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「人間にしてはやるわね」
ペプシアが感心した。
「僕とミューは超一流の魔法使いだからね」
「そうね。こんなのわけないわ」
恋人同士が見つめ合い、微笑む。
「よし! じゃあ、中に入るか」とガヤオが1歩、踏み出した、その時。
塔が不快な音を立て、不気味に振動し始めた。
「あれ? 何か失敗したんじゃね?」
ガヤオがマーリンを疑う。
「いや。成功したからこそ、敵は方針を変えた。時間稼ぎは諦めて、こちらを排除する気だね」
マーリンが答える間に、塔は石造りの隙間から黒い闇を垂れ落とし、それを四肢と化して立ち上がった。
塔の上部に、両眼と口のような穴が空く。
「半分闇、半分塔のゴーレムと、いったところかな」
マーリンが解説する。
半石半闇の怪物は、大きな両手をガヤオの上に振り上げた。
「うお!」
勇者が慌てて盾を構え上げた、瞬間。
頷き合ったマーリンとミューが、再び呪文を唱える。
空間を歪める力場が、闇ゴーレムの黒腕を宙に固定した。
「今のうちに!」
マーリンの声で、3聖女が各々の銀の武器を手に取った。
エネーポンの鞭が、石闇の四肢を打つ。
ジャンプしたペプシアとセブンナの槍と剣が、塔身を斬り貫いた。
ミッドランドの巨人の核たる、内部の闇球を破壊されたゴーレムの石体はバラバラに砕けて落ちた。
「わー!」
ガヤオが走り回り、落石をかわした。
砂煙が立ち、しばらくして消える。
砂まみれになったガヤオの姿を見て、ネココが「プププ」と笑った。
「おい! 何、笑ってんだよ!」
ガヤオが怒った。
「さすがは聖女ですね。規格外のパワーだ」
マーリンが褒め称える。
「ご協力、感謝します」
エネーポンが頭を下げた。
しかし、ペプシアは「私たちだけでも楽勝だったけどね!」と笑う。
「ガヤオ、大活躍」
セブンナが勇者を見た。
「「確かに」」
ペプシアとエネーポンが同意する。
「それは僕も認めざるを得ませんね」
「そうね。大活躍だわ」
マーリンとミューも褒めた。
「いや、俺、何もしてないだろ!」
全力でツッコむガヤオを見て、ネココが大笑いする。
「ギャハハ! もう無理! お腹、痛い!」
「お前ー! 許さん!」
砂を撒き散らし、ガヤオが逃げるネココを追い回す。
それを見て、残りの5人は笑い合った。
「さあ、帰りましょう」
エネーポンの促しに、ペプシアとセブンナが頷く。
「君たちの世界も非常に興味深いな。今度、ミューを連れてお邪魔するよ」とマーリン。
「えー?」
ミューが嫌そうな顔をした。
「アタシ、神系はややこしいから嫌いだよ」
「まあまあ。何か起こったら、僕が片付けるから」
「そう? なら、いいけど」
恋人同士が、互いの腰を抱き寄せ合う。
エネーポンとセブンナが2人に感謝を告げ、ペプシアは「調子に乗るな」と鼻を鳴らした。
「ガヤオ、ありがとう。また助けられた」
セブンナの差し出した右手を、ネココを追いかけるのに疲れたガヤオが握った。
ネココはガヤオのダッシュで追いつかれない絶妙な距離で「プププ」と笑っている。
「あいつ! 腹立つ!」
ガヤオがネココから、セブンナに視線を戻した。
「俺、今回も何もしてないからな」
「大丈夫。ガヤオが居たから勝てた」
「そうね」とエネーポン。
「お前は認めよう」とペプシア。
マーリンとミューも、深く頷く。
「いや、ホントに何もしてないから! 謎に俺の評価高いの何なの、いったい!? 隠れた特殊能力!? それにしてはマーリンとネココは半笑いだし…」
ブツブツ言うガヤオと、他の2聖女も握手を終えた。
彼女たちがユニコーンに乗る。
「さようなら、愛すべき者たち」
「ガヤオ、また会う」
「力なき者たち、元気でな」
3聖女のそれぞれの別れの言葉に、マーリン&ミューとガヤオ、そして少し離れたネココが手を振った。
彼女たちはユニコーンを駆り、颯爽と走りだす。
ミッドランドで闇の巨人との対決が待っているのだ。
おわり
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