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第14話

──────

コウ


まさかほむらさんにメッセージをいただけるとは思わず、返信に時間がかかってしまいました。


小説は書いたことはありませんが、小さい頃からたくさん読んできたので、そのおかげで言葉にするのに衒いがなくなったのだと思います。何はともあれ、そのようにお褒めいただき恐縮です。


これからも陰ながら応援しております。

──────



例の読者にダイレクトメッセージを送った数日後。昼休みに通知に気付いたほむらは、喜んだあと首を傾げた。


「会話のボール投げたら、それ持ってどっか行っちゃった」


「は?」


パックジュースを飲んでいた明李が首を傾げてこちらを見る。


「この前読者の人にメッセージ送ったんだよ。けどあんまり反応がよくない気がする。おれ、嫌われてる?」


「さすがに嫌いってことはないでしょ……遠慮してるんじゃない?」


二人してスマホを覗き込むが、真意は分からないままだ。




─その一方、“コウ”こと恒亮は、ひそかに頭を抱えていた。


「……この文章、なんとなく学生っぽいような……。作者との交流は願ったり叶ったりだけど、こうなると話が変わってくる。どうしたものかな」


缶コーヒーをあおるように飲み干して、恒亮は席を立った。


「まあ、若干そっけない感じで返信したし、向こうも引くだろう。仕事だ、仕事!」


デスクにはびっちり書き込まれた卓上カレンダーと紙の束が残されている。どこを見ても文字だらけのそれは、彼の生活を物語っていた。


「小椋さーん、中村先生の原稿ってもうあがってる?」


「まだです! 連絡も取れないので、今からご自宅に伺おうかと」


「あの人は前に一回やらかしてるからね。無理そうだったら早めに連絡ちょうだい」


「分かりました」


恒亮は繁忙期で殺気立つ編集部を抜け、青空の下に駆け出した。その頃には、ほむらのことは頭から消えていた。




─日が沈んでから随分経った頃。電車待ちの間、例のサイトを覗いた恒亮は、うすく息を吸った。


「……あれで返事来ちゃうかあ……」


相変わらず、可愛らしい文面だ。こちらが距離を計っていることに気付かず、無邪気に懐いて来る様子は可愛らしくもあったが、危うくもある。この調子だとどこかの悪い大人に騙されそうだ。




恒亮は本職の編集者だった。昔から本が好きで、今では出版社に勤めている。私生活でも暇さえあればネット小説を手当たり次第読み漁っているが、どれほど気に入った作品でも、すぐに書籍化しようと思うことはほとんどない。もちろん、派手に話題をさらっている作品なら飛びつくこともあるが─これはその例にはならないだろう。


『不死鳥は星と共に昇る』は、数ヶ月前に第一話が公開されて以降地道に評価を伸ばしているものの、爆発的なものにはなっていない。ランキングは二桁と三桁の狭間を行き来しており、この先の展開次第では化けることもあるだろう……その程度のものだった。


編集者の恒亮に言わせてみれば、そんな作品は他にいくらでもある。しかし恒亮は、己でも分からないところで、この作品にのめり込んでいた。


「(まさかこんなに若い人が書いてるとは思わなかったけど)」


恒亮は苦笑しながら、メッセージの入力欄をタップした。微笑みをたたえたまま、この少し幼い作者に返す言葉を紡いでいく。


おそらく年齢差があることを、年上である恒亮が自覚していれば、危ういことにはなるまい。彼自身そういった自律心には不安がなかったし、この作品が好きなのは本心だ。その作り手と交流できるなら、それがどんな相手であれ、恒亮にとっては幸運だった。




こうして二人の交流は始まった。








小雨が降っているためか、いつもより騒がしい教室の一角で、ほむらはパックジュースのストローを噛んだままぱっと顔を上げた。空になったパックが一瞬遅れて跳ねる。


「返信きた!」


明李は片眉を上げて、ほむらの嬉しそうな顔を眺める。


「例の毎回コメントくれる人?」


「そう!」


ほむらが思うに、“コウ”はかなり年上だ。言葉選びからそれは分かっていたものの、直接話すとなると、距離感があまりにも違ってむずむずする。


「でもなんか、コメントとテンション変わんないんだよね。元々そういう人なのかな? おれ的にはもっと分かりやすく心開いて欲しいんだけど」


明李は彼の新しい友人について、ネット越しということもあり歓迎こそしていなかったが、否定もしなかった。


「ほむらが表に出しすぎなんじゃない?」


「え……そう?」


ほむらは誰とでも軽やかに話すが、仲のいい友人はそれほど多くない。幼少期は頻繁に前世の話をしていたせいで人から距離を置かれがちであったし─それは明李も同じだ─ある程度分別が付いた今も、人生と孤独を共有できるのは、前世を同じくする明李だけだった。


そんなほむらに、この世界の友人ができるのは喜ばしいことだ。相手がほむらより思慮深い相手であることは幸運だった。


「あんたは分かりやすく猪突猛進型だから……その人と仲良くなったからって、すぐに会おうとしたりしちゃダメだからね」


「ちゃんと分かってる。頭では」


「心で会いたがってんじゃん」


「だってそうでしょ〜……読者で、年上で、ちゃんとしてそうだし。いいことばっかだよ」


「よさそうな人でも、あんたが未成年だと分かったら豹変するかもよ?」


「いやだーっ! そんなコウさん、見たくない……!」


「だから、会わなきゃいいんだってば」


その頃には、二人の肌には陽の光が落ち、鳥の囀りが聞こえるようになっていた。


青春において少しの不安はスパイスに過ぎない。ほむらはこの状況を確かに楽しんでいた。


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