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その伯爵令嬢、〝替え玉〟につき ~替え玉のわたし(妹)が侯爵に溺愛されるなんてあり得ません  作者: とんこつ毬藻
<Ⅱ.南の領主編~Scene Southolive>

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第36話 その伯爵令嬢、ゴンドラデートを満喫する

「坊ちゃん、ローズ殿、それでは夕刻、またこの場所で集合致しましょう」

「行ってらっしゃいませ、ローズお嬢様」


「ああスミス、行って来る」

「行って参りますわ」

   

 港から続くマリーナの中央街道、南側に円形の広場があり、そこを集合場所にしたわたし達はスミスさん、ネンネと別れ、ソルファ様と運河へ向かう事となった。観光通りは朝から賑わいを見せており、中にはルモーリアでは見られない異国の衣装を身に纏った人達も歩いていた。


 ちなみに海の街スタイルのわたしに対し、ソルファ様も騎士団や貴族の人と分からないよう、マリーナ市民が身に着けるようなチュニックトベルトにズボン。風の通りそうな涼し気な服を身に着けていたんだけど。どんな服を着てもソルファ様の綺麗な顔立ちは隠せないので素敵な事に変わりはない訳で。


「平服姿もす、素敵ですわね、ソルファ様」

「そ、そうか……ローズ嬢もよ……ぁっている」

「よ……ている? 酔っている? お酒は飲んでいませんわよ?」

「いや、そうではなくてだな」

   

 ソルファ様の声が途中から小さくなってよく聞き取れなくて、思わず聞き返したわたし。えっと、あ! お酒飲んでいるみたいに頬が赤いって事かな? 普段とは違うソルファ様の御姿にわたしの鼓動が早鐘を打っているのは事実で。なぜかソルファ様がわたしから視線を逸らしてなんだか海の方向を見てたので、そちら側に回り込んで覗き込むと、今度はお空を眺めて何やら指先で頬をかいている。


「どうかされました? お空綺麗ですものね」


 暫くソルファ様の御姿を見ていると、それまでの沈黙を打ち破るかのように、こちらへ振り向いたソルファ様が、唐突にわたしの手を握って。


「よし! ローズ譲。あそこからゴンドラへ乗ろう」

「え!? あ、ちょっと!」


 わたしの手を引っ張ってソルファ様が運河へと向かう。いつもなら横に並んで歩いているソルファ様が手を握ったままわたしを先導していく。心なしか、足取りが軽い気がする。まるで、はしゃいでいる子供のように。ソルファ様に限って、それは気のせいよね?


 石造りの階段を降りると、運河に手漕ぎの船が待機していた。わたし達の姿を見た船頭さん――全身肌が小麦色に焼けた大きな男の人が白い歯を見せてニィッと笑った。


「お、旦那。嬢ちゃんも。今日は観光かい?」

「え? どうして分かるんですか?」


「嬢ちゃんの表情を見たら分かるさ。街並みへ視線を移しながらウキウキしているだろう?」

「す、すごいですわ」


 船頭さんは仕事柄、人の表情や動きを観察するのが得意みたいで。その人達の格好は勿論、ゴンドラに乗る様子を見てだいたいその人物の目的が観光目的なのか、移動目的なのか判断しているみたい。


「船頭。この子にこの街を案内したいんだ。頼めるか」

「おぅ任せときな! 旦那、嬢ちゃんも。俺様のゴンドラは当たりだぜ。この界隈で“ゴンドラのニック”を知らない奴はいねぇ~。運河一周コースでお薦めスポットを紹介してやる」


「そうか。では頼んだニック」

「よろしくお願いします、ニックさん」


 ニックさんが櫂を漕ぎ出し、ゆっくりとゴンドラが水面を揺らしながら進み始める。まるでこの上だけ時の流れが違うみたい。ニックさんは、ゴンドラの船頭歴三十年の大ベテラン。自称、マリーナの事で知らない事はないらしい。ゴンドラを漕ぎながら、早速ニックさんがマリーナのお薦めを色々案内してくれた。


「まぁ、観光なら、この運河を北へずっと真っ直ぐいった突き当りにある美術館は有名だな。そこから西へ進んだ先にはマリーナの教会がある。ルモーリアの北にある聖都のノクス大聖堂には劣るが、ステンドグラスが綺麗で荘厳な雰囲気だぜ」

「ソルファ様、後で行ってみます?」

「ローズ嬢が行きたいのなら、そこへ行こう」


 マリーナの街だけでも色んな観光名所があるみたい。オリーブ美術館にマリーナ教会。芸術に長けている人が住んでいて、珍しい石像がいっぱい並んでいるドルフィン通り。しかも視野を広げると、サウスオリーブ領には東側にもイーストマリーナという港と町があり、マリーナとイーストマリーナの間には先日話題にあがったマリーナリゾート、マリーナリゾートと港町マリーナを見下ろせる丘の上には、オリーヴ城というかつて栄えた都市の古城なんかもあるみたい。何それどうしよう、全部回るにはとてもじゃないけど一週間じゃ時間が足りない。


「そうそう、ランチならそこのカフェテリアがお薦めだぜ。うちの娘のサリーが看板娘やってるんだ。よかったら後で覗いてみてやってくれ」

「娘さんいらっしゃるのですね! 行きます」


 娘さん。ニックさんの娘なら、わたしと同じくらいだろうか? ニックさんが指差した先のカフェテリアは今開店前でランチの準備中みたい。ランチという言葉に、こないだ宿場町で食べたルモーリア海の漁師風パスタを思い出す。ムールがカフェの入口で手を振っていたので慌てて首を振るわたし。


「どうしたローズ嬢?」

「なんでもありませんわ。そ、それにしてもゴンドラ。いいですわね」

「そうだな。たまにはゆったりとした時の流れを堪能するのも悪くない」


 ゴンドラは小一時間かけてマリーナの運河を一周していく。ソルファ様も街並みを眺めつつ、満足そうに頷いている。ゴンドラが水の上を進む水音。遠くに聞こえる水鳥の鳴き声。街並みを抜けるタイミングで陽光が運河へ注ぎ込み、水面が煌めいて弾んでいる。


 日常を忘れて過ごす非日常の空間。かつてのわたしが経験する事のなかった、穏やかな日常が確かに此処にあった。


「ゴンドラ、堪能していただけたようで、よかったぜ」

「ああ、色々案内してくれてありがとう」

「ありがとうございました、ニックさん」


 ゴンドラはちょうどぐるっと回ってマリーナの裏通り横の運河を進んでいた。もうすぐ最初の地点へ戻るみたい。あっという間の小一時間だった。そして、大通りへと合流する少し手前、ひと際目立つ大きな建物が目に入った。わたしの視線へ気づいたのか、ニックさんがその建物を紹介してくれた。


「嬢ちゃん、気になるよな。あそこは我らがサウスオリーブ公爵のブティックだ。マリーナで知らない人は居ない有名店だな」

「サウスオリーブ公爵の! そうなんですね!」


 まさかこのタイミングでサウスオリーブ公爵のブティックが眼前に現れるとは……。やっぱり公爵はマリーナの民にもとっても人気みたいで。外交は主にパール婦人がやっていて、サウスオリーブ公爵は街並みや港の整備、マリーナにある商会への流通の橋渡しなど、デザイナー業務の傍ら、色々やっているみたい。


「そうそう、貴族向けのドレスだけでなく、市民が特別な日に着る衣装(ドレス)、装飾品なんかも売ってある。旦那、嬢ちゃんへのプレゼントには持って来いだぜ」

「考えておこう」

「ええ!? ソルファ様……こないだこれ、貰ったばかりですし」


 プ、プレゼント!? 驚いたわたしは思わず胸元で煌めいた猫のネックレスを手に持ち、ソルファ様へ見せる。そう、わたしの胸元で光っていたのは、猫ちゃんがエメラルドを抱いた形のネックレス。こないだディアスを街歩きした時、初めてプレゼントしてもらったネックレスだ。


「では、ネックレスじゃないものを今日の記念に……」

「ソ、ソルファ様ぁあああ、いいですから! 間に合ってますからー!」


 何せわたしは貰ってばかりだし。もう充分ソルファ様から色々いただいてますからー。わたしとソルファ様のやり取りを笑顔で見ているニックさん。って、そんなに見ないで下さい……恥ずかしいですから~。今のわたし、絶対ほっぺが林檎だ。


「初々しくて微笑ましいな。もうすぐ着くぜ。そうだ旦那、嬢ちゃん。最後に一つ忠告しておこう」

「ん?」

「え? 何ですの?」


 それまで白い歯を見せながら笑顔だったニックさんの顔が真剣な表情になったので、ソルファ様もわたしもニックさんへ注目する。急に起きた静寂。わたしの心音と水音が交互に二重奏を奏でている。ニックさんはソルファ様とわたし、交互に視線を送った後、わたしの胸元に光るネックレスを指差した。


「そのネックレス。かなり高価な代物だろう。気をつけた方がいい。盗賊団に狙われるぜ」

「え? と、盗賊団?」


 双眸(ひとみ)を細めるソルファ様。それまで明るく観光案内をしていたニックさんから初めて、わたし達へ盗賊団という単語が告げられた。


楽しんでいただけてますでしょうか?

ゴンドラデート回、お待たせしました。ソルファ様ボソボソ過ぎて、大事なところが全然聞こえていません。観光名所がたくさん出て来た時点で途中からたぶんアリーシェの瞳はぐるぐるなっていました(笑)

キャサリーナという嵐が来る前のデート回 (?)はもう少し続きますのでお楽しみにです。


それから、11/3より、ヤンチャンWebにてコミカライズ連載も開始しております。

3話無料で読めますので、そちらも是非覗いてみて下さいね。

https://youngchampion.jp/series/8d7553662f68e

それでは、今後ともよろしくお願いします。


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