表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/2

後編

これで終わりです。

 この世界からずれた位相にある異世界。

 ゲームとか小説ならドキドキワクワクするけど、現実に持ってこられたらどうよそれ、な感じで。

 芸能人ってだけでも一般人から見たら異世界の人間なんだろうけど。

 それを上回って異次元な物が日常な人がいるとは、世の中侮れないもので。

 だからってそれに巻き込まれたってのがそもそも宝くじ当たるより確率低いんじゃないの?

 大都市でスカウト受ける方がもっと高確率なんだと思うんだけど?

 そんな言葉がぐるぐる頭の中を渦巻く。

「陽菜さん、と仰いましたか」

 さらりと芸能人でも滅多にいません的良い声が聞こえてくる。

 今目の前にいるのは陽嘉さんだけじゃなかった。

 彼女の雇い主らしい、こちらの世界の住人さんが目の前にいる。

 見た事もない真っ赤な髪の毛はヴィジュアル系でもここまで染まらないって!な位赤かった。

 肌の色は抜けるように真っ白。

 陽嘉さんの方が色が濃く見えるぐらい。

「陽嘉さんがご迷惑をお掛けして申し訳ありませんね」

 謝られた。

 異世界人に。

 わーい、自慢出来るぞーう、なんて思えない。

 そんな事言えば勿論頭のおかしい人だって言われる事請け合いだから。

「いえ・・・・そもそも私がぶつかったのが悪いですから」

 ふるふる首を横に振ると動きに合わせてピンクの髪が揺れる。

 なんてこったい。これ元に戻るの?

「まあある意味逃げ切れたってのはありがたいですから」

 気絶したお陰で疲労も回復してる。

 筋肉痛にもなってない。

「そう言って貰えるとありがたいですね」

 にこにこ笑ってるけど、この人隙がない。

 と言うか空気が冷たい感じがする。

 何か怖い人だなー、とぼんやり考える。

「後で陽嘉さんにはお仕置きしておきますから」

 その一言で背筋にものすごい悪寒が走った。

 私がお仕置きされる訳じゃないのになんでだ!?

「・・・・おっさん、ひなっちが怯えてるからやめよう」

「・・・・・・陽嘉さんはさっさとあのイソギンチャクの触手を持ってきて下さい」

 にっこりと。

 笑ったけれども。

 背筋寒い。

 うっかり五七五で言ってしまった。

 いやもう本当に寒い感じがするって言うか極寒。

 この人、怒らせたらダメな人だって本能的に判ってしまった。

 それと同時にこの二人にもあんまりちょっかい出したらダメだとも。

 特にこの雇い主さん、何かがだだもれな感じがする。

 こう、人としてダメな感じのアレが。

「陽菜さんは何か言いたそうですね」

 矛先がこっち来たああああ!と絶叫しそうになった。

 何でもありません、本当になんでもありません、と首を横に振って意思表示。

「あー、あんまり驚かさないように。一応私の後輩らしいし」

 同じ学校出身ですからね。

 ただ全く接点はありませんけど。

「そんなつもりはありませんよ。ただ・・・・こういう反応もなかなか変わってるなと思いましてね」

 ふふふと笑う雇い主さん。

 そう言えば名前聞いてないなと気が付いたけど聞いたら何だか後悔しそうなので自分から言い出さないでおこう。

 そんな事をこっそり考えても良いよね・・・・。

「ペントラゴン・・・・小動物虐めるの好きなのかあんた・・・・」

 いやだなーみたいな顔で陽嘉さんがしかめ面した。

 ってさりげなく名前言われた!!

 変わった名前だなあ・・・・。

「別に好きという訳ではありませんよ。それよりそろそろ活動時間が来てしまいますから早い所取ってきて下さい」

「へーへー・・・・って毒のある奴だっけ・・・」

 面倒だなぁ、と呟きながら陽嘉さんが背負っていた鉄の棒に手を伸ばした。

 すら、と映画とかで聞く鞘から抜くような音と共に、ぎらりと光った鉄の棒。

 もとい、それはどう見ても剣だった。

「え・・・・刃物・・・・?」

「うん、刃物。危ないからこの部屋から出ないようにね。私湯ノ鹿先輩とかみたいに防御しながらとか苦手だから」

 そう言うなり陽嘉さんは窓際に寄る。

 そこにはさっきからもぞりとした動きで蠢いているイソギンチャクの触手。

 ぶにょぶにょしたあの感触が伝わってきそうな感じで気持ち悪い。

「てい」

 軽く言いながら陽嘉さんは窓を開けてそこから外へと出ていた。

「えええええええええええ?!」

 驚いて私が窓際に寄ると、陽嘉さんはもう地面に付いていた。

 風景から見て2階か3階ぐらいの高さはある筈なのに。

 しかも剣を片手で持っている。

 普通のRPGで見る様な片手剣じゃなくって、両手で持つぐらい長い剣なのに。

 って言うかそもそも女性の力で持てるような重さじゃないのかな?!

「そこにいると危ないですよ」

 雇い主、ペントラゴンと呼ばれた彼の言葉の次の瞬間に、窓にべったり触手が張り付いた。

 ぬるぬるした粘液をガラスにはっ付かせて、離れていくのはべたぁって擬音が聞こえてきそうなぐらい。

「気持ち悪い・・・・」

 しかしその触手が一本ずつ落ちていく。

 その度にべちゃ、べちゃっと音がする。

 恐らく下で陽嘉さんが切っているのだろう。

 怖過ぎる!!

「草刈りじゃないんですから全部はいりませんよ」

 正面を見ながら雇い主さんが独り言を言う。

 しかし、それに対してどこからか陽嘉さんの声が聞こえてきた。

「いえ、青い筋が入った触手だけで・・・・・赤いのはいりませんから」

 耳を澄ませば「りょうかいー」と投げやりな言葉が聞こえてきた。

 どうやら通信機器を使ってるのかファンタジーらしくテレパシー的な何かで話をしてるようだった。

 うーん、メルヘンとはほど遠いファンタジー。

 しかも自分、ここにいる意味ないんじゃないかな、と思える。

 どう見てもお客さん。主役じゃない。

 完全に巻き込まれただけの一般人な立ち位置。

 滅多にない機会だから見学でもしてるかな、と思ったら、窓の外でぶしゅーっと間抜けな音が聞こえてきた。

「風船みたいな音ですね」

「終わったみたいです」

 ずずん、と床が揺れた。

 窓から見えてたイソギンチャクもどきの触手は完全になくなっている。

 どうやら陽嘉さんが倒したらしい。

 これがゲームなら経験値が入ってアイテムゲット!な展開なんだろうけど、生憎これは現実らしいのでそんな物はないんだろうな、と苦笑したくなる。

 現実。これが現実だなんて思いたくないけど夢や妄想じゃないならそうとしか受け取らざるを得ない。

「ただいまー」

 窓からよじ登ってきた陽嘉さん。

 うん、もう普通じゃない。

 と思ったらどうやら外にはしごがあるようだった。

「はい、これ」

 服のポケットから出してきたのはするめいか程度の足だった。

 どうやらこれが雇い主さんの言う所の触手らしい。

「・・・・ちっちゃ!!」

 思わず突っ込んでしまった。

「だから貴重なんですよ」

 苦笑しながら彼は陽嘉さんが渡した触手をどこからともなく持ってきた瓶に詰めた。

 どんな技術なのか瓶の中で水が溜まっていくのを三人で眺める。

 ほのぼのしくない光景だけど、他にどうやれと言うのか。

「ほれ、報酬頂戴報酬」

 て、と出した手のひらを雇い主さん、掴んだ。

 何をするのかと思ってみていたら。

 手のひらの上にキスした。

「っ?!」

 それどころか更に舌でねろりと舐めた。

 何なのこの光景!!

「いって・・・・痛い!」

「珍しく怪我なんてするからです」

 あ、怪我してたんだ。

 って怪我してるからってあんな舐めるの?!普通舐めないよね!!

 あわあわと赤くなってしまう私に何の罪があろうか。

「薬で良いっつーのにあんた・・・この変態」

 陽嘉さんの頬はうっすら赤い。

 そりゃそうだろう。普通恥ずかしいよね。こういうのって。

「このぐらいだったら私の方が早いですから」

 言いながらまだ舐めてるよ、この人。

 ああ・・・・ダメだ、この人人として大事な何かが抜けてる気がする。

 と言うか陽嘉さんの言う通り変態だ。

 さっきのアレも悪寒もその所為なんだって気がつけた。

 知りたくなかったよそんな事と思ってももう遅い。

「て言うか私の怪我よりこの子戻す方が先でしょが!」

 何とか手を引きはがした陽嘉さんがこっちを見た。

 すいません、赤いままで。

 それを見た陽嘉さんの方が更に赤くなってしまった。

 私は電柱、壁、その他モブで良いです・・・・って無理な話か。

「ごめんね・・・・こいつネジどっかで落としてきたみたいだから放置して良いよ」

 その言い回しは今までの世界のお約束的にまずいんじゃないかな、と忠告するよりも早く雇い主さんが陽嘉さんの腰に手を回した。

 ああ・・・・うん、ドラマでも散々見てきた。

 お約束ですよね・・・・判ってます。

 だから私はくるっと背中向けた。

「何して・・・っ!!?」

 ああ・・・・・私、このために異世界に来たんだろうか・・・・とちょっと涙が出そうになった。

 恐らく後ろでは濃厚なキスシーンが繰り広げられてるんだろうな・・・・と。

 湿った音が聞こえてくるからまず間違いないはずだよね・・・・。

 ドラマとかならがっつり見れるけど何でもないこの状況でそんな真似出来ないししたくないですよね。

 と言うか私まだ自分の身が可愛いんです。ごめんなさい。

「っ・・・・んのあほー!!!」

 あ、終わった。

 そう思えるほどの陽嘉さんの怒り声で振り返ると、陽嘉さんが素手で殴っていた。

 ああ・・・・この人らってこういう恋人同士なんだ・・・・。

 そう思えたら何となくぬるい笑顔しか浮かばなくなってしまった。

 異世界まで来て何でこんな物見てるんだろう、と。


「とりあえず・・・もうちょいしたらゲート開くからそれで戻ればいいから」

「はあ・・・・」

 何とか心のバランスを取り戻したらしい陽嘉さんが栞みたいな小さな紙片を取り出してきた。

 ぶちっと歯で食いちぎると、栞がぼんやりと光り始めた。

「もしもーし」

『へーい?中西か、久しぶりだな』

 異世界の携帯電話ってワイルドなんだなあって思ってたら返事してきた声にものすごく聞き覚えがあった。

「と・・・東儀先生?!!」

 思わず叫んでしまった。

 古典の東儀 トウギナギ先生はほんの少ししか過ごせていない学校生活においても大変お世話になっている担任の先生だ。

 何でそれが陽嘉さんと話してるの?!

『その声・・・・園生?お前今日学校来るんじゃなかったっけか?』

「いえそれが・・・・」

 今まであった事を簡単に話をする。

 雇い主さんの事は取りあえず何も言わず。

 身の危険しか感じないものですから!

『あー・・・・・ご愁傷様だった』

 それでも何かを感じてくれた先生。

 本っ当に素晴らしい先生ですよ。既婚者だけど。

 好きだ先生!

「東儀センセー・・・・教え子に手出ししてんの?ひなっちがめっちゃ潤んだ目で見てくるんだけど」

『出すか!俺は嫁一筋だから!』

「知ってて言いましたすいません」

 東儀先生の奥さんは噂でしか聞いた事がないが、それは大層な美乳の持ち主らしい。

 普通顔の話題になるはずなのに何でこの人の奥さん胸の事が噂になるんだろうって首を傾げたもんだ。

 お顔は可愛い系統らしい。

 一度ご尊顔拝謁願いたいと思ってるんだけど、仕事の都合でいつも機会を逃してる。

 写真とか見せてくれないかなぁ・・・・。

「んで、悪いんですけど高校側に取材のレポーターとかが行ってるらしいんで追っ払っといて下さいよ」

『それは門前払いでとっくにいなくなってるぞ。こっちもう夜だし』

 なぬ?!

 と思って自分の携帯を取り出してみた。

 ポケットに入ってたそれは確かに夜の11時と出ていた。

 ここの回り明るいのに夜だったのか!?

 って言うか仕事!!!

『園生のマネージャーさん真っ青になってたけど、お前大丈夫なのか?』

 今日のスケジュールを思い出す。

 奇跡のように収録はなかった。

 雑誌の取材は山のようにあったけど。

「超やばいです・・・・TV収録とかはないんですけど・・・・」

『あー・・・・・ご愁傷様パート2』

 絶対社長以下激怒物だよこれ・・・・あわわ。

 どうしようと考えても過ぎてしまった時間は戻せないので仕方無い。

 ファンタジーなら時間移動して戻してくれよう、と思わないでもないけどこの話ではどうやら無理のようだ。

「まぁ取りあえず東儀先生、彼女を迎えに来てやって下さいよ」

『良いけど・・・・中西は戻らないのか?』

「・・・・ちょっと、ムリカナー・・・・・」

 棒読みになった陽嘉さん。

 その背後から何かがだだ漏れな雇い主さん。

 ええ、判ってます。判ります。

『ペントラゴン・・・・・年々何かが抜けていくな』

「東儀・・・・・」

『事実事実。つか女湯ノ鹿(ユノカ)がそっち迎えに行くって言ってるぞ』

 女湯ノ鹿、と言う単語に私は更に反応してしまった。

 湯ノ鹿先輩、と言うのは伝説のお名前だ。

 双子の湯ノ鹿先輩の片割れ。

 華道部の麗しきお姉様、敵に回したら生きて戻れないとか本当にこの人人間か?の彩妃サキ先輩。

 校内随一の癒し系、過去最大の女生徒人気ナンバー1のアキ先輩。

 卒業した後も色々な名前でその存在を不動な物にしている。

 ぶっちゃけて校内限定の超有名人。

 勿論私も実はこっそりあこがれている。

 芸能人よりもオーラのある二人だから。

「え、彩妃先輩来るの?!わーい」

 陽嘉さんも喜んでいる。

 雇い主さんは嫌がってるのかと思ったらそうでもないみたいで、それならばって言いながら何か用意し始めた。

 彩妃先輩マジすごい・・・!

『そもそも俺は嫁さんと楽しいひととき中なんでどっちみちパス』

 その言葉で何かが壊れる音がした。

 なんだろう?

「センセー・・・・奥さんに殺されると思うからやめた方が良いよ、それ」

『ちょっとした冗談だったのに・・・・つか女湯ノ鹿がいる時点でそんな訳あるか』

「それはそうですねぇ」

 あははは。

 ほのぼのしい笑いが起こった。

 私もうっかり笑ってしまった。

「笑い事じゃないでしょ、それ」

 呆れたような突っ込みがどこからともなく入ってきた。

 ひらりと現れた黒い洋服。

 艶やかな黒髪。

 涼しげな美貌とうっとりするような声。

「わーい、彩妃先輩だー」

 ごろごろ、と言わんばかりに陽嘉さんが抱き付きに行った。

 彼女が言った通り、そこにいたのは黒い服を着た伝説の先輩だった。

「彼女を送ればいいのかしら」

 くすくす笑いながら頭を撫でている彩妃先輩。

 ほんっとう麗しいお姿で。

 芸能人でもこんな人いないよ、とつくづく痛感する。

「あら・・・・貴方、芸能人の方よね」

 にっこり微笑まれた。

 どんだけ麗しいんですかこの人あり得ないんですけども!

「は、はじめまして!!」

 私の方が緊張する。

「よくお顔は拝見してるわ。兄の恋人が貴方のファンなのよ」

 兄。

「・・・・・・暁先輩の恋人さんですか?!!」

「ええ。もしよろしかったら後でサインいただけないかしら」

「い、いくらでもさせて頂きます!!と言うか光栄です!」

 うわー、うわー!!

 舞い上がってしまうのは仕方無い。

 芸能人でも憧れの人相手だったらこうなっても良いじゃないのさ、って開き直り。

「何なら本人に取りに来させてもいいのだけど・・・・」

「いえいえいえいえいえ!そんなお手を煩わせるなんて滅相もないです!」

 この世界、来て良かったー!!って現金ながら思ってしまった。

 案外どころじゃなくミーハーな自分。

 だってファンへの心意気みたいなのは彩妃先輩を見習っての事だから。

 ただやっぱり彩妃先輩ほどの完璧は望めない。当たり前だけど。

「言えばすぐにくるわよ?」

「え、暁先輩こっちいるの?」

「ええ。と言っても学校の方よ?」

「わー、会いたいー!先輩卒業してから全然会えなくなったし寂しかったんだよねー」

「こっちで会ってるじゃない」

「それも回数減ったじゃないですか」

『おーい、中西よ。そろそろ時間じゃねーのか?』

 東儀先生の言葉で陽嘉さんが時計を見た。

「本当だ。彩妃先輩、申し訳ないですけどお願いしますね」

「はいはい」

 行きましょうか、って言われて私は近寄る。

「あの・・・・陽嘉さん、ありがとうございました」

「ううん、こっちもごめんねー。変な目にあわせて」

「それは・・・・・」

 否定出来ない。ごめんなさい。

 でももし陽嘉さんが私を放置してたらどんな目にあってたか定かではないのだから、やっぱりお礼を言うに値すると思うのでもう一度お礼を言った。

「て言うか芸能人だったんだね」

「一応ですけど・・・」

「今度はあっちで会えると良いね」

 にっこり笑った陽嘉さん。

 私も釣られて笑う。

「陽嘉さん」

「ん?」

「学校同じだから、きっと会えますよ。って言うか会いに行きますから」

「ああ、そうだね」

「これ、私の私的な名刺です。良かったら連絡下さい」

 いつも持ち歩いてるカードケースを取り出して名刺を一枚取り出す。

 何があるか判らないから身に付けておけ、というマネージャーの意見は本当に正しかった。

「ありがとね」

「それじゃあ、お先に失礼します」

 雇い主さんにも頭を下げる。

 礼儀大事な世界だもの。嫌な相手とかでもちゃんとお礼は言わないとならない。

 確かに頭のネジ吹っ飛ばしてそうな人ではあったけど身の安全は保証して貰ってたみたいだし。

「今度はぶつからないように気をつけて」

 今笑った顔は寒気なんてしなかった。

 こういう顔もちゃんと出来る人なんだ、とちょっとおかしくなった。


 仰々しい機械を潜った先は学校の森だった。

「身体は大丈夫?」

 彩妃先輩が気を遣ってくれる。

 これといった異変もない。

 髪もどういう訳か見慣れた栗毛色に戻っている。

「はい、大丈夫です。・・・・でもどうして髪の色あんなのになったんだろ・・・」

「・・・聞いてないの?」

 きょとんとした表情で彩妃先輩がこちらに聞いてきた。

 聞いてません、と首を横に振る。

「なんでも、あの世界に渡る前に身体の組成を一度組み替えてあちらの世界風味に仕立ててるらしいのよ」

「でも、彩妃先輩はそのままでしたよね?」

 黒髪黒瞳。

 着ている服も黒い服そのままだ。

 私みたいな奇抜な色じゃない。

「私も変わってたわよ?と言うか私は普通の状態ではそのままなのだけど」

「そうなんですか・・・・私、髪の毛ピンクって何でそんなのになったんだろう・・・」

「・・・・・多分、なのだけど・・・」

 おそるおそる彩妃先輩が告げた言葉に、私は今日一番の絶叫を上げたくなった。

 何ですかそれ!!!って叫んでも許されるはずだ。

「まぁ・・・・ウサギとかそんなカラーリングの人もいるから・・・・大丈夫よ」

「嫌ですよ!何で・・・何で・・・・っ!」

「でも綺麗じゃない?フラミンゴって」

 いやー!!!!言わないで下さい言わないで下さい!!!!

 打ちひしがれたい・・・・。

「その人の本質って訳じゃないから大丈夫よ?元気出して?」

 うう、彩妃先輩優しい・・・・・。

 そんな話をしながら私と先輩は職員室へと向かっていった。


 ちなみに、職員室では真っ青になったマネージャーにこってり絞られた。

 理由としては言いようがないので誤魔化した。

 当たり前だよね・・・・何、異世界に迷い込みましたって・・・・。

 痛々しい子になってしまうものね・・・・判ってます。


 けれどもこれが縁だったのか。

 私は陽嘉さんのお仲間4人とその周囲の人とお会いする機会に恵まれた。

 何というか・・・・芸能人の私よりもキラキラしい人たちだった。



 それから。

 どういう訳か仕事は緩くなったのに人気はますます出るという何、そのラッキー。状態になった。

 ありがたい話なんだけれども。

 ファンの皆さん、ますます怖くなって。

 その内どこぞの会場借りてコンサートだ、とかそんな話が出たりとか。

 社長がますます大喜びで。

 気が付いたら看板タレントとか言われてしまった。

 けれども。

 あの出来事からどういう訳か私には奇妙な事が起こるようになった。

 例えばファンの人が突撃してきても何故か絶妙のタイミングで突撃してきた人が転ぶとか。

 強い風が吹いてるにも関わらず私にはあんまり影響ないとか。

 その話を陽嘉さんにメールで送ったら、帰ってきた返答が『気にするな』だった。

『気にすると負けです。ラッキー程度に思っておきましょう。大丈夫、危害が加わる訳じゃないから』

 そんな返答。

 それがどういう意味で、私に何が起こっているのか理解出来るのはそう遠くない話しなのかもしれない。

 が。

 その日は来なくても良いのかも知れない。


 何故なら、私の日常が崩れ落ちてしまいそうな予感しかしないから。

 芸能人なのに異世界へ旅行出来る人、なんて。

 別の方向性の仕事が来たらどうしてくれるんだろう・・・・。

やまなしおちなしいみなしで勢いのみの話ですがお読み頂きありがとうございました。現在書いている連載と同じ世界で一部キャラが出てくる予定です。誰が出るのかはお楽しみに。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ