1 異世界からの訪問者
頭おかしい時に書いたやーつ
「ねえだから何やってるの!?!?」
もう何回目だろうか。半分諦めの混じった声で突っ込むと、目の前のピンクのフリルの塊がびくりと震えた。
「ああ、ごめんごめん…。でもさ、その格好でベランダで黄昏るのはやめて欲しいな。警察来るから。」
「ケイサツ?何だそれは」
「変なことしてる人を捕まえる仕事してるの」
あなたみたいな、と言いかけて口を閉じる。彼にとっては真面目なことなんだろう。…多分。
風に揺れる、リボンとレースがたっぷりの柔らかそうなドレス。きらきら光る大きなステッキ。ここまでなら、絵本から飛び出してきた妖精さんと見紛うような愛らしさだ。「ここまでなら」。
そして西日に照らされる、成人男性の大きな背中。
シュールなんて言葉じゃ処理しきれない光景を前に、私は深々とため息をついた。
「駄目だ、目眩がしてきた」
――そもそも、なんでこんなことになっているのか。
時計の針を数日前に戻したい。切実に。
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事の始まりは、三日前の日の入り前。
塾の帰りに通りかかった近所の公園で、ドスンという鈍い音と悲鳴を聞いたことだった。
「ぐはっ……! 異世界の重力は、なんという強さだろうか!しかし私はめげない!闇の魔王を倒すため今日も!立ち向かう!」
普段なら、小さい子がごっこ遊びでもしているのだろうかと微笑ましく思って通り過ぎただろう。
しかしそうするにはあまりの違和感があった。足を止める。その声は絶対に子供のものではなかった。低い、男性のもの。もしかしたらクラスメイトの男子が悪ふざけでもしているのだろうか、そんなことを考えながら声がした方に歩みを進めた。
「…嘘だろ」
植え込みのつつじを押し潰すように倒れていたのは、夕闇の中で嫌でも目を引く、ド派手なピンクのフリルドレスを着た成人男性だった。
高校生でもない。成人男性。
とんでもない構図だ。
私はそっと半歩下がりながら話しかけた。
「……大丈夫ですか?けいさ、 救急車呼びます?」
すると、男性は仰向けになって植え込みにお尻を突っ込んだまま(抜け出せないのだろう)はきはきと答えた。
「む……! 案ずるな人間よ! 我は光の陣営に属せし最高位の魔法士――」
自分の身長ほどもある大きなステッキを地面に立ててなんとか立ち上がろうとした彼だったが、足を滑らせて盛大にずっこけた。ついでに「あだっ!」とすっごく痛そうな声を上げた。
正直、そのままスルーして逃げるのが女子高生として正解だったと思う。
でも、あまりにも不憫な姿と、どこか必死な眼差しを見捨てられず……気づけば私は、彼を我が家まで引っ張ってきてしまっていたのだった。
――そして、我が家のリビング。
「バ、バカな……! 私の魔力を込めた聖衣を脱げというのか!? これは我が郷土における最高級の正装なのだぞ!」
身に纏っている魔法少女のドレスを真面目な顔で抱きしめながら叫ぶ男性を前に、私はこめかみを押さえていた。めんどくさい。マジで。
どうやら彼のいた異世界(?)では、このドレスが正装らしい。いやダメとは言ってないよ?多様性の時代だよ?文化の違いは受け入れなきゃ、分かってるよ。
でも、さすがに…。
「人間よ!分かってくれ!」
「あーもう! アラサーの男がドレスでウロウロしてたら、一瞬で不審者通報されるんだから!」
「なっ、私はまだアラサーではない!」
「じゃあ何歳なのよ!」
「27歳だ!」
「アラサーじゃねぇかよ!!」
ずっこけた。
「…ほら、お父さんが昔着てた服貸してあげるから」
彼の顔面に、白いスウェットパンツと黒いパーカーを雑に投げつける。
しぶしぶ腕を通した彼は、次の瞬間目を見開いた。
「なんだこれは!!滑るような肌触り、それでいて動きやすい…」
「そりゃそんなフリルまみれの服じゃ動きづらいでしょうよ」
彼は何を教えてもこの調子で、非常に疲れることこの上ない。
この変人を拾ったことを本当に、本当に後悔している。




