第13話
みっつめの遺跡までの案内を不死鳥に頼んだとき、かの鳥は少し困惑した様子を見せた。
いわく、『あそこには益のあるものはない』とか何とか。王と客人はその様子に首を傾げつつ、「益を求めて旅をしているわけではないし、時間もあるのだから、行かない理由がない」と不死鳥を説得して、何とか遺跡まで案内させることができた。
王のほうにも、少し変化があった。カシュハはふたつめの遺跡を出て以降、一人でじっと考えにふけることが多くなったのだ。考えすぎで時たま頭が痛むのか、呻き声を上げることもあった。
タタユクはそんなとき、彼の邪魔をしないよう息を静めたり、砂丘のように美しい線をひく彼の横顔を見つめたりしていた。
いずれ自分も王になるのだという自覚はタタユクに余裕を与えたが、一方で油断も誘った。彼は以前ほど鋭くものを見れなくなっていった。だから友人の変化も、ただ通り過ぎてしまったのだ。
「大樹がかなり近くなってきたな」
「そうですね。昼間に見ると、あの布も輝いて見えます。目の前にあったらまぶしそうなくらい……」
手で影を作りながら、タタユクが目を凝らして大樹のほうを見つめる。王はタタユクの横顔を見ながら、彼の来た道を思い浮かべようとした。
「そういえば、そなたはあの樹を通り過ぎて王都に来たのだったな。……私は、大樹を間近でみたことがないのだ。あそこには何がある?」
王の問いかけに、タタユクは微笑しながら答えた。彼の足どりは、もうとっくに砂に慣れた者のそれだった。
「あの樹の枝には美しい布がかかり、その下には石がありました」
「石?」
王のはねあがった眉を見て、タタユクも同ような表情を浮かべた。
「ええ。大樹の足元に立っているのですが、何も刻まれていなかったので、何なのだろうと思っていました。カシュハさまもご存知ないのですか?」
「知らぬな……それに、砂漠の国の書物にはなぜか大樹についての伝承がないのだ。書物にもなく、噂話も聞かぬ。ただ不毛の地にひときわ大きな影が見えるから、民たちは皆気味悪がっている」
「わたくしが見た限りでは、不吉な感じはまったくしませんでしたが……」
この国であの大樹に触れたのは、不死鳥とこの客人だけだった。王は客人の言葉から景色を想像しようとしたが、どうしても思い込みに負けてしまう。
しかしどうだろう、と王は辺りを見渡した。大樹のほかにあるのは、うち崩れた建物のようなものと、点々と続く煙突のような形の砂だけだ。見慣れぬそれらは確かに不気味だったが、その奥には美しい砂丘と、線を引いたように地と分かれた空が、見慣れた姿で広がっている。
「─不毛の地と呼ばれるここも、それほど悪い風が吹いているわけではない。たしかに水こそないが、ここで人が生きられぬなど、たちの悪い嘘のようだ」
燃えるように熱い風が一息吹いた。それはカシュハの頬を撫で、タタユクのはねた癖っ毛を煽って、彼方に去っていく。彼らの行く先はまだ遠くにあった。
彼らの道のりは順調だった。次の遺跡まではおおよそ四日ほどかかるが、道中に不安はなかったし、不死鳥がまめに水を持ってきてくれるので、二人はこの旅の目的が単に対話だと勘違いするほど、休むことなく語り合った。
夜は星読みやこの国の伝承を交代しながら話し─途中で聞き手が眠りに落ちて、残された者は寝息をそっと聞くのがいつものお決まりだ─二人の仲はますます深まった。
しかし、そんな二人にも、ひとつだけ見解の違うものがあった。不死鳥だ。
カシュハにとって、いつも何かを言い残してすぐに去ってゆく不死鳥に対し、素直に信頼を寄せることは難しかった。けれどタタユクは、この国で最初に手助けをしてくれた鳥のことを心から信頼していた。
これから先も、その違いは彼らの肌の手触りと同じく、変わらぬものと思っていた。次の遺跡を見るまでは、彼ら自身もそう思っていたはずだ。
みっつめの遺跡は、とても小さな、不死鳥のためのものだった。そこに書かれていたのは、不思議な……いや、二人にとっては真実味の薄い、まるで別世界のような内容だった。
〈この国を守りし偉大な鳥よ─その身は炎のように赤く、瞳は太陽のように黄金に輝き、その尾がふれた地には花が咲きほこる。
日の下で民を助け、闇の中で民を守る美しき鳥を讃えるため、ここに石碑を立てる。〉
石碑には大きな鳥の絵も刻まれていたが、彼らの知る不死鳥は火の色とは程遠いものだった。赤く豊かな翼を広げ、額からは黄金の羽根が立つように生えている。─痩せた体と禿げた顔、そして宵闇のように黒い翼とは、似ても似つかない。
二人は息をひそめて互いの顔を見つめ、まるく開かれた瞳の中を見ようとした。そこには同じ疑惑が浮かんでいた──いまこの頭上を飛んでいるあの鳥は、一体何者なのか?




