3300文字(ぐらい)探偵。山本鞠茶
普通にやればたった5行で終わる超簡単な事件を、正味3300文字ぐらいまでもたせる名(迷)探偵。その名も、山本鞠茶。
次々と繰り出される推理に、ガンガン増える? 一方の容疑者。
その果てに、真犯人は見つかるのか、見つからないのか!
事件、開幕です。
「ああ〜〜〜! 私のボノボルがない!」
校庭の隅っこにある茶道部。その部室から外にまで聞こえるくらい大きな叫び声で事件は始まった。
「なにどうしたの?」
「無いの! 昨日までテーブルにあった私のボノボルがないの!」
そう言い出したのは二年D組のショートカットが似合う石原七織。そして、その同じくクラスで友人のセミロングの小倉結奈だった。
「えっと……もしかして、あのキャンディみたいなお菓子のこと?」
「そう、今日お茶と一緒に食べようと思ってたのにぃ!」
「そ、そうなんだ……えっと、ごめん。それ私が食べちゃった」
「えっ! 由奈食べたの!? 三つ全部?」
「うん、ごめんね。小腹が空いたからさ……帰りにコンビニでいこ。新しいボノボル買うからさ」
「う〜、もう。わかった」
「果たして、そうでしょうか?」
「「へっ?」」
突然茶道部の窓を開けて校庭から話しかけてきたのは、二年B組のツインテールの山本鞠茶と石原と同じくショートカットの佐藤聡里だった。
「話は聞かせてもらいました」
「ちょっ、どこから出てくんのよ!?」
「もしかしたら、えっと、学年テスト三位の小倉さんですよね? が、真犯人をかばっているかもしれません!」
驚くふたりを余所に、同じ制服を着た少女は石原と小倉のコンビに話を続ける。
「由奈! そうなの!?」
「してないよ! それよりも、誰ですか?」
「あ、これは失礼。わたしは二年B組で探偵同好会の山本鞠茶と申します。こっちは助手の佐藤聡里です。以後お見知りおきを」
「よろしく」
「今からそちらにいくので現場はそのままでお願いします!」
そう言い残し、山本と佐藤は走りながら茶道室の玄関まで行くのだった。
◆
「では、状況を説明してください」
茶室に入ってふたりに事件の状況の説明を求める山本。
「え〜っと、なんで?」
「いいじゃん、面白そうだし」
呆然としている小倉を横に石原は楽しそうに概要を山本に説明したのだった。
「なるほろ。つまり、昨日まであったボノボルが今日茶室にきたら無くなっていたと?」
「そうなんだよ」
「これは……窃盗事件です!」
「やっぱりそうなっちゃうよねぇ」
「はぁ……窃盗、事件なのかぁ?」
「あははっ! さすがは『奇人・変人・天才・変態』が集まる二年B組。面白いひとが多いね!」
と、こちらは楽しそうに見ている佐藤と石原。そして呆れている小倉。
「あのぉ、ちょっといい?」
「どうぞ」
山本に話しかける小倉。
「そのぉ……お菓子食べたの……私なんだけど」
「……! し、知ってますよ。先ほどのお話を聞いていましたからぁ」
「そ、そう? でもなに、その顔?」
山本はおかしな顔で小倉を見る。
「えっと……その、ホントに食べたましたか?」
「うん。茶室に来たらまだ七織が来てなかったからその……つい食べちゃった」
と、山本の問いに小倉はあっさりと答える。
「事件解決だね」
と、佐藤がまとめに入ったところで山本は言う。
「いや、待って。さっきも言ったとおり、小倉さんが真犯人をかばっている可能性もあるわ。それにまだ始まって1200文字ぐらい。ここで終わらせるわけにはいきません」
「なんでそういう結論になるかなぁ……じゃあ、私が犯人じゃない証拠があるの?」
「では、聞きます。あなたが犯人である証拠はあるの?」
「食べちゃったから証拠はないけど……」
「では、検証と捜査を続けます」
山本はひとつ、咳を起こし……
「この簡単な事件……わたしが3300文字ぐらいまでもたせてみせる!」
午後3時42分 茶道部茶室
「この編みカゴに昨日の午後四時からボノボルを入れていたのですね?」
「うん、そうだよ」
「今日はこのカゴを見ましたか?」
「ううん、この茶室に来るまでは見てない」
「なるほろ。となると……昨日の午後四時から今日の午後三時四十五分までの間の犯行と……」
山本はスマホの時刻を確認し、視線を茶机の上に置かれた編みカゴへと移しじっくりマジマジと見る。
「カゴに細工された形跡ないね。鞠茶のほうは?」
「うん、こっちもないなぁ……」
佐藤と山本は畳が敷かれる茶室の茶机へとしゃがみ、編みカゴを舐めるように見渡す。
「なんでカゴに触らないの?」
と、ふたりはなぜ『カゴに触らないのか』の当然の疑問をふたりにぶつける石原。
「どうせ、現場の保存とかいうんじゃないの?」
「その通りです小倉さん。現場の保存は鉄則です。それに現場をあまり荒らす訳にはいきませんからね」
そう答えたのはカゴを観察している山本。
「鞠茶。ゴミ箱にボノボルの包装紙があるよ」
「見せて」
ふたりはゴミ箱を見て、山本は小倉、石原の方へと振り返る。
「このボノボルに触ったのはあなた達ふたりだけですか?」
「ううん、もうひとり居たし、触ったよ」
「もうひとり? 誰ですか!」
ゴミ箱とカゴの捜査を中断し、山本は石原に興奮気味に問う。
「花澤香乃ちゃん」
「……! 聡里、いますぐその花澤ってひとを連れてきて!」
「はぁ〜い。でも、どこにいるのぉ?」
「え、えっと……どこ」
「電話するね〜」
と、石原は無料通話アプリのコネクトで電話したのだった。
◆
「バイトがあるんだけど?」
突然呼ばれて、少し不機嫌な様子の少女。名は『花澤香乃』四人と同じ制服を着崩して着ている同級生。
髪は黒く長い。見た目はまるで日本人形の様だが、口調が少々荒いのが玉にきずだった。
「すいません、あなたに窃盗の容疑がかかっています」
「はぁ? なんで?」
「犯人はあなたですね!」
「いきなりなに言ってんの?」
「花澤さん……こっちは3300文字前後しかないんです! 文字がないんですよ!」
「ホントに何言ってんの!?」
「鞠茶、落ち着いて、落ち着いて」
「おふぅ……すいません、取り乱しました」
「何なのよ……で、なんで私が窃盗の犯人な訳?」
「あなたは、このテーブルのカゴにあった三つのボノボルを食べましたね?」
「ボノボル?」
「ええ、このくらいの大きさのキャンディみたいな包装のチョコ菓子です」
山本は花澤に分かりやすいように、右手の人差し指と親指で大きさを例えた」
「ああ、そう言えば……なんか昨日石原が置いてたなぁ〜あれ、チョコだったんだ。キャンディかと思った」
「そうです。そしてあなたが奪ったんです。盗み食いという方法でね」
「いやいや、食べてないからね」
「なぜ、そう言いきれるのですか?」
「だって私、チョコ嫌いだから」
「!!」
「なに、その顔? 変な顔だよ?」
山本はもはや顔芸ともいえるくらい変な顔を浮かべ驚いていた。
「そうなの?」
と、佐藤は隣にいる石原に問う。
「うん、香乃はチョコが嫌いなんだよ。おいしいのにもったいないよぇ〜人生半分損してるよ」
「へぇ〜本当に?」
と、その石原の隣にいる小倉にも問う。
「うん、それは私も知ってる。せんべい好きでチョコは大嫌いなんだって」
「そっかぁ〜」
ふたりの答えを聞いて、佐藤は『鞠茶〜裏とれたよ〜』と、山本に向かい言葉を放つ。
「えっとぉ〜本当に?」
再度、確認で本人に問う山本。
「マジで。せんべい大好き」
と、きっぱりと花澤は山本に言い放った。
「し、しかし……え、あ〜う〜、あ、そ、そうだ!」
山本は何かを思いついたのか、話を紡ぎ始める。
「花澤さん、やはりあなたしかいないんです」
「なんでよ?」
「なぜならあなたは突然、チョコが好きになって食べられる様になったのだからぁ?」
「はぁ? 突然食べられるようになった? なんで?」
「うん、無理があるぅ〜 それと疑問系はなんでかな?」
山本の的外れな推理にあきれ顔を浮かべる花澤に対して佐藤は冷静なつっこみを入れた。
「そう、あなたは突然チョコが食べられるようになった。チョコが食べられるようになったあなたは無性にボノボルが食べたくなり、昨日の夜遅くに学校に忍び込み、茶室にあったボノボルを食べた……そうですね? 花澤さん」
「いや、違うから」
「まだ、お認めになりませんか?」
遠い目で、山本は花澤を見る。
「たったの1日でチョコが好きになるはずないし。それにもしも好きになって無性に食べたくなったらコンビニで買うし。人のものを盗んでまで食べたりしないから。それに……夜遅くに学校になんて忍び込めないじゃない?」
「うん、正論」
またも、冷静に聞いていた佐藤がのんびりした口調でつっこみを入れる。
「おふぅ……では朝、」
「朝早くとか、休み時間にとか、教室移動中とかに茶室に来て食べたました、って言うのも無いから」
「……」
「あ、黙っちゃった」
「うん、黙ったね」
それを見ていた小倉と石原が呟く。
「これで、私は犯人じゃないってわかったでしょ?」
「……あはは、あはは、あはは!」
「な、なんで笑ってるの?」
花澤の問い突然渇いた空笑いで返す山本。
「チョコレートなんて、ちょっとがんばれば食べられるよねぇ!?」
ビシっと決め顔で花澤に言葉を返す。
「はぁ?」
「鞠茶、3300文字越えちゃったよ」
花澤のあきれ返答に水を差すように、佐藤が山本に文字数が越えたことを告げる。
「マジ? ゴホン。とまあ、そういう訳で花澤さんは石原さんのボノボルを食べた。そうですよね?」
「いや、違うから。だいたいそのキャンディみたいなのがボノボルっていうチョコ菓子だって今知ったからね。知らない事をどうやって知るの?」
「えっ? そ、それは、その、第三者的な、協力者的な者から……」
「その第三者とか協力者とか誰?」
「え〜、それは……」
「早く説明してよ」
山本の目が泳ぐ。
「早く」
と、花澤は山本を急かす。
「なんやかんやで! 第六感的なものが目覚めてそれでわかったんじゃないんですか!」
と、怒気を含んで山本は叫び返す。
「「「はぁ!!」」」
花澤、小倉、石原がまったく同じタイミングで言葉を吐いたのだった。
「あ、キレた」
そう言ったのはもちろん助手の佐藤だった。
「なんやかんやって?」
「第六感的って?」
と、まるでそれぞれ別の疑問を抱きツッコミを入れる石原と小倉。
「絶対に違うから!」
そして、そう反論する花澤。
「鞠茶、落ち着いて、落ち着いて」
「失礼……では、これらの状況から判断して……犯人はあなただ」
そう宣言して山本が指さした人物、それは……
「そうですよね? 小倉さん」
「最初からそう言ってるんだけど……」
「うん、花澤さん以外みんな知ってた」
と、佐藤が突っ込みを入れたところで、
「事件……解決です」
山本がそう締めた。
◆
「無事解決したね」
「そうね。初回からいきなり文字数が1000文字以上オーバーしたけど3300文字までもたせるという観点からすればよし! ね」
「うん」
事件を解決したふたりは茶道部から出て、帰宅の途につく。
「お〜い、山本さぁ〜ん」
「ん?」
小走りで後方から声をかけてきたのはさっきまで茶道部にいた石原だった。
「どうしたの?」
「事件だよ、事件! アイドル活動部の内田さんの衣装ががなくなったって!」
「わかった案内して!」
「オッケ〜!」
「……まだ帰れそうに無いなぁ」
そして、山本、佐藤、石原はアイドル活動部の部室まで走って向かうのだった。
「三人とも……なんで走るポーズのまま止まってるの?」
後ろから歩いてきた小倉のそのひと言で、今回の事件は終わりを迎えたのだった。
3300文字前後探偵、山本鞠茶。 完
みなさんお久しぶりです、こんにちは、そしてこんばんは。
作者の代弁者の紫乃宮綺羅々でぇ~す! 元気にしてましたか?
本来ならこのあとがきは間宮冬弥が出てくるのですが
『前書きに出てないしあとがきに出て』と言うことで今回はわたしが任されました。
おっと作者からの解説? の手紙を預かってるんで読むね。
こんばんは、間宮冬弥です。まずは、小説を最後まで読んで頂きましてありがとうございます。
さて、ご存知の方もいるでしょうが、今回の小説は『33分○偵』をオマージュして書いてます。
もしかしたら削除されているかもしれないので、消えていたら察してください。
とのことでっす!
それと、現在連載している作品の『崩れ落ちる現実~』の第三話は
たぶん年内は無理とのことです。間宮冬弥に代わって謝るね。ごめんね。
では、長くなりましたがこれであとがき終わりです。バイバ~イ!