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第12話

“彼”らしき痕跡は未だないが、ほむらの小説には、更新のたびにコメントが寄せられるようになった。大体は簡素なもので、続きを楽しみにしてます、というようなものが多かったが、その中でほむらは少し気になる読者がいた。一話をアップした頃から毎話コメントをくれる、“コウ”というユーザーだ。


────────

コウ

王でありながら少し不安定なカシュハと、学ぶことに前のめりな一方でコンプレックスを抱えているタタユク……ふたりがどんな関係になるのか、何を話すのか、私も彼らと友人になったかのように楽しみです。続きを待っています。

────────



ほむらは液晶をそっと撫でた。


「(この人のコメントは、毎回しっかり読んでくれてるって分かるんだよなあ……)」


電車の吊り革を片手に握り、もう片方の手でスマホをぎゅっと抱いた。


「(“彼”を探すために書き始めた話だけど、たくさん人に読んでもらえるのは嬉しい。がんばって続きを書くぞ……!)」


ここのところ、ほむらは連日深夜まで執筆に取り掛かっていた。その日も朝一番の小テストは撃沈し、授業も半分寝てしまったが、基本的にはやる気に溢れていた─はっきりと意識が覚醒するのは、大抵午後からだったが。


「六話読んだけどさ、あんたの国の神獣はあんな感じだったんだね」


放課後。課題の準備をするほむらに、明李はそう声をかけた。ほむらは帰宅後すぐに執筆に取り掛かれるよう、放課後のうちに課題を全て終わらせてから帰るようにしているのだ。明李もそれに付き合って、大抵はスマホや本を片手に夕暮れの教室に居残っていた。


「不死鳥のこと? そっちでは神獣って呼んでたの?」


「そう。こっちは亀だったけどね」


「タタユクから聞いたことある! おれのとこの不死鳥は、なんていうかちょっと話通じないところがあったけど……すごい長生きだったし、あれってジェネレーションギャップだったのかな」


他の生徒がいない場では、前世の話を臆面なくできる。ふたりはこの時間が落ち着くので好きだった。


「ああ、分かる。なんか父親みたいだった」


「えっ、父親ってあんな感じ?」


ほむらは前世でも今世でも父親を知らない。前世では幼い頃に死別し、今世でははじめから居なかったので、“父親”というものをよく分かっていなかった。


「大体あんな感じ。話通じない、こっちのこと理解する気もない、とりあえず言うこと聞いてればいいって姿勢でさ」


「ああ……」


国が違っても、その性質は変わらないようだ。


「元は普通の、森の主だったらしいけどね。周りに人が住み始めて、神獣として扱われて、そこからおかしくなっちゃったのかも」


明李の言葉は陽の光と共に落ちた。


「おれたちと一緒だね」


ほむらは一言呟いて、ノートをぱらぱらとめくる。そのとき、廊下を歩いていた足音がぴたと止まった。


「おまえたち、もう下校時間過ぎてるぞ。はやく帰りなさい」


ふたりはあわてて返事をして、荷物をまとめた。いつもより遅い時間まで駄弁ってしまったようだ。


「てかさ、最近いい感じじゃん、小説」


小走りで下駄箱に向かいながら、明李が言う。ほむらはぱっと喜色を顔に浮かべた。


「おもしろい?」


明李はふっと笑った。彼のこういう瞬発力が羨ましいと、心の隅で思う。


「おもしろいよ。それに、結構な人に読んでもらえてるじゃん。コメントも増えてるみたいだし」


「ああ、そうなんだよね! 毎話コメントしてくれる人とかもいてさ」


「えっ、毎話?」


「そう! すごいよね」


靴を履き替えるほむらのつむじを見下ろしながら、明李は片眉を上げた。が、そのとき考えたことは口に出さなかった。確信もなければ、それを言って良い結果になるとも限らなかったから。


「書き甲斐があるじゃん」


「うん!」


隣に並んだほむらを見上げる。


この光景を、“彼”は痛いほど切望しているに違いない。


だが、もし彼が前世の記憶を持っていなければ、これはただ日常の一コマに過ぎないのだ。




その日もほむらは自室に籠り、続きの話を書いていた。夜食を片手に、少しの休憩時間を過ごしていたときだ。


「ん……コメント来てる」


小説投稿サイトの通知が表示されていた。【新規コメントが一件あります】の文字をタップすると、見慣れたユーザー名が表示される。


「コウさん……? 前回のぶんはコメント貰ってたはずだけど」


ほむらは首を傾げて、半分ほど食べ進めていたおにぎりを皿に置いた。両手でスマホを抱えるように持つ。


「ええと……?」


────────

コウ

続きが待ちきれず、改めて一話から読み返しました。

────────



「ああ、更新遅くてすみません……」



────────

話が進むごとに二人の関係が少しずつ変わってゆくのが新鮮で面白く、楽しみでもあります。

────────



「うれしい……。コウさんのおかげで、おれも書くのが楽しいです」



────────

二人の瑞々しい感情が微笑ましく、時に懐かしく感じることもあります。


新しい友人と仲良くなりたいときに少し緊張してしまう恥ずかしさと嬉しさ、互いの差異をなんでもないように通り過ぎたときの風の心地よさが、ここにはあるような気がします。

────────



ほむらはにんまりと笑みを浮かべた。


「あ〜、コウさんって感じだ……」


この読者の文章には少し癖がある。この人も小説を書いているんじゃないだろうかと、ほむらは思っていた。



────────

珍しい児童文学のタグがついていてどんなものだろうと思っていましたが、どこまでもまっすぐに描かれているので、疲れたときに読むととても癒されます。


二人の旅がいつまでも続いてくれたらいいのにという気持ちも少しありつつ、この旅の終わりまで、少しずつ変わってゆく二人を見守りたいです。


ここ数話は更新頻度が上がっていて嬉しいですが、どうかご無理のない範囲で執筆を続けていただければと思います。


これからの展開も楽しみにしています。

────────



ほむらは目を閉じて、肺がいっぱいになるまで息を吸った。これほどまでに嬉しいことがあるだろうかと思った。


ほむらは良くも悪くも人に左右されない性格だった。他人からの評価を気にするわりに、それに引きずられることはあまりない。小説を書き始めてからも、ランキングや評価数はほとんど気にしていなかった。本来の目的が別にあったからだ。


しかし、こんなにはっきりと言葉を伝えてくれる人が現れると、ただ通り過ぎるのは難しい。ほむらは単純なので、寄せられた好意には好意で返したくなってしまうのだ。


彼は少し迷ったあと、“コウ”のホーム画面に移動した。メッセージのアイコンをタップして、とてつもなく時間をかけながら─自分一人の言葉なので小説を書くときよりも大変だった─テキストを書いた。


意を決してメッセージを送信してから、何十回もそれを読み返して、ほむらは情けなく唸った。彼は本来、文章を書くのが得意ではない。国語は苦手だし、人の気持ちを汲むのはもっと苦手だった。


これで良かったのかな? もっといい言い方があったかも……と考え始めたが最後、ほむらは朝方まで眠れなくなってしまった。

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