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悪夢小説  作者: きゆうひろう
一束目
1/7

一輪目「古の黒い校則」

D F M R N A F p


( )


pass:※ ※ ※ ※ ※

校門をくぐった瞬間、いつも空気が一段冷たくなる。

この高校には、誰もが口にしたくない『古の校則』があるからだ。


頭にブロックを

当てられなかった分だけ

成績に還元される


言い方を変えると、避ければ避けるほど得点や得点率が増える。


そして、もっと黒いのはここから。


1、もし誰かが( )の頭にブロックを当てられたら

( )の『加点』や『加点率』はリセット。


2、外した側はペナルティとして点数がマイナス。


3、つまり、狙うほど自爆する可能性が高い。


4、そして当てられない限り、( )だけがずっと勝つ。


( )は頭が良くない。


授業中、ノートは白い。

文字が増えない。

増えるのは眠気だけ。


それでも、なぜか『避ける』ことだけは異常に得意だった。


体育でドッジボールをやらせれば、( )の動きだけ別の世界線に避ける。


風紀検査で先生が指差した瞬間、( )はすでにそこにいない。


廊下で誰かがくしゃみをしただけで、( )は反射で身をひねる。


そしてその反射神経が、この校則と最悪に噛み合っていた。


テストは赤点。

いや、赤点どころか地獄みたいな点数。


でも、結果表に書かれる点はいつも100点オーバー

『避けボーナス』が盛られに盛られて


ありえない数字になる。


( )の内申点だけが

どんどん上がっていくのであった。


当然、全校生徒の目が死ぬ。


「なんであいつだけ……」

「当てればいいんだろ?簡単じゃん」

「…外したらこっちの点が減るけどな」


皆が狙う。

でも、狙うほど外す。

外すほど自分が落ちる。

( )は当てない。

反撃もしない。


ただ避ける。避け続ける。


それが、いちばん腹立つ。


ある日、昼休み。

体育館のステージに、学年委員長が立った。


「全校生徒で、( )を当てる」


ざわめき。


それは『いじめ』とか『正義』とか

そういう言葉の外側にある


もっと冷たいものだった。


勝つための団結。

点数という数字で人間関係を焼き直した

最悪の共同体。


作戦会議は徹底していた。

投げる角度、タイミング、フェイント、投擲者(とうてきしゃ)のローテーション。


『外した時のマイナス』を最小化するために、点の高い者だけが投げる。

点の低い者は拾う役。(たて)役。(おとり)役。


誰かがぽつりと言った。


「……これ、勉強より真剣じゃね?」


その瞬間、全員が気づかないふりをした。

気づいたら、何かが崩れるから。


そして『当てる日』が来た。


チャイムが鳴る。

廊下は異様に静かで、体育館だけが呼吸しているみたいにうるさい。


( )は、中央に立たされた。

床にテープで描かれた円。逃げ場はある。

でも、逃げ場があること自体が罠だった。


最初の一投。


ひゅっ、と空を切る音。

( )は避ける。ブロックは床に当たり

鈍い音を立てる。


次。

次。

次。


フェイント。

壁反射。

二方向同時。


体育館の空気が『投げること』だけで満たされていく。


( )は笑わなかった。泣きもしなかった。

ただ、だんだん退屈になっていった。


(みんな、これに人生賭けてるんだ)


ブロックが飛ぶたびに、誰かの未来が小さく削れていくのが見えた。

見える気がした。悪夢だから。


ある瞬間、( )はふっと動きを止めた。

全員が息を止めた。


「やっと当たる……!」


その期待が体育館全体をふくらませた時。

( )は、投げられたブロックを避けなかった。


正確には当たる前に

もってる真新しいブロックを自分で頭に打ちつけた。



鈍い衝撃。

視界が白く跳ねる。

そして、耳の奥で“何かが壊れる”音がした。


カチ。

カチカチ。

カチカチカチ。


体育館の壁に掛けられた、古い電子掲示板。


『避けポイント』を計算するためだけに

生き残っていた校則の心臓。


数字が乱舞し

文字化けし

最後にはこう表示された。


「ERROR:RULE NOT FOUND」


次の瞬間、掲示板がぷつんと消える。

それと一緒に、体育館の空気から古のルール”が抜けた。


誰も、喜ばなかった。

拍手もなかった。

ただ、全員が同じ顔をした。


「……え?」


得点も、ペナルティも、加点も減点も。

全部が消えた。

校則そのものが『バグ』を起こして、存在をやめた。


そこから先が、もっと悪夢だった。


ルールは消えたのに、みんなの頭の中には残った。

ブロックを投げる角度。タイミング。成功率。ローテーション。

それを何ヶ月も考え抜いた手前、簡単にやめられない。


授業中、ノートを取らない。

模試の問題を見ても、式より先に投擲軌道を思い出す。

「ここでフェイント入れたら……」

「いや、二段構えが……」


気づいた時には、受験が終わっていた。


合否掲示板に並ぶ不合格の文字。

落ちるべきじゃないやつまで落ちた。

みんな、勉強じゃなく『ブロック』で脳を埋めたから。


一方( )は、ぽつんと進路指導室に座っていた。

担任が、妙に優しい声で言う。


( )は頷いた。

頭の中で、何かがじんわり冷えた。


(なんこれ)


思えば( )は、最初から勉強で勝負していなかった。

避けることで、点数だけを勝ち取っていた。

だからこそ最後はつまんなくてルールごと壊した。


でも、みんなはルールに人生を溶かした。

ルールが消えても、ルールの影だけで自滅した。


卒業式の日。

体育館のステージには

学級委員長のポスターに、×印。


ブロックもない。

誰も投げない。

誰も避けない。


それなのに、( )だけが少し身を引いた。

習慣みたいに。


扉の向こう、外の光が眩しい。

( )はそこで一度だけ振り返って


何も言わずに笑った。


…悪夢は終わった。

でも、悪夢の作り方を覚えた人たちは


まだ眠っている。


おしまい

本作の未管理著作物裁定制度の意思表示について


意思表示します。

本作は作者の療養・創作目的で執筆しています。


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また当面、未管理著作物裁定制度に関する登録を含め、文化庁の関連登録制度への登録は行いません。


本人確認方式や運用が変更される可能性があるため、状況を確認しつつ必要が生じた場合に検討します。

※本方針は予告なく更新する場合があります。最新版は本活動記録(または最新話の後書き)をご確認ください。


本記事が最新の意思表示です

(変更時は活動報告で告知します。)


最終更新:2026/03/6

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