【勇者と魔族の結婚】1
「これは……」
「うん、問題、だよね?」
シルバは頭を抱えていた。というのも、セシルの描いた魔法陣と、生成したアクセサリの置き場に困っていたからだ。物を作る、という仕事はそれなりの広さがいるのだな、とシルバは自分の無知さに呆れた。
「……造るかなぁ、アトリエ」
「増築するか?」
「いや、土地もあるし、隣に一軒家を建てるよ。そっちの方が、いろいろ保管できるし」
そう言われ、シルバはセシルがかつて使っていた魔術棟の研究室を思い出す。本や書類にまみれ、埃まみれで、泊まり込むためのハンモックもあって。決して清潔だとは言えなかった環境を思い出し、シルバは嘆息する。
「……掃除はどうする?」
「え?僕がするよ?魔術棟の研究室だって掃除してたし」
あれを掃除していた、というのか。シルバは心の中で考えながら、セシルの両肩を強くつかんだ。
「掃除を、ちゃんと、するのだぞ?あと、ハンモックは持ち込むな。必ず、帰ってきて寝ろ」
「う、うん。そうだね」
その言葉に強い圧を感じながらも、きょとんとしているセシルであった。
***
アトリエの設計図は家より簡単だった。水回りはあるとはいえ、それ以外はただ板で囲まれた空間なのだ。セシルは設計図を床に敷き、シルバに魔力を流してもらう。あっという間に完成したアトリエは、家の真横になった。
「よし、これで仕事も始められるね」
「次の開店まであと少しだろう?品物はできているのか?」
「できてなかったら、あの汚さにはならないよ」
そう言いながらセシルは魔法陣と作ったアクセサリを小屋へ移す。そして、アトリエに入るとシルバに告げた。
「これから仕事するから、シルバは好きに過ごしててね」
「うむ。時々、様子を見に来よう」
セシルが戸を閉める。シルバが家に向かって歩こうとすると、森の木々の間に人影が見えた。瞬間的にセシルが作った札を構える。魔術のコントロールが苦手なシルバのために作られた札だ。人影はゆっくりと近づいてくると、やがてその姿をあらわにした。
「お前は……勇者か」
「そうだよ、魔王」
そう言いながら、勇者アレックスは膝から崩れ落ちる。シルバは思わず駆け寄ってしまった。
「おい、大丈夫か?」
魔王が勇者を心配するのも変だが、彼はセシルの友人なのだ。無下にはできない。
「お、おなか、すいた……」
「……」
腹の音を立てながら倒れるアレックスを、シルバは抱えて家に入った。




