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2.軌道修正

え、まだ、明るさが・・・ない、だと・・・・。すみません。

「う・・・・・・、っっつ」


首、肩、両手、両足、すべての関節という関節がキシキシと痛む。

身体を動かそうとすると、噛み合わせが悪い古い機械のように、まったくうまくいかない。

背中の堅い感覚から、コンクリートの路面を背に寝そべっているようだった。

ああ、なんだっけ、確か、尾辻の店の前で変な感覚がして、


(落ちたような気がするけど・・・そんなわけないな。貧血か?)


とりあえずと、そろりと開けた目で回りを確認すると、妙なことに気づく。

ここは、尾辻の店の裏口側のようだった。

昼に尾辻に呼び出されて顔をだすときはいつも裏口から入るから、間違ってはいない。


「確か、店の前にいたはずだよな・・・・・・? いつのまに、裏口に来たんだ?」


それにしても・・・・・・。


「ああっ、くそっ、身体が痛ぇ。体力なさすぎだろう。歩きすぎたぐらいで、気を失うとかありえない・・・・・・」


愚痴りながら、ゆっくり、ゆっくりと、身体を起こし、とりあえず座ることはできた。

頭が少しだけズキズキとするが、これは頭痛のようだ。


(頭を打ったりは、ないようだな・・・)


頭の後ろにゆっくりと右手をやってまんべんなく触ってみたが、たんこぶとかもないようだった。


しかし、ほっとすると同時に、ありえない、髪の長さに気付き衝撃を受けた。


「? えっ、・・・・・・何、なん・・・だ・・・・・・?」


確か昨日、会社の後輩に長くなりましたねって言われて、帰りのその足でいつもの駅前の理髪店に行ったから、普段よりさらに短くなっていたはず・・・・・・だぞ。


襟足は、首元につくほどある。

これではまるで、学生の時のようだ・・・。


そして、ふと顔をあげ、焦点を前方に合わせたその拍子、俺は、見てはいけないものを見てしまった。


「は???」


尾辻の店の裏口の戸には姿鏡が貼ってある。

これは、良い。だってここは裏口だし。


尾辻が先月、「裏口付近でケンカする奴が多いからつけたんだよ。自分の馬鹿さがよく映るだろうからな」と言っていた。


腫れた顔でもみて頭が冷めるとよいな、なんてことを俺は返した。


まさか、「それ」が俺に精神的衝撃を与えるものだとは、その時には考えることもなかった。


「・・・・・・なんで、こんな、・・・・・・」


鏡に映っているはずの自分は、俺が良く知っている、「俺自身」ではなく、とても『若い』俺だった。


実はまだ気を失ったままで、夢を見ているのか?


しばらくは、思考も、身体も1ミリたりとも働かなかった。


どのくらい道に座っていたのだろうか。

ふと、いつもの、まわりの喧騒が耳に蘇ってきたことで、何か行動しなくてはと焦った。

裏口付近は車は出入りできないほど狭くて人は少ないが、それでも、酔っぱらいや、飲み屋街の店員たちの通り道になっている。こんなところを、知り合いにでも見られたらやばい。


視線をせわしなく、さまよわす。


よく、ドラマや映画でうろたえた人間がするような態度に態とらしいと思っていたけど、本当に人がうろたえるとそういう行動をとるんだなぁと、頭の片隅でのんきなことも考えてうっすらと現実逃避をしている自分に気付く。


大人の余裕、俺、どこに落としてきたのかな・・・。


額の冷や汗を右手でぬぐう。

その右手についた汗を左手でぬぐおうとして、よせばいいのにその左手をよく見えるように目の前に持ってきてしまった。


じっと見た。


「・・・・・やっぱり、おれの手じゃない・・・・・・」

指先が、震えている。


震える指は、まるで他人のもののように若く、皺もあまりなく、瑞々しい張りがあり、今までの俺の皺がそこそこあって年齢と同じく歳をとってきていた指とは全く違っていた。


さっきまでは、あまり、考えないように思考をずらしていたけど・・・。

いったい、なにが俺に起きたのか。


どう上に見積もって見ても、今の俺の姿は、


「二十歳前だ・・・・・・」


混乱ぐあいが、沸点にきて頭を抱えたときだった。


「誰か、いるのか? ったく、またケンカかよ」


聞きなれた声とともに、ゆっくりと、裏口のドアが開いた。


つぎこそは、ちょっぴり明るく。ええ、たぶん。

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