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カタツムリ

作者: 金城 遥

雨が降っている

窓の外はいつもより少し暗く、雨が屋根や草木を濡らす音しか聞こえない。

こんな山奥の田舎町で、休日に雨が降れば出かける人も畑仕事をする人もいない。

そんな時、僕は決まって外に出る。少し大きめの傘をさしてリュックサックを背負う。

リュックサックの中には自分の好きなものを詰める。

それは、お菓子であったり、自分の好きな本であったり、とにかく好きなものだ。

ドアを開け外に踏み出す足は驚くほど軽い

僕はいつもよりずっと軽い足をいつもよりずっと遅く動かし

歩きなれた道を何も考えずに、ただ、雨に濡れた空気を肌に感じるように歩く

傘に落ちる雨の音が妙に心地いい

なんの目的もなく、何の行き先もなく歩いていると、バス停に着いた。

そこは屋根があって雨宿りをするには打ってつけだ。

僕は何てついているんだろう。

こんな雨の日にこんな場所に出会えるなんて

時刻表を見ると、バスは後2時間は来ないらしい。

古臭い、ところどころかけたプラスチック製のベンチに腰掛けると、お尻が少し冷たい。

傘を閉じ自分の好きなものだけが詰まったリュックサックを横に置き、思いっきり肩の力を抜く。

耳には雨がバス停の屋根と木々を濡らす音だけが鳴り響いて、濡れた木々の匂いと土のにおいが鼻腔をくすぐる。

ねずみ色の空を眺めているとなんだか落ち着く

真っ青な空のように明るく生きなくても良いよと言われている気がする。

きっとこうしている今も、僕の知っている人たちは家でテレビを見ていて

街に出ればたくさんの人が歩いていて仕事をしている人がいる。僕の抱えている問題も悩みも何も解決していない。

でもこうしている瞬間だけは、

この世界は僕のもので、世界には他に誰も居なくて、

腰掛けたベンチにおいてあるリュックサックの中身だけが僕の世界だった。

僕はちっぽけなリュックからお気に入りに飴を取り出して口に入れ

お気に入りの本を取り出してページを開く。


本を読みふけっていた僕は一台のバスの音で我に返る

あっという間に2時間が立っていたらしい。

僕は本をリュックにしまうと。

走ってきたバスとは全く逆の方向に歩き出した。

そろそろうちに帰ろう

ねずみ色の空には少しだけ晴れ間がさしていて、

もう傘は必要なさそうだ。僕は来た時より少しだけ明るい顔で来た時と同じ道を歩くゆっくりと一歩ずつ




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