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その伯爵令嬢、〝替え玉〟につき ~替え玉のわたし(妹)が侯爵に溺愛されるなんてあり得ません  作者: とんこつ毬藻
<Ⅱ.南の領主編~Scene Southolive>

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第35話 その伯爵令嬢、海に映える衣装を着る

「ソルファのような騎士団所属の只でさえ目立つ男が街で聞き込みなんかしていたら、すぐに盗賊団に知られてしまうだろう? だから、あくまで婚約者を観光案内する名目で街を巡る事にしたんだよ」


 海風の香りと共に提供される公爵家の朝食を食べながら、サウスオリーブ公爵がわたしへ説明くれた。南の海を照らす陽光のような眩しい眼差しをこちらへ向ける事は忘れていない公爵様だ。


「そ、そうだったんですね」

「ローズさん、ごめんなさいね、私たちの領の問題に巻き込んでしまって。私は任務へ同行させると聞いて、最初は全力で反対したのよ? こんな素敵な淑女に何かあったら大変ですもの」

「いえいえ! パールご婦人とんでもないですわ。むしろこんな素敵な街をソルファ様と歩けるのでしたら、わたくしは嬉しい限りですわ」


 この時、直前に口へ含んだふわっふわの卵の中に蟹さんの身が入っており、不意打ちで脳内でソルファ様とわたしが海岸で蟹さんが横歩きしている様子を眺めつつ、笑い合っている映像が浮かんでいたため、ブラットオレンジジュースを一気に飲みした事でオレンジの波に乗って去っていったところを見送る形で正気に戻っていたわたし。 


 脳内でまさかわたしが妄想と格闘している事など露知らず、パール婦人は嬉しそうに港町マリーナのお薦めスポットを解説してくれていた。


「ローズ嬢、結果的に君を巻き込んでしまう形になって申し訳ないが、君を危険から必ず護ると誓う。よろしく頼む」

「え ええ!? よ、よろしくお願いしますわ」


 隣に座っていたソルファ様が突然こちらへ向き直り、両手を握るものだから、強制的に現実へ引き戻されたわたし。もう、ソルファ様ぁ~不意に両手を握るのやめて~~。


「ふふふ。ローズさん。こんな表情豊かなご様子も見せますのね。何だか初々しくて可愛いわね。ソルちゃん、騎士として護ると決めたのなら、ちゃんと最後まで責任を取ること、いいわね」

「勿論です、パール婦人」


 人生で恥ずかしいって思った経験って、今までほとんどなかったんだけど。侯爵家に来てからは本当、初めての経験ばかりだ。わたしは気づく。そっか。そもそも視線に晒される事がなかったのか、と。だからこんなに恥ずかしいんだ、と。


「そうだ、ローズさん。公爵家の衣装部屋をお使いなさい。家のお抱え(・・・)デザイナーが考えた衣装が沢山あるから、好きにお使いなさい。遠慮しなくていいわよ?」

「え? っと、パールご婦人。お気遣いいただき感謝致しますわ」


 遠征で複数の衣装は持って来ているものの、衣装(ドレス)全部持って来るのには限界がある訳で。申し訳ない気持ちはあったけれど、パール婦人のお言葉に甘える事にした。


 という訳で、侯爵家とはまた違ったデザインの衣装が並ぶお部屋で衣装を選択。リボンや装飾など、細かいところにまでこだわりが感じられる素敵な衣装(ドレス)が沢山あった。服を選ぶだけで時間があっと言う間に過ぎていきそうで。ネンネと話した結果、海のさざ波を意識したような薄い水色のワンピースにしてみた。この色、ローズ姉っぽくはないんだけど、大丈夫かなぁ。


「ローズお嬢様。これをギャップ(・・・・)と言うそうですよ?」 

「ぎゃっぷ? 帽子のこと?」

「いいえ、お気になさらず」


 さざ波色のワンピースに、ヒールも高くない歩きやすい白が基調の靴。麦で編んだ衣装と同色のリボンと鍔つきの麦わら帽子を被れば、〝ローズ海の街スタイル〟の完成だ。お着換えをして支度部屋を出ると、ソルファ様とサウスオリーブ公爵が出迎えてくれた。


「なっ」

「わぉ」


 え? ソルファ様が固まってしまった。大丈夫かな……似合ってないのかな。下を向きそうになったところでパール婦人がこちらへ微笑みつつ両手を握ってくれた。


「ローズさん。やはりあなた、素材がいいのね。派手なご衣装を好むと聞いていましたが、清楚で可憐な一面も持ち合わせていましたのね。素敵ですわ」

「あ、ありがとうございます」


 そんなに褒められると照れてしまう。いや、これは、ローズの姿を褒められているだけで、わたしではないものね。気持ちを切り替えて気を引き締めないと。


「いやぁ~ローズちゃん。嬉しいよ。ぼくの(・・・)デザインした衣装をここまで着こなしてくれるなんて。やはりぼくの目に狂いはなかったって事だ」

「サウスオリーブ公爵もありがとうございます……って? え? ぼくがデザインした?」


「ソルファから聞いてなかったのかい? ぼくはソルファと違い、昔から剣術が苦手でね。ぼくの本職はデザイナーなのさ。あの部屋にあった大半がぼくの考えたデザインの衣装だよ」

「ええ!? 凄いです! あんなに細かなデザインの素敵な衣装(ドレス)を作ってるだなんて!」

「いやぁ、嬉しいよローズちゃん。是非、母のお茶会の時もぼくのデザインした衣装を着て出席して欲しいよ」

「ええ。是非そうさせていただきますわ」


 サウスオリーブ公爵。今まで会って来た貴族の方々と雰囲気がみんなと少し違うなと思っていたけれど、どうやらルモリーア王国の貴族向けに、様々な衣装(ドレス)をプロデュースしているらしい。そうだよね。衣装(ドレス)一つを作るにしても、デザイナーさんが居て、沢山の縫い子さんが居て。農園と一緒で関わっている人が沢山居るんだよね。


 ドレスのデザインのお話でサウスオリーブ公爵との会話が弾んでいたところで、何やらサウスオリーブ公爵の背後から咳払いが聞こえた。


「アクア。聞き込みもするなら、時間も限られている。話は後にしてくれ」

「あー、はいはい。君のローズちゃんを借りて悪かった。後は二人の時間をごゆっくり堪能してくれたまえ」

「いや、ローズ嬢は誰の者でもない。……まぁいい。行こうか、ローズ嬢」


「あ、はい! ソルファ様」


 ソルファ様も騎士団の服ではなく、街歩き用に白が基調の軽装へ着替えていた。どんな服を着てもピシっと決まっていて似合うソルファ様は凛々しくて素敵だなぁ。サウスオリーブ公爵とパール婦人に入口まで見送られ、ソルファ様、わたし、スミスさん、ネンネの四名で馬車へと乗り込む。外の景色を眺めたままこちらへ目を合わせようとしないソルファ様。どうしたのかなぁ? わたし、何かしたかなぁ? でも、視線はこちらへ向けずとも、ソルファ様が話し掛けてくれた。


「ローズ嬢、マリーナ港を見学した後は、街のゴンドラへ乗ろう」

「あ! はい。たのしみにしていますわ」

「……オレも…のしみにしている」

「え? 何か仰いました?」

「いや、何でもない」


 たまたま風が吹いたせいか、いつもより小声に聞こえたソルファ様が何を言ったのか聞こえなかったんだけど、少しだけソルファ様の口元が緩んだような気がして、怒っていないのが分かって少し安心したわたしなのでした。

 

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