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その伯爵令嬢、〝替え玉〟につき ~替え玉のわたし(妹)が侯爵に溺愛されるなんてあり得ません  作者: とんこつ毬藻
<閑話Ⅰ~Dias Side>

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EX01 閑話ディアス編 専属侍女は見た! その① 

 皆さまこんにちは。ゴルドー伯爵家にてアリーシェ様の専属侍女を務めておりますネンネと申します。

 アリーシェ様が幼い頃よりずっと、アリーシェ様のお世話係をしており、お嬢様の成長を傍で見守っておりました。


 現ゴルドー家当主、お嬢様の実父であるグランデ・ゴルドー伯爵。若い頃は王宮騎士団の副団長まで務めており、王宮の警護という重要な任務まで任されていたのですが、先代の祖父よりゴルドー家を継いだ後、現奥方様であるキャサリーナ・ゴルドー様がお家に来てからは、残念ながらあの頃の威厳は見る影も無くなってしまいました。


 キャサリーナ様と連れ子の長男・バルサーミ様、そして、長女ローズ様は、血の繋がっていないアリーシェ様を幼い頃より虐げ、それはもう酷い扱いをして参りました。持ち前の明るさで、アリーシェ様はいつか光の差す世界を歩める時が来ると信じ、それはそれは健気で可憐なお姿へと成長されました。


 あの日はいつものように、アリーシェ様の姉であるローズお嬢様が朝から「そんなのありえませんわ」と叫んでおりました。


 朝食会場で水をかけられても「ちょうど喉が渇いていたところですので」と姉からの虐めを躱すアリーシェ様。このまま何事もなく朝食が終わるかに見えたのですが、この日は違いました。ローズお嬢様に求婚の報せが届いたそうなのです。まさかローズお嬢様に限って……コホン。と思ったネンネでしたが、お相手はあのルモーリア王国西のディアス領を統治するグランディア侯爵が嫡男・あの王宮騎士団の英雄とされるソルファ・グランディア様。お家柄を考えても申し分ないお相手です。


 ですが、そこはローズお嬢様。そう簡単にいく筈もありません。それもその筈。ソルファ様には、隣国パターギアとの戦争でついた異名があったのですから。女子供関係なく殲滅させたって血も涙もない西の悪魔と呼ばれた〝変わり者の英雄〟。それがソルファ様についた異名でした。まぁ、噂なんていつどこで生まれたものかも分かりませんし、会ってもないお相手へ偏見を持つのもどうか……と思いましたが、結果、あろう事か、ローズお嬢様とキャサリーナ様は、アリーシェお嬢様をローズお嬢様の〝替え玉〟として送り込む案を提案して来たのです。


 奥方キャサリーナ様はきっと大農園を持つディアスの豊富な資源が欲しかったのでしょう。宝石を常に身に着け派手な衣装を身に纏う奥方様はそれはもう〝歩く絢爛豪華〟ですから……コホン。


 こうして〝歩く絢爛豪華〟と〝ありえませんわ御令嬢〟の策略により、アリーシェ様はグランディア家へローズお嬢様として送り込まれる事となったのです。


 深く沈んでいるのではないかと心配したネンネでしたが、アリーシェ様はこれをゴルドー家という檻から抜け出す絶好の機会と考えていたようでした。元々グランディア侯爵家へアリーシェ様が向かうと決まった瞬間から、わたしネンネは最後までアリーシェ様のお傍に仕えると決めておりました。〝替え玉〟がバレないように監視する役が必要と奥方様へ自ら立候補したわたし。作戦は見事に成功です。


 一週間の準備期間の後、アリーシェ様とわたしネンネはゴルドー伯爵家へと向かう事になるのです。


 この時点で、まさかお相手であるソルファ・グランディア様の本当の求婚相手がローズお嬢様ではなく……アリーシェ様であるとは知らずに……。



 そう、ソルファ様の本当の求婚相手はアリーシェ様だったのです。

 替え玉として潜入した直後に「こやつはローズではないではないか?」と言われた時にはもう、心臓が飛び出して、眼鏡に亀裂が入ったかと思いました。ソルファ様から語られたローズ様の容姿がアリーシェ様の御姿だった時にはわたしも驚きが隠せませんでした。

 

 何せアリーシェ様は普段、伯爵家に居ない存在とされています。外に出る時は、子爵家のお手伝いをする時くらいで……。

 そう考えてわたしはハッとします。そのまさかが的中したのです。


 聞けば、何やら社交界の帰り、子爵家のお手伝いをしていたアリーシェ様に一目惚れをしたのだそう。アリーシェ様お気に入りの牛さん……確かモモとミルキーだったと思います。その子達の搾乳をしているタイミングだったみたいで。


 ローズ姿へ扮したアリーシェお嬢様が尋ねます。「町娘のような見すぼらしい恰好で、搾乳している女子(おなご)の何処がよかったのか」と。その言葉を聞いたソルファ様はこう答えたのです。


「そこがいいんだ。今迄オレの前に現れた女子(おなご)は、ただ衣装(ドレス)と宝飾品を着飾り、ただ欲深いだけの人間ばかりだった。ただ、あの子は違う。化粧もせず、額に滲んだ汗を(ぬぐ)い、家畜である牛と会話しながら自分より下の身分である子爵家の仕事を手伝うその姿。嗚呼、間違いない。あの姿こそ、オレの求めていた女性だ」と。


 それを聞いて、ネンネは確信しました。

 ソルファ・グランディア様は、お金や身分・名誉などではなく……ちゃんとその人の中身を見てしっかり向き合ってくれる御方だと。血も涙もない英雄という噂がまるでまやかしか蜃気楼だったのでは思える位、初めてアリーシェ様を見た時の姿を浮かべながら語るソルファ様の表情は柔らかく、優しさに満ちていたのです。


 嗚呼、よかった。アリーシェお嬢様の事を、ようやく王子様が迎えに来てくれた。

 って、〝替え玉〟は見つかってはいけません。侯爵家へ嘘をついていたとバレたなら、きっとネンネもアリーシェ様も投獄、或いは追放されるに違いありません。

 

『こちらへおわす方が貴方様の求婚相手、アリーシェ様です~~(ででーん)』と、どれだけ言いたかったか。ええ、口が裂けても言えませんが。


 アリーシェ様の気持ちを汲んだネンネは、ソルファ様へ提案しました。「婚姻の儀まで六ヶ月の準備期間。仮の婚約相手として、ローズ様を知ってもらい、ソルファ様に相応しい人物か、六ヶ月の間で判断していただく」という内容です。何せ、一目惚れをした相手が目の前に居るのです。アリーシェお嬢様ならばきっと、ありのままの御姿 (ローズお嬢様の容姿でにはなりますが)でソルファ様と触れ合うだけで、お嬢様の良さがソルファ様へ伝わるのではないか? と考えました。


 元々ソルファ様は真っ直ぐな御方なのでしょう。

「君を愛する努力をしようと思う」と言って、アリーシェお嬢様の手を握ったソルファ様はそれはもう眩しくて眩しくて。


 ネンネはアリーシェお嬢様とソルファ様の行く末を専属侍女として最後まで見届けようと誓ったのです。


 ソルファ様へ手を握られ、真っ赤な林檎の実が弾けそうになっているアリーシェお嬢様。それはもうお可愛うございました。


 ネンネはこのお嬢様の御姿だけで、パン十個は食べる事が出来るでしょう。尊い御姿に祈りを籠めて、合掌。


いかがでしたでしょうか? 

南の領主編を前に、一旦専属侍女ネンネは見た! を挟んでおります。

原作進行中のノベルアッププラスにて、じつはこの後、「読者の皆様が侍女視点で観たいシーン」のアンケートを取った場面の閑話を2話ほど用意しております。

「南の領主編」スタート前に、楽しんでいただけると幸いです。今後ともよろしくお願いします。

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