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その伯爵令嬢、〝替え玉〟につき ~替え玉のわたし(妹)が侯爵に溺愛されるなんてあり得ません  作者: とんこつ毬藻
<Ⅱ.南の領主編~Scene Southolive>

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第37話 その伯爵令嬢、カフェテリアランチを堪能する

「ソルファ様申し訳ございません。ネックレスの件、わたくしが軽率でしたわ」

「いや、ローズ嬢が謝る事ではない。むしろオレの贈り物を大切にしてくれていて感謝したいくらいだ」


 ニックさんの案内を終え、ゴンドラから降りたわたしはネックレスの件をソルファ様へ謝罪していた。


 終わり際のタイミングだったけれど、ソルファ様が『気をつけようと思うので詳しく教えてくれないか?』と尋ねてくれた事でニックさんが少しだけ盗賊団の事を教えてくれた。


 盗賊団は宝石店や貴族の家のような有名な場所を狙う他、マリーナ内では、スリなんかも横行しているようで。金目のものを身に着けていると狙われる事があるらしい。被害の中心は港町マリーナ、そして領東のイーストマリーナ。どこか人気のないところに拠点を置いているんだろうと、ニックさんも言っていた。


「サウスオリーブ領で人気のないところを中心に調べさせよう。まぁ、アクアもそのあたりは既に調べていそうではあるが……」


 騎士団の拠点がないサウスオリーブ領だけど、マリーナには、腕っぷしのいい民衆が集まって出来た自警団なんかもあって、民とも連携を取りながら、公爵は治安を維持しているみたい。そんな公爵がミルア騎士団長やソルファ様へ依頼をするって事は、よほどの緊急事態なんだろう。わたしも気を引き締めないと。わたしもソルファ様も真剣な表情でお話をしているタイミングで、わたしのお腹のあたりから、そんな場の空気に似つかわしくない音が鳴った。


 ぐぅううううう――


「フッ。ローズ嬢。ニックの娘が居ると話していたカフェテリアでランチにしようか?」

「あ! ソルファ様! 笑いましたね、今」

「気のせいだ。すまない」

「もう、酷いですわ」


 頬を膨らませるわたしの頭をポンポンと撫でつつ、ソルファ様がわたしへ謝罪した。もうー、どうしてわたしのお腹空気読めないのよー。

 最近頬が林檎色に染まったり、熱くなったりで、情緒が不安定すぎるよー、わたし。

 


 ルモーリア海の上空から降り注ぐ陽光が街並みを照らす中、既にカフェテリアはお客さんで賑わっていた。海のお仕事を終えて休息を取っているセーラー服のお兄さん達に、ローズ姉が好きそうな派手なドレスで着飾った若い淑女のグループ。わたし達と同じ位の年齢のカップルに、頭を頭巾で覆った民族衣装に身を包んだご婦人と客層もバラバラ。美味しそうな香りに鼻腔を擽られつつ、わたし達は店内へと誘われるように入店した。


「サリーです。父からの紹介なんですねっ。ありがとうございます。賑やかなところですいませんが、ごゆっくりお過ごし下さいね」

「ありがとうございます」


 サリーさんはお父さんのニックと同じく小麦色の焼けた肌に、三つ編み姿のそばかすが女の子。ウエイトレスのヒラヒラエプロン姿がすっごく可愛らしくて似合っていた。わたしよりは少し年上……あ、今はローズお姉さまの格好だから同じ歳くらいに見えるのかも。


 前回はパスタだったので、今回は海の幸をふんだんに使ったマリーナの潮風ピザを注文。ソルファ様はクアトロフォルマッジ? というピザを頼んでいた。クアトロフォルマッジ……剣術の名前かしら? あ、そっか。騎士団で鍛錬しているようなソルファ様のような人向けのピザなのか!


「港町マリーナの料理に使われている四種類のチーズは、うちの大農園から出荷したものも多くてな。ローズも食べてみるといい」

「え? まさか! エリザベスの!」

「ん? ああ、あの時の乳牛か。ローズ嬢、すっかり気に入っていたものな」

「ええ。まさかこんなところでエリザベスと再会出来るとは思いもしませんでしたわ……はっ!」


 そっか。ディアス大農園で出荷された品物はこうやって流通してるんだと思うと、ソルファ様の気持ちも分かるような気がした。あの日、新たな推し牛として出逢ったエリザベスを思い返しつつ、ソルファ様の発言を牛さんのように反芻していたところで、クアトロフォルマッジが四種類のチーズを意味していた事に脳内で解釈するわたし。危ない危ない……妄想を口に出さないでよかった。全力で恥をさらすところだった。


「マリーナの潮風ピザとクアトロフォルマッジ、お待たせしましたぁ~!」


 二種類のピザがやって来た。潮風香るピザにはイカさんやエビさんが沢山が乗っている。一方でクアトロフォルマッジはとってもシンプル。でも四種類の濃厚なチーズの香りがディアス大農園の牧場を思い出させてくれる……そんな懐かしい香りがした。


「いただこうか、ローズ嬢」

「いただきますわ」


 旅立ってはだめ、此処には制御するネンネが居ないんだもの。もう一度言うわ。アリーシェ、今のあなたは姉ローズ、絶対に旅立ってはダメよ。そうやって心に言い聞かせつつ、潮風ピザをひと口、口に含んだ。こっちにもチーズが使われているんだけど、プリプリのモーリア海老とイカさんが小麦の香りがするピザと塩気のあるチーズとすっごく合ってとっても美味しい。


「お、ローズ嬢、今日は心無しかいつもより落ち着いているな」

「ん? いつものわたくしですわよ? ソルファ様。マリーナの海の幸、とっても美味しいですわ。ほっぺたが落ちそうですもの」


 ふふふ。本当は脳内の奥でイカさんとエビさんが綱を引っ張り合うゲームをしていたんですのよ? あっちの世界へ行かなくなったわたし。成長したものでしょう?


「この店の料理、美味(うま)いな。こっちのクアトロフォルマッジも、うちの牧場の味を活かしてくれていて凄くありがたい事だ。ローズも食べてみてくれ」

「あ、ありがとうございます、ですわ」


 六等分に切り分けられたクアトロフォルマッジの一つをソルファ様が取ってくれて、受け取るわたし。不意に手が重なりそうになって一瞬心臓が跳ねてしまう。気を取り直してクアトロフォルマッジを口へ含んだ。この時のわたしはソルファ様へ気を取られてしまって一瞬油断していたんだろう。


 日傘をした美しい乳白色の肌、海色のワンピースに身を包んだお姫様が海沿いに立っており、こちらへ向けて手招きしている。渚に用意されたテーブルと椅子はわたしと彼女に用意されたもの。


『お久しぶりですわ。ローズ』

「エリザベス、久しぶり」


 テーブルの上にはエリザベスから産まれた四種類のチーズと、さっきまで綱引きをしていたはずのイカさんがイカリングになっていた。


『指輪じゃないよ、イカリングだよ』

「美味しかったわイカさん。エリザベスも食べる?」


『チーズ、食べてくれたんですのね。ありがとう』

「ええ、とっても美味しかったわ」


 そうか、エリザベスも自分から産まれた子供達を見に此処まで来たのね。それとも余暇(バカンス)かしら? 口の中でディアスの牧場の風とマリーナの潮風が融合し、混ざり合い光の輪となって溶け合う。光の輪にイカリングさんの顔が浮かび、最後にありがとうと感謝の言葉を述べたところで……。


「……ーズ嬢、ローズ嬢?」

「え?」


 し、しまった! 完全にやってしまった……。どうやら、ピザを含んだ瞬間、あっちの世界へ行ってしまったわたしは、双眸(ひとみ)から涙を零してしまっていたみたい。周囲のお客さんの視線がわたしへ全集中。他のお客さんを案内していたサリーさんがわたしの様子に気づいて慌てて駆け寄って来て……。


「あ、あの! お口に合いませんでしたか? 大丈夫ですか?」

「え、あ? ああ! ご心配には及びません。ちょっとピザのあまりの美味しさに涙が出てしまっただけですわ」

「え、ええええ!?」


 わたしの発言に、周囲のお客さんも驚いているみたいで、あまりの恥ずかしさに下を向いてしまうわたし。


「サリー嬢、心配をかけた。ローズ嬢はいつもこうなんだ。彼女は常に食べ物への感謝を忘れない、清き心を持った淑女、それが彼女だ」

「す、素敵です! ローズさん!」


 何故かサリーさんがわたしへ握手を求めて来た。

 周りのお客さんからも『かわいい』とか『素敵すぎる』とか『あの二人、お似合いのカップルですわね』とか声が聞こえて来るんですけど……。


 この後、恥ずかしさのあまり頭から蒸気が噴き出すのを必死に押さえ、妄想世界から優しく手を振るエリザベスに見守られながら食べたピザの味は後から思い出そうとしても全く思い出せないわたしなのでした。


指輪じゃないよ、イカリングだよは反則……すいません、作者のひとりごとです ← 

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