【旅人と『あの人』】2
「ただいま帰ったぞ……」
「おかえり、シルバ」
シルバが帰ってきたのは、ルナとガイが帰ってから一時間後だった。セシルはカップを片付けて、できるだけ彼女たちがいた形跡を消しておいた。シルバがいない時間を狙って来訪してきた、ということはシルバに隠したい何かがあるのだ。まだ敵なのか味方なのか判断できない相手だが、シルバの妹ということはセシルにとっても家族だ。できるだけ味方でありたい。そんなことを考えていると、シルバは複雑そうな顔をしていた。
「どうしたの?変な顔して」
「誰か、来たな?」
セシルは動揺しないように表情を変えず言う。
「いいや。僕一人だったよ?」
「では、なぜ変な香りがするのだ?コーヒー、とも違うような……」
おそらく、セシルが生成したカフェイン湯のにおいだろう。セシルは「ああ」と呟きながら髪の毛を掻いた。
「いや、お茶が飲みたかったんだけど、入れ方が分からなくてさ」
「……で、どうしたのだ?」
「カフェインの入ったお湯を、魔術で作った」
「……我がいかにお前を甘やかしていたかが分かった。今度、茶の入れ方くらい教えてやろう」
呆れたシルバは肩から力を抜いた。もし、変な人物がこの家を訪れたとして、その相手がセシルになにかしたとすると……そこまで考えてシルバは怒りのようなものを覚える。シルバはセシルを抱きしめていた。
「お前は我を心配させる天才だな」
「体調を管理するのは素人なのに?」
「いい加減、セシルは我がどれほどお前を大切にしているか知るべきだな」
「じゃあ、僕がどれだけシルバを大事にしているかも、知ってもらわないとね」
シルバの背中を撫でながら、セシルは「そうだ」と言う。
「シルバ。シルバって家族、いる?」
もしルナが家族ではないのだとすれば、これ以上、関わるのはよくない。さすがのセシルもそう思い、シルバに聞いてみることにした。シルバはセシルと放すことなく、答えた。
「妹が一人、いる」
「ご両親は?」
「亡くなった。もう、随分前のことだ」
「……そうか」
セシルはシルバの腕の中で考える。ということは、ルナは本当にシルバの妹なのだ。では何故、彼女はセシルとシルバを別れさせようとしているのか。
「何を考えている?」
「いや、何も?」
笑顔で答える。シルバに無駄な心配をさせるわけにはいかなかった。




