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その伯爵令嬢、〝替え玉〟につき ~替え玉のわたし(妹)が侯爵に溺愛されるなんてあり得ません  作者: とんこつ毬藻
<Ⅱ.南の領主編~Scene Southolive>

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第44話 その英雄、盗賊団の報告をする

 お菓子作りの時間、最初は婦人を前に緊張していたわたしだったけど、いつの間にかご婦人とも終始笑顔でお話していて、なんとなくだけど、少し打ち解けたような気がした。


 わたし達とストロベリーパイを作った後も、パール婦人は続けて、薔薇の花弁を生地の上に飾り付けたひと口サイズのタルトを焼いていた。ひと口サイズにしてあるのは主賓だけでなく、より沢山の人に食べて貰えるようにと婦人が工夫を凝らした結果だ。本当優しくて、マリーナから見えるルモーリア海のように、心が広い方なんだなって思う。


 このまま穏やかな日常で一日を終えられたらよかったのだけど……。


「ソルファ様……遅いですわね」

「騎士団の公務に時間がかかっているのでしょう」


 そう、公爵家へ招かれて以降、パール婦人とサウスオリーブ公爵、わたしとソルファ様が同席して一緒に公爵家の食卓を囲んでいたのだ。


 でも、今日夕刻になってもソルファ様は帰って来なかった。パール婦人のお茶会を数日後に控え、マリーナ自警団の人も、ソルファ様達騎士団の人達もより一層盗賊団への警戒を強めているみたいで。何も起きていないといいんだけど……。


「すまない。遅くなった」

「ローズちゃん、寂しい想いをさせてごめんねぇ~」


 ちょうど夜のお食事を終えたタイミングで広間へ帰って来たサウスオリーブ公爵とソルファ様、後ろにスミスさんが控えている。そして、ソルファ様よりも早くサウスオリーブ公爵が駆け足でやって来て……。


「ただいま、ローズちゃん」

「え? はぇ?」


 あまりにも自然な流れで起きた出来事すぎて、わたしの頭は置いていかれていた。


『え? いま何をされているの? 入口に居たサウスオリーブ公爵が今目の前にって手に温もりが。柔らかい部分が当たったような……ってえ? これ? まさか? また不意打ちのキス!?』 


 脳内で考える事、数秒。頭から蒸気が噴出すると同時に意識がこちらの世界へ戻って来ていた。


 いきなり片膝を立てるポーズでわたしの手を取り、手の甲へキスをしたサウスオリーブ公爵。入室からキスをするまでものの数秒。


 サウスオリーブ公爵がわたしへ向かって微笑んだ後、立ち上がったところで、サウスオリーブ公爵の背後にソルファ様が立っていた。


「ソ、ソルファ様! ご無事で何よりです」

「嗚呼」


 それだけ言って向かいの椅子へと座るソルファ様。疲れているのだろうか? なんだかいつもよりそっけない気がする。


「ソルファ。ローズちゃんへ貴族の挨拶はしないのかい?」

「アクア、お前とは違うんだ。もう彼女と挨拶は済ませている」


 そっかぁ。ソルファ様は貴族風の挨拶しないのか……前デートの時はしてくれたのにな……って何わたしソルファ様からのキスを想像しているのっ!? 胸の高鳴りを押さえつつ、向かいに座るソルファ様をちらっと見て……急速にわたしの熱が冷めていった。彼の視線が……いつもより鋭かったから。


「嬉しそうだな、ローズ嬢」

「い、いえ!? そんなことは……ないですわ」


 なんだか空気が重たいような気がする。やはりお外でよくない事があったんだろうか? 不意に澱んだ空気が圧し掛かって来て、言葉が……出て来ない。


「なんだからしくないわね、ソルちゃん。お食事は?」

「パール婦人。ご連絡出来ておらず申し訳ありません。騎士団が滞在している宿で済ませました。アクアも一緒に話し合いへ同席してもらいました」

「そう、何かあったのね?」


 空いている席へサウスオリーブ公爵が座ったところで、お付きの侍女さんがソルファ様と公爵の前へ紅茶を置いた。出された紅茶を二人がひと口口へ含んだ後、ソルファ様が重々しく口を開いた。


「サウスオリーブで盗賊団が拠点にしているアジトが見つかった」

「え?」


 重々しい空気はこのためだったのか。わたしが何かしてしまったんじゃないかって心配していたのだけど、違ったみたいで少しほっとする。

 

「ソルちゃん。この広いサウスオリーブ領のどこに拠点があるの?」

「此処、港町マリーナとマリーナリゾートの中腹に位置する古城オリーヴですよ」


 古城オリーヴ。かつてルモーリア王国が幾つかの国へ分かれていた時に、小国を治めていた王様が使っていたお城らしい。ちょうどネンネから渡されていた本の一つ『ルモーリア王国の領と貴族の関係』という本の中に載っていたので名前だけは覚えていた。


「古城はマリーナリゾートから見える小高い山の中腹に位置しているからな。街で噂されていた幽霊騒動。これはやはり盗賊団が使っていた松明が人魂に見えたのだろうと推測される」

「よ、よかったぁ~お化けじゃなかったんですね」


「嗚呼、ローズ嬢。あのカフェテラスの席に居た若い男をジウが張り込みし、夜中に一人山へ向かった奴を尾行し、アジトへ辿り着いた。やはり奴が黒だったよ」


 ジウさんはすぐにソルファ様へ報告。拠点を見つけたことで、急遽サウスオリーブ公爵にも来てもらい、騎士団員が拠点としている宿で話し合いが行われたんだそう。自警団へはジウさん率いる密偵部隊の人を伝令に。すぐに拠点へ攻め込むには相手の規模や、拠点内に親玉は居るのかなど、まだ情報が少なすぎるため、実行は数日後という事になったみたい。


「数日後……つまりはお茶会と日が重なるって事ですわね」

「はい、パール婦人。我々騎士団からの応援もその日到着予定ですので、貴婦人方の身の安全は保障致します。自警団と騎士団の力を総力し、サウスオリーブ領で悪さをしている輩を一掃するつもりですので」

「よろしくお願いしますわね。あなたの婚約者であるローズさんも居る事をお忘れなきよう」

「勿論です」


 胸に手を当てて一礼するソルファ様。後でネンネが教えてくれたんだけど、騎士団が仕える者へ忠誠を誓う事を示すポーズなんだそう。


「ローズ嬢、君は心配する事なく、お茶会を楽しんで来るといい」

「はい、わかりました……わ」


 そうよね、あくまで貴婦人会の集まりだもの。ソルファ様は元々参加の予定はなかったし。大事な任務だもの。その場に居ないのは……仕方ないよね。



「いよいよ大変なことになって参りましたね」

「ソルファ様、ご無事で居てくれるといいんだけど」


 ソルファ様からの報告を終えた後、この日はみんな疲れているだろうと解散となり、ネンネと公爵家のお風呂へ入ったあと、自室にてネンネと今日の出来事を振り返っていたわたし。盗賊団という脅威が身近に迫って来て、なんだか南のルモーリア海から嵐が迫って来ているかのような気持ちになってしまった。


「ミルア騎士団長も応援を送ってくれるみたいですし、ソルファ様もきっと大丈夫ですよ」

「そうね。でも盗賊団の件に、お茶会はお茶会でお継母が来るし……問題が山積みね」


 目の前に積まれたお勉強の本を見つつ、溜息をつくわたし。


「アリーシェお嬢様、そんな不安な時は……甘いものに限ります!」

「えぇええ? それ、どうしたの?」


 ネンネが鞄から小さな箱を取り出して、中から出て来たのはなんと、パール婦人と作ったストロベリーパイ。二人分切り分けたストロベリーパイをお皿へ盛りつけていくネンネ。


「お夜食にってパール婦人がこっそり私へ渡してくれたんですよ?」


 と話しながらネンネがハーブティーを準備してくれる。この香りは……心が落ち着く身体にもいいカモミールを使ったハーブティーだ。よく家族に痛めつけられた日の夜、ネンネがこっそり淹れてくれていたっけ。


 自室のテーブルへ並べられたストロベリーパイとカモミールティー。見るだけでも不安を取り除いてくれる気がして不思議だ。

 

「ストロベリーパイ……ソルファ様にも食べて欲しかったな……」


 ボソっとわたしの口からそんな言葉が出た。わたしがぼんやりとお皿を眺めつつ、ストロベリーパイへナイフを入れようとしたその時……わたしの手を握ってネンネがその動きを止めた。


「アリーシェ様、ソルファ様に食べてもらいましょう! ストロベリーパイ」

「え?」


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