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第七話

前話に引き続き、海です。

 さて、海である。

 到着早々やけに疲れた気がするが、過ぎた事は忘れよう。楽しまねば余計な疲労分を損した気になりそうだ。


「おおっ。なんかやる気満々だな、おい」

「ふっふっふ……去年は監視員共に散々邪魔されたからな」


 鷲尾や黒部を追って沖へ向かって泳いでいると、ガタイの良いおっさん共が血相を変えてやってきて、浜へ連れ戻されるのだ。

 理由は言わずもがな。当時は憤慨モノだったが、薫を客観的に見る機会を得て彼らの気持ちは理解できた。

 しかーし、今年はそんな事は起こりえない。


「去年は出来なかった事も、今年は思う存分やれる。いいねぇ、腕が鳴るぜ」

「それは分かったから、その『すぱーんすぱーん』はやめてくんない?」


 昂る勢いのままに準備運動をしていたら、ジト目の原田に咎められた。

 そういえば平手が当たっていた辺りがジンジン痛い。うむ、言われるまでもなくやりすぎた。


「格好といい体格といい、まるでレスラーだな」

「ほう。じゃあこの格好に見合った技で海に叩き込んでやるから覚悟しやがれ」


 ふひひっ、と品の無い笑声を漏らしながら黒部は波打際へ逃げていく。

 それを追いかける俺も、怪しい笑みを浮かべていることだろう。

 海に踏み込み、その深さが膝丈に差し掛かると彼我の距離はみるみる縮む。

 射程圏内、水の深さはそろそろ膝を越えて十分。速度は大分落ちたが、今ならやれる!


「食らえぃ、必殺! 32文ロケェェェットッ!」


 波ごと蹴り飛ばした跳躍の後、カエルが潰れたような悲鳴と共に水柱が上がった。


「ちょっ! クロベエ、大丈夫!?」


 なかなか派手に決まったドロップキックにより海中に没したまま浮かんでこない黒部。

 それを目の当たりにし、原田が慌てた声で追い縋ってくる。


「だいじょーぶだって。この程度でどうにかなるようなヤワな――へぶっ!?」


 突如膝から掬われた足が地を離れて、ひっくり返って背中から海面へダイブ。

 両腕をバタつかせて姿勢を制御しながら視線を巡らせると、泡と緑色でぼやけた視界に見覚えのある黄色のブーメランパンツがあった。

 やりやがったな、この野郎。

 口の端がニィ、と歪むのを自覚しつつ水底に身体を沈ませてゆっくり近付き、黄色のパンツから伸びた筋肉質の両足を掴んで勢いよく立ち上がる!


「あのデカさは伊達じゃね――うぉっぶ!」


 何やら呟いていたらしい黒部はさっきの俺と同様にひっくり返って背中から落水した。

 先ほどの俺と同様に両手で水を掻いて姿勢を制御しようとしているがしかし、俺が両足を両脇に抱え込んだままなので身体を起こす事が出来ない。

 ごく浅い位置に浮いた顔が慌てた表情を浮かべているのがありありと見てとれる。


「さっちゃん、何をするつもり?」

「原田はちょっと下がってな~、ククッ。こうするんだ、よ!」


 両足を踏ん張り、水に沈んだ腰に力を篭める。そして脚を抱え込んだ両脇を締め上げるよーに力を篭めて、右方向へ思いっ切りぶん回すっ!


「ぶはっ! おっ、おおーーっ!?」


 力任せの回転力で水から引き上げられた黒部が発する驚愕の叫びが実に、実に心地良い。

 “薫”の小柄な体では絶対に出来なかったこの大技、今まではやられる側ばかりだったから一度やってみたかったんだ!


「おっしゃあーーっ! ぶっ飛べぇぇぇぇ!」


 四回、五回、六回とぶん回し、タイミングを見て抱えた両足を放り投げると、解き放たれた黒部は再び海面に叩き付けられ派手な水飛沫が上がった。


「おお……頭がクラクラする」


 自身への思わぬダメージに額を押さえていると、当たり前だと言わんばかりの視線がチクチク刺さる。

 そうしている間にも黒部は姿を現さない、さっきと同様に水中から接近しているのだろう。

 なんと芸の無いことか、同じ手を二度も食ってやれるほど甘くないと教えてやろう。


「ひゃっ!? ど、何処に腕を突っ込んでるのよ!?」


 原田の脚の間に腕を通し、その柔らかくもむっちりした尻を二の腕に乗せるように抱え込んだ。

 突然片足を取られた原田はバランスを取ろうと咄嗟に俺の首に手を伸ばす。

 その様子が見えているのか、海中の黒部がこちらを怪訝な顔で見上げているのが分かった気がする。

 距離、深度、共にグッド。後は実行するだけよ!


「おりゃあああああああああっ!」

「ひえぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」


 気合と悲鳴が混ざり合い、腿丈の水中からこちらを窺っていた黒部を二人分のボディプレスが襲い掛かる。

 三度、大きな水飛沫が上がり、胸や腹を水面に叩きつける衝撃の後にその下に居た男を押し潰すのを確かに感じた。

「もぉ~~っ! さっちゃんってば、なにしてくれんのよぉっ!」


 げぶぉっ、だの、ぶぇふぉっ、だのと、うら若い乙女にあるまじき声を上げて口腔に入り込んだ海水を吐き出しながら原田が抗議してくる。


「あははははっ! でも楽しかったろ?」

「怖いし痛いし、さいてー!」


 そんな若干涙声が入った罵声すらも楽しい。楽しくて仕方が無い。

 水底の砂に足を付けて立ち上がると、その足首を海中から伸びた手がガッと思いっ切り掴んだ。

 また性懲りもなくひっくり返そうというのか、と思ったが手は脛、そして太腿へと切羽詰った様子で上っていく。やがてその手は尻を鷲掴み、腰を回り、更に上を目指し――。


「ぶはぁぁぁぁ! し、死ぬかと思ったぁぁ……」


 ――しがみ付いた俺の身体を這い上がるように凄まじい形相の黒部が現れた。

 うん。まぁ、去年の俺も散々ブン投げられて鷲尾の背中を這い上がったりした事はあった。だからその必死さは非常に良く理解出来る。


「ク、クロベエ……。あんた、何を掴んでいるか分かってる?」

「ちょい待って。今、マジしんどいから……あー、この柔らかさ、なんか癒される」


 ぜえぜえ、と荒げた息を必死に整えながらも、原田の引き攣った声に律儀に応えようとする。が、揉むな阿呆……顔押し付けんな! 息吹きかけんなッ!


「それは私のおっぱいさんだ、大ばか者」


 額を擦り付けたりと何やら感触を楽しみ始めたっぽい助平の首を小脇に抱え、そのままDDTに移行したのは当然の成り行きだったに違いない。



 おバカに騒いでは監視員に軽く睨まれ、時には注意を受けたりしていると時間は飛ぶように過ぎていく。

 覗いた浜茶屋で量と味の割に高過ぎるメニューに文句を付けつつ昼食を取るのは、海水浴場では定番の一幕だろう。

 やけに水気の多いチャーハンを注文した原田が呟いた「三大風物は避けたのに、この不味さはもはや天晴れ」は今日一番の名言だと思う。

 飯を食った後は広げたレジャーシートに寝転んだりとしばらく休んでいたが、先ほど痺れを切らした黒部をはじめ薫と原田が海へ駆け出していった。


「時々、神崎が宙を舞っているように見えるのだが、あれは大丈夫なのか?」

「去年、俺を散々投げ飛ばしていた奴が今更何を言っている」


 傍らで落ち着きなくそわそわしている大男を半目で睨んでやる。

 それにああいう扱いは初めてだろうが、きっと楽しんでいるだろう。あれの神経は存外、図太い。


「それよか鷲尾、背中にコレ塗ってくんね?」


 返事が返ってくる前に掌を広げさせて、そこに日焼け止め乳液を垂らす。

 最初は戸惑っていたけれど、すぐに諦めたように溜息を吐いた鷲尾はそれを水着から露出した肌に塗り込み始めた。

 その間に俺もプラスチックボトルから乳液を掌に取り、顔から首筋にと塗り広げていく。


「朝、出て来る時に塗らなかったのか?」

「塗ってきたけどさ、そんなに長い時間は持たないんだよ。それに海に入ったり汗で流れたりで結構落ちるからな」

「そうなのか」


 首の後ろから背中の半ばまでと、それほど手間の掛からない部位を塗り終えた鷲尾は、何故か海の方へ顔を向けて視線を合わせない。

 しかし肩紐や胸元の布地をずらして乳液を塗っていると、ちくちくと視線を感じる。


「鷲尾」

「何だ?」

「気持ちは分からんではないが、樽からようやく寸胴になれたような体形に欲情するのはどうかと思う」

「な……っ!?」


 黒部ほどではないがそれなりに日焼けしたコイツだが、それでも分かるくらいに顔を赤くして狼狽している。


「まぁ、こうやって持ち上げて腹を見なきゃ、それなりに色っぽく見えるかもしれんが」


 その初心振りに悪戯心を擽られ、両腕で大きな胸を押し上げて二の腕で軽く挟んでみせた。

 大きく開いた胸元は下から持ち上げられたことでただでさえ大きな膨らみがむっちり強調され、刻まれた谷間が凄い事になっている。

 すると鷲尾は赤い顔を更に真っ赤にし、こっちを見ないように必死に顔を逸らている。

 何だコレ、ちょっと面白い。


「ほれほれ、なかなか見事なもんだろ?」

「ぐ……」

「んじゃ、こういうのはどうだ?」

「知らん!」


 ちょっと身を乗り出してみたり、露出した谷間を見せつけるようにポーズを調整してやるといちいち反応してみせる。

 それを一頻り楽しみ、カラカラ笑っていると恨みがましい目で睨まれた。


「全く……少しは女らしくなってきたかと思ったけど、全然だなお前」

「お前のむっつりも相変わらずだな」


 ああ言えばこう言いやがって、と言わんばかりに鷲尾は大きな溜息を吐いた。


「まぁ『女らしく』は全然だけどさ、『女』には慣れたと思うな」

「ほう、例えば?」

「少なくとも裸の同性を見たり近くに居ても、気恥ずかしさも情欲も殆ど湧かん」


 またそういう切り口から、とジトっとした目で睨まれているが知ったことじゃない。

 もっと生々しい現実を身を以って実感している俺としては、そっちの話題なんてまだ全然さっぱりしていると思えるし。


「それじゃ、仮に男に戻れたとしたら軽く危機だな」

「さーて、それはどうかな?」


 なけなしの勇気を振り絞った反撃を軽く往なしてやると、怪訝そうに眉根を寄せる鷲尾にニィっと笑ってみせた。


「確かに情欲なんかは湧かねーけど、女を見てキレイだとかエロいってのは普通に感じるんだぜ」

「は? お前、ソッチに走るの? いや……中身は元々男だから、それも自然なのか?」


 なかなか愉快な妄想を展開してくれているようで、いよいよ俺の顔すら見やしねえ。


「あー、全く興味が無いわけじゃねーけど、今んトコその気は無いぞ。うん」

「そ、そうなのか?」

「ならお前、ガチムチのイケメンとどうにかなりたいとか思うか?」

「思わん」


 脳内を駆け巡っていた悩ましい妄想に薔薇色の雑念が入り込んだようで、即答でキッパリ言い切った野郎の顔は平時の様子を取り戻していた。

 いや、若干嫌そうに歪んでいるようにも見えるな。


「例えは悪いけど、多分似たようなものだ。男が同性のスポーツ選手を見てかっこいいって思うのと同じように、女もスタイルが良い同性のモデルを見てキレイとかエロいと感じるってコト」

「それだと、興味が無いわけじゃないっていうのはどういうことだ?」

「まだ男の部分が残ってるから」


 と言っても情動はほぼ無いので、煩悩の残滓が好奇心に形を変えただけだ。

 しかし男と付き合うだとか、今の俺には考えられない。

 実に半端な状態だと思う。

 それはとりあえず置いといて、例えが例えだけに微妙な顔だが、とりあえず納得はしたようだ。


「で、うちのクラスだとやっぱり染井が抜群にエロいな」


 そう呟いてみると、傍らで僅かに息を呑んだのが雰囲気で分かった。

 こいつ、こんなに分かりやすかったのかと数年来の付き合いで始めて気付かされる。


「大抵の奴はちょい派手めな顔とかでかい胸にまず目が行くだろうが、あいつのエロさはそこじゃねえ。腰からむっちりした尻、そっから伸びた太腿にこそ真髄がある」

「そういう事を野郎に話すと、その……色々と拙いんじゃないか?」


 本当は興味津々なのが丸分かりなのに、それを押し隠そうと妙に生真面目な顔で窘めてくる。

 それがキモいだとかムカつくだとかは思わないけど、無性にからかいたくなる。


「別に染井の裸を語ってる訳じゃねえからな。制服姿でも分かるだろ?」

「あ、ああ……言われてみれば、そうだな」


 そう呟くように答えるも、真面目くさった顔は何処か上の空。その目は一所に定まらず、未だ俺の胸元やうなじや鎖骨辺りを彷徨っては宙を泳いでいる。

 もしかしたら脳内に浮かべた染井と胸を強調した水着姿の俺を重ねて妄想しているのかも、そう考えると可笑しくて仕方がない。


「こんな風にさ、以前とはエロく感じる箇所とか見方とかが大分変わったな。それに染井の奴は言えば触らせてくれるし」

「マジで!?」

「あ……コレ言っちゃマズいか。言っとくけど、女同士のふざけ合いでの話だからな。ガチじゃねーから、勘違いすんなよ?」

「そ、そうか……そらそーだよなぁ」


 ははは、と明後日の方に向けられた乾いた笑いが白々しい。

 もし本当に頼めば触らせる、などと勘違いしたままだったらどうしただろう。

 うん、何もしないだろうな。真性のむっつりだし。


「それで、その、なんだ」


 いつになく歯切れ悪く、わざとらしく咳払いをしたと思ったら上を向いてと鷲尾は不審な行動を繰り返す。

 それをじっと見ていると、やがて意を決したのか大きく深呼吸をして――。


「どうだったんだ?」


 ――と要点も何もかもをすっ飛ばした言葉を吐きやがった。


「何が?」


 と尋ね返したのは当然の事と思う。ろくでもない事だろうと予想出来ているけど、ここは敢えて聞くべきだろう。


「いや、だから……染井のさ、触ったんだろ?」

「染井の何処を?」

「何処って、お、お前があいつの何処を触ったなんて知るわけないだろ!」


 そりゃあ教えてないしな、とニヤニヤ笑っていたら何かを堪えるように顔を顰めて唸り始めた。


「お前、俺をからかって遊んでいるだろう……!」

「今更何を言うか」


 クスクスと声を押し殺して笑っていると、鷲尾は内から湧き出す苛立ちを吐き出すように盛大な溜息を繰り返し吐き出していた。


「なにお前、染井に気があるの?」


 染井は俺より少し背が低く、出る所が出過ぎているのに引っ込む所はちゃんと引っ込んでいる嘘みたいなプロポーションの女子生徒だ。

 さばさばした性格でちょっと天然が入っており、お前本当に高校生かってくらいフェロモンむんむんなのに付き合いやすく男女共に人気がある。

 なので気になる、と答えが返ってきてもさほど驚く事ではない。


「いや、全く」


 が、実際に返ってきたのは拍子抜けなくらい素の答えだった。


「あれ? そうなの? ちょっと意外」

「ああいうのは気恥ずかしいというか、ちょっと苦手だ」

「じゃあ、なんで『どうだった?』とか聞いてくるんだよ?」

「じゅ、純粋な好奇心だ……!」


 誤魔化すように語気をやや強めるが、ばつの悪そうに真っ赤にした顔のせいで効果は全く望めない。

 むしろ嗜虐心を煽るだけである。


「そっか、好奇心か~。残念だなぁ、俺の目指すところって染井に近いんだけどなぁ」


 そう呟きつつ、再び乳を持ち上げてその谷間を覗き込む。


「む。そ、そうか……がんばれ」


 相変わらず顔は逸らしているが、意識はしっかりこちらへ向いているのが丸わかり。

 俺という個人に興味は無いが、『女』には興味津々。思春期の男子なんてみんなそんなものだろう。

 さて、そろそろからかうのも止めておこう。本当に興味を持たれてもかなわん。


「そういえばさ、鷲尾の叔父さんって今なんか撮ってんの?」

「貴章叔父さんか? 次の大河に出るとは聞いてるけど、今、日本に居ないから分からないな」


 話題を変えてやると、乳へ向ける意識は相変わらずだけど硬くなった雰囲気は和らいでいく。


「大河って、すげーな」

「名無し端役を入れると十回目くらいらしいけどな。今度のは主人公の敵方に居る猛将の役だから、結構長い間出れるって張り切ってたよ」

「次の大河って誰の話だっけ?」

「島津義弘って言った」

「誰、それ」

「知らん」

「さくらちゃあああああああんっ」


 話を振ったくせに歴史に詳しくないので投げっ放し、そんな微妙に白けた空気を涙声の悲鳴が切り裂いた。

 何事か、と声のほうを振り向くや水色の水着を着た小柄な少女が飛び込んでくる。

 ……しまった。格好が格好とはいえ、元の自分を『少女』とか表現してしまった。


「クロベーがぁ、クロベーが苛めるのーっ」


 海面から何度も舞い飛んでいるのは分かっていたが、てっきりこいつも楽しんでいると思っていた。

 いや、もしかしたら楽しんでいたかもしれないけど、多分やりすぎたのだろう。黒部は加減とか紙屑みたいにブン投げるし。

 でも今の俺にとっては、そんなこと如何でもいい。

 潤んだ瞳で見上げてくるな。涙声で助けを求めてくるな。短い両腕を目一杯伸ばしてしがみついてくるな。

 一挙一動が可愛らしくて、そう感じる度に鬱が積み重なっていく。

 ああ、この鬱々とした気分は誰のせいだ。

 決まっている。薫を泣かしたバカヤロウのせいだ。

 ならばこの気持ちはあいつに晴らさせるのが筋ってモンだろう。

 沸々と沸き上がるムシャクシャと少々の頭痛を抱えて立ち上がる。足を向ける先は当然、膝丈を海水に浸して仁王立ちしている大ばか者だ。原田に後頭部をどつかれているように見えるが、知ったことではない。


「え? わわっ、さくらちゃん!?」


 未だしがみついていた薫が困惑した声を上げたが気にしない。むしろ邪魔なので小脇に抱えて、そのまま波打ち際へ駆け出す。


「お、おい。神崎は置いていってもいいんじゃないか?」


 鷲尾も似たような声で制止してくるが、一度走り始めた俺はそう簡単に止まらない。


「ええええええええええっ!? さくらちゃん、止めてええええ――――!」


 甲高い悲鳴が尾を引いて、一直線に駈け抜ける。そのドップラー効果は、本日何十度目かの水柱と共にに砕けて消えた。

鷲尾君の叔父さんの配役は小野鎮幸という裏設定。

九州武士の大河ドラマ、見たいですねぇ……とある事情のせいで多分ダメでしょうけど。

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