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前編

現在の連載と同じ世界です。

 心臓が跳ねる。

 ひたすら動き続ける、動けと命令し続ける脳の信号に動かされるままに。

「し・・・しんどい・・・・」

 上擦った呼吸は整う事もなくて、満足に息も出来ない。

 このままじゃ窒息する。

 そんな事を考えて後ろを振り返った瞬間。

 目から火花が飛び散るかと思うほどの衝撃。

 硬い何かにぶつかった感触と痛み。

 しかし、それが何だったのか確認する事も出来ず、脳が揺さぶられた衝撃と極度の緊張感と疲労感で目の前が真っ暗になった。


「あ、気が付いた」

 頭上から声が聞こえた。

 視線を動かせば見た事のない天井。

 ぐねぐねと何かの配線らしき物が這っている。

「・・・・ここ、どこ」

 ハッっと気が付いて身体を起こすと、急激に動いた所為で目眩がする。

「うおおおう・・・」

 ばったりと倒れた時、動きに合わせて見えたのは見覚えのない色だった。

 見事なまでに綺麗に染まったピンク色の髪の毛。

 わお、恥ずかしい色合いだねこりゃ、と笑いそうになってはたと気が付く。

「ごめんね、時間がなかったんで一緒に連れてきちゃったんだわ」

 あは、と笑う彼女は全く見覚えのない人だった。

 辺鄙な山奥にある超巨大な一貫教育の学園。

 それが私、園生 陽菜ソノウヒナの出身校だ。

 間違ってもこんな配線がぐねぐねしてる天井には縁がない。

「えーっと・・・・・」

 今までの自分を思い出そうと寝ぼけたままの脳みそを動かすべく左右に1回振る。

 別にカラカラなんて音はしない。

 お恥ずかしながらワタクシ、どういう因果かTVに出せて頂いている身分である。

 芸名と本名は同じでございます。

 本業はバラエティを賑わせるタレントの筈なのがとある番組の企画でほんのちょこっとCDを出す事になった。

 カラオケ大好きなワタクシ、勿論熱唱させて頂きました。

 演歌だってポップスだって何だって来いのワタクシなのですが、これがまあ。

 当たりました。大当たり。

 ドンドンパフパフってなもんでそのCD、それほどプレスしてなかったのにまあ売れた。

「陽菜ちゃんこりゃヒットだよー!!」

 なんて社長大喜び。

 それはありがたいですね、なんて笑ってた自分。

 マネージャーの手帳にはそこそこのスケジュールしかなかったのがこれのお陰で連日真っ黒け。

 売れた者勝ち人生をばく進する羽目になった。

 まあこんな業界に存在する事になったんだから勿論売れたいって言うのはあります。

 ええ、ただね。

 ファンが怖い。

「ひーなーちゃああああああん!!!」

 って叫びが出入りの度に聞こえてくる。

 怖い事に男女問わず。

 野太い声と黄色い声のハーモニー。

 不協和音とかそう言うの通り越して言っちゃ悪いけど騒音だ。

 だってそうだろう。

 全く関係ない皆様にしてみればうるさいだけなのだから。

 無関係の方には毎度毎度申し訳ないと思う。

 過激な人は警備の人押しのけて握手してくれって来る人もいるのだから恐ろしい世界だ、芸能界。

 いえーい!人生の勝ち組なんだぜー!アタシをみてー!!ってタイプなら嬉しいんだろうけど残念ながらワタクシ、そこまで自己顕示欲強くない。

 って言うかもはやどん引き通り越して泣きたくなった。

「しゃちょおおおお!怖いんですけどこれー!!」

 なんて泣き言は事務所では通用しない。

 と言うかこれで次の企画でまたCDを出す事になったり。

 これってファンじゃない人から見たら調子に乗ってるよね、なもんだろう。

 本当すいません、としか言いようがないけどそこらへん、事務所とかそういうしがらみ的な物で私自身も動けません。

 なので極力TVでは自然体のまま、素のままの私でいる事にしているけど、それも鼻につくよねな感じで。

 勿論ファンの方々には他の人に迷惑掛けないでねってその都度お願いしてるのも、イイコぶってるよねって。

 嫌いな人には嫌われる。

 それも芸能人の悲しい宿命だろう。

 仲のいい人達は判ってくれるので、流石にもうこんな世界にいてられない、キーッ!とか自殺してやるー!ノイローゼの私可哀想!!とかそう言う事は全くない。

 時々聞かされる悪口にはこっそり涙も出るけれども。

 ただどういう経緯があれ、これでご飯を食べさせて頂いているのだから清濁飲み込んでがんばるしかないのですが。

 そんながんばりを超越する様な出来事ですよ、これ。

 髪の毛が、ピンク色。

「ありえないでしょこれえええええええええ!」

 ワタクシ、皆様に愛される芸能人を目指してはおりますが、奇抜性は求めてない。

 だから見た目は一応清潔感を損なわない程度にいわゆる所の『愛されメイク』ってなのはしてる。

 でもそれは顔の話で。

 髪の毛は断じてピンクとかそんな事はしてない。

 気絶するまで覚えてた髪の色は栗毛色だったはずだ。

 それはメイクさんにお願いしてる色だから覚えてる。

 綺麗に輪っかが出来るようにツヤツヤヘアーでお願いしますとかちょこっと我が儘言ったりしたけど。

 ちなみに言えば地毛は栗色よりも濃い茶色だ。

 そもそも地毛がピンクな人類なんてどんなビックリでもいないだろうって。

「な・・・なしてピンク・・・・のおおおおおう・・・・」

 打ちひしがれる。

 それしか出来ない。

 そもそも。

「ここどこなんですかあああああ!」

「えーっと・・・・・おちつこうか、ね?」

 苦笑しながら近づいてきたのはさっきも聞こえた声の主。

 うん、ありえない色彩だって。

 髪の毛青いよ、この人。

 瞳も青い。

 でも顔立ちばっちり日本人。

「・・・・・大丈夫?」

 若干引き気味で笑顔を向けられた。

 うん、どうみても私不審者。

 被害者なんだろうけど不審者。

「す、すいません」

 慌てて頭を下げる。

 その時気が付いた。

 この人の腰よりちょっと下辺りから見える鉄っぽい塊。

 目線で追いかけると対角線を描くように反対側からぼろい布切れみたいなのが巻き付いた鉄っぽい塊。

 何か、どっかで見た事あるようなないような。

 それに気が付いたのか、彼女は笑いながら裏拳をするようにぺちっと棒を叩いた。

「気になるよねぇ、そりゃ」

「そう・・・・ですね、気になります」

「何だと思う?」

「・・・・・・鉄棒?」

 答えておいてなんだけど間抜けな言葉ですね。

 鉄棒しょってる女の人ってなんやねんそれ、って芸人のお兄さんに突っ込まれそう、いや、突っ込んでくれ。

「まあ、分類すれば鉄の棒だけど・・・・・一応これ武器なんだよね」

 はい、と手渡されたのはマグカップ。

 良い匂いがしてるのはコーヒーだった。

 白いカップから立ち上るこの匂いに少しほっとする。

 どこか判らないけれどもコーヒーは確実にあると言う事で。

 自分の日常の一端が身近にあると言う安心感。

 いただきます、と一口啜る。

 インスタントじゃない、ちゃんとした豆から入れたコーヒーは染み渡るように美味しかった。

「て言うか武器ってなんでですかね?」

「だって、ここ結構な勢いで危険地帯だから」

 はい、外を見ようみたいな感じで指を差された。

 なんだろうな、って振り返った。

 見るんじゃなかった。

 でっかいイソギンチャクの触手みたいなのが窓からもっさりと見えてる。

「げ、現実どこおおおおおおおおお!!」

「ごめん、現実なのだよ、これも」

 あははは、と笑う彼女にコーヒーがもたらした日常は非日常へとひっくり返されてしまった。

 無茶苦茶いらないそんなもの!!


「詳しい話は横に放置させてもらうんだけど、一応現実」

 ぺちん、と手の甲を叩かれた。

 痛い。

「痛いですよ」

「痛みがあるので認識出来るよね」

 この人何気に酷くない?

 そんな思いが顔に出てしまった。

 ごめんごめん、と言いながら手の甲を撫でてくれた。

「あのイソギンチャクもどきが獲物なんだけどね」

「はぁ・・・・・」

「あ、私陽嘉ってんの。よろしく」

 ハルカ、って漢字を空書で書かれた。

 私と同じ陽の字だ。

「私は園生陽菜です・・・・と言うか私学校の敷地で走ってた筈なんですけど・・・・」

「うん、走ってたねぇ。何かから逃げてた?」

「ええ・・・・まぁ・・・・・」

 その経緯はちょっと気まずい話なのだが。

 久しぶりの学校を満喫しておりました。

 売れっ子になったら学校ってあんまり来れなくなったから、学校に行ける時は少しでも良いから通うようにしている。

 と言うかこの学校山奥過ぎてそもそも寮生活必須なんだけれども。

 芸能人になった所為で学校の寮ではなく事務所が用意したマンションで一人暮らし。

 芸能科もないのにこんな私を通わせてくれるあの学校は本当素晴らしいと思うので。

 理事長とか変な人多いらしい。

 それでも私はあの学校大好きなわけで。

 なので少しでも良いから学園生活を満喫しようと思って今日も学校に足を踏み入れたのだけど。

 まあ、お約束ですよねー、の芸能リポーターの山。

 学校がどこって言うのは公式に出してなかったから、まぁ来るよね。

 悲しいかな売れたから、私生活暴きに来るよねって。

 だから逃げた。

 学校の中に。

 人生でこんなダッシュした事ないよってぐらい走った。

 一通りの説明をすると、陽嘉さんはうんうんと頷いている。

「ははあ・・・・・それで私とぶつかったのか」

「本当すいません」

「いいよー。その辺鍛えられてるから。ただぶつかった時の衝撃が硬かったってのは悲しいけど・・・・」

 全くない訳じゃないんだけどなー、そこそこあるんだけどなー・・・・と陽嘉さんはぼやいた。

「まぁそんな極端に欲しい訳じゃないからいいや。邪魔だし」

「何がですか・・・・」

「何でもない。気にしないで良い」

 ふるふると赤くなりながら首を横に振る彼女。

 ちゃんと見るとかわいらしい人だった。

 私より身長がある。羨ましい。

「でも見た感じひなっちって高校生?だよね・・・」

「はい。高校一年です」

「あー・・・懐かしいわ・・・・」

 しみじみと呟く陽嘉さん。

 同じ敷地にいたと言う事は同じ学校の関係者なのだろうか。

「陽嘉さんって同じ学校の人ですか?」

「一応」

「一応・・・・大学?」

「いや、短大。だけどお迎えのゲートの座標が未だに高校なんだよなー・・・いい加減位置替えを要求せねば」

 何の事だかさっぱり判らない言葉が出てきた。

「とりあえず、私何でここにいるんでしょうかね?」

「あー・・・・それは私の所為です」

 陽嘉さんがごめんね、と拝んでくる。

「ひなっちとぶつかった場所から少し進んだ所にここに来るためのゲートがあるのね。まあ言う所の異世界」

「・・・・・え?」

「普段は四人で来るんだけど今日は私だけでさー。まあ遅刻しそうになった訳ですよ」

「・・・・・ダメじゃないですか」

「うん、遅れると次開くの変な時間になるから高校側にいてるのは無理になるんで急いでた訳なのね」

「つまり・・・・」

「そのまま放置するのまずいと思ったから連れてきちゃった」

 てへ。

 そう陽嘉さんは笑った。

 あはははは。

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