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屍に灯るひ  作者:
1/1

序章

ほぼテストみたいな感じなので、推敲できてないし途中も途中です。

それでもよければ読んでやって下さい。

 喧騒に溢れた夜の町をハオレンは千鳥足で歩いていた。二件目での黄酒が効いたのか、気分は高揚し赤々と染まった顔は締りがない。

「大体父上が偉大すぎるのが悪いんだ」

 ブツブツと零すように何かを言いながら歩く彼を、気にするものは誰も居ない。ここにあるのは怒号と嬌声、意味のない雑音に溢れている。

 手に持った瓶を一口仰ぐと、酒臭い息を吐きながら空を向いた。月は満月には少し欠けるが、光光と輝いている。もう一度息を吐き、ハオレンは独り呟く。

 今日は良い夜だ。

 ああ、今日は本当に良い夜だ。存在だけで重圧となる父親も、まるで虫けらのように自分を扱う彼女たちも居ない。それだけで心に羽が生えたように感じる。

 たとえここがゴミ溜めのような盛場でも、月は綺麗で酒は上手い。

 鼻歌が口を付く、男への恋心を歌った今流行の歌だ。この曲を歌う歌手の顔を思い浮かべようとハオレンが目を瞑った瞬間。岩にあたったような衝撃を感じ、地面に尻をつき倒れこんだ。

「痛えなこの野郎!!」

 往来で尻をついた恥ずかしさと鈍い痛みに怒りを覚え、悪態をつきながら見上げると、大ヒヒのような二人連れの男達が見下ろしていた。どちらもかなり酒を飲んでいるのだろう、それこそ猿の尻のように真っ赤な顔が、眉根を寄せてこちらを睨んでいる。

「人にぶつかったなら謝れよ」

 ジロジロと見下されることに腹立ちが募り、もう一度声を荒げると、男達は一度顔を見合わせてからニヤニヤと笑い出した。

「ああ?なんて言ったんだこいつ?」

「さあな、何か呻いてたように聞こえたがな」

「あー、背が小さいからな。きっと声も小さいんだろう」

「ちげえねえ、こんなに小さくちゃあなー、アレもきっと爪楊枝みたいなんだろうぜ」

 指で何かをつまむような仕草をしてから、ゲラゲラと下卑た笑い声を上げ2人は尻もちをついたハオレンに一歩近づいてくる。倒れた時に手放した瓶が、男の足に蹴られカラリと転がった。

「巫山戯るな、お前たちなど!!うちの2人に」

 勢い良く立ち上がりかけたところではたと気づく、そう言えば今日あの2人は居ないのだと、自分でさっき思ったではないか。

「やろうってのか、小人くんよ」

 腕まくりをしながら凄む男の目は、夜店の光を受けて凶悪な色を浮かべている。腕に覚えがあるのだろう、その色は随分と被虐的だ。

「あ・・えっと・・・ははは」

 いくら酒に塗れた頭でも、これはまずいと分かる。そもそもハオレンは腕に覚えがない。道士に体術は必要ないと、訓練からも逃げまわっている身である。

 血の気が引く感覚とともに酔も急速に冷めていく、今更詫てもきっと許されはしないだろう。それに売った喧嘩を無様に引っ込めれぬほどには、肥大したプライドをハオレンは持っている。

 こんな奴らに頭を下げるのは癪だ。

「おい、何ぼうっとしてやがる」

 右の男が焦れたように腕を伸ばしてきた。とっさに懐から札を取り出し、固く目をつむり呪を唱える。短冊形のそれは小さくジリと音をたてながら煙を出したと思うと、目の眩むような閃光を発した。

「ぐわぁっ」

 まともに光を見たのだろう、男達は顔を抱えてうめき声をあげている。野次馬と化していた者たちが上げたであろう声も聞こえたが、運が悪かったと思ってもらうよりほか無い。ハオレンは素早く立ち上がり、一目散に走りだした。

 閃光による足止めなど一瞬でしかない、すぐに後ろから怒声と足音が聞こえてくる。

 後ろから追いかけてくる怒鳴り声に追いつかれぬよう、死にものぐるいで駆けて行く。店先に下げられたランタンの灯りが火の玉のように後ろに流れる。途中何人もの人や物にぶつかったが、気には止めていられない。

 走って走って走って。

 息が吸えぬほどまで駆けた先で、酔い回った自身の踵に足を取られて、勢い良く転がった。

 鈍い音とともに薄汚れた木の箱とそこから溢れたゴミの中で、ハオレンの体は止まる。強かに打ち付けた肩と頭が痛む、ひどい吐き気と揺れる視界の中、力尽きた体はただただ荒い息を吐く。

 犬のように息をしながら、立ち上がらねばと頭で思う。あの男達に追いつかれたら、ただでは済まないだろう。下手をすれば明日、警邏隊の屯所で物言わぬ人となり父と対面する羽目になるかもしれない。

 でも体はもう動かない。打ち壊れるのではないかと言うほどに鼓動する心臓で全身は震えているし、自分で引っ掛けた足は力が抜けきり、動かす事すらできそうにもない。

「はっはは・・・ひっひ・・は・・ひひ」

 息の端から声が洩れる、悲鳴のような声は乱れた呼吸で途切れ、どこか笑い声のようだ。

ランホイは只々息と声を漏らし、制御できぬ体を地面に預け渡した。

半分も開かない目には、薄汚れた壁とそれを登る壊れかけた階段、遠くに暗い空が見える。さっき見たのと変わらないはずの月も浮かんでいる。

ただあれほど綺麗に見えた月も、いい夜だと感じた心も、今は夢のようだ。なぜこんな事になってしまったのだろう。

打ち付けてはいないはずの鼻がじんわりと熱くなる。

無様だ、とんでもなく無様だ。

ゴミ溜めに倒れ、酒の匂いを撒き散らしながら泣く成人男性など、無様以外の何物でもない。

「畜生」

腹の底からこみ上げるやるせなさを、吐き出すように声に出した瞬間、コツリとハオランの額に何かが当たった。


 



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