一輪目「古の黒い校則」
D F M R N A F p
( )
pass:※ ※ ※ ※ ※
校門をくぐった瞬間、いつも空気が一段冷たくなる。
この高校には、誰もが口にしたくない『古の校則』があるからだ。
頭にブロックを
当てられなかった分だけ
成績に還元される
言い方を変えると、避ければ避けるほど得点や得点率が増える。
そして、もっと黒いのはここから。
1、もし誰かが( )の頭にブロックを当てられたら
( )の『加点』や『加点率』はリセット。
2、外した側はペナルティとして点数がマイナス。
3、つまり、狙うほど自爆する可能性が高い。
4、そして当てられない限り、( )だけがずっと勝つ。
( )は頭が良くない。
授業中、ノートは白い。
文字が増えない。
増えるのは眠気だけ。
それでも、なぜか『避ける』ことだけは異常に得意だった。
体育でドッジボールをやらせれば、( )の動きだけ別の世界線に避ける。
風紀検査で先生が指差した瞬間、( )はすでにそこにいない。
廊下で誰かがくしゃみをしただけで、( )は反射で身をひねる。
そしてその反射神経が、この校則と最悪に噛み合っていた。
テストは赤点。
いや、赤点どころか地獄みたいな点数。
でも、結果表に書かれる点はいつも100点オーバー
『避けボーナス』が盛られに盛られて
ありえない数字になる。
( )の内申点だけが
どんどん上がっていくのであった。
当然、全校生徒の目が死ぬ。
「なんであいつだけ……」
「当てればいいんだろ?簡単じゃん」
「…外したらこっちの点が減るけどな」
皆が狙う。
でも、狙うほど外す。
外すほど自分が落ちる。
( )は当てない。
反撃もしない。
ただ避ける。避け続ける。
それが、いちばん腹立つ。
ある日、昼休み。
体育館のステージに、学年委員長が立った。
「全校生徒で、( )を当てる」
ざわめき。
それは『いじめ』とか『正義』とか
そういう言葉の外側にある
もっと冷たいものだった。
勝つための団結。
点数という数字で人間関係を焼き直した
最悪の共同体。
作戦会議は徹底していた。
投げる角度、タイミング、フェイント、投擲者のローテーション。
『外した時のマイナス』を最小化するために、点の高い者だけが投げる。
点の低い者は拾う役。盾役。囮役。
誰かがぽつりと言った。
「……これ、勉強より真剣じゃね?」
その瞬間、全員が気づかないふりをした。
気づいたら、何かが崩れるから。
そして『当てる日』が来た。
チャイムが鳴る。
廊下は異様に静かで、体育館だけが呼吸しているみたいにうるさい。
( )は、中央に立たされた。
床にテープで描かれた円。逃げ場はある。
でも、逃げ場があること自体が罠だった。
最初の一投。
ひゅっ、と空を切る音。
( )は避ける。ブロックは床に当たり
鈍い音を立てる。
次。
次。
次。
フェイント。
壁反射。
二方向同時。
体育館の空気が『投げること』だけで満たされていく。
( )は笑わなかった。泣きもしなかった。
ただ、だんだん退屈になっていった。
(みんな、これに人生賭けてるんだ)
ブロックが飛ぶたびに、誰かの未来が小さく削れていくのが見えた。
見える気がした。悪夢だから。
ある瞬間、( )はふっと動きを止めた。
全員が息を止めた。
「やっと当たる……!」
その期待が体育館全体をふくらませた時。
( )は、投げられたブロックを避けなかった。
正確には当たる前に
もってる真新しいブロックを自分で頭に打ちつけた。
鈍い衝撃。
視界が白く跳ねる。
そして、耳の奥で“何かが壊れる”音がした。
カチ。
カチカチ。
カチカチカチ。
体育館の壁に掛けられた、古い電子掲示板。
『避けポイント』を計算するためだけに
生き残っていた校則の心臓。
数字が乱舞し
文字化けし
最後にはこう表示された。
「ERROR:RULE NOT FOUND」
次の瞬間、掲示板がぷつんと消える。
それと一緒に、体育館の空気から古のルール”が抜けた。
誰も、喜ばなかった。
拍手もなかった。
ただ、全員が同じ顔をした。
「……え?」
得点も、ペナルティも、加点も減点も。
全部が消えた。
校則そのものが『バグ』を起こして、存在をやめた。
そこから先が、もっと悪夢だった。
ルールは消えたのに、みんなの頭の中には残った。
ブロックを投げる角度。タイミング。成功率。ローテーション。
それを何ヶ月も考え抜いた手前、簡単にやめられない。
授業中、ノートを取らない。
模試の問題を見ても、式より先に投擲軌道を思い出す。
「ここでフェイント入れたら……」
「いや、二段構えが……」
気づいた時には、受験が終わっていた。
合否掲示板に並ぶ不合格の文字。
落ちるべきじゃないやつまで落ちた。
みんな、勉強じゃなく『ブロック』で脳を埋めたから。
一方( )は、ぽつんと進路指導室に座っていた。
担任が、妙に優しい声で言う。
( )は頷いた。
頭の中で、何かがじんわり冷えた。
(なんこれ)
思えば( )は、最初から勉強で勝負していなかった。
避けることで、点数だけを勝ち取っていた。
だからこそ最後はつまんなくてルールごと壊した。
でも、みんなはルールに人生を溶かした。
ルールが消えても、ルールの影だけで自滅した。
卒業式の日。
体育館のステージには
学級委員長のポスターに、×印。
ブロックもない。
誰も投げない。
誰も避けない。
それなのに、( )だけが少し身を引いた。
習慣みたいに。
扉の向こう、外の光が眩しい。
( )はそこで一度だけ振り返って
何も言わずに笑った。
…悪夢は終わった。
でも、悪夢の作り方を覚えた人たちは
まだ眠っている。
おしまい
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最終更新:2026/03/6




