表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
その伯爵令嬢、〝替え玉〟につき ~替え玉のわたし(妹)が侯爵に溺愛されるなんてあり得ません  作者: とんこつ毬藻
<Ⅱ.南の領主編~Scene Southolive>

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

50/53

第47話 その悪役令嬢、英雄の姿に戦慄する

(そ、そんなのありえませんわーー!)


 わたくしは心の中でそう叫びましたわ。


 なぜって? そんなの決まっていますわ。あのパターギアとの戦争で女子供関係なく殲滅させたという噂の英雄。西の暴君と呼ばれたソルファ・グランディア侯爵は、その名前に似つかわしくない整った顔立ち……いいえ、それどころか、全身からイケメンオーラを放ったまま、こちらへ眩い眼差しを向けたのですわ。


 どうして西の暴君がイケメンなんですの! それに、控室に居た時から聞こえていましたが、わたくしローズの替え玉を演じるアリーシェを、素敵な女性とも大切にしていきたいとも。わたくしの耳が壊れたのかと一瞬疑いましたわ。


「アリーと申します。よろしくお願いしますわ」


 ふふふ。ですが、この程度で動揺を表に見せるわたくしではありませんのよ? 社交界や舞踏会、貴族のお茶会。どれだけ場数を踏んでいると思って? わたくしはそこに居るアリーシェよりも何倍も完璧に変装のキャラを演じて見せますわ。


「ローズ。あなたにも紹介するわ。最近東の地より遠縁の子を雇ったんです。侍女のアリーよ。さ、アリー。この子がワタクシの愛娘。ローズです。ご挨拶なさい」

 

 わたくしを見るアリーシェを見て思わず口元が緩みましたわ。アリーシェ? 動揺していますわね。それもそうよね、わたくしがまさかあなたの姿で侍女として此処へ来るなんて思っても見ませんわよね。


「ローズお嬢様。お初にお目にかかります。侍女のアリーと申します。以後、お見知りおきを」

「ローズ・ゴルドーです。よろしくお願いしますわ」


 あなた(アリーシェ)わたくし(ローズ)の姿。わたくし(ローズ)は侍女服姿のあなた(アリーシェ)。互いに変装している姿で再会を果たすなんて、お互い、想像もしていませんでしたわね。きっと、このイケメンの暴君にも、裏では鞭で叩かれているんでしょう? わたくしと一緒で人前では貴族の(つら)を見せているに違いありませんわね。


「遠縁……本当に遠縁の子……なんですよね? キャサリーナ殿」

「それはどういう意味ですの?」


 ソルファ様の発言に、母の纏う空気が変わりましたわ。表向きには笑みを浮かべたままですが、扇子を握っている指先がピクリと動いた瞬間をわたくしは見逃しませんでした。お母様。ご心配には及びませんわ。まさか、初対面のわたくしが変装しているなんて、分かる筈もありませんもの。


「いえ、他意はないんです。実は、社交界会場の近くでこちらに居ますローズ卿の妹、アリーシェ(・・・・・)卿を見掛けた事があり、その姿にあまりにもそっくりだったものでしたので……」

「アリーシェですって!」


 パタンッ! お母様の持つ扇子が激しく閉じられましたわ。わたくしは双眸(ひとみ)を細め、ソルファ様の後ろに控えているアリーシェを睨みつけますわ。一瞬身震いしたアリーシェは気づいたのか、首を横へ振っていますわね。へぇ~、白を切るの。


「ええ。子爵家を手伝っていたアリーシェ卿は、こちらのローズ卿と同じく真っ直ぐで純粋な心を持つ女性のようでした」

「畏れながらソルファ様。その、アリーシェという名前はどこで(・・・)知ったのです?」


 顔は笑っていますが、もうお母様が笑っていませんわ。アリーシェ、怒りの矛先がわたくしへ向いたらどう責任を取るつもり!? まさか、あなた。変装で潜入するという立場がありながら、自分の事を話してないわよね?


「どこ……と言いましても。子爵家の付近をたまたま通り掛かった(・・・・・・・・・・)者へ尋ねたところ、ゴルドー家の娘さんと教えてくれたんです。ですが、あの時の娘はローズ卿ではなかった。そこでアリーシェ卿の存在を知ったんで……」

「ですから! アリーシェの名前をどこで知ったのかと聞いているんです!」


 叫声と静寂。一瞬にして場が静寂に包まれましたわ。ソルファ様とお母様キャサリーナの様子を遠目に見ていたパール婦人がこちらへやって来ます。


「まぁまぁ、まさか、キャサリーナさん。もう一人(・・・・)娘さんがいらしたの? アリーシェという娘さんは今まで社交界デビューしていませんわよね? 今度私にも紹介して下さいますか?」


 パール婦人が近づいて来た事でお母様が一礼しましたわ。


「パール婦人。突然叫んでしまって申し訳ございませんわ。いえ、もう一人の娘アリーシェは昔から病弱で、社交の場へは普段姿を見せていませんの。そして、今は修道院で療養の身。残念ながら、社交の場へ姿を見せる事はありませんわ。アリーシェの名を知っている者も少なかったため、ソルファ様へどこでその名を知ったのか、尋ねてしまいましたの」

「そういうことなんですってよ、ソルちゃ……ソルファ卿」


 パール婦人から名前を呼ばれたソルファ様は一歩後ろへと下がった上で母キャサリーナへ一礼しましたの。


「そうだったのですね。それは大変失礼致しました。しかし、そちらのアリー殿の佇まい。貴族の家柄なんでしょう? 流石、キャサリーナ殿お付の侍女ですね」


 ソルファ様も謝ってくれた事で、この場は事なきを得ましたわ。そして、ソルファ様がこっちを見た瞬間、事件が起きたのですわ。


「オレが勘違いをしてしまった事で君にも迷惑をかけた。すまない」

「そんな! アリーはただの一介の新人メイドですので」

「そうか。君もいい双眸の色をしているな」

「……っ!?」


 なななな、なんですの!? 一瞬、ほんの僅かですが、ソルファ様が微笑んで来たんですわ! ローズ、だ、騙されてはいけませんわ。これは表向きの顔よ。こいつはこうやって、きっと女を堕として、その後、裏の顔であんなことやこんなことをして、殲滅させて来たんですわー!


「パール婦人。ワタクシは久し振りの親子の再会ですし、ローズとネンネ、ゴルドー家だけで話がしたいのだけど。この後どこか、部屋を借りてもいいかしら?」


「そうねぇ~。ただ明日お茶会を控えていて、今日はあまり御持て成しが出来ませんのよ? ローズさん」

「へ!? な、なんでしょう?」


 わたくしがひとりソルファ様の貴族スマイルに両頬を熱くしている間に話が進もうとしていましたわ。まぁそうよね。お母様としては、何故ソルファ様がアリーシェの名前を知っているのか、アリーシェへ追及したいところですものね。


「あなたも最近お茶会の準備で疲れていますでしょう? ローズさんはどうしたいの?」


 は? どうしてパール婦人がアリーシェへ尋ねるの? あの子には選択権はない筈なのに。


「そうです……ね。お母様ともっとお話したいところではあるのですが……」

「キャサリーナさん。確かマリーナリゾートへ宿泊されているのでしょう? 日が暮れる前に帰らないと大変ですわ。またお茶会の席でもお話出来るんですし、今日はご挨拶という事で、また明日お待ちしていますわ」


「なっ! パール婦人。あなたのような寛大な心の持ち主が、親子の再会の場を遮るんですの?」

「いえ。そうではありませんわよ? ただ……」


 わたくしはこの時、侍女としてお母様の背後に控えていました。パール婦人はお母様の耳元へご自身の口元を滑らせ、確かにこう言ったのです。


「何か、誰かに聞かれてはまずい話でもあるのですか?」


 わたくしの全身に悪寒が走りましたの。この直感と観察眼。ルモーリア貴婦人会のナンバー2という絶対的地位を持つパール婦人。お母様キャサリーナも恐ろしい人物ですがこのパール婦人、全く侮れない人物だと。


 そして、互いに距離を取り、一礼したところで、扇子を懐へしまったお母様はひとこと。


「楽しいひと時でしたわ。ローズ、ご機嫌よう。パール婦人、明日のお茶会楽しみにしています。サウスオリーブ公爵へもよろしくお伝え下さい」

「ええ、また明日」


「セバス! アリー! 帰りますわよ」


 こうして専属執事のセバスとわたくしを引き連れ、わたし達はサウスオリーブ公爵家での挨拶を終えるのです。

 この後、マリーナリゾート滞在中のホスピスへ帰還したわたし達。部屋に入った瞬間、お母様キャサリーナの雷が落ちたのは言うまでもありませんわ。


 見ていなさい、アリーシェ。このままじゃあ終わりませんわよ。


 明日のお茶会、楽しみにしているといいわ。


キャサリーナ、ソルファ様、そしてパール婦人。変装姿で再会する姉妹。それぞれの立場と思惑が交錯する中で繰り広げられる駆け引き。このまま向かうお茶会で何も起こらない筈が……ないですね。いよいよお茶会と盗賊団潜入が迫って来ました。続きもお楽しみにです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ