第7話 通じない切り札
その頃、果歩と葵は山道を走っていた。
走りながら果歩は何度も後ろを振り返っていた。
「助けを呼ばなきゃ!」
「助けだって?」
「でなきゃ黒木さん……あいつに殺されちゃう」
「でもどうやって?」
「警察に電話するのは?」
「スマホはあんの?」
果歩は走りながら懐を探った。
「あった!」
「じゃあ、私は配信を確認するから、果歩は警察に電話して」
果歩は頷くと、スマホで110番をコールした。
だが、オペレータに色々質問されるだけで、話が前へ進まない。最終的に折り返し連絡するという言葉を残して電話が切れた。
果歩は無言で通話を切った。
「どうだった?」
「切られたわ」
「なんでよ?人が死んでるのに?」
葵はそう言うと、足を止めてスマホをいじり出した。果歩は少し先で立ち止まって葵の方へ振り返った。
「ちょっと葵!」
「今、動画はどうなってるのかと思って」
「葵! そんなの今どうでもいい」
だが葵は操作をやめない。
「どうでも良くないよ。動画のコメ欄から、助けを呼べるかもしれないわ」
葵はセカンドチャンネルにアクセスすると、スマホをイン・カメラに切り替えた。
「みんな聞いて! 今、わたしたち、大変なことになってるの」
するとコメント欄が一斉に動いた。通報した、という書き込みが次々と流れていく。コメント欄に、大丈夫かというコメントで溢れかえった。葵はそれを見て涙を流した。
「みんな……ごめんね……もう本当に限界なの!誰か警察に通報して……まだ悪い奴に追われてるの……」
しばらくすると、果歩の携帯へ警察から折り返しの電話がかかってきた。果歩は電話を取って警察と話をする。そして顔を上げて葵を見た。
「良かった……助けが来る」
葵は再びセカンドチャンネルのカメラを自分に向けた。
「今、メインのライブ映像見てる人いる? いた! 黒木はどうなってるの? え? 生きてる? あのデブに勝ったの? 嘘! 良かった!」
その声を横で聞いていた果歩は、うれしくて飛び上がった。葵と果歩は涙を流しながら喜んだ。
「これもみんなのお陰よ」
葵は画面に向かって小さく頭を下げた。
その時、コメント欄に「後ろ、後ろ!」と流れてきた。
すると、葵と果歩の頭の上に暗い影が落ちた。
二人が振り返ると、そこには背の高い坊主頭の男と、冷たい顔をした偉そうな男が立っていた。
葵はキャーッと悲鳴を上げたが、すぐに坊主頭の男が羽交い絞めにした。その男は白いTシャツを着ていて、手足は丸太のように太い。それに片目が剣で縦に切り裂かれていて、ピッタリと閉じている。その見た目の恐ろしさに、果歩はパニックになった。
「キャーッ!キャーッ!」
目と口を大きく見開いて叫ぶ果歩の頬へ、兄貴分の男が平手打ちをした。すると果歩が持っていたスマホが地面へ落ちた。
「キャーキャーうるせえんだよ、テメエは!」
すると果歩と葵は大声を上げて泣きだした。
「仙田の兄貴、そんなやり方すると余計に泣くじゃないですか」
「うるせえマサ!」
それから果歩と葵を睨んだ。
「貴様らも、あんまりうるさいとぶっ殺すぞ!」
仙田は胸から拳銃をチラリとさせる。するとマサは仙田の腕を掴んだ。
「ちょっと待ってください、ここで殺すんですか?」
マサは少し嫌そうな顔をした。
「せめてあの広場まで、自力で歩いてもらわないと……アッシひとりじゃ、ふたりも担いで歩けやせん」
すると仙田はチッと舌打ちして、拳銃を懐へしまった。そして煙草を取り出して火を着けた。
「……私たちを殺す気なの?」
果歩は眉をハの字に寄せながら、怯えた様子で仙田を見た。
仙田は身長185センチくらいの大柄な男だ。濃いグレーのスーツに朱色のシャツ。茶色のサングラス。髪はジェルで後ろに塗り固められていた。
「ねえ! お願い……殺さないで」
仙田は果歩に向かってフーッと煙を吐いた。果歩は顔を背ける。
「とりあえず、このガキどもを広場へ連れていくぞ」
仙田はゆっくりと煙草を吸って、煙を空へ吐き上げた。
すると、葵が前へにじり出てきた。
「向こうで戦っている男の子にカメラがあるわ。配信されてるの」
果歩は仙田を睨みつけた。
「もう全部映ってるのよ……! 早く逃げた方がいいんじゃない?」
仙田は鼻で笑った。
「知るか、そんなもん」
仙田はたばこの煙をフーッと吐いた。
「映像だけが証拠だとしたら、まだ弱いな」
「私たちが証言するわ」
「それだ」と仙田は低く呟いた。それを聞いた葵は仙田を睨みつけた。
「どういうことなの?」
「お前、わかってないな……。お前らが生きて帰ることの方が問題だということだろ」
仙田は眉を寄せながら葵を見た。
「あの動画に証言がつけばすべて終わる。——だが、お前が死んだら証言は出なくなる。……どういう意味かわかるだろう?」
果歩は息を呑んだ。
すると仙田は懐から拳銃を取り出して、葵へと向けた。
「つまり俺たちにとっちゃ、お前らが死ぬ方が都合がいいんだ」
葵はガタガタと震えながら涙を流した。
「言わない……言わないから……お願い、殺さないで!」
仙田は無言で銃をしまった。そして道に吸い殻を落として、靴で踏み消した。
「死んでもお友達がそばにいるなら、寂しくないだろう?」
「嫌よ! 死にたくないっ!」
仙田は葵に背中を向けて歩きだした。
「……マサ。連れて来い」
「へい……」
マサは果歩と葵の背中を押した。
「さっきの広場まで歩くんだ。もう一度埋めなきゃなんねえからな」
果歩と葵は、マサを恨めしそうに睨みつけると、泣きながら森の中へと入っていった。
-------------------------------------------------------------
【同時視聴者数 4,892】
@trekker_joe:うそだろ、また捕まった
@comutan_love:葵ちゃん!!さっきまで笑ってたのに
@nashi_gasuki:警察はまだ来ないのか
@yamaholic_k:黒木さんに伝えられないのか
@aoi_fan_official:広場って最初の場所に戻るの?
@guest_9921:黒木さん早く来てくれ
@guest_44821:警察に電話したのに間に合わないのか
-------------------------------------------------------------




