~止めた。~
「もう嫌や。」 僕は母親に言った。
「え、何が?」当然のような母親の答え。
「学校行きたくない」そういうと僕は2階の自分の部屋に行った。すりガラスの襖を開けて母親が問い詰めてくるが、僕は何も答えなかった。強いて言うなら涙を目に浮かべてた。中学1年の11月、僕は学校に行くのを止めた。
次の日の朝、いつものように母親が僕の部屋まで起こしに来る。まさか本当に行かない訳がないだろう。母親はそう思ってたに違いないが、いつもより少し優しい声で僕を起こしに来た。
「時間ないよ。」「行かん」3秒くらいの沈黙の後、母親が続ける。
「本当に行かんの?」 小さく返事をしたが、聞こえていたのかは分からない。母親はそのまま仕事に行ってしまった。そして僕はそのまま眠りについた。
目を開けると10:30。小学校の頃に風邪を引いて一日中目を覚ましては寝ていたことがあったが、平日に休むという、あの何となく興奮しているのか、よく分からない感覚に似ている。
とりあえず何か食べようと、下に降りる。
「あれ?」おばあちゃんが僕を見て驚く。学校に行っているはずの孫が家にいるのだから当然だろう。僕は体調が悪いと適当に言い訳をして、冷蔵庫を漁り適当に魚肉ソーセージと電子レンジの上にあった菓子パンを取り、自分の部屋に戻った。普段見れないような報道番組や、よく見ていた懐かしい子ども向けの番組を見て時間を過ごした。毎日練習で帰るのが8時くらいになっていた為、ニュースを知らなかったし、子ども向け番組も今になって見ると意外と面白い。そんなことをしていると母親が帰ってくる。
ご飯を食べ、何も言わずに部屋に戻る。
テレビを見ていると襖を開ける音がし、母親が視界の角にいるのが分かる。
「何で学校行かんの?」単刀直入に聞いてきた。
僕は中学に入り、野球部に入部した。先輩を含む周りは小学生の頃から野球をやってる子ばかりで、中学から始めたのは僕だけだった。
小学生の頃、友達と一緒のチームで野球をやりたい、と親にお願いしたことは何度もあったが、大人の事情で断られ続け、中学からなら。ということで入部した訳だ。
唯一の野球未経験者というコンプレックスは感じながらも自分なりに頑張っていたつもりだが、1番上の3年が引退した途端、2年の先輩が僕を含む1年生の何人かを奴隷のように扱い始めたのだ。ある日、明日の朝練に6時に来いと言われた。言われた通り6時に行くと、先輩と同時に着いた。自転車置き場に自転車を置く僕を見て、先輩は激怒した。理由は先輩よりも早く学校にいなかったことだった。当時の僕は理不尽さしか感じなかったが、そんなことを言える訳もなく、謝りながら、罵詈雑言を浴びながら殴られ蹴られていた。そんな日が2、3日続き、「もう嫌や。」になるのである。
母親にそれを説明し、僕は野球部を辞めること、もう学校に行くつもりは無いことを伝えた。
理由を聞いたのか、母親は「分かった。ありがとう」と言って部屋を出て行った。