「猫nekoふれ愛ハウス」
〈だうせなら早く冬立てくたばる前 涙次〉
【ⅰ】
POMの助の「魔性のネタ」に共鳴する余りに、魔王としての姿を取り戻し、何処かに飛び立つたルシフェル(前回參照)。それでは一體何処へ飛び立つたのか。魔王に還つたのだから魔界だらう、と云ふのは、余りに想像力を欠いた回答である。彼には、豪放な氣性と共に、きめ細やかな手指がある。手土産なしに魔界へ戻るやうでは、彼を大魔王と呼びひれ伏した魔界の面々は歓びはしないのである。
【ⅱ】
故・岩坂十諺の協力を得て(前々回參照)、カンテラ逹が主催・開場した、「猫nekoふれ愛ハウス」(命名者・テオ笑)、保護猫の數は思つたよりも多く、全部を収容する事が出來ない。これは容易に予想出來た事なのだが、予想し難い事が一つ現實化した。この企画に水を差した人物(?)が現れたのである。それは、誰あらうルシフェルその人であつた。
【ⅲ】
彼・ルシフェルは、多くの保護猫に、密かに「ワクチン」注射をした。何の「ワクチン」かと云ふと、叛人間ワクチンとしか呼びやうのない物であつた。この注射を受けると人間には絶對懐かない、叛人間的猫が出來上がる。よつて、岩坂が餌をあげても警戒して食べない猫が續出。これでは「ふれ愛ハウス」の存在意義が、根底から覆つてしまふ。
※※※※
〈いゝ方と大した事なき方とあり後者を採るは何故なのか歌 平手みき〉
【ⅳ】
「ハウス」内の猫逹に総スカンを喰らふ岩坂。これはだうした事だ。お得意の八卦を立てゝみる。答へは、無論「魔王」であつた。この窮狀は直ちにカンテラらに知れるところとなつた。
「魔王... やつぱりルシフェルですかね」とテオ。じろさん「それを調べるのが、きみの仕事ぢやないのかい?」テオ「それが... データが思つたより集まらないんですよ」ルシフェルの藝は飽くまで細かい。テオ・ブロックの為の結界が張られてゐたのだ。大魔導士としての面も持つルシフェルである。
【ⅴ】
これが、「ふれ愛ハウス」内だけの事だつたらまだ良かつたのだが、叛人間的な猫は巷で増殖し續けた。余りの惡意に、役所が動き、野良逹を焼却処分すべく「猫攫ひ」の役人どもの動きが活發化した。これでは元々の「ふれ愛ハウス」の精神の眞逆になつてしまつてゐる。
【ⅵ】
ところが、「ルシフェルだとしたら、」とカンテラは云ふのである。「これぐらゐ手應へがなくては、詰まらん」-とは云へ、それは「負け惜しみ」である。本当のところ、彼は困惑し切つてゐるのだ。ルシフェルはさう簡單に斬れる相手ではない。だが、その間、テオの眷屬たちは次々と焼却処分を受けてゐる。まるで猫版・ホロコーストだ。せめて猫逹が叛人間的に振る舞ふ理由さへ分かれば-
【ⅶ】
こゝに一匹の、叛人間ワクチンを受け付けない體質の猫がゐた。そしてそれが元で死んだ。石田玉道は獨特の勘で、「この猫遺體解剖すべし」と云ふ結論を得てゐた。解剖結果は-「何らかの外的刺激がこの猫に加へられてゐる」と云ふものであつた。カンテラ「と、申しますと?」-石田「例へば、ワクチンとか。強引に接種を受けさせられたショックで、この猫は死んだのです」
【ⅷ】
「全てのワクチンを無力化出來る方法は、生憎思ひ付かない」と、石田は云ふ。ぢやあ、だうしたら...
※※※※
〈内在するは黑き死なるや秋の苑 涙次〉
さてさて、不謹愼なやうですが、流石ルシフェルな譯であります。取り敢へず醫學的処方が出來ぬ、と獸醫師に云はれたからには、醫學的解決は望めない。後は、「修法」か-
カンテラ、師匠橘川靜禅に授かつた「修法要諦」を最初から讀み直した。それで解決策は- 實は見つからなかつた。この儘ルシフェルの思ひ通りになるのか、「ふれ愛ハウス」!? そして多くの野良逹の命運は如何に。カンテラがやらねば誰がやる?(古い!)
續く。
 




