表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/10

第9話 森の中の戦闘


森の中を、逃げる女二人。


果歩と葵は、怪我の痛みも忘れて脇目も振らず駆けた。


山の中だということもあって、果歩と葵の動きがいい。一応、アウトドア系の配信者だけのことはある。


少し遅れてマサが追う。


果歩が振り返ると、木と木の隙間から坊主頭がチラチラと見える。


そして、白いTシャツを着た大きな身体を揺すりながら、ドスドスと斜面を駆けあがってくるのだ。


「ひいいっ!ついて来ている!」


遠くから、マサの片目がギラリと光るのがわかる。


彼は暴力を売って商売している男だ。女二人に遅れをとったとあれば、面子にかかわる問題だった。


「待て! コラ!」


だが、待てと言われても、二人が待つはずもない。


マサは、再び銃を取り出した。慎を殺した時に2発使っている。リボルバーの回転弾倉を確認すると、弾の残数はあと4発だった。


マサは銃口を果歩の背中へ向けた。


「おい、止まらないと撃つぞ!」


マサは警告したが、二人はそのまま逃げ続ける。


マサはチッと舌打ちして、また女の背中を追いかけていった。


だんだんと、距離が近付いてくる。果歩が振り返ると、片目のマサが追って来るのが見えた。


果歩と葵は、登り道を避けて山の奥へと入っていく。


すると、右側に川の流れる急斜面が現れた。


「待て、おい! いい加減にしねえと撃つぞ!」


背中でマサの怒鳴り声が聞こえる。


やがて、平坦な道がなくなって、斜面がきつくなってきた。


二人の歩みが遅くなるにつれて、マサとの距離が近付いてくる。


果歩は後ろを振り返った。


すると、腕が届きそうな距離に恐ろしいマサの顔が迫っていたのだ。


「キャアー!」


マサの太い腕が伸びてくる。


果歩の顔が恐怖に染まった。


その時、葵が果歩をかばうように前へ出た。


「駄目! 果歩に手を出さないで!」


「なんだ、このアマ!」


マサは怒りで顔を真っ赤にした。そして二人を捕らえようと両腕を伸ばす。


マサから逃れようと身を反らした拍子に、果歩と葵は斜面を転がっていった。


マサは立ち上がって、舌打ちした。


「チクショウ!」


マサは、転がるふたりに銃口を向けて、バン!バン!バン!と3発撃った。


-------------------------------------------------------------

【同時視聴者数 14,203】

@trekker_joe:銃声!!また撃った!

@comutan_love:葵ちゃんが果歩ちゃんをかばった

@nashi_gasuki:転がってる、二人とも転がってる

@yamaholic_k:黒木さんまだ来ないのか

@aoi_fan_official:3発撃ったよ今、当たってる?

@guest_9921:葵ちゃん果歩ちゃん返事して!!

@guest_13204:カメラが回ったまま転がってる

@guest_44821:誰か生きてるか確認して

-------------------------------------------------------------



果歩は転がって、ぬかるんだ斜面に叩きつけられた。


果歩は途中、木の幹で頭を強く打ったのか、頭がクラクラとしていた。


息が戻らない。


「……っ、は……」


体中が痛かった。指先は動く。——まだ、生きている。


果歩は震える手で地面を掴み、ゆっくりと顔を上げた。


白いウェアが、血と泥で赤に真っ染まっている。


葵の姿は、どこにもない。


「……いや……」


目の前が涙で滲んだ。


果歩の足元には、葵のスマホが転がっていた。


-------------------------------------------------------------

【同時視聴者数 14,508】

@yamaholic_k:警察来た??

@comutan_love:葵ちゃん……

@nashi_gasuki:カメラまだ動いてるのか

@guest_9921:誰これ

@trekker_joe:でも葵じゃない

@aoi_fan_official:怖い怖い怖い

@user_alpha:助けて誰か助けてあげて

@guest_13204:配信者死んだの??

@nashi_gasuki:誰か一人生きてる

@trekker_joe:でもちょっとすごい血よ

-------------------------------------------------------------


果歩が葵の姿を探すと、斜面の途中にある樹の幹に、泥まみれの赤いウェアが動いているのが見えた。


「ああ、葵……助けなきゃ……」


血で真っ赤に染まった白いウェアに、泥まみれの髪の毛が貼り付いている。果歩は小柄な体を必死にバタつかせながら、ぬかるんだ斜面を這いあがっていた。


「葵……どうか無事でいて!」


果歩は葵のそばへ寄った。


彼女は激痛と恐怖で震えながら、何かを掴もうと手を伸ばしている。顔は青白く、呼びかけても返事はない。果歩は両目に涙を溢れさせた。


「お願い葵……お願いだから、もうちょっと頑張って」


すると、斜面の上がなにやら騒がしくなった。


バキバキと木の折れる音や、人の怒号、痛みに叫ぶ声が聞こえた。その音を聞いて、果歩は確信した。


「助けが来たんだわ!」


果歩は笑顔を浮かべて、斜面を登り始めた。


助けに来たのが誰なのか。


警察か、それとも黒木か。


いずれにせよ、果歩はこの目で知りたかった。


そして、もう少しで斜面を上り切ろうとした時、斜面の上から男が姿を現した。


逆光で眩しかったが、目を細めてよく見ると、その男はマサだったのだ。


果歩は青ざめた。


「嫌ああーーっ!誰か助けてっ!」


だが、マサの様子がおかしい。


坊主頭が血で染まっていて、果歩を見る片目に生気がない。


果歩はマサを凝視した。


次の瞬間。


マサの背に何かがぶつかると「ぐう!?」と呻き声を上げながら、そのまま斜面へと転がり落ちていったんだ。


「キャアア!」


果歩は驚愕の表情でその落ちていくマサを目で追った。


「一体、なにが起こったの?!」


果歩は再び顔を上げた。


すると、すぐ目の前に黒木が立っていた。


黒木は大きく肩を上下させており、顔は蒼白で、呼吸も荒かった。


「……果歩……」


「黒木君!」


黒木は片膝をついてしゃがみ込むと、腕を伸ばして果歩の手を取った。


そしてゆっくりと斜面の上へ引き上げた。果歩は大泣きしながら黒木に抱き着く。そしてそのままオイオイと泣いた。


「怪我はないか……」


黒木は優しく果歩に聞く。


「私はいいの……葵を……葵を助けて……」


黒木は頷くと果歩に脇に座っておくように言った。


しばらくすると、黒木は葵を連れて斜面から上がってきた。


「傷はかなり深いな……だが、致命傷ではない。とりあえず傷口から雑菌が入らないよう、応急処置だけしておこう」


黒木はそういうと、ペットボトルの水で土などを洗い流した後、ガーゼを貼り、ビニール袋で覆って濡れないようにした。そしてタオルでくるむと、自分の上着を着せた。


「今はこれが精いっぱいだ。もうすぐ警察が来る。動画配信されているから、だいたいの場所はわかるだろう」


果歩は頷いた。


「俺は少し様子を見て来る。あの、兄貴分がどこにいるか確認しないとな」


黒木はそういうと立ち上がった。


「その必要はない」


黒木は首だけ後ろへ向けた。するとそこには仙田が立っていた。


「果歩……伏せてろ」


黒木は体ごと振り返ると、半身になって仙田を見た。


「仙田涼介」


「なに?」


仙田の顔色が変わった。


黒木はマサから奪った銃を、仙田に見えるようにつまみながら、足元へポイっと投げた。仙田はその銃を目で追う。それから黒木の顔を見た。


「なぜ、俺の名前を知っている?」


「元、ボクシングのミドル級日本6位か7位だっただろう」


「4位だ。……お前、俺のファンだったのか」


黒木は首を振った。


「網膜剥離で引退したが、そのままボクシングを続けていたら、チャンピオンベルトを取れたと言われていたな」


「お前、えらく俺の事を詳しいじゃないか」


黒木は仙田を強い目で見た。


「ボクシングのルールで勝負しないか」


仙田はジッと黒木を見つめている。


「面白い」


果歩が不安気に見守る中、仙田と黒木が睨み合った。


「ボクシングで勝てると思っているのか?」


果歩はそれを見て背筋が凍りついた。


仙田は体を半身にしながら拳を構えた。


「いいだろう、かかって来い!」


すると黒木は小さく頷く。


「それではいくぞ!」


黒木が仙田に向かって走り出した。


その時、仙田はニヤリと笑った。


仙田の拳はスーツの内側へ伸びた。


そして取り出したのは拳銃だ。


「ひっかかったな、バカめ!」


仙田は黒木に銃口を向けて引き金を引いた。


バン!


果歩の悲鳴が森を引き裂いた。


-------------------------------------------------------------

【同時視聴者数 24,103】

@trekker_joe:え、銃撃った?!

@comutan_love:嘘、騙し打ちじゃない

@nashi_gasuki:黒木さん当たった?

@yamaholic_k:果歩ちゃんの悲鳴聞こえた

@aoi_fan_official:やめてやめてやめて

@guest_9921:ひどい、ルール守る気なんてなかったのか

@guest_13204:黒木さん動いてるか確認して

@guest_44821:警察まだ来ないのか

@trekker_joe:果歩ちゃんが叫んでる

-------------------------------------------------------------


だが、黒木は左右に体を振って、初弾を躱したのだ。


黒木は仙田に向かってまっすぐに走ってくる。


仙田は驚愕した。黒木は銃を怖がることなく、真っすぐに直進していたのだ。


仙田が次の引き金を引こうとした時、黒木はもう目の前だった。


「くそう、お前っ!」


黒木は銃を下から押し上げた。


バン!


次の弾は空へ向かって放たれた。


「馬鹿野郎、お前が撃つことくらい想定済だ」


黒木は銃を上から掴むと、捻じるように仙田を投げ飛ばした。


「あーーッ!」


この時仙田の指が数本折れた。


バン!


これが最後の発砲となった。


黒木は投げ飛ばすと同時に膝をついて、地面に落ちていたこぶし大の石を握ると、尻もちをついた仙田の顔めがけて殴っていく。


「ぐうっ、ぐおっ!」


仙田も腕を振って防御していたが、そんなものは何にもならない。


しばらくすると、仙田はぐったりとして倒れた。


黒木は仙田の横で膝をついた。そして、ゆっくりと息を吐いた。


「黒木くん!!後ろを見て!」


黒木は荒く息を吐きながら、力なく顔を上げた。


完全に不意を突かれていた。黒木が顔を上げると、30メートル先の茂みに、黒い熊がこちらを睨んでいたのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ