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第23話

さまざまな研究者たちが集まって、水脈について話し合いを始めたころ、タタユクが旅に出ると言い出した。


王が驚いて話を聞くと、残りの遺跡を辿ると言う。まさか客人に一人で砂漠を歩かせるわけにもいかぬと、王はそれを許さなかったが、客人も同じくらい頑固だった。


「共に遺跡を見て、分かっただろう。あれらはそれほど信ぴょう性も高くないし、あてにするには古すぎる。行くだけむだだ」


「そうでしょうか? わたくしたちがかつての同胞だったことは、はるか昔のことですが、新たな発見だったではないですか」


王は、はたして己の客人はこれほど強情だったろうかと、頭を抱えた。出会ったばかりの姿とはまるで別人だ。


「そうだとしても、そなたがこの国のために身を砕く必要はない。忘れるでないぞ、タタユク。そなたは砂漠の民ではなく、親愛なる隣人、森林の民なのだ」


そう言いふくめようとしても、客人は受け入れない。


「同時に、あなたを愛している一人の人間です。あなたが愛す国のためにはたらくのは、わたくしのためでもあるのです」


「もういい、それ以上しゃべるな! とにかく、私はそなたの旅を許さない。旅でなく帰国なら、許してやる」


王はついにあきれて、天幕を出た。あのおかしな客人に言うことを聞かせるのは到底不可能だと思い知った。そして恐ろしくなった。自分が死んだあと、あの客人がどれほど彼自身を痛めつけるか、想像も付かないことが怖かった。




その夜、資料を読み漁って疲労困憊状態の王の天幕に、ふたたび客人が訪れた。


「何度言っても同じことだ。そなたの旅は許可しない」


王が硬い声音で構えたが、客人の表情は変わらなかった。不気味なほど平坦で、何の色も感じさせない。旅に出ると言い出したときから、この客人はずっとそんなふうだった。


「……その話をしに来たのではないのか?」


何も答えぬ客人を不審に思った王がそう聞くと、客人は許可を得て天幕に入りたがった。王は許可し、彼を美しい敷布の上に招く。


客人は立ち尽くして、王を振り返ることもなく、強張った声でこう言った。


「カシュハさま。わたくしがこれをお見せするのは、あなたを絶望させるためではありません。それだけはどうしても、今ここで、お分かりになってほしいのです」


有無を言わさぬような、強い口調だった。王は戸惑いつつもそれを受け入れた。


「……? ああ。わかった」


それを聞いた客人は、上着をその場においたかと思うと、その下の服まで脱ぎ始めた。


「なにをしている!」


王があわてて止めようとするが、客人はついにぐいと服の裾をひっぱって、心臓のある場所を見せつけるように露わにした。


その瞬間、王は、星が堕ちて世界が終わったと思った。


「……なぜ」


孤独な幼子のような声音だった。客人はそれにひどく傷つき、痛みを感じたが、真実を告げた。


「分かりません。わたくしはまだ王の身ではありませんが、今朝起きたときにはこうなっていました」


王はそれを見たくなかった。けれど目が離せなかった。自らの肌と揃いの色だ。けれどそれは希望をあたえることなく、失望をもたらすだけだった。


「なぜそのあざが、そなたにあるのだ─」










翌朝、客人は王都を出発した。


王の病を治すための情報は所蔵庫にも森林の国にもなかったが、はるか古き太陽の国だけは、まだ可能性を有していた。


王は、必ず帰ってくるように、と何度も客人に言い含めた。そのたびに客人は誓った。必ず王のもとへ帰り、その星をいただくと。


このときタタユクは、すでに故郷に帰るという選択肢を持たなかった。


彼は小さなトウヒとして生まれ、どうにかひとつ星になれるよう絶え間なく努力して、ようやく次なる宰相補佐という地位を手に入れた。けれど今は、その全てを失ってもいいと思っていた。


小さなトウヒでいい。自分はすでに、たった一人で旅に出られるほど強いのだから。


星になどならなくてもいい。この無数にある星々のひとつになど、なったところで意味がない。ただひとりの胸にあれば充分なのだ。


タタユクは昼も夜もなく歩き続けた。その身体は夜でも眠らず、しっかりと砂を踏み締めて前に進み続けた。


三度の夜を越えた朝、いつつめの遺跡は、目前に迫っていた。

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