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~パニック~

学校に行かなくなって何日かすると、おばあちゃんも流石に怪しく思えてきたのか、学校に行かなくていいのかと言うようになってきた。最初は何も返さなかったり軽くあしらったりしていたが、あまりのしつこさに椅子を蹴飛ばした。それ以降おばあちゃんは何も聞いてこなくなった。

その日の夕方、お母さんが襖越しに話しかけてきた。

「今日、担任の先生来るって。」

「えっ!?」

僕は誰に話し掛けられても(と言っても母親と祖母しかいないが)無視をしていたが、その時は驚いて思わず声を出してしまった。

先生が来るのか。母親が先生に事情を話したのだろう。

正直担任は好きじゃない。非常に悪いとは言い難いが、人によって対応の仕方が違うし、贔屓とも言える行動を取るからだ。しかし、物の善し悪しはちゃんとしているし、キャラが良いせいか、生徒からは親しまれやすく、先生というよりも、近所のお兄ちゃんくらいの感覚で、どちらかと言えば人気だった。でも僕は贔屓をする担任が嫌いだった。


「こんばんは」

玄関が開いて担任のよく通る声が2階の部屋まで届いた。

遂に来たか。何を言われるんだろう。僕の部屋には鍵が付いていないから襖を開けてドラマみたいに殴って説得してくるのかな。

そんなことを考えていると2階に上がってくる音がする。久しぶりに先生と話すのかと思うと心臓の鼓動が速くなるのが分かった。

「こんばんは」

落ち着いたトーンで先生は話した。

担任は野球部の顧問でもあり、挨拶を返さないといけないという感覚は残っていた為、挨拶は返した。ただどうしても顔を見られたくなかった僕は

「そこは開けないでください。」

とお願いをし、先生は快諾してくれた。


先生が三角座りをしているのがすりガラス越しに見える。心臓の鼓動は速いままだ。

黙っていると先生が話し始める。

中学校から野球を始めたことを頑張ってるのを見ていたこと、先輩との関係が上手くいっていないのをちゃんと分かってあげられなくて責任を感じていること、クラスの皆が心配していること。だから学校に来てほしいこと。


僕は返事を返すこともなくただただ聞いていた。何と言っていいか分からなかった。言いたかったことが強いてあるとすれば、「早く帰ってほしい」だった。

ただクラスの子達が心配してくれているのは何となく嬉しかった。それでも学校に行こうとは思わなかったが。

しばらく沈黙が続き、先生は立ち上がり

「じゃあ帰るわ」

と言って下にいるお母さんと話し始めた。

僕は布団を被り早く帰れと呟いた。


それからほぼ毎日担任は僕の部屋の前に座って今日あったことやクラスの子達が心配していることを話した。

仲が良かったクラスの女の子からの手紙を預かってくれたりもした。

手紙をくれた子には律儀にもメールでお礼を言った。


ある日、僕が1階のリビングでパソコンを見ていたら突然玄関が開いた。

「こんばんは」

担任だ。え、嘘やろ、来る時に連絡とかあるんちゃうの、てかお母さん夜勤でおらんし。

突然の出来事にめちゃくちゃパニクって、その場にあった毛布に包まって顔を隠すようにしながらパソコンを見続けた。

担任も僕を見つけて、少し驚いている。

恐る恐る顔を出して担任の顔を見た。久しぶりに。挨拶もした。

担任はいつもと同じように学校であったことを話したが、僕の見ているパソコンの画面に興味を示した。春の高校野球選抜の地方大会。

そこからは少し高校野球について話した。久しぶりに人と会話というものをした。パニクっていたこともあり、めちゃくちゃ緊張した。時間にして10分無いくらいだったと思うけど、1時間以上に感じた。同じリビングにいた、おばあちゃんまでもが会話に参加してきた。こころなしか、久しぶりに話す孫を見て嬉しいそうな顔をしている。

先生が帰り、すぐに2階に戻って布団に包まった。調子に乗っておばあちゃんが会話に入ってきたのが大変ムカついたからだ。同じリビングにいるのが嫌になった。

その一件があってから僕は、夕方頃には自分の部屋にいるようにした。下でパソコンを見るのは昼間。理由は勿論またあんなことがあって欲しくないからだ。

次の日、先生は顔を見れて、話してくれて嬉しかったと言ってきた。

僕は何にも嬉しくなかったが。


そして普通に学校に通っていれば、期末テストが終わり、二学期が終わって冬休みを迎えた。

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