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7聖女の別世界での活躍のひとつ。
ペプシア、セブンナ、エネーポンの3聖女は、闇巨人の3つの源のひとつを破壊するため、別世界カルナディアへとやって来た。
荒野に2つの塔が建ち、それを見上げている4人の男女が居る。
その1人は。
「ガヤオ」
ユニコーンを降りたセブンナが、この世界の勇者の名を呼んだ。
「え!? セブンナか!?」
ガヤオが驚く。
「ガヤオさん、知り合いッスか?」
勇者の隣に立った、盗賊装束の猫獣人が訊く。
「ああ。前回、助っ人に行った世界でな」
ガヤオが答えた。
「そうッスか。ネココ、納得」
ネココが両手をクロスさせ、自分の胸に掌を当てる。
「何だよ、そのポーズ!? てか、ネココって何!? お前の名前か? 前回まで猫女って呼ばれてたよな?」
ガヤオが不思議がった。
「そうッスよ。さすがに名前ないと不便ッスからね。今、考えたッス」
「今、考えたの!? 遅すぎじゃね!?」
「まあまあ、落ち着いて。さあ、勇気を出して、ネココって呼んでみるッスよ」
「え…ネ、ネココ…」
「恥ずかしいッス!」
ネココが両手で顔を覆う。
「何なの、そのリアクション!?」
ガヤオが仰け反る。
「ちょっと待て! 今はお前の名前どころじゃない!」
「ひどいッス! 一生懸命、考えた名前なのに!」
「いや、今、考えたって言ってたぞ!?」
「はいはい」
「急に興味なくなるのやめて!」
「ガヤオ、誰?」
セブンナが訊いた。
「あ! こいつは猫…ネココ。俺の仲間」
ガヤオが紹介する。
「よろしくッス。えーっと」
「セブンナ。彼女はペプシア。彼女はエネーポン」
セブンナが美姉妹を紹介した。
「いやー、意外ッス! こんな綺麗なお姉さんたちと知り合いなんて、ガヤオさんも隅に置けないッスね」
「ま、まあな。俺も本気、出せばな」
ガヤオが胸を張った。
「プププ」
ネココが右手を口に当て、笑いを堪える。
「あー! お前、バカにしてるだろ!」
ガヤオが怒ると、ネココは惚け顔になった。
「ほー。高位の魔法存在が一部を人型に実体化して、運用しているようだね」
もう1人の青年が、口を開いた。
聖女3人を見つめる彼の瞳は、分厚い丸眼鏡が隠している。
肩までの青い長髪。
魔法使いのローブを着ていた。
「そういうあなたも、とんでもない魔力を持ってるわね」
エネーポンの切れ長の瞳が光った。
「僕? ああ、そうだ、自己紹介がまだだった。僕はマーリン。彼女は」
マーリンが隣に立つ、同じく魔法使い装束の同年代美女を見る。
「僕の愛する人、ミュー」
ミューが勝ち気そうな顔を、赤く染めた。
「あなたたち、何者?」と、3聖女をにらむ。
「私たちは」
エネーポンが、これまでの経緯を説明した。
「そか、またあっちの世界が危ないのか」
つい最近、ミッドランドを訪れたガヤオが表情を曇らせる。
「なるほど」
マーリンは、背後の2つの塔を振り返った。
「僕とミューは、この地の魔力の異常な乱れを調べに来た。君たちの敵が、その巨人の中核のひとつを、ここに隠したのが原因だったわけか。ところで、そちらの2人は」
マーリンが、ガヤオ&ネココを指す。
「遊びに来たのかな?」
「観光みたいに言うな!」
ガヤオが怒る。
「俺とネココは、この辺りで魔物が増えたのを退治した帰りだ」
「ふむふむ。それも、この塔の影響だね」
マーリンが、納得する。
「彼女たちと敵対する悪は、塔の中に巨人の源をひとつ隠して、空間を分けた」
「空間を分ける?」
ガヤオが首をひねった。
「だから、塔が2つに見える。おそらく時間稼ぎだろう。その間に、彼女たちの世界を巨人が破壊できるからね」
マーリンの両手がそれぞれ、左右の塔に向けられた。
「ふーむ。複雑な異層に塔を織り込んでいるね。いかに君たちの魔力でも、これをしっかりと合わせるのは骨が折れるのでは?」
「こんなの簡単よ」
ペプシアが前に出る。
セブンナとエネーポンも並んだ。
「ちょっと待って」
マーリンが制した。
聖女3人が、彼を見る。
「餅は餅屋って言うからね。魔法の専門家の僕とミューが塔を合わせよう」
「マーリン!」
ミューが眼を丸くした。
「このカルナディアに歪みが生じたままなのは、良くない。彼女たちに協力して、早急に元に戻すのが正解だよ」
「もう…仕方ないわね!」
ミューが渋々、承知する。
3聖女と入れ替わり、2人の魔法使いが前に出た。
マーリンとミューは各々、左右の塔に両掌をかざす。
そして、異口同音に呪文を唱えだした。
すると次第に2つの塔は蜃気楼の如く揺らめきだし、互いに中間点へ移動して、重なり合う。
呪文が終わり、塔の数はひとつとなった。