Wave.5 核
プロフィールに核って、何の事?
すっかり熱を冷まされた私は、首を傾げる。
「こ、核?」
「ああ」
腕を組んだ先輩は、ソファの背もたれに身を預けた。
「お前を知る、お前を見る、お前に繋がる。その理由になるのが核だ」
「は、はぁ」
言われても何が何だか。
よく分からない中で考えていると先輩は、手を額にやって溜め息。そんな事も分からんのか、という仕草だ。言わなくてもそれが分かってしまうのが悔しい。
「視聴者の興味の流れだ。お前が『わぁるふぁ』を見始めた時の事を思い出せ」
そう言われて私は、自分が視聴者になった時の事を振り返る。
あれは確か七年……八年前だったかな? 当時、仕事で色々とストレスを抱えていた。今とは違うデスクワークだったけど、毎日胃が悲鳴を上げる職場だった。
家に帰っても気力が尽きて、何もする気が起きない。暇つぶしにCrossやWaveを目的もなく見てた。人気Waverの動画、動物の動画、人工音声で作られた解説動画、等々。表示されるがままに適当に再生しつつ、それに飽きたらCrossを無意味にスクロールしてぼんやりしてたのを覚えてる。
そんな時にCrossのタイムラインに流れてきた、あるサムネイルが目に入った。
アニメ調で可愛らしい黒髪の狼の女の子が笑ってる。少し前に流行った歌を自身が歌う、という動画だった。MVは儚げで、でも力強く。歌声は透き通ってて、曲調とよく合ってた。
今のモデリングから見るとカクついていたけど、当時の私は魅せられたんだ。
三分間、再生時間はたったそれだけ。
体感はもっと短い、一瞬に近かったはずだ。
そこから私は、その子の名前を確認した。
『わぁるふぁ』
それが彼女の名。勿論すぐに彼女のCrossプロフィールを確認してフォローし、Waveのチャンネルも登録した。
そして彼女の歌宣伝Linerに迷惑にならない程度に、心に染みて癒されて魅せられた、今の感情を送った。何かの反応を求めていたわけじゃない。でも、少ししたら彼女から反応がきた。
『初めて見てくれてありがとう』
『そんなに喜んでくれるなんて、頑張って歌って良かった!』
『これからもよろしくね♪』
『無理しちゃダメだよ?』
最後の一文がダメだった。
ぶわっと涙が出る。一頻り泣いて、私はスッキリして元気を取り戻した。それからも仕事は大変だったけど、配信を楽しみにして耐えられた。彼女の動向は常に把握して、可能な限り追いかけたんだ。
あ。
そういう事か。
私の場合の『知る』は偶然発見したサムネイル、そして『見る』は歌動画。『繋がる』はチャンネル登録とCrossのフォロー、そして感情の送付とその返信。
知って、見て、繋がる。
その大元にあるのは彼女の持っていた信念。
見ている人の友達になる、支えて元気付ける、という核だ。
意識してなかったけど私もその道を、コアを知っていたんだ。