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その伯爵令嬢、〝替え玉〟につき ~替え玉のわたし(妹)が侯爵に溺愛されるなんてあり得ません  作者: とんこつ毬藻
<閑話Ⅰ~Dias Side>

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EX03 閑話ディアス編 専属侍女は見た! その③

 ディアス領中央のラムネ大通り。石畳の敷き詰められた整然された中央広場で馬車を降りると、陽光を反射して煌めく美しい噴水が私たちを出迎えてくれました。

 

「お坊ちゃま。某はネンネ様と買い物があります故、また昼刻過ぎに此処で合流致しましょう」

 

「嗚呼、分かった」

「え? ネンネも?」

「ええ。お嬢様もせっかくディアス領の街を歩くんですから、楽しんでいって下さい」


 こうして私とソルファ卿の専属執事であるスミスさんは一度広場から退散します。今の時間はどうやらラムネ大通りで市場(マルシェ)が開かれているらしく、ソルファ卿が案内するならば間違いなくそこ……と言う事で、私は眼鏡の淵をクイっと、スミスさんはモノクルをチャキっと。


「どうやら考える事は一緒のようですな、ネンネ殿」

「ええ。スミスさん。私たちは主君へ仕える従者ですから、お二人の勇姿を最期まで見届けたいと考えております」


「それはそうですな……フォッフォッフォ」

「フフフフフフ……」


 互いに初々しいお二人のデート姿を浮かべつつ、市場(マルシェ)へと先回りする私とスミスさん。え? 買い物? そんなものある訳ないじゃないですか。スミスさんも私も始めから。陰からお二人のデートを見守る気満々ですよ?


「それにしても凄い賑わいですね」

「ええ。ディアス領で一番多くのお店が立ち並ぶ場所ですからね。ほら、お二人がやって来ましたよ」

「あ、本当。嗚呼、早く手を繋げばいいものを……ぐぬぬ」


 そうか。こうしてみると、ソルファ卿もエスコート慣れしていないんだなと思う。なんとなくぎこちなさを感じる。アリーシェお嬢様は目新しいものが沢山並びすぎてて興味津々のようですが。お二人が通り過ぎた後、ゆっくりと後をつけると、何やら香ばしい、いい香りが……。ハッ! あれはまずい! ふぅ……アリーシェお嬢様の口元が一瞬雫で煌めきましたが、流石にご自分で気づいたようです。


 どうやらディアス領で採れた牛肉の串焼きらしい。確かにあれは美味しそうです。美味しいものに耐性がないアリーシェお嬢様ですから、あれを食べると一体どうなってしまうのか……。嗚呼、ソルファ卿がお嬢様のために串焼きをぉおおお。尊い、尊すぎる! アリーシェお嬢様のお口へディアス牛が運ばれて……。お肉を食べた瞬間、違う世界へ行った後、アリーシェお嬢様はうっとり♡ 私もうっとり♡


 しかし、この後、それ以上の出来事が起こるのです。アリーシェお嬢様がソルファ卿へ串焼きを薦めたではありませんか?


「遠慮する必要はありませんわよ。はい、あ~ん」

「お、おい……待っ……んぐ」


「あ」

「なんと!?」


 ソルファ卿へ串焼きが運ばれた瞬間、あまりの眩しさに私とスミスさんは眩い光に包まれて、その尊さ故、昇天してしまいました。

 尊い事による死。死因は尊死ですね。


「ネンネ様! ご無事ですか?」

「あ、スミスさん。今、私、一度天に召されていたかもしれません」

「ええ。某もです。ですが、急ぎましょう。お坊ちゃまとローズ様。今ので目立ちすぎてしまいました故」


 次の瞬間、ソルファ卿がついにアリーシェお嬢様の手を掴み、あまりの尊さに取り囲んでいた人々を掻き分け、その場から駆け出し逃走したのです。私とスミスさんも急いで追い掛けます。


 ベンチに座ったソルファ卿とアリーシェお嬢様。そのベンチの下に張り込むネンネとスミスさんです。

 どうやら英雄として持て囃される事をソルファ卿はあまりいい事には思っていないようで。君を哀しませる肩書きなら要らないとお嬢様へ言って下さるソルファ様。なんと紳士な方なんでしょう。その想いが伝わったのか、お嬢様が謝るソルファ様を制止し、こう返したのです。


「わた……くしは、あなたとこうして一緒に居られるだけで幸福なのです。一緒に街を歩いて、一緒に美味しいものを食べる。これの何処が哀しい出来事なんですの? 他人の眼差しなんて気にする必要はありませんわ。わたくしにとっては、大勢の他人より、目の前のソルファ様が大切ですもの」

「大勢の他人より、目の前の……。感謝する、ローズ。オレは見誤っていたようだ」


 ソルファ様がアリーシェお嬢様の手を引き、そのまま片膝をついて手の甲へとキスをします。

 流石に近くを通り掛かった人の視線はありますが、今、真剣なお二人だけの世界へ入った紳士淑女を止める人は居ないでしょう。


「ローズ、君が今、そうしてくれたように、君とちゃんと向き合おう」

「か、か、か、感謝致しますわ」


 よかった。嗚呼、よかった。私が滴り落ちる雫をハンカチで拭き、鼻を啜ります。スミスさんも嬉しそうです。

 が、この後、一難去ってまた一難。騎士団の公務へ遠征中だったゴルドー伯爵家長男――バルサーミ・ゴルドーが登場してしまうのです。

 アリーシェお嬢様の真実をきっと知っている兄。今、目の前に居る人物がローズお嬢様ではなく、アリーシェお嬢様である事もきっと。

 ベンチの下から茂みの裏へ移動し、スミスさんも一緒に見つめる中、卑劣な兄とのやり取りが始まります。


 でも、アリーシェお嬢様へ向け放っていた、此処でも蛇のように絡みつく視線を遮って下さったのは、誰であろうソルファ様でした。

 部下をうまくあしらい、アリーシェお嬢様を守って下さったソルファ卿はまさに騎士で。とっても素敵でしたね。


 最後にお二人が訪れた場所は、路地裏にぽつんとあったアクセサリショップ。

 へぇ~~、女性慣れしていないんじゃなかったのですか? ソルファ卿、乙じゃないですかぁ~~。


「グランディア侯爵と亡き奥方様が利用されていたお店です。お坊ちゃまに今日の記念に何かローズ様へプレゼントしたいと相談され、某が紹介しました」

「素敵なお店ですね」


 お店の外、窓の隙間からちらっと覗いただけですが、上流の貴族の人が身に着けるような高級なモノから、一般庶民の方が手を出せるような可愛らしいアクセサリまで取り揃えている素敵なお店でした。宝石慣れしていないお嬢様……果たして何か選ぶのかと心配していましたが、変装しているローズお嬢様の色ではなく、ご自身の双眸(ひとみ)の色である淡緑色(エメラルド)色の宝石がついたネックレスをお選びのようで。猫を象ったデザインが可愛らしくてアリーシェお嬢様、とってもお似合いです。


 嗚呼、頬を夕焼け色に染めるアリーシェお嬢様の御姿があまりにも眩しくて……私ネンネが本日二回目の尊死を迎えたのは言うまでもありません。


いかがでしたでしょうか? 普段はお見せする事の出来なかった専属侍女ネンネ視点。なんだか尊死してしまっていましたね。閑話はこちらのエピソードで一旦終了。いよいよ次話より「南の領主編」スタートとなります。同時にコミカライズ連載準備も進行中ですので、楽しみにしていただけると幸いです。

今後ともよろしくお願いします。

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