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その伯爵令嬢、〝替え玉〟につき ~替え玉のわたし(妹)が侯爵に溺愛されるなんてあり得ません  作者: とんこつ毬藻
<Ⅱ.南の領主編~Scene Southolive>

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第43話 その伯爵令嬢、ストロベリーパイを作る 

「ねぇ……ネンネ」

「似合ってる……かな?」

「安心してください。アリーシェお嬢様は何を着てもお似合いですよ?」

「そ、そうかなぁ?」


 そう言われると言われるで頬が林檎のように紅く染まってしまう。え? 何をしているのかって? 

 今、公爵家の支度部屋でネンネとお着換えをしているところです。

 ローズ姉のかつらを被ったわたしの頭には今、白いヒラヒラのついた海色のヘッドドレス。そう、身に着けている衣装は、白いフリフリのエプロンに、ルモーリア海を投影したかのような海色生地のメイド服。お菓子作りをするならドレスは着替えないといけないと、用意された服がこれだったのです。メイド服……普段着ないからフリフリがなんだか恥ずかしい。


「お嬢様のメイド姿を見られる日が来るなんて……。ネンネは嬉しゅうございます。(フンスッ)」


 なんだか、ネンネの鼻息が荒いような気もするけど……。支度部屋から出た瞬間、わたしの着ているメイド服と同じ海色の髪を靡かせ、双眸(ひとみ)をキラキラさせて近づいて来るパール婦人。なぜか、両手を握って腕をぶんぶんされた。


「やはり私の目に狂いはなかったわね。あなたはやはり磨けば輝く宝石の原石。以前社交界で私があなたを見た時に着ていた露出が大きいワインレッドの衣装(ドレス)より、よっぽどこっちの方が似合っているわよ、ローズさん」

「あ、ありがとうございます」


 ワインレッドのドレスは間違いなくローズ姉の好みだもの。露出度の高い衣装できっと貴族の男性へ声を掛けていたんだろうな。幾らローズ姉に変装しているとはいえ、わたしにはそんな事するのは無理だな。


「さ、時間も限られているし、厨房へ向かうわよ。うちの侍女にも手伝ってもらうから。いらっしゃい」


 パール婦人に手を取られ、厨房へ入ると、想像よりも遥かに大きな規模のキッチンがわたし達を出迎える。ソルファ様のグランディア家よりも広いかもしれない。厨房の奥には立派な石窯が。ピザや今回のパイなんかもこの石窯で焼いているんだろう。五名ほど侍女さんが待機していて、既に下準備をしているところだった。


「ところでローズさんは、お料理の心得は?」

「はい。嗜む程度には」


 ゴルドー伯爵家では掃除や洗濯が主なお仕事だったわたし。まぁ理由は簡単。継母も、ローズ姉もバルサーミ兄も、わたしのような薄汚れた女の作った料理を口にするとお腹を壊すから……らしい。今は嫌な事は忘れよう。幸い、子爵家のお手伝いでいつも料理はしていたので慣れていた。奥さんの作るミートパイが美味しくてよく一緒に食べさせてもらったのを思い出す。


「そう。ローズさんの事だから、侍女へ任せているのかと思いましたわ」

「パール婦人。わたくしも時々お手伝いはしていましたのよ。それに、お料理は……食材を作ってくれた人の想いを感じる事が出来るので、好きですわ」

「まぁ、ローズさん。益々あなたのこと、気に入っちゃいそうだわ」


 そう言ってパール婦人はお皿の上で山盛りになっている苺を見せてくれた。お皿の上で踊る苺の妖精さん達……可愛い。苺の甘い香りが鼻腔を擽るだけで幸せな気持ちが溢れて来る。


「これは全部ディアス大農園から仕入れた苺よ。お茶会にはロジータも呼んでいるからきっと喜んでくれると思うわ」

「それは間違いないですね」


 ふふっと互いに微笑み合う婦人とわたし。ストロベリーパイはパイ生地作りから始まったんだけど、生地を広げたり、こねこねしたり、工程を楽しみながら作っていた。びっくりしたのが公爵家の厨房の設備だ。ルモーリア北、ノースフィーネ領から解けない氷と言われる不思議な霊氷(アームグラス)を大量に運んで来て作った冷暗庫なるものが作ってあって、そこで色々食材を保管したり、予め生地を寝かせて保管してあったりした事だ。パール婦人によると、生地を冷やして寝かせた方がパイ生地の内側が縮んだりするのを防ぎ、外はサクサクになってより美味しくなるんだって。


 人もやっぱりしっかり休んだ方がお肌にはいいって言うし、パイ生地さんも急いで焼かれるより休んだ方が美味しくなるのかなぁ?


「寝かせている間に苺を煮詰めますわよ?」

「苺って乗せるだけじゃないんですか?」


「ええ。中にお砂糖と煮詰めた苺のジャムを織り込む事でより一層苺の美味しさを感じられるパイに仕上がるんですわよ?」

「ああ……想像するだけで口の中が甘酸っぱくなって来ましたわ」


 主役の苺さん達がお姫様。土台を支えるパイ生地が騎士。織り込まれる苺はお姫様を惹き立たせる装飾品といったところかな?


 あまーく煮詰めた苺をジャムにして、フィユタージュと呼ばれる綺麗に織り込まれた生地へ苺のジャムを塗りつつ、丁寧に織り込んでいく。あとは大きな石窯の中で焼くだけ。石窯の火加減の調整は普段サウスオリーブ公爵家で調理を担当している侍女頭の方がやってくれるみたい。


「パール婦人、ローズ様。ストロベリー紅茶とクッキーです」

「そうね。焼き上がるまで休憩にしましょう。さ、ネンネさんもご一緒に」


「パール婦人、ありがとうございます」

「侍女の私にまでお気遣い感謝です」


 お茶会に出席する貴婦人だけでなく、公爵家の使用人や、来賓の方の護衛やお付のメイド、執事さんも食べられるよう、今回五枚ほどパイを準備するみたい。使用人まで気にかけているパール婦人の気配りが凄い。


「クッキーと紅茶、合いますね」

「ローズお嬢様、紅茶から漂う甘い香りも素敵ですね」


 暫く待ってようやくストロベリーパイが焼き上がる。タルト専用の器にパイを乗せ、そこから贅沢に苺を盛りつけていけば……パール婦人特製ストロベリーパイの完成だ。


「ふふふ、完成ね」

「やったぁ~~」


 侍女さんからも拍手で称えられる。いや、わたしは手伝っただけなので、なんだかむず痒い。


「少し、味見してみます?」

「え? でもお茶会の時に出すパイですし」

「作った者の特権よ、さぁ」


 ナイフで切り分けられたストロベリーパイ。断面にも苺のジャムがふんだんに敷き詰められている。ネンネと一緒にひと口サイズに切り分けたパイをゆっくりと口に含む。ええ、ネンネ。言わなくても分かっているわ。わたしはちゃんと此処に居るよ。


「んんーーーー!」


 苺の甘酸っぱさが口の中から全身へと駆け巡っていく。これは……苺の妖精さんと妖精の羽根を背中につけたお姫様が血管の中を泳いでいるんだわ。苺のように(あか)い血潮を駆け巡る妖精達がやがてわたしの頭へと昇っていって。わたしは脳内でお姫様と握手した。


「はぁー美味しい……」

「なっ! ローズお嬢様!」


 蕩けた表情のわたしはネンネに声を掛けられて正気に戻るも……時既に遅し。


「まぁ……流石、社交界を何度も経験しているローズさん。普段のあなたからは想像も出来ないそんなチーズのように蕩けるような表情も出来るのね」 


 え? 待って。どうして侍女さん達みんな、頬を赤く染めてるの? 苺のお姫様に恋でもしたのかしら? 

 この後、ストロベリーパイを堪能したわたしとネンネは、この幸せな日常のひと時を噛みしめるのでした。


お知らせです。1/5(月)0時より、ヤンチャンWebコミカライズの第3話①が公開となります。第1話①~③は無料で読めますので、是非そちらも覗いてみて下さいね。今年もよろしくお願いします。

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