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その伯爵令嬢、〝替え玉〟につき ~替え玉のわたし(妹)が侯爵に溺愛されるなんてあり得ません  作者: とんこつ毬藻
Ⅰ.替え玉開始編~Scene Dias

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第22話 修道院にて ~わたくしに来客ですわ

 妹アリーシェが大農園見学を終えた翌日、遥か東、東の果て《イースター》修道院では姉ローズが何やらいつもと違った行動をしていたのですわ。

「皆さん、ご紹介します。彼女の名前はシスターローズ。持病をお持ちで体調が優れているときしかお顔を合わせる事が出来ない子ですが、皆さん、仲良くしてあげてください」

「ローズですわ、皆さん、宜しくお願い致しますわ」


 一礼したわたくしを同じような顔の子たちが拍手で出迎えますわ。ふふ、演技は完璧ですわね。


「ではローズ嬢、あなたはあそこに座っているシスターウルルの横へ」

「いいですわ」


 みんな物珍しそうにわたくしを見ているわね。それもその筈、結果、藍色の修道服だろうが、わたくしの常に磨きをかけた美しいボディーラインは隠せませんし、それこそ美しく艶やかな金髪と自慢の蒼宝石(アクアマリン)色の瞳は隠しようがありませんものね。それに、初めて気づきましたの。ヒールじゃない貧相な靴も意外と歩きやすいものですわね。こんな場所に来てまで有益な発見があるとは思いもしませんでしたわ。


「うち、ウルルっていうの。よろしくね」

「ええ。よろしくてよ」


 煉瓦色の髪の子が話しかけて来ましたわね。いいわ。こうして仲良しごっこをしているのも、今だけですわよ。


「それでは皆さん。お食事の前にお祈りを。女神ディーヴァ様。いつもわたし達を見守っていただき、ありがとうございます」

「ありがとうございます」


「こうして今日のお食事にありつけるのも……」


 な、なにやら謎の儀式が始まりましたわね。そんなのありえない光景ですが、今はやるしかありませんわね。お食事の前にこんな儀式を毎回やらされているなんて、修道院とは変わったところですわね。


「では、いただきましょう」

「いただきます」


 え? 思わず目の前を二度見するわたくし。そう、お食事と呼べるものがそこには並んでいなかったのですから。


「あ、あの……マザーイースター。朝ご飯はこれだけですの?」

「シスターローズ。どうかされましたか?」

「いえ、なんでもありませんわ」


 丸いパンが1個。オレンジ色のソースがかかった生野菜。スープ。そしてミルク。お肉も卵もフルーツもありませんわ。そんなのありえませんわ。これがゴルドー家なら、わたくしはきっと叫んでいたところですわ。でもいいのですわ。今日は……。


 農作業はまだ体調が優れないからって日陰に座って見学させていただきましたわ。お庭仕事と草むしりなんて侍女がする仕事。偉大な伯爵家の娘、わたくしローズ・ゴルドーがする仕事ではありませんわ。こうしてお庭仕事と草むしりお昼までの退屈な時間を過ごし、ようやく休憩と称してわたくしは自室へと戻って来たのですわ。


「ローズお嬢様。お疲れ様でした」

「お嬢様、お疲れ様でした」


 椅子へ座るとキャサリンがわたくし専用の扇子で(あお)ぎ、ブルーノが飲み物を持って来てくれましたわ。


「これは?」

「そこの山で採ってきた搾りたてのクランベリージュースです」

「そう。よくてよ」

「今日の夜は食堂での食事を終えたあと、鴨肉をローストします。今は辛抱の時です」

「ええ。わかっているわ」


 やはりブルーノはわたくしの心情を理解してくれているみたね。こうして修道院の顔を立ててあげているにも理由がありますのよ。

 そうこうしている内に聞こえて来ましたわ。聞き覚えのある馬車の音が。わたくしはゆっくりと息を吐いた後、キャサリンとブルーノへ告げる。さぁ、演技の時間ですわ。


「行きますわよ」


 修道院に似つかわしくない馬車の登場に、シスター達がざわめいていますわね。マザーイースターが手を叩いて『皆さんは持ち場へ戻ってください』と促していますわね。馬車の扉が開いた瞬間降りて来たのは彼女(・・)の専属執事セバス。馬車から修道院へ続く地面へ向けて、縦に長い赤い絨毯を敷いていきますわ。わたくしからするといつもの光景。だって、靴に小石でも入ったら大変ですもの。


 今日の彼女の衣装は孔雀の羽根をモチーフにでもしているのかと思うほど煌びやかですわね。わたくしよりもウエイブがかったゴージャスな金髪に散りばめられたダイアの髪飾り、耳には紫宝石(アメジスト)のイヤリング。指には金のブレスレットにダイアの指輪。修道院の外観を暫く凝視した彼女は、東方の国より仕入れたお気に入りの扇子をパタンと閉じ、ヒールをカツカツと鳴らしつつ、歩いてやって来ますわ。


「キャサリーナ・ゴルドー様。ようこそお出で下さいました」

「ええ。マザーイースター。ご機嫌麗しゅう」


「久しいわね、ローズ。修道服も似合っていますわね。大人しくしていたかしら?」

「勿論ですわ。お母様の言いつけはしっかり守っていましたわ!」


 お母様。キャサリーナ・ゴルドーは、軽くマザーイースターと会話した後、久しぶりに家族の時間を過ごしたいからとわたくしの部屋へと移動する。部屋の扉を閉めた後、部屋の中にはキャサリン、ブルーノしか居ないことを確認し、そして……。お腹に手を当てて笑い出したのですわ。


「くくく……あははあはははは! ほんっと傑作ね。あれだけ寝るとき以外はドレスしか着なかったあなたが! そんな地味な修道服を! ええ、ええ。似合っているわよ、ローズ。最高ね」

「ひ、酷いですわ! お母様! わたくしがどれだけ我慢したと思っているのですか!」

「ええ。勿論分かっているわよ」

「え?」


 ふいにお母様へ引き寄せられるわたくし。お母様は自身の胸へとわたくしの顔を埋めたまま頭を撫でて来る。


「ええ、ええ。分かっているわ。ワタクシの大切な娘はあなた一人ですもの。今は辛抱のとき。もうすぐ社交界の季節がやって来る。その時までにはちゃんとあなたをこの鳥籠から出してあげるわ」

「え? 本当ですの!? お母様!」


 わたくしは顔をあげてお母様と見つめ合いますわ。そう、わたくしはこんな場所で終わる人間ではありませんもの。落ち着いたところで椅子へ座ってひと息つくわたし達。ブルーノが焼いたシフォンケーキと紅茶を片手に、お母様が話をしてくれましたわ。何やらあのアゴ髭が挨拶しに行ったグランディア侯爵に先日追い返されたらしいですわ。ざまぁないですわね。


「傑作だけど、グランディア家が父も息子も血も涙もない相手だという事は理解しましたわね。まぁアリーシェにはうまくやってもらって。結婚した暁には報酬をいただくことに致しましょう」


 お母様が扇子の裏を眺めている時は、何かを考えている時ですわ。双眸(ひとみ)を細めた母の表情に一瞬だけ悪寒が走りましたわ。


 そう、この日、わたくしがドレスを着ていたならば、お母様の怒りを買うところでしたの。わたくしがどんなにそんなのありえませんわと叫んだところで、お母様の怒りが頂点に達した時は手が付けられなくなりますの。


 優雅で最強で、かつ最狂。それが、お母様、キャサリーナ・ゴルドーですわ。 

 椅子からふいに立ち上がったお母様は扇子越しにわたくしを見ますわ。え? どうしてそんな眼を……?


「そういえばこれ、あなた宛の手紙でしょう?」

「え? どうしてお母様が……!?」


「馬車の上を飛んでいたゴンザレスを呼び止めるの、大変でしたのよ」

「まさか!」


 わたくしは急いでお母様の手からその手紙を奪い、そこに書かれたメッセージを読んで……読んだ瞬間、手の震えが止まらなくなりましたわ。


『作戦失敗。実行当日、標的は既に牧舎におらず。その後、侯爵家により山小屋にて発見されたし。続報を待て』


「どうして……失敗しているの……そんなのありえませんわ! あ」

「一体、どういう事か、説明してもらいましょうか? ローズちゃん」


 その後、わたくしはこっぴどくお母様へ叱られましたわ。


 それにしてもアリーシェ、本物の誘拐に遭っていただなんて滑稽ですわね。金目当ての輩なんて道端の石ころくらい転がっていますものね。ま、少し痛い想いをしたんなら。良しとしておきますわね。


「ローズちゃん。今はその時ではないの? 分かっているわね?」

「え、ええ。お母様、も、もちろんですわ」


 今のアリーシェは侯爵家から金銭と地位を奪うために送り込んだ、わたくしの〝替え玉〟。今は絶対に傷つけてはいけないのだと。いつも傷つけていたのは何処のお母様でしょう? はぁ、面倒くさいですわね。


 アリーシェの継母。キャサリーナ・ゴルドー。いかがでしたでしょうか? ローズとはまたひと味違う最狂な部分が少し垣間見えたならよしですね。通称 #歩く絢爛豪華 な継母です ←

 姉ローズからすると、修道院で質素な生活するだけで既にざまぁ状態ですが、彼女もこれからどういう道筋を辿っていくのか、こちらも楽しみにしていただけると幸いです。

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