好きだった人が別の女に目の前で熱い告白を。恋心は砕け散りました。
クラウディア・ハルッセン伯爵令嬢は恋をしていた。
隣の領地の同い年、ベルク・ユイド伯爵令息である。
クラウディアが茶の髪の地味な令嬢であることに比べ、ベルクは金の髪に青い瞳のそれはもう美しい令息であった。
隣の領地で、親同士が仲が良いので、顔を会わせる機会が幼い頃からある。
ベルクに会うたびに、胸が高鳴るが、上手くベルクに話しかけることが出来ない。
兄や姉、親戚の子供達を含めて、大勢での交流で。ベルクは、クラウディアの兄や弟達と仲良く遊んで、クラウディアには興味がないようで、ちっとも話しかけてくれなかった。
それでも、ユイド伯爵家の中で、飛び抜けて美男なベルクに、クラウディアは胸がドキドキで。
歳も同い年だし、ベルクは三男で、家を継がず王宮で近衛騎士になって、働くと言っていたから、結婚して彼を支えたい。そんな想いをずっと持っていた。
ベルクと結婚したい。あの腕に抱きしめられたい。
16歳になって、共に王立学園に入学した。
だが、ベルクと接触する機会がなかなか訪れない。
わたくしはベルクの事を愛しているの。
結婚したいのよ。
だから両親にベルクと結婚したいから、婚約したいと頼んでみた。
父のハルッセン伯爵は、
「まぁ慌てるな。我が王国は、比較的自由だからな。結婚に関しては。学生生活の3年のうちに、皆、婚約し、卒業で結婚する家が多い。ベルクの気持ちもあろう。王立学園で交流を深めてからでも遅くはない」
「でも、お父様。わたくし、なかなかベルクに話しかけられなくて」
「それなら、努力しろ。せめて手紙でも書いてみたらどうだ?少しはベルクもお前の事を見てくれるかもしれんぞ」
手紙をベルクに書いた。
わたくしはベルクの事をずっと思っておりました。よろしければ、お付き合い頂けると嬉しいです。
ベルクから返事が来た。
結婚相手はじっくりと選びたい。ただ、君が望むなら、話をしてみてもいい。明日の昼、食事を共にとらないか。迎えに行こう。
嬉しかった。ベルクとやっと交流できる。
クラウディアの胸は高鳴った。
昼休み、ベルクが教室まで迎えに来てくれた。
もう一人、男子生徒が一緒だった。
ベルクは、クラウディアに、
「噂が立っては嫌だからね。君と決めたわけじゃない。だから友達を連れてきたよ」
「ルセル・バーク。バーク伯爵家の三男です。よろしくお願いします」
クラウディアは慌てて、ルセルに謝る。
「こちらこそ、ごめんなさい。つきあわせてしまって」
黒髪で地味な感じのルセルは、大人しい感じの青年だった。
三人で学園の食堂のテラスで食事をする。
ベルクは、にこやかにクラウディアに、
「クラウディアは隣の領地で、幼い頃からの顔見知りだね。いつも、大勢で会うものだから、こうして話をするのも初めてかな?」
クラウディアは、食事のサンドイッチも喉に通らない位、緊張していて。
「はいっ。何度か顔は会わせているのですが、初めてですね。こうしてお会いできて嬉しいです」
ベルクは優雅に、肉をフォークとナイフで切り分けながら、
「君が私を思っていてくれたことは嬉しい。だが、私は結婚相手は色々と見てから決めたいのだ」
「そうですわね。おっしゃる通りですわ」
「まずは、君の事を知りたい。君の趣味を聞かせて貰えないだろうか?」
「わたくしの趣味ですか?刺繍ですわ。後、本を読むことですね」
「本か?最近の本は何を読んでいるんだ?」
「カイル伯爵の冒険談ですわ。これがなかなか面白くて」
「冒険談か。あまり興味がわかないな」
会話が続かない。そこへルセルが、
「カイル伯爵の冒険談。俺も読んだことがあります。面白いですよね。ベルクも読んでみたら良さが解るよ」
「冒険談なんてくだらない」
「でも、読まないで切り捨てるのは良くないよ」
ルセルが助けてくれたのだ。
クラウディアは嬉しかった。
そして、話は途切れて、昼休みが終わった。
ずっとずっとベルクの事が好きだった。
昼休みは気まずかったけれども、次こそはきっと‥‥‥
そう思っていても、ベルクから誘われることはなかった。
そして数日後、ベルクはエメラ・ブリュゼ伯爵令嬢と話をしていた。ただ、二人きりではない。他にも数人の令息と共に、エメラに話しかけていた。
エメラ・ブリュゼ伯爵令嬢はそれはもう美しい令嬢だ。
絹のような金の髪は長く伸ばしており、青い瞳に白い肌。
学園の中でも、令息達に人気のある令嬢だ。
ただ、彼女は隣国に婚約者がいるらしい。
それでも、万が一という事がある。
そう思って令息達はエメラの周りに群がっているのだ。
胸が痛む。
エメラみたいな美人が好きなの?
わたくしには興味を一切、見せなかったくせに。
女はやはり顔なの?
悲しかった。悔しかった。
ベルクに抱きしめられて、愛を囁かれたかった。
そう思っていた数日後、エメラから声をかけられた。
「ねぇ。一緒にお茶して下さらない?ベルクにお茶を誘われているの。わたくし、一人では心細いって言ったら、貴方も誘ったらと言われたの。ねぇ、お願い」
ベルクが何故、自分の名を出したのか解らない。
仕方なく放課後、お茶に付き合う事にした。
三人で食堂のテラスでお茶をする。
ベルクはクラウディアに、
「エメラが心細いって言うから、君を誘ったんだ。構わないね?」
クラウディアの返事を待たずに、ベルクはエメラに話しかける。
「エメラ。君はとても美しい。私は君に惚れてしまった。だから、どうか私と婚約を結んでくれないか?」
「でも、わたくし、婚約者がおりますのよ。皆様、よくして下さるのは嬉しいのですが、やはり、婚約者がおりますでしょ?ですから、貴方とは婚約を結べませんわ」
「しかし。君は私に微笑みかけてくれた。私の事を素敵と褒めてくれた。婚約者より、私の方を愛しているのではなかったのか?」
「社交辞令ですわ。だって、無下には出来ないでしょう。わたくしに好意を寄せて下さる方々を」
「でも、それでも、君は寂しいと言っていた。婚約者が隣国にいて寂しいと」
「ええ、寂しいと言いましたわ。だって離れているのですもの。でも、わたくし婚約を解消するだなんて言った覚えはありませんことよ」
クラウディアは二人のやりとりを見て、胸が痛んだ。
何を見せられているの?
ベルクも酷い。わたくしがベルクの事を好きだと解っていて。
何で目の前でエメラを口説いているの?
何でわたくしが立ち会う必要があって?
酷い酷い酷いっ。
あまりにも酷すぎる。
立ち上がって、
「わたくし、お邪魔なようですので、帰りますわ」
エメラが立ち上がって、
「わたくしもお話が終わったので、帰ります。失礼致しますわ」
ベルクはエメラに縋った。
「私は、君の事が好きなんだ。だから、お願いだ。私と婚約をっ」
エメラは一言。
「わたくしに求婚して下さる殿方は多いのですわ。でも、わたくしには婚約者がおりますので」
歩いて行ってしまった。
ベルクはクラウディアに目もくれず、エメラを追いかけて行ってしまう。
クラウディアの恋心は砕け散った。
もし、貴方の方から、わたくしに婚約を申し込んでくることがあっても、わたくしは一生許しはしない。わたくしの恋心は砕け散ったのよ。
そして、一月経った。
ユイド伯爵家から、婚約の申し込みが来たと、父であるハルッセン伯爵から聞いた。
父は、
「お前はベルクの事が好きだろう。承知したと返事をするぞ」
母も嬉しそうに、
「良かったわね。大好きなベルクと結婚出来るなんて」
クラウディアは首を振って、きっぱりと、
「この婚約断って下さいませ。わたくしは、ベルクと結婚することはないですわ」
父が驚いたように、
「何があった?クラウディア」
クラウディアは、ため息をついて、
「目の前で他の令嬢に告白をしている姿を見たら、恋心も砕け散りますわ。ですから、お父様。お母様。このお話断って下さいませ。お願い致します」
父を通して、ユイド伯爵家に断りを入れて貰った。
翌日、学園に行けばベルクが話しかけてきた。
「何で婚約話を断ったんだ?君は私の事が好きだろう?」
クラウディアはベルクに向かって、
「エメラと結婚すればよいではありませんか」
「エメラには婚約者がいるし、彼女は婚約者と別れるつもりはないと言っていただろう?だから、君と婚約してやると言っているんだ」
「お断りします」
「だが、君は私の事が好きなはずだ」
「目の前でエメラへの告白を聞いて、わたくしがまだ貴方の事を好きだとお思いなら、おめでたい頭ですわね。わたくしにだってプライドがあります。ですから、貴方の事なんて一生許しません。お断りします」
「お前みたいな冴えない女を貰ってやると言っているんだ」
「ですから、お断りします。貴方と結婚するなら独身の方がマシですわ」
言い争っていたら、ルセルが声をかけてきた。
「何を言い争っているんだ?」
ベルクがルセルに、
「この女と婚約をしてやると言っているのに、断ってきたんだ。酷いと思わないか?」
クラウディアはルセルに、
「目の前でエメラに熱い告白をしていた方と婚約したいだなんて思いませんわ」
ルセルは呆れて、
「ベルク。お前、クラウディア嬢の前で、エメラに告白したのか?」
「エメラは美しくて、私は夢中になった。だが二人きりで会いたくないと言われて、クラウディアに付き添って貰ったんだ。私は悪くない」
「お前が悪い。女性の心を踏みにじって。クラウディア嬢の前で、エメラに告白?頭湧いているんじゃねぇ?」
クラウディアの手を取って、
「あっちに行って話をしよう。ベルクみたいな馬鹿、相手にする必要はない」
そう言ってくれた。
二人で、誰もいない中庭に移動する。
ベンチに腰かけて、ルセルはクラウディアに、
「君がベルクを許せない気持ち、よく解るよ。俺も昔、似たようなことがあった。酷い話だ。
目の前で好きな人が別の人に告白するだなんてね」
「ええ、わたくしの心は傷つきました。本当に悲しかった。ずっと彼の事が好きだったから。だから、エメラに告白した時に、わたくしの恋心は砕け散ったのですわ」
「ならば、俺と恋をし直さないか?」
「貴方と恋を?」
「カイル伯爵の冒険談。俺も好きなんだ。他にもどんな本が好きなんだ?一緒に色々と話をしよう。君となら話が合いそうだ」
二人で、色々な話をした。
話が尽きる事はなく、楽しかった。
ルセルのお陰で、ベルクへの砕け散った恋心は遥か彼方に、チリの如く飛んで行って、みじんも消えてなくなった。そんな気がした。
一月後、ルセルと婚約を結んだ。
ルセルはバーク伯爵家の三男なので、王宮での事務職を目指しているとの事。
それでも、構わない。
彼と共に居られることに幸せを感じた。
しかし、ある日、ルセルがとんでもない事を言い出した。
「辺境騎士団の情報部に就職しようと思うんだ」
「え???辺境騎士団?」
どこの王国にも属さない、魔物討伐を仕事とする辺境騎士団。
だが、それだけではない。
屑の美男をさらって、教育を施す。変…いや、辺境騎士団なのだ。
そんなところの情報部へ就職するだなんて。
クラウディアはルセルに、
「何故?辺境騎士団?あそこは、屑の美男を教育する危ない騎士団って聞いているわ」
「そういう噂もあるけど、情報部ってやりがいがありそうだ。面接に行って、情報部長に説明を聞いてきたけど、ギルドへ仕事を探しにいくとか、各国の情報を集めるとかそんな感じで。俺、とても興味があって。だから、そこへ就職することに決めたんだ。ついてきてくれるよね?」
とんでもないことになった。
そんなところへ就職?
婚約者である自分に相談もなく?
どうして?なんで?そんな恐ろしい所に就職を決めたの??
当然、両親であるハルッセン伯爵夫妻は反対した。
「辺境騎士団だと?あそこは、ならず者の集まりではないか?」
「わたくしも反対よ。ルセルと婚約解消しなさい」
クラウディアはルセルの身勝手さに、悲しみを覚えたが、彼と一緒にいる事はとても楽しかったので、結婚をあきらめたくはなくて。
「お父様。お母様。わたくしはベルクとの事で心に傷を負いました。それを慰めて、励ましてくれたのがルセルなのです。ですから彼と結婚したい。婚約解消なんてしたくない」
母がクラウディアに向かって、
「だったら、ルセルに説明に来させなさい。貴方に相談なく決めた事なんでしょう?どういう事かしっかりと説明にこさせなさい。良いわね?」
「解りました」
ルセルに翌日、王立学園で会って、
「両親が反対しています。何故?わたくしに相談なく決めてしまったの?不安だわ。貴方と婚約を続けて大丈夫なの?」
ルセルは慌てたように、
「ごめん。あまりにも辺境騎士団の情報部に入りたくて。王宮の事務官より魅力的に感じたんだ。留守がちになるよね。俺は冒険談が好きで、色々な王国のギルドに行って、色々な物を見ることが出来る情報部に魅力を感じてしまって。それで、君が悲しむなら、この就職は諦めるよ」
「でしたら、わたくしもそこに就職します」
「え?」
「貴方が魅力が感じると言うのなら、わたくしだってそこに就職して、その魅力を感じたいわ」
「しかし、女性を取ってくれるかな?辺境騎士団情報部は。それに各国へ行かねばならない過酷な仕事だよ」
「ええ。それでもわたくしは貴方と同じ景色を見たい」
心が燃え上がる。ルセルの自分勝手は傷ついたけれども、それでもルセルと同じ景色が見たい。
彼を失いたくはない。彼のまっすぐな所、優しい所、全て好きだから。
だから、この結婚諦めたくない。
ルセルは、クラウディアに、
「辺境騎士団情報部に話をしてみるよ」
「ええ、わたくしは貴方を諦めたくないの。お願い」
こうして、情報部に話をルセルはしてくれた。
銀の髪に青い瞳の驚くべき美男が会いにやってきた。
一人の金の髪に青い瞳の美男を連れて。
ハルッセン伯爵夫妻に名刺を差し出した、銀の髪の美男は、
「辺境騎士団情報部長のオルディウスと申します。連れは辺境騎士団四天王のアラフ。このたびはお嬢さんと、その婚約者のルセル・バーク伯爵令息が騎士団に就職希望という事でご挨拶に参りました」
両親は驚いた。クラウディアから聞いていなかったからだ。
父はクラウディアに向かって、
「本当か?お前、そこに就職するのか?ルセルが就職すると聞いていたが」
「わたくしも就職することに決めました」
母が慌てて、
「ルセルに説明に来させるはずじゃなかったの?どういうこと?」
後からルセルが慌てて、部屋に入って来て。
「遅れました。このたびは、オルディウス様。アラフ様。ご足労頂き有難うございます。ハルッセン伯爵、それから伯爵夫人。俺の我儘で本当に申し訳なく」
ハルッセン伯爵は、
「ともかくだ。話だけでも聞こう」
三人を客間に案内した。
優雅に座るオルディウスの姿はまるで貴公子そのもので。
アラフという男も、品よくオルディウスの隣に腰かけて。
オルディウスは、ハルッセン伯爵に、
「女性の登用はしていないのですよ。情報部希望との事で、ただ我が情報部は女性にとって仕事がハードでね。出張も多い仕事で。ルセル・バーク伯爵令息の登用はする予定ですが。我が辺境騎士団は、魔物の討伐を主としておりまして。非常にクリーンな職場ですよ。ですから、バーク伯爵令息の就職先として申し分ない自信はあります」
クラウディアは女性の登用はしていないと言う話にがっかりした。
アラフと言う男がクラウディアの様子を見て、にこやかに、
「バーク伯爵令息がそちらのお嬢様と結婚なさると言うのなら、既婚者用の宿舎も用意してあります。何人かの既婚者はそこで暮らしております。我が辺境騎士団は非常にクリーンな職場です。安心してお嬢様をお任せ頂いて大丈夫ですよ。魔物討伐の仕事は危険ですが、情報部は主に各国のギルドとの交渉と情報収集が仕事ですから。危険も少ないですし」
クラウディアは両親に向かって、
「わたくしの覚悟は決まっておりますわ。わたくしはルセルと一緒に生きます。ですからお父様、お母様」
ルセルも頭を下げる。
「どうか、ハルッセン伯爵っ。この婚約を継続させて下さい。必ず、クラウディアを幸せにしてみせます。俺は情報部の仕事に興味があります。留守がちにしてしまうかもしれない。クラウディアに寂しい思いをさせるかもしれない。それでも、俺は‥‥‥一生懸命仕事をしながら、クラウディアに出来る事をしたいと思っております」
クラウディアはルセルの言葉が嬉しかった。
ハルッセン伯爵は仕方なさそうに、
「君の熱意に負けた。娘をよろしく頼むよ。辺境騎士団の皆様方。どうか、二人をよろしくお願い致します」
オルディウスがにこやかに、
「お任せ下さい。既婚者用の宿舎は、お二人が安心して過ごせる環境になっております。仕事は私がしっかりと教えますから」
ふと、クラウディアは疑問に思っている事を聞いてみる。
「辺境騎士団の四天王って、変な呼び名がついておりますわ?あれは何ですの?」
アラフは優雅に紅茶を飲みながら、
「情熱の南風アラフ、北の夜の帝王ゴルディル、東の魔手マルク、西の三日三晩エダル。
魔物を追いかける情熱を言った言葉ですよ。ゴルディルは夜目が効いて、マルクは魔法の天才だ。エダルの執念は魔物を三日三晩追いかけ続けたことからですな。我が辺境騎士団はクリーンな職場ですから」
「それなら安心ですわ」
本当なのかしら?思いっきりごまかされたような?
屑の美男を教育は???
あまり深く考えない事にした。
卒業後、ルセルと結婚して、辺境騎士団の既婚者宿舎にクラウディアは住むことになった。
ルセルは出張が多いが、戻って来ると、クラウディアにとても優しく接してくれて。お土産も買ってきてくれる。
宿舎の他の奥様方とも仲良くなって、結構幸せに暮らしているクラウディア。
とある日、ふと見覚えのある人が、騎士団員達に連れられて歩いて行くのを見た。
あれってベルク様?まさかね???
屑の美男をさらって教育するって‥‥‥教育?????
その人物はやつれはてて、クラウディアを見て、叫んだ。
「クラウディアっ。私だ。ベルクだ。助けてくれっ。こいつらにっ」
ムキムキ達に、ベルクは引きずられて連れて行かれた。
見なかった事にした。
今が幸せなら、ベルクがどうなろうと関係ない。
いえ、関係はなくないわ。
エメラに目の前で告白させた恨みは、時々思い出す。
エメラを殺してやりたい位に、ベルクの事も、ものすごく恨んでいる。
なんて酷い女なの?婚約者がいるくせに、のらりくらりと、ベルクを誘惑して。
ベルクもベルクよ。わたくしの気持ちを知っていながら、目の前で熱い告白をするだなんて。
そういえば、隣国に嫁いだエメラが、王族達をたぶらかして、王位争いをさせた悪女という罪で処刑されたというニュースが、最近、新聞に出ていたかしら。
まぁ、あのエメラは魔性だから、王族だってたぶらかされてしまうわね。
好い気味だわ。
ベルクだって……わたくしにはどうしようも出来ないし、どういう教育が待っているかなんて。本当にどうでもいい。
エメラの事も遠い昔‥‥‥
ベルクへの砕け散った恋心は、今や遠い幻。
一瞬、恨みを思い出したけれども、
空を見上げれば、傷ついた恋心は風に流されて‥‥‥
隣の奥さんと話をしながら、のんびりと眺める辺境の空は晴れ渡っていて、まるでクラウディアの今の心を映し出しているようだった。