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その伯爵令嬢、〝替え玉〟につき ~替え玉のわたし(妹)が侯爵に溺愛されるなんてあり得ません  作者: とんこつ毬藻
<Ⅱ.南の領主編~Scene Southolive>

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第34話 その伯爵令嬢、公爵家で〇〇〇を叫ぶ

 床にフォークが落ちる金属音が広間へ冷たく響いた。

 わたしはなるべく平静を装いつつ、素早くテーブルの下へと顔を移動し、注目する皆へ向かってテーブルの下から声を発する。 


「ごめんなさい、手が滑ってしまいましたわ」


 床に落ちたフォークを握る。心臓が早鐘を打っている。此処で焦ってはいけない。落ち着いて考えると侯爵の求婚相手である娘をお茶会へ招待しておいて、その親である伯爵夫人も招待するなんて有り得る話だし、パール婦人が仮にゴルドー伯爵家を知っていて、継母キャサリーナの性格を知るなら尚更、招待して当然だと思う。


 大丈夫、わたしはただ、フォークを落としただけ。フォークを握って笑顔で椅子へと座り直すと、既にサウスオリーブ家の侍女さんが待機しており、『替えのフォークをお持ちしました』と手に持っていたフォークを取り替えてくれた。


「ローズお嬢様も、侯爵家へ出向いて以来、母であるキャサリーナ様と一度もお逢いになられていなかったので、多少驚かれたのかもしれません」

「あらー、そうだったのね。ローズさん、いいのよ。あなたのお気持ちは分かります。何せキャサリーナご夫人。他のお家の方々へローズさんを紹介するあの熱の入れようったら……ねぇ? 毎回会場の気温が上昇する程の熱量でしたものね。プレッシャーもあったのでしょう? わかるわー」


 うんうん、と頷いて一人解釈しているパール婦人。わたしは鳥籠の中に居たし、ローズお姉様も継母キャサリーナも、わたしを虐げている対象でしかなかったものだから、そもそも対外的に(・・・・)あの二人がどう見られているかだなんて知る由もなかった。これはもしかすると、ローズお姉様と継母キャサリーナが、社交の場でどう振る舞っているのか、他の貴族の方々からどう見られているのかを知るいい機会かもしれない。


「でも、こうして家族が育ててくれたお陰で、ソルファ様という信頼出来る方と出逢う事が出来ました。わたくしは、この出逢いに感謝していますわ」

「ありがとうローズ嬢。オレも君とちゃんと向き合っていかないといけないな」


 感謝しているのは継母ではなく、ソルファ様やネンネに対してではあるのだけれど。わたしの発言にソルファ様が同調してくれた事で、パール婦人も大変満足そうに『あらー、まぁまぁ!』を連発されていた。よかった。これでこの場は何とか乗り切れそう。


「そう言えばネンネさん、でしたね? あなたのお顔を見るのは本当数年振りでしたが、最近はお家の担当をされていたの?」

「あ、はい。私は侍女の中でも古株(・・)ですから、キャサリーナ様も、若い執事と侍女をローズお嬢様へ付ける事が多かったもので。今回はソルファ様より直々の求婚という事もあり、幼い頃からお嬢様をよく知る私が選ばれました」

「あらー、そうでしたの。まぁ、貴女(・・)程の、有能なメイドさんなら選ばれて当然ね。またお会い出来て嬉しいわぁ」

「ありがとうございます」


 最後のデザートを食べている時、ネンネとパール婦人がそんな会話をしていた。そうよね。ネンネは物心ついた時から私のお世話をしてくれていた存在。幾らわたしの担当だったとしても、ゴルドー伯爵家の手伝いで社交の場へ出向く機会だって過去あってもおかしくないもの。とはいえ、伯爵家の侍女の顔まで憶えているだなんて、パール婦人……相当記憶力がいいんだろうな。


 こうして無事に会食を終えたわたしは、今晩より領館へ泊めさせてもらうという事で、ネンネとの二人部屋を用意してもらった。ソルファ様はスミスさんとの二人部屋。用意されたお部屋のベッドもふかふかで、とっても広い。ベッドへダイブして感触を確かめたあと、ネンネと今後の作戦を話し合う事となる。勿論、今回はいつもの場所ではないため、部屋の内鍵をかけた上で、外部から覗かれていないかなどは入念にチェックしておいた。


「危機一髪でしたね、アリーシェお嬢様」

「ごめんなさい、ネンネ。お継母(かあ)様まで招待されている事まで考えが回ってなくて」


「いえ、アリーシェお嬢様。事前に予測していなかった私の失態です。ただ、キャサリーナ様が来るとなると、こちらも色々対策を練る必要はあるかもしれません」


 ネンネの予想は、姉ローズとしてソルファ様との婚姻の儀を終えるまでは〝替え玉〟作戦へ協力する事はあれど、わたしの邪魔をして来る事はないだろうとの見立てだった。以前みたいに隠れてわたしを虐げるような場もないし、密偵のジウさんやソルファ様もついているため、大丈夫ではあるが、念には念を入れて、不測の事態へ備える準備はしておこうという話になった。


「こんな事もあろうかと、持って来ておいて正解でした」


 ネンネが秘密道具 (?)の入った鞄から、何やら一冊の本を取り出した。いや、本に見えたそれの中身は、ルモリーア王国の貴族同士の相関図や、各貴族や家の特徴が手書き(・・・)で書かれたものだった。


「え? これ……ネンネの手書き?」

「はい。主にゴルドー伯爵家と関わりのある貴族や王家と関わりのある貴族とその関係性を中心に書いた、〝ルモーリア王国貴族図鑑〟とでも申しましょうか。まだお茶会まで一週間あります故、アリーシェお嬢様には、ゴルドー伯爵家と関係の深い貴族から覚えていただこうと思いまして」

「え? 待って……これ、覚えるの?」

「全部は覚えなくていいですよ?」


 眼鏡をチャキっとして微笑むネンネが怖い。ネンネから渡された本を目次から捲ってみる。


一.ルモーリア王国の領と貴族の関係

二.ゴルドー伯爵家とその周辺の貴族たち

三.三大公爵家と四大侯爵家

四.王国貴族相関図


 無理……パラパラって眺めただけでも凄い文量。グランディア侯爵家とディアス大農園を持っていらっしゃるアルマーニュ伯爵家。今回お世話になるサウスオリーブ公爵家。わたしの推し牛モモ、ミルキーを飼っているカントリー子爵家。これだけの名前を覚えるのでもう、精いっぱいだもの。


「当日までに私がそれとなくどこのお家のご夫人が出席されるのかは尋ねておきます。出席する貴族の方だけ覚えるなら可能でしょう?」

「うう……頑張ってみる」


 これも当日失敗しないための準備だ。仕方がない。とりあえずグランディア侯爵家やサウスオリーブ公爵家を含む、ルモーリア王国にある六つの領を持っているそれぞれのお家の名前を見ている内に眠気が回って来たので、今日は寝る事にした。疲れを翌日に回していては明日の活動に響くものね。


 そして、翌日――

 隣のお部屋で眠っていたソルファ様と廊下でお会いしたわたしは、ソルファ様からとんでもない話を聞く事となる。


「おはようございます。ソルファ様」

「おはようローズ。夕べは眠れたか?」


「ええ。お陰様で、ふかふかのベッドでよく眠れましたわ」

「それはよかった。ローズ。後でアクアから話があると思うが、お茶会が始まるまでの残り五日間。ローズ嬢と一緒にサウスオリーブ領各地を観光する事となった。所謂……デート……というものになるかもしれん」

「え? はい?」


 この日、サウスオリーブ公爵家にローズ姿の石像が完成したのでした (※注:してません)


 ソルファ様、デートってどういう事なの~~~!


いよいよソルファ様と港町マリーナでのデート決定!?

続きもお楽しみにです。そして、いよいよ11/3(月)より、漫画読み放題サイト、ヤンチャンWebにて原作コミカライズの第1話が配信スタートとなります。

ドキドキが止まらないコミカライズも是非、楽しんでいただけたなら幸いです。今後ともよろしくお願いします。


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