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【金策とプロポーズ】2

 夜。布団に入ったシルバはすぐに眠ってしまった。家を建てるために魔力を大量に消費したはずだから、仕方が無い。セシルは布団の隣に寝ころびながら、昼間のことを考えていた。

 (結婚……)

 その言葉は、無縁のはずだった。『魔術を作成する能力』を持っている自分は、きっと一生、人間の戦力にされる。魔術棟から出ることもできないだろうし、結婚どころか恋人すらできないだろう。

 (あるとすれば、能力を引き継げるかもしれない、という理由での偽装結婚くらいだと思ってたけど)

 しかし、現在はどうだろう。自分で召喚した魔人と心を通わせている。お互いに告白はしたが、恋人と呼んでいいのか、パートナーと呼ぶべきなのか、相棒なのか。セシルにはさっぱりわからなかった。

 (シルバが、どう思っているか……いや、シルバはこういうこと、気にしないよなあ)

 つまり、気にしているのはセシル一人なのだ。彼が目をつむれば、この問題は解決する。しかし、セシルには見過ごすことができなかった。

 (やっぱり、けじめをつけよう!)

 そこまで考えて、セシルは布団から出てリビングへやってきた。そして紙を取り出すと、また緻密な魔法陣を描き始めた。

 「……まずは材質と、デザインは……」

 そう、ぶつぶつとつぶやきながら。


***


 「おはよう」

 シルバが起きると、そこにはセシルがいた。普段、朝が苦手なセシルにしては珍しい。シルバが驚いていると、セシルが、椅子をぽんぽんと叩いた。

 「朝ごはんだよ、シルバ。……まあ、携帯食だけど」

 「セシルが早起きとは……今日は雨だな」

 軽口をたたきながら、シルバが椅子に座る。二人は静かに携帯食を食べ始めた。もぐもぐという咀嚼音がリビングに響く。シルバは携帯食を飲み込むと、セシルに向き直った。

 「さて、何を隠している、セシル」

 「……えっと……」

 「どうせ、また徹夜したのであろう?お前は魔術を作ることに関しては天才だが、体調を考えることに関しては素人だからな」

 「なんだよ、それ」

 セシルがクスクス笑う。そして真剣な顔になると、今度はシルバが驚いた。

 「シルバ、真剣に聞いてほしいんだけど」

 「……うむ」

 仕事をしているとき以外、見たことのない真剣な顔。

 (仕事以外でも、こういう顔をすることがあるのか)

 意外な一面だった。いつもへにゃっと笑っているだけではないのかとシルバが緊張する。

 「あのさ……僕と結婚してほしいんだ!」

 「……結婚?」

 「そう、結婚!」

 そう言って、セシルは一つの箱を差し出した。シルバが中身を確認すると、そこには指輪が入っていた。

 「指輪?」

 「僕、いま仕事もしてないし、人間界から追われてるし、魔人じゃないのに魔界にいるし、魔物も倒せないし、家事もできないし……」

 「分かった。お前のことは、我が一番熟知している。……で、どうして結婚なんだ?」

 「……シルバは気にしてないかもしれないけど、僕はけじめがつけたくて……」

 セシルは下を向いて拳を握りしめた。

 「僕が召喚術を使わなければ、シルバは僕に巻き込まれることもなかったし。僕が魔人研究室に追われてなければ、逃亡生活しなくてもいいわけだし。僕と、こういう関係にならなければ、魔王として復活できたかもしれないし……なんというか、今の状況って大半、僕のせいだと思うんだ」

 「ほう……」

 考えたこともなかったな、とシルバは思案する。セシルの思考は、時々、シルバの想像を超えてくる。思わぬところで悩んでいたり、かとおもったら分からないタイミングで喜んだり。つまりは、今回もシルバが知らぬところで沢山悩んで、沢山考えたのだろう。

 「だから、僕にけじめをつけさせてほしい。シルバ、結婚してくれないかな?」

 セシルは顔を上げた。この言葉だけは、シルバの顔を見て言いたい。セシルのその気持ちが届いたかどうかはわからないが、シルバは真剣な顔をしていた。

 「……一晩、考えたのか。徹夜して」

 「いや、徹夜したのは指輪を作ってたからだね」

 「それでも、指輪を作っている間、考えていたのだろう?」

 「……うん」

 その気持ちが、シルバには嬉しかった。普段、アプローチをするのはシルバからの方が多い。どちらかといえば恥ずかしがり屋なセシルが、本気でシルバとの関係を考えてくれたのだ。

 「ありがとう。そうだな、結婚しよう、セシル」

 「本当?」

 「我は、こういうとき嘘はつかぬ」

 「……うん!」

 セシルは嬉しそうに、シルバの左手を取った。そして箱の中に入っていた指輪をはめる。シルバはその指輪をまじまじと眺めた。シルバ―でできた、シンプルなデザインのものだ。

 「……なぜ、指輪なのだ?」

 「あれ?魔人は違うのかな?人間界では夫婦の印として指輪を左手の薬指にはめるんだ。ほら、僕もはめてるよ」

 「ふむ……」

 指輪をシルバはゆっくり見ていた。銀色に輝くそれを、嬉しそうな、不思議そうな顔で見ている。

 「何か、気になる?」

 その様子が気になったセシルは、シルバに尋ねる。シルバは真顔でセシルに言った。

 「これを仕事にすればよいのではないか?」

 「え?」

 「だから、アクセサリを作れるのだろう?ならば、これを売ればよいのではないか?」

 盲点だった。確かに、セシルはアクセサリを魔術で作ることができる。もちろん、デザインや材質を考えるセンスは問われるし、魔法陣を描くのに時間はかかる。ただ、難しい話ではなかった。

 「なるほど。確かに」

 「そうだな……試しに何個か作ってみるといい。我と町に行って、商会に話を通してみよう」

 「あれ?僕も町に行っていいの?」

 「うむ、これをつけよ」

 シルバは手に羊の角を模した頭飾りを持っている。確かに、魔人の特徴である動物の身体的特徴があれば人間と魔人は違いが分かりにくい。

 「……一応、聞いてみるのだが……」

 「うん?なにかな?」

 羊の頭飾りをつけてみながら、セシルは答えた。

 「銀を作れるのなら、金を作ってそれをカネにした方がよいのではないか?」

 「……やろうとしたことあるけど、なんかモラル的に、ね?」

 一つの間をおいて、二人は苦笑してしまった。

 「とにかく、指輪は大切にさせてもらう。ありがとう、セシル」

 「これから、よろしくね、シルバ」

 今度は正直に明るく笑いあう。


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