。振り向かずとも、ブランのぴんと張った白耳と少し高揚した声で誰かは知れた。後ろ手を着いて振り向けば、予想通り。黒い尾を振りながら、ブランと瓜二つの顔の猫耳ショタが立っていた。


「やほ、ノワールくん」

「はい! この世界の勉強の方はどうですか、ケイさん」


穏やかなブルーアイを蕩けさしてノワールが訊いて来た。その腕に抱えられた大きな藤のバスケットが気になって仕方ないが、取りえず頷いて応える。


「あははー…おかげさまd」

「全く進んでない。 ノア、やっぱりこの異人は頭が悪いし飲み込みは遅いし嘘ばかりつく。捨てよう」


プライドから出た些細な嘘は、しかしスッパリとブランに斬られた。見えないナイフがぐっさりと根本まで刺さって、わたしのHPは赤バーに突入している。しれっとしているブランに、ノワールが「ブラン…」と困ったように呟いた。


「と、とにかくお昼にしようっ。ランチを作って来たんです、お口に会うと良いんですが…」

「ノワールくんの手作り! 食べる!!」


掲げられたバスケットに飛び掛かろうとした体は、ブランの手によって阻まれた。具体的に言うとスカートを引っ張られ、地面にこんにちはした。ちくしょう…相変わらず、ノワールに対して過保護な。それはノワールくんも思う所なのか、困ったように笑っている。


「ノワールくんは本当にすごいね。料理は美味しいし、服もちょちょいって作っちゃうし…あ、このワンピースありがとう。とっても可愛いし着心地も良いよ」

「いえ…僕なんてまだまだで…。でも、ケイさんが喜んでくださるなら、良かったです!」


照れっと笑うノワールに、わたしの心は昇天寸前だ。もうあれだね、ギューッてしてあげたいね。そのぶんぶん振れている尻尾捕まえて撫でまわしてあげたくなるよ。先ほどまでブランにビシバシ絞り上げ上げられていた分、ノワールの優しさがとても癒しだ。


そうしてほわほわしていると、黙っていたブランがすくりと立ち上がった。


「ブランっどこへ…」

「その辺り散歩して来る」

「え、ランチはどうすんのよ!」

「…好きに食えばいいだろ」


それだけ言って、ブランはさっさと森の中に消えてしまった。トレードマークでもある真っ白なマフラーが見えなくなり、バスケット片手に呆然としてしまう。え、これ待ってるしかないじゃん。先に食べてれば、なんて言われて「はいそうですか」とは言えない。わたし二人より年上だし、なけなしのプライドのためにも美味しそうなブランケットは封印しよう。


「…ブラン、」

「え、えっと…ノワールくん、ブランを追ってくれていいよ。わたしが、気分を悪くしちゃったの、かも」

「………いいえ、ブランはその、……」

「?」

「あ、あはは…気にしないで下さい。先に食べちゃいましょう、ブランも好きにしろっていってたし!」


え、いいの?

すとんっと座るノワールくんだが、ムリしているのではと疑ってしまう。そんなわたしからひょいとバスケットを引き取ると、テキパキと中身を広げ始めた。出て来たのは、具だくさんのサンドウィッチとフルーツたっぷりのデザートだった。わたしは素直に、先ほどまでの我慢うんたらの宣言は撤回することに決めた。


「あ、ケイさんのはこっちです。マスタード抜いて、ベーコンたっぷり挟んでありますから」

「う、うほぉぉぉおおおありがとおぉおお…!」

「デザートは、ヨーグルトにベリーとハニーを和えました。今朝採れたワイルドベリー、お口にあえば良いんですけど…」

「うんうん」

「飲み物はハッピーハーブティですよ」


バスケットから出した赤レンガ色のマグカップに温かいハーブティが注がれる。え、ティーポットで持って来たの。何気に凄いね。噛み応えのある手作りパンにはほんのりと焦げ目がついている。それに大振りのレタスとマヨネーズで和えたうでたまご、オニオン、トマト、チーズ…それにベーコンが挟まっていた。大きいので一口頬張るにも一苦労だが、その分満足感がハンパない。塩コショウが効いていて、食欲が止まらない。


「うへえ…やっぱりノワールくんは料理上手。良いお嫁さんになるよぉ」

「えっ、ぼ、僕はオスですよ」

「…いや、でも…」


むんと考えながら、わたしはノワールくんを見た。

小柄な体躯に、真っ白な肌。短い黒髪はサラサラとしていて、サファイアのようなブルーアイは零れ落ちてしまいそうなほどに大きい。唇もぷっくりしていて、わたしが男だったら一目で恋に落ちてしまいそうな魅惑を秘めている。人間わたしの耳の代わりに生えている大きな黒い猫耳はいつもぶるぶる震えていて非常に庇護欲をそそられる。ゆらりとゆれる黒い尾は、彼の控えめな性格を示しているようで、何時もどこか臆病に見え隠れしているのだ。____うん、かわいい。


「食べちゃいたいくらい可愛いからお嫁さんで問題ナシ!」

「え、ええええ~」

「ほんと気をつけなよ、目を放したすきに悪い人に誘拐されないかわたしは心配でしんぱいで」


サンドウィッチを貪りながら、よしよしと頭を撫でてやる。大きな耳の間を梳くように撫でてやれば、ノワールがぴくぴくと震えた。照れ臭いのか、頬がほんのりと林檎色に染まっている。愛い愛い。


「そ…それは、僕だって…」

「ん?」

「な、なんでもないです。それより、腕の調子はどうですか?まだ痛みますか?」

「ないない」


わたわたと訊いて来るノワールに、わたしは笑いながら頭を振った。


「もうぜんぜん痛くないよ。ノワールくんの薬が効いたんだね、ありがとう」

「そんな……お礼を言われる様なことは、してません」

「でも手当してくれたのノワールくんじゃん」

「魔法薬の調合は趣味みたいなものです。それに…僕に力があれば、そもそもこんな怪我させずに済んだのに」


しゅんと、猫耳が垂れ下がる。わたしの包帯がまかれた腕を摩りながら、まるで祈る様に沈黙してしまったノワール。いやいや、この怪我は自業自得なところがあるのでそんな落ち込まれても。


(…そもそも、わたしが大人げなく家を飛び出したのが原因だし。勝手に飛び出して勝手に怪我して、挙句の果てに助けられてちゃ世話ないわ)


思い出すのは二週間ほど前のこと。

わたしは、気づいたら全く知らない場所にいた。わたしの世界背景であるコンクリートジャングルがどこにもない、深い森の奥で遭難したのだ。それを助けてくれたのが、彼だ。


ノワール、黒猫の亜人の少年。

彼には双子の兄がいた。それがブラン、白猫の亜人の少年だ。


色々あって、わたしはこの世界では『異人』と呼ばれる存在であり。もう元の世界に戻るのは絶望的であることを教えられた。なので、この世界で生きることに決めた。…いや、後悔はあるけどさ。わたしよりずーっと頭の良い異人たちが何百人も研究と実験を重ねて、それでも無理だったっていう話を聞かされたら、嫌でも諦めがつくというものだ。下手な希望をもつよりか、すっぱり割り切って、もう会えず共両親に貰った命を全うするのが親孝行だとわたしは思う。まあ、持論だが。


(まあ、一度耐え切れずに家出したけど)


それが三日ほどまえのこと。

それでも色々こころの方が耐え切れなったらしい。夜中に起きて大泣きしてパニックを起こしたと思えば、夜の森を全力疾走していた。そこででっかいトカゲのモンスターに遭遇して、文字通り死にかけたのだ。だが、わたしは死ななかった。追って来てくれたブランとノワールに助けられた。


「___ああ、いまは魔法の説明ですか」

「あー…うん。魔女とか、使い魔とかいうやつのはなし」


デザートのヨーグルトに舌鼓していると、ノワールがブランの書いた図を見つけたようだ。


「えっと、良く解らないんだけどさ。ブランとノワールくんは、魔法が使えるんだよね?」

「いいえ、僕は使えません」


てっきりイエスと返ってくると思っていた質問に、ノワールは首をふってみせた。驚いてぽかんとアホ面を曝してしまう。


「え! でも、ほら! あ、あの時、なんか魔法みたいの使ってたじゃん!ブワーって光ってビシャーって蔦がのびて!」

「え、えっと…あれは、魔術です。魔術と魔法は、資質と過程に大きな違いがあります」


わたしの大振りなジェスチャーに驚きながら、ノワールくんは丁寧に説明してくれた。


魔法と魔術_____。

魔法とは、魔力を意志一つで繰り結果を起す力。それは精霊、あるいは神の権能であり、体得は生まれながらの資質に依存している。

魔術とは、魔法の模倣。魔力を媒体に通して繰ることで、魔法と同じ結果を起す技術の総称。体得に資質如何は関係なく、学ぶ意欲さえあれば誰にでも体得が可能である。


「____簡単に纏めるとこんな感じです。僕は魔法の資質がないので、魔術を使います。魔術にはいろんな流派があって、僕は符楽譜式シナヴリアの魔術系統です」

「し、しぶなり…?」

「開祖はカナリア・ベートン。魔術を一種の音楽として捉え、類希なる才能と芸術性を持って今までにない魔術理論を組み上げた天才です。ちなみに、彼は人間で、優秀な魔術師である以前に凝り性な音楽家だったらしいです」


「有名な作曲を幾つも残しているんですよ!」と興奮した様子で語るノワールくんを見るに、彼はその開祖様を魔術師としてではなく、音楽家として尊敬しているのだろうと推測する。うん、ノワールくん。そんな沢山横文字の曲名言われても、わたし一つも覚えらんないよ。え、宇宙語?


「…それで、彼はタンタップ式という一貫性を魔術に組み込み、それをひとつの音楽として成立させて、それでっ」

「えー、えっと…あ! つ、使い魔ってなに!ワタシ凄くキニナルナー!」


多分これはこちらが止めるまで暴走し続ける雰囲気だったので、無理やり話を割り込ませた。ノワールくんは一瞬ぽかんとしていたが、直ぐに現状を察してくれたようで、眉を八の字にして顔を赤くすると、慌てた様子で答えてくれた。


「う、あ、あ、つ、使い魔ですね!わかりました!」

(耳ぴーんしてる)


ぐっと拳を握るノワールくんの耳と尻尾が水平になっていた。ちょっとおもしろい。


「えっと、使い魔っていうのは亜人の職業みたいなものです。魔女についている亜人を、そういう風に呼びます」

「……さっきからちょくちょくでてるんだけど、その魔女って結局なんなの?」

「平たく言うと…魔法をつかえる人間のことです」


はて。そこで疑問がうまれた。


「魔女ってさ、さっきブランが異人のことだって言ってたけど…?」

「そ、それは本当の意味での『魔女』ですね。もともと、魔法の権能…魔女の資質は異人が持っていたものだそうです。それが、この世界の人間と混じりあり、子孫に魔女としての才能が受け継がれているんです。これを血統遺伝と言います」


ノワールが事細かに説明してくれるが、今一実感がわかずにわたしは小首を傾げた。第一、わたしの世界から来た人間を『異人』と呼ぶらしいが、ならそもそも『魔法』なんてマジカルでメルヘンな資質持ち合わせているわけがない。絶対的な世界のルール、科学という文化で純粋培養された私たちが、なにをどうしたらそんなもの使えるようになるのか。全くイメージがわかない。


「亜人の魔女はいないの?」

「亜人に魔女になる権能はありません。まあ、一部ブランのような例外もいるけど…基本的に亜人は魔力を繰るという才能がないんです。その代りに、使い魔として…魔力を集める才能があります」

「魔力を、集める…?」


また良く解らない設定が出て来た。


「はい。魔力はもともと世界に霧散している霧のようなもので…これを魔素というのですが、これを体内に取り入れ不純物を取り除き、蓄積することで初めて魔法や魔術に昇華できる魔力になるんです」

(い、いがいと不思議で万能なチート能力ではないな…メンドクサそうだ)


「亜人は魔素を体内に取り入れ、余分な要素を排除し純粋な魔力として凝縮・蓄積する機能が人間よりも優れています。これを魔力の受容機能といいます。魔女も異人も、この才能はないので…だから、亜人を『使い魔』として添うことで権能を補う。古い習わしのようなものです」


つまり。わたしが魔女になるとしたら、その使い魔なる存在が必ず必要になると言うことか。頑張れば楽にチートできると思っていた分、衝撃が重かった。あぐらを組んだ膝に肘をたてて溜息をつけば、ノワールがおずおずと声をかけて来た。


「あの…すみません。解りにくかったですか?」

「いや、解りやすかったよ。 ちょっと覚えることでいっぱいでパンクしかけているだけ」

「…ひゃ、百聞は一見にしかずっていいますし、実際に魔法の練習とかしてみますか! 僕もお手伝いします!」


ノワールの言葉に、わたしは日本人の異人が沢山いることを悟った。すごいな、日本語が異世界にまで広まっているって。


「まー…よろしく頼むよ。情けない話だけど、わたしこっちで頼れるの君たち位しかいなし」

「っ、いえ、」


意気込むノワールの頭をぽんぽんと叩いてやる。ノワールは撫でると困ったような、嬉しいような不思議な顔をする。まあ嫌がっている雰囲気は感じないので、大丈夫だろう。目をつむって、むっと口を閉じてわたしを見上げているノワール。おそらく人間で言うと、13~15歳といったところだろう。一番かわいい盛りだ。


「愛いねえ…」

「う、うい…?」

「めんこいってことだよ」


ノワールは不思議そうに眼を丸くしていた。どうやらぼやかしには成功したようだ、こういうことは当人が知らないっていうのもまた大切な要素だからね。あー愛い愛い。



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