4.始動
15日中にアップするつもりが、校正がおいつきませんでした、申し訳ないです。
少しは、内容が明るくなったといいな・・・。
さて、そろそろ、本題に入らなくてはならない。
10月もあと数日で2週間目に入る。タイムリミットは10月末。
頼れる信頼できそうな友人がここに2人。
行動開始にはもってこいだ。
「なぁ、仲居久志って知っているか?」
何でもないことのように、尾辻から借りているスマホをいじりながら聞いてみた。
本当は、クラスが同じほうがよかった。
だが尾辻に、「お前、一緒のクラスで、始終側にいて、苦しくならないか? 父親とは言えないし、かと言ってあまり側に寄れば、もし、ばれたときに言い訳がきかないぞ」
と言われて、しぶしぶクラスが別になるように操作してもらったのだ。
実は、この桜花学園は尾辻の祖父さんが理事長で、尾辻の兄が経営している。
今回は、尾辻に裏で手を回してもらっている。
本当は、転入ではなく、一時預りの留学生のような位置だが、それは他の生徒が知る必要はないことだ。表向きはちゃんと試験をして入ったことになっているし、コトが無事に終われば、早々に転出することになっている。
クラス分けは基本、前年の校内模試の成績の平均点、もしくは入学試験の結果で決まる。
点数が1位はAクラス、2位はBクラス、3位はCクラス、4位はまた戻ってAクラス、5位はBクラス・・・という分けかたになる。
上位者だけ1位から30位までをAクラスという風に集めると、Bクラス以下の成績の底上げがしにくくなるという考えかたらしい。均等に配置することで、全員で競争させる。
逆に言えば、この学園の最下位であっても、そこそこ良い県立高校で上位に入れるくらいの実力だったりする。
久志は高校入試では1位だったが、在校生の上位2人には敵わなかったらしい。
だから、久志はCクラスだ。
ちなみに、俺はAクラスだ。
で、現在のこのクラスの1位で学年1位は田中なんだが、4月のクラス分けの時点では学年4位だったらしい。
中3の2月にあった最後の校内模試のときに、2日目、インフルエンザの高熱で途中帰宅したのが原因だと引田が教えてくれた。
話は、戻るが、田中には微妙な顔で返されてしまった。
「仲居って、あの、仲居?」
「あの?」
「氷の仲居」
これは、また、ベタな・・・・・・。
いまどきの高校生が、こんなセンスのないネーミングをつけるのか。
それにしても、「氷」?
「あ、俺も知ってるぞ。氷の君だろ」
野菜の豚肉巻きを咀嚼しながら、弁当に一心不乱だった引田が会話に戻ってきた。
「今度は『君』か。どういう意味なんだ?」
引田は引き続き弁当の虜なので、田中が答えてくれる。
「仲居は、ここに入学してから一度も笑ってないって噂だよ。ただでさえ、高校からの受験組で成績が上位なんだから目立っていたんだよ。なのに、いつも同じ顔。怒りもしないし、笑いもしない。勿論泣いたりもね。だから、誰が言い始めたのかは知らないけど、顔が整っている分、その無表情な顔が余計目立っていてさ。だから、『氷の君』なんだよ。女子にはかなり人気だけどね」
信じられない。
「・・・・・・よく、笑う子だったぞ」
「え、何か言った?」
「いや、で、その仲居はなにかクラブとか入っているのか?」
近づくには、クラブあたりが何の支障もなくていい。
「何にも入っていないんじゃなかったかな。ただ、生徒会には入っているけどね」
「そうそう、毎年、1学年の中で成績が上位の3人は執行部に強制的に入らなくちゃならない決まりがあって、その中の一人だったよな」
弁当はあと4分の1ぐらいか。
がっつくかと思いきや、結構時間をかけて堪能するタイプなんだ。
あれ? うん? 上位3位までが生徒会執行部役員?
「田中? もしかして、クラス分けのときの成績って」
ワザとか?
と、と問おうとしてやめた。
そんな目はほんわかクラス委員長には似合わないぞ。うん。ほんと。
策士め。
しかし、つくづく惜しいな久志は。
上位2位に食い込んでいたら、授業料は無料だった。
3位だと、なにも恩恵にはあずかれない。
それだけ、上位をキープし続けるのは厳しい学校だ。
俺は実はこの高校のOBだ。
高校の3年間は、それはもう必死こいて勉強した。常に1位をキープした。
経済的な恩恵のためと思えば、苦ではあったがやりがいはあった。
養父母はかなり裕福な地位にいる方たちだったが、すでに仕事は引退していた為、負担にはなりたくなかったからだ。
「・・・それにしても、生徒会に強制だなんて、そんな制度は俺のときにはなかったぞ」
「「俺のとき?」」
いや、年取ると、独り言が多くなるもんなんだ。小さく言ったのに、なぜ拾う。
そんなにいちいち反応してもらわなくても。
「ごほっ、前の学校の話だ」
一応、設定上、福岡県の公立高校からの転入生になっている。
本州からは離れているし、この学校にはその高校出身の転入生はいないとちゃんと調べている。
「尾辻の学校は、確か、福岡の公立高校だったよね。公立じゃああまりそんな話は聞かないけど、この桜花はさ幼稚園部からある私立学園だろう。理事長が数年前に突然言い出したらしいけど、背景は、当時の執行部がかなりひどい問題を起こしたからって聞いてるよ。立て直すのに選抜で優秀な人材をってことで、指名制にしたらしいよ。俺も、中学部からの転入だから、これ以上の詳しい話は知らないけどね。成績上位者っていう絶対規則な分、兼部はいいけど辞退はできない。あ、といっても、会長だけは、その上位者の中からちゃんと選挙して決めるんだけどね」
「俺のバスケ部のやつも、兼部だぜ。大変だよな」
引田は成績も上位にキープしている上にバスケ部のすでにレギュラーだ。
小学部からずっとバスケ一筋らしい。
だから、みかけは派手だがとても礼儀正しい。
最後に残った玉子焼きをぱくりと口に入れ、ふたを閉めて、袋に丁寧に直してから「ご馳走様」の一言も忘れずに俺に返してくれる。
引田、お前の母親を俺は尊敬するぞ。
なんて、いい子に育てているんだ。
「そうか、じゃあ、成績が上じゃないと、その、執行部には入れないわけか」
「・・・入るつもりだったの?」
「いや、まぁ・・・」
「指名制でなくても、あそこだけは進めないね。冗談じゃなく忙しいみたいだから」
「でも、葉の転入試験かなり良かったんだし、そろそろ来るんじゃないか、勧誘?」
引田、なぜ、お前が俺の試験結果を知っている?
「転入試験も、その選抜に入るのか?」
田中に聞くと、斜め30°ぐらいに首を傾ける。
しぐさがかわいいな。久志の小さい頃みたいだ。
「う~ん。どうだろう? そこまでは、俺も知らないから」
「でもさ、なんで仲居? 一目ぼれ?」
引田のアホな問いに思わず引いた目をしてしまったが、いや、これは、冗談でもこう思わせないとだめだよな?
「まぁ、そんなところ?」
「ふうん。なんか、訳ありっぽいな」
「(やっぱり、こいつは鋭い・・・・・)」
続きはできるだけ16日中に・・・。