7.布石
遅くなりました。夏は体力がなく申し訳ない。毎日更新を目指していたのに・・・。
毎晩、店が始まる20時前にカウンターで尾辻とゆっくりと酒を飲みながら話すのが日課になった。
制服を着ると高校生に見えるが、それなりに大人っぽい服を着れば大学生あたりに見えるから、まぁ、いいかと。
本来はそのぐらいの年齢じゃないかとも思うのだが、尾辻は俺たちの高校時代のアルバムを見ながら、せいぜい高校生だろう。と言う。
酒が飲めなくなるから、そんなもん持ってくるなと怒っておいた。
「そうか、久志とそこまで話せるようになったか。墓参りは行ったのか?」
「尾辻、ありがとな」
「なんだ、あらたまって」
「住職に聞いた。おまえが、毎週、花を差し替えに来ているって」
「俺は、お前の代理でやってただけだ。俺もおじさんたちには随分よくしてもらったしな。俺の第2の親でもあるしな」
ゆっくりとハイボールのグラスを傾けながら、尾辻はなんでもないことのように言う。
「そっか、それでも奈々さんと秀人さんのいるところが綺麗で花がいっぱいで、すごくうれしかったよ。ほんと、ありがとな」
「おまえがいつもそうしていたから俺も花を絶やさないようにしただけだ」
「今度は、一緒に行こうな」
「ああ、それもいいな」
今日は久しぶりに気分よく寝れそうかなと思いながら残りの酒を飲み、2階の間借りしている部屋に行こうかと思ったそのとき、騒動がやってきた。
「祐二! どういうことだよっ!!」
いきなり頭の後ろから金切り声を浴びせられて首をすくめる。
(あ~、これ、久しぶりな感じだ・・・ )
振り向くと、茶髪で顔の整った20代前半ぐらいの青年が腰に両手をあてて立っていた。
かなりご立腹な様子だ。
「店で大きい声をだすな」
「俺がいるのになんでこんな奴と飲んでるんだよっ!」
「今のこれか?」
俺は、小指を立ててみせた。
「・・・葉、おまえ、親父くさいな」
「おまえに言われたくないぞ。席をはずすよ。コンビニに行ってから部屋にもどるが、いいか? それとも、今日はホテルにでも泊まろうか?」
「いや、すぐに帰らせる。メールするから帰ってこい」
「わかった」
久しぶりに尾辻の恋人と鉢合わせをしてしまった。
尾辻の相手は、学生時代から結構頻繁に変わる。
大体、3ヶ月から半年ぐらいのルーチンだ。
俺が尾辻の相手から誤解されて騒ぎになり、尾辻は面倒がって騒ぐ相手はさっさと切り、相手がいなくなると次の相手がすぐできる。
すごくわかりやすいルーチンだ。
尾辻一族の本家の次男で資産がある。
顔は彫が深く整っていて、背も高く、学生時代はバスケをしていたが社会人になってからはスポーツジムに通っているため、プチマッチョ。
料理も作れ、付き合っている間は相手に至れり尽くせりの甘さもある。
これで、モテないわけがない。
ただし、俺という「コブツキ」だけどな・・・。
いつからか学生時代の友人たちとの飲み会では俺にかまいすぎる尾辻がからかわれ、俺は「コブ」という不名誉なあだ名で呼ばれることが多かった。
これは、でも、しょうがないと思う。
尾辻と俺は1歳ぐらいから桜花に入るまでは頻繁に一緒に保育されていた。
おもに、奈々さんに。
尾辻の両親は本家の製薬事業や不動産事業のトップだったから常に忙しい。
祖父さんがときたま俺たちを見てくれたけど、桜花の幼稚舎に入る4歳までは仲居家の居間が俺たちの保育園だった。
だから物心つく前までは尾辻は俺の兄だって思い込んでいた。今は、笑い話だ。
「祐二」だから、「ゆうにい」って呼んでいつも尾辻の側から離れなかったらしい。
なぜ同い年なのに「兄」と言っていたかというと、尾辻が兄の公一さんを「こうにい」って呼んでいたからだと思う。マネっこって小さいこどもがよくするよね。
(黒歴史だ。幼稚舎から帰るときに尾辻と別の車だっただけで、大泣きしていたからな)
幼稚舎に入るとクラスは別々だし、尾辻は尾辻本家の子どもらしく生活マナーや学力をつけるために家庭教師がついたので放課後も会えなくなった。
そのせいで一緒にいる時間がげっそりと減ってしまったのだ。
いつも一緒にいた「兄」だと思っていた相手は本物の兄ではなく、その上にいきなり物理的な距離ができたのだ。
計り知れないショックを受けた俺は、しばらくはクラスの誰とも馴染めず奈々さんには毎日心配をかけていた。
そんな俺を見かねた祖父さんが尾辻の両親に話してくれて、家庭教師のない日曜日だけは尾辻家がらみの行事がない限りは俺と一緒にいてくれるようにしてくれた。
それを楽しみに俺は俺で、秀人さんや奈々さんから楽しくそれでいて尾辻の側にいるのに必要な礼儀や知識を身に着けるための勉強を教えてもらった。
そんな歴史があるから、俺も尾辻もお互い家族のように思っている。
まぁ、他人からみれば俺が「こぶ」に見えるのは尾辻が俺にかまいすぎるからであって、俺が子どものような態度をしているわけではない。断じて、ない。
俺が結婚してからも誤解する相手が多いのが不思議だったが、尾辻がさっさと縁を切るぐらいの相手ばかりだったから俺もさほど重要視したことはなかった。
騒いだりしなければ長く続くということを証明してくれた人もいたからだ。
今まで一番長かった相手は1年半。
とりたてて華があるとかではなく、容姿は平凡な人だったけど穏やかな人だった。
俺の相談とかも嫌がらずに親身になって乗ってくれた人だった。
離婚して最初の頃、ひどく精神的にまいっていたときも話をよく聞いてくれた。
あの時期、あの人に会うためだけに店に通ってたといってもいい。
他人とは暮らせないんじゃないか?というぐらいに生活については結構神経質な尾辻。
今まで同棲したのは、その人だけだった。
すごいと思った。
俺は尾辻と一緒にいるとちらかし専門な人なので、よく「水を出しっぱなしにするな」とか「服は綺麗にたため」とか注意されるから、よけいに一緒に住むのは嫌だなと思っていたから。
だから、尾辻の懐に入っているその人に尾辻の生涯の相手になって欲しいと心から思った。
残念なことにケンカしたとかなにかでいつの間にか同棲を解消して、別れも言えずに去ってしまった。
元気でいるのかな。
「あ~でも、まずったよな。最近俺の件にかかりっきりで、恋人と会う時間とかなかったんだろうな。やっぱり、今日は、ホテルにでも泊まるか・・・・・・」
どこに泊まるか考えながら店からちょっと遠いほうのコンビニに入り、酔い覚ましのコーヒーを買うことにした。
「こんな夜中に外出か」
「え?」
聞きおぼえがある声に後ろを振り向こうと思ったら、その前に右腕をとられて無理やり振り向かされた。
「お酒のにおいがするね。どういうことかな?」
ち、近いよ、距離が。
いやいや、会長、にっこりと笑ってますが目が冷え冷えじゃないか。
どうやったらそんなに器用なことができるのか、器用だな。
「ええっと・・・・・」
みかけは子どもだけど、中身は大人なんですとは言えない・・・。うん、中二病だって思われる。
なんと言い訳しようか考えるが、冷え冷えの目にがん見されていては考えもまとまらない。
待て待て、俺って外見だけ若くなっただけだろう?
なんか気分まで高校生並に幼くなってないか・・・・・・。
情けなくなってきた。
「そんなに睨まれるほど何か変ですかね、俺」
居心地悪いことこの上ない。
「制服じゃないと高校生に見えないんだな。やけに、・・・」
Vネックの濃紺の綿麻混サマ―ニットに茶に近いベージュのパンツは、高校生よりはむしろ大学生向きのチョイスでお願いしますと店のスタッフに選んでもらった服装だ。
高校生に見えたら、むしろ俺自身が着こなせていないことになって痛いことになるよね。
しかし、その「・・・」はなんだ? 気になるじゃないか。
やけに、「年寄りくさい」とか、「じじくさい」とか?
若返ってまだ1月くらいしかたってないし、無理があるのはわかるが。
「ここいらは酔っ払いも多い。深夜に出歩くと危険なことぐらいわかりそうだけど、ひょっとして、自覚なしか?」
「・・・俺、一応体術は心得があるんで」
尾辻の弱点にならないようにと、一応、小さいときから逃げることが主流の体術は習って育った。
何度か危ない目にもあったけど、怖いことまでに至ったことはない。
「そんな意味ではないんだけどね」
困った子だというような笑い方だ。いや、俺のほうが大人。大人なんです。
それにしても、なんで、こんなところで会うかな。
学校に通報でもされたら、いくら理事が祖父さんとはいえ、良くて生徒指導室で反省文、悪くて停学か。
時間がない上に、そんなことにでもなったら計画が台無しだ。
「あの、会長、」
「家はどこだ」
「あ、いや。だから」
「帰りにくいのか?」
「いえ、え~っと」
どうやって、言い訳していいのかさっぱり思いつかない。
寝るだけだと思って、少し飲みすぎたらしい。
「帰りにくいんだったら、私の家はこの近くだ。おいで」
「・・・はい」
断りにくいな。なんでかな、この人、ちょっと不思議な感じで困る。
尾辻には後で、メールしておくか・・・はぁ。
会長の家は、コンビニを中心として尾辻の店のほぼ正反対の位置にあった。
距離にして、徒歩10分といったところだった。
実は、あのコンビニを境に区域名が変わる。
いつもはもっと店に近いコンビニしか行かないから、会長の家の付近はよく知らない土地だった。
(うわっ、でかい)
一軒家で平屋ではあるが、二百坪はあるだろう広い敷地に純粋な日本家屋。
大きな門扉の材質はおそらく杉だ。由緒ある代議士とか、政治家の家っぽい。
尾辻本家ほどはないけど、それでも、庶民には程遠い風格の家だ。
「会長って、もしかしてお坊ちゃんですか」
「父も母も公務員だ。何かの跡取りというわけでもない。家は曽祖父が建てたものだ。でかいばかりで、固定資産税を払うのも勿体ないぐらいの古さだ」
高校生で「固定資産税」って単語が出てくるとは。
俺より老けてるんじゃないか。
玄関は南側で思ったとおりだだ広く、品のよい屏風が正面に置いてある。
「屏風・・・」
「曾祖父の代のときのものらしい」
尾辻の祖父さんの家の玄関も屏風があるから俺はわりと好きだけど。
(あまり見ないよな。屏風がおいてある高校生がいる家)
会長の部屋は玄関から続く廊下に入ってすぐ左に曲がり、それからさらに2部屋を通り抜けた家の1番南側突き当りにあった。
西側と東側は壁。南側は障子。北側は大きな4枚の窓。
12畳もあり1人部屋にしてはかなりの広さだ。
西側にセミダブルだろう広めのベッド、東側の壁には社会人が使うような黒のシステムデスク。
南側の障子を開けると幅2mぐらいの板張りの縁側があり、そこには小さなテーブル(といって品がよい細かな飾り彫りがある)と、黒革の1人用のソファーがテーブルの両側に1つずつ置いてある。
「なんか、大人っぽい部屋ですね」
「元は亡くなった祖父が使っていた部屋だ。俺は、祖父に育てられたようなものだからな、落ち着くからそのまま使っている」
「ああ、わかります。昔のものって味がありますよね」
俺も、祖父さんの家で過ごすのが好きだ。
ちっさい頃からの馴染みのソファーでうたたねするのって、気持ちいいんだよね。
ふと、ベッドサイドの大きなコルクボードが目についた。
写真がたくさん張り付けてある。
家族写真だろうか?
少し近寄ってみたら、小さな子どもの写真ばかりでびっくりした。
(ロリコ・・・いやいや、そんなばかな。家族の、だよな?)
何も言われないのをいいことに、写真を1枚1枚見ていく。
子どもが2人の写真と1人の写真だけ。
なんとなくだけど、2人写っているいるもののうち1人は会長に似ている。
やっぱり、家族写真だ。
しかし、そのたくさんの写真のたった1枚に視線が吸い寄せられた。
「これ・・・」
そっと触れようとする自分の指が震えそうになるのがわかって、思わず握りこんだ。
「弟だ。1歳になる前に行方がわからなくなった」
写真を見ているようでいて、俺の手に視線を固定しながら話す。
震える手を見せたくなくてズボンのポケットに突っ込んだ。
「聖という名だよ。俺は4月2日生まれ。聖は約2年後の3月30日生まれだから、学年は1年下だけど、俺にとっては2歳下のとてもかわいい弟だった。
一緒に駅前の公園で遊んでいたが突然目の前から消えた。と、警察にも親にも話したが、警察は信じなかった」
「公園で?」
「駅の東側にいろいろな遊具がある小さな子供向けの公園があるんだ。弟が生まれるすぐ前にできたばかりの、綺麗な公園だったよ」
(あそこか・・・。久志を連れていこうとしたことがあったけど、その度に雨が降っていたから結局一度も行けなかった公園だ)
会長は今度はしっかりと写真に視線を固定し、懐かしそうに、そして切なそうに人差し指でなでた。
その一連の動作を見ながら意識はまったく別のところにあった。
(そんな、ばかなこと。いや、あるわけがない。ただの、偶然だ・・・)
「・・・昔にしては、服の絵柄がやけに今風なんですね」
下地はうすいアイボリーで、柄は優しい薄緑のリーフ柄のオーバーオールだ。
普通にしゃべれているだろうか?
震えずに話せているだろうか?
「母の手作りだ。生地は、弟が生まれる前に知り合いの工房で染めさせてもらったらしい。母は、高校で被服を教えているんだ。若いときはパリまで行ってデザインを勉強していたことがある。この服が完成してはじめて着せたその日に弟はいなくなってしまった。これは公園に行く前に家の前でお祖父さんがとってくれた写真だよ。お祖父さんも一緒に公園に行ってくれたんだけど、俺たちに飲み物を買ってくるといって離れたときに弟はいなくなったから、亡くなるまで気に病んでいた」
「・・・ええと、じゃあ、この子供服は・・・世界に1つしか、ない・・・?」
「そう。たった、1つしかない、オリジナルだ」
なぜ、その「オリジナルの服」と同じものが、俺のマンションにあるのか・・・。
奈々さんは年に1度は必ず子どものころの俺の服を虫干していたが、ある1枚の服についてはいつも不思議がっていた。
その服だけは数年たっても全く色褪せることがなかったからだ。
うすいアイボリーで、薄緑のリーフ柄のオーバーオール。
俺が駅「西側」の、今はない寂れた公園で発見されたときに着ていた服だ。
警察は服の裏に通常ついているタグから購入した店などを探そうとしていが、タグは一切なく、布もどこにも売られていないということで、捜索は八方ふさがりになった。
ただ、その柄から俺の名前は「葉」になった。
(そういえば、会長の弟がいなくなったという東側の公園の場所は昔は底が深い大きな沼だった)
周辺に公園が全くなかったために、市が沼を埋め立てて公園を造ったのだ。
久志がまだ紗耶香のお腹にいる頃で、公園ができたら子どもと3人で行こうって話をしていたから覚えている。
尾辻家が遊具のほとんどを寄付していたはずだ。
「どうした? 顔色が悪いな」
顔に手を添えられそうになって、慌てて、その手を逸らした。
「え・・・あ、ええと、少し、眠くなってしまいました」
「・・・そうか。夜も遅いし、隣の部屋に布団を用意するからそこで休むといい」
会長の部屋の東側には、廊下に出る入口とは別にドアがもう1つあった。
そこから隣室に入ると、やはりその部屋も廊下からも入れるようにもう1つドアがある。
会長が小さいときに使っていた部屋だそうだ。
会長がお祖父さんに育てられたってのは、この部屋の構造からもわかる。
きっと、寂しくないように部屋から部屋への扉を付けたんじゃないかな。
広さは8畳で、木の2段ベッドとテレビが置いてある。
いつも友人が来たときに泊まらせる部屋だから、と下段に手際よく布団を敷きパジャマまで出してくれた。
「これでサイズは大丈夫だと思うよ。着替えるといい」
パリッとした真新しいパジャマを渡された。
「ありがとうございます」
自分も着替えるからと部屋から会長が出て行った。
なんだか、どっと疲れがきた。
こういうときは何も考えないほうがいい。
しかし素直にサマ―ニットを脱いだとき、突然ドアが開いた。
「・・・何か?」
入ってきたのは当然会長だったが、俺が真っ裸だったらどうするつもりだ、この人。
「そのあざは?」
抑揚のない声だ。
「このあざが、何か・・・・・、っっ!」
痣の上を人差し指でなぞられた。
「ちょと、やめてください!」
痣となったキズが痛むことはないが、他のところより敏感にはなっている。
刺激されたら、腰が引けるくらいには。
「星型のあざなんて初めて見たよ。これは、生まれつき?」
「いえ、・・・昔、学校のバスケの試合で怪我をしたときの」
「もともとは、ここに、4つの黒子があったんじゃないか?」
「・・・そんなもの、ありません」
目を逸らさずに言う。
「・・・そうか。お休み」
納得した顔では決してなかった。
でも、それ以上の追求はしないで出ていってくれた。
その背に、小さな声しか返せなかった。
「お休み、なさい」
手作りで、世界に1つしかない子供服。
そして、今はない「なつかしい」4つの黒子の存在。
(くそっ! いったい、どうなってるんだっ!)
訳がわからないのは自分の変わってしまった姿だけではないことに、怯える自分が嫌だった。
(今は、久志のことだけ考えていろっ!)
窓にうつる不安げな顔の若造に向かって叱咤する。
(俺は父親だ! その事実だけで動け!)
浅い眠りの繰り返しで、ひたすら夜明けを待った。
もう、寝るのは諦めてそろそろ起き上がろうかと思ったときに、隣の部屋からひそひそと声が聞こえた。
「紀人、母さん、ちょっと確認してくるわ」
その声に聞き覚えはなかった。
それにどこかでほっとする自分がいた。
「おじさんから、また連絡があった?」
「ええ、ごめんね。朝ごはん作ってあげられなくて」
「気にしないで、気をつけて」
「行ってきます」
母親は先生だということだが、職場に行くのではなさそうな会話だった。
ここを出るのにちょうどよい機会だと思い、隣に続くドアを軽くノックしてあけた。
「おはようございます会長」
「起こしてしまったね。まだ5時だよ。もう少し寝ていたほうがいい」
「いえ、もう、帰ります。それより、会長のお母さん、こんなに朝早くから出勤ですか」
「ああ・・・・・・いや、違うよ。今日は仕事は休みだ。母は、警察に行ったんだよ」
「警察?」
およそ、想像もしなかった言葉に驚いた。
「昨夜、身寄りのない家出の少年が保護されたと警視庁にいる親類からの連絡があったらしくてね。確かめにいったんだ」
「確かめにって」
「弟じゃないか、とね」
(まだ、・・・・・・あきらめて、いない?)
頭を、ハンマーで打たれたような衝撃だ。
「意外にね、未成年の家出の子の中には記憶喪失の子とか出生がはっきりしない子もいるんだ。そういう子がもしかしたら消えた弟かもしれないって、確認しに行くんだよ」
「確認って、どうやって」
「黒子だよ」
会長は俺の鎖骨あたりを見ながら、そう言った。
そんな切ない目で見ないで欲しい。
誤字脱字、ご容赦ください。