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その伯爵令嬢、〝替え玉〟につき ~替え玉のわたし(妹)が侯爵に溺愛されるなんてあり得ません  作者: とんこつ毬藻
Ⅰ.替え玉開始編~Scene Dias

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第25話 その英雄と兄、模擬戦で火花を散らす

 王宮騎士団の英雄とされるソルファ様が模擬戦をすると聞いて、いつの間にか舞台のある訓練場には沢山の人だかりが来ていた。訓練場には舞台を見学出来るよう、客席まで用意されており、ソルファ様の姿を観たいのか、騎士団員だけでなく、施設で働いてるメイドさん達までちゃっかり客席へ座っているのが見えた。


 わたしとネンネはソルファ様に促され、いつの間にか観客席中央・最前列の客席へと座らされていた。


「どうしよう……わたしがあそこで兄に反抗しなければ、こんな事にならなかったのに」


 わたしの不安そうな表情を気遣ってか、ネンネがわたしの耳元へ囁いてくれた。


「アリーシェ様お嬢様が言わずとも、ソルファ様は怒っていたと思います。それに、さっきのアリーシェお嬢様、かっこよかったですよ」

「ありがとう、ネンネ」

「今は模擬戦に集中しましょう」

「そうね」


 舞台に立ったソルファ様とバルサーミ兄は、手に木刀を一本持ったまま一定の距離を保って対峙している。観客も多いためか、ソルファ様が少し大きな声で模擬戦のルール説明を始めてくれた。


「いつも通り、蹴る、投げるなど、木刀以外の攻撃は無効。舞台に膝をつくか、降参、場外になったら負け。いいな」

「へい。分かってますぜ、先輩」


 あくまで訓練の一環なので、模擬戦を続行出来ない状況……例えば相手が気絶したり、怪我をしたりした場合も即試合終了となるみたい。


「シンシン、模擬戦開始の合図を鳴らせ」


 シンシンさんは舞台と観客席の間に立っており、そこへ何やら楽器のように叩いて鳴らす丸い銅板のようなものが設置されていた。


「では行きます! ソルファ様、バルサーミ様の模擬戦、開始」


 甲高い模擬戦開始の音が鳴り響く。バルサーミ兄が爪先でトントンと舞台を鳴らしたかと思うと、軽やかなステップから一気にソルファ様との距離を詰める。低い位置から腰あたりを狙って木刀を横へ薙ぎ払う兄。ソルファ様は手を出す事なく後方へと下がりつつ兄の木刀を回避していく。


「さっきまでの威勢は、どうしたんですかぁ~先輩!」


 どうしてソルファ様は手を出さないんだろう? わたしが心配している内に、いつの間にかソルファ様が舞台の端まで追いやられてしまっていた。嘘!? 危ない、ソルファ様!


「これで終わり……は?」


 兄がそれまで前傾姿勢で横へ薙ぎ払っていた木刀をこの時、下から上、喉元へ向け斜め上空へ突き出していた。が、ソルファ様の姿は既にそこへおらず、伸びきった右腕を躱す形でバルサーミの左側へ移動しており……。


「いいのか、脇ががら空きだぞ?」

「なっ!」


 これまで一度も攻撃へ転じていなかったソルファ様が右腕に持った木刀をバルサーミの脇腹へ向けて薙いだ。バルサーミも伸びきった身体を瞬時に引き戻し、自身の木刀の先へ左手を添える形でソルファ様の木刀を受け止めていた……のだけど。ソルファ様の振るった木刀が(しな)り、舞台に風が巻き起こる。たった一撃で、舞台端に居た筈のバルサーミ兄が勢いで舞台中央まで引き戻されてしまった。


『きゃああああソルファ様ぁああああ』

『す、すげーー流石……西の英雄だぜ』

『あんなの喰らったら一発で終わりだな』


 客席から歓声があがる中、わたしは息を呑んで模擬戦の行く末を見守っていた。


「けっ、そう来なくっちゃ。面白くないぜ、先輩」

「そうか。ならば次はオレから行こう」


「え? 嘘? 消えた?」


 そう宣言した瞬間、舞台端からソルファ様の姿が消えた。


「お嬢様、上です」

「はえ?」


 驚いて変な声が出てしまう。ソルファ様が上空に飛んでいた。バルサーミの頭上へ向け、真っ直ぐ振り下ろされる木刀。すんでのところで兄が躱すも、ソルファ様は素早い動きで兄の木刀と自身の木刀を重ねる。時に風を切る音が客席にも聞こえて来る。


「速すぎて、見えないだろう?」

「え?」


 いつからそこに居たのか、いつの間にか隣に立っていた人が声を掛けて来たので、わたしは驚いてその人を見た。騎士団の服なんだろうけど、肩のところの飾りからして偉い方なのかもしれないと思った。艶やかな銀髪と榛色(はしばみいろ)の大きな瞳が綺麗で、女の人と間違えそうな位、端正な顔立ちだった。『横の席、失礼するね』と座ったその人は、あまりに速いソルファ様の動きを見えないわたしに変わって解説を始めてくれた。


「バルサーミの剣は軽い。動きは俊敏で相手の不意を突いたり、回避能力には長けている。生存本能は強いんで前線向きではあるけど、重量級相手にはまだ不足だな」

「そ、そんな事分かるんですね」


 わたしが褒めるとその男の人は大きな瞳を一瞬見開いた後、わたしに微笑んだ。


「一方のソルファ。あれは最強と謳われるだけあって、隙がない。死角からの攻撃にも対応出来る勘の良さと天賦の才。圧倒的攻撃力と素早さまで持っているからな。ただ一つ、言える事は……」

「言える事は?」


 そのまま両膝へ肘を置き、組んだ両拳へ顎を乗せたまま……その人は先程よりも鋭い眼光で舞台上を見据えた。


「弱者や部下に甘い。だから、奴の策を見抜けない。いや、仮に見抜いていたとしても……敢えて受ける」

「え?」


 それは、ソルファ様が振り下ろした木刀をバルサーミ兄が両手で持った木刀で下から打ち払ったところだった。その瞬間、ソルファ様の木刀は真ん中から真っ二つに折れ、回転した刀身が舞台に落ち、跳ねた。


 ニヤリと口角をあげたバルサーミ兄が重心をくるりと一回転させ、そのまま回転の勢いそのままソルファ様の頸元目掛けて木刀を振るっていた。そんな、今のソルファ様は折れた柄の部分しか持っておらず、受け止めるものがない! 


「ソルファ様!」


 思わず立ち上がり、怖くなって顔を覆ってしまったわたし。でも、何故かその後、観客席から歓声があがり、拍手が沸き起こっていた。ソルファ様が舞台上に一人立っており、バルサーミ兄が何故か泡を噴いて倒れている。



 隣に居た騎士団の人が拍手を贈りながらわたしへ目配せする。


「まぁ、ソルファへ幾ら策を練ったところで、バルサーミはソルファには敵わない」


 どうやらバルサーミ兄が頸元を狙った攻撃を、ソルファは、折れた木刀の柄を右手から両手に持ち替え、束の部分でバルサーミ兄の刀身を受け止め、そのまま撃ち落としたんだそう。続けて態勢を崩したバルサーミ兄の鳩尾へ向け、左手に持ち替えた木刀の柄の部分を思い切り突き刺し、その衝撃で兄は気を失ってしまったらしい。


「流石ですね、ソルファ様」

「心臓が……止まるかと思った」


 ネンネと拍手を贈るわたし。ソルファ様が気づいて手を振ってくれた。と、同時、誰かに一礼するソルファ様。その視線の先は……あれ? わたしの隣?


 ソルファ様へ拍手を贈りつつ、既にその人は客席から何故か舞台上へ向かっており……。


「ミルア騎士団長、観ていらしたのですか?」

「嗚呼、途中からね。見事な試合だったね」

「ありがとうございます」


 え? え? じゃあ、わたしの隣に今まで居た人って、王宮騎士団・騎士団長のミルア様!?

さぁ、いよいよ第1話より名前のみ出ておりました騎士団長ミルア様登場! 

いつもお読みいただきありがとうございます。続きもお楽しみです。

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