表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/18

【逃避行と家】2

 話が決まると、セシルはシルバの背中に乗って空を飛んでいた。初夏のはずだが、風は冷たい。

 「あそこが『メメリック』の町だ」

 シルバの言葉に、セシルは下を覗き込む。確かに、そこには中規模ほどの町がある。小さくて詳細は見えないが、民家や商店が並んでいる、ように見えた。

 「じゃあ、あれが森?」

 「そうだ」

 その町の南側。そこに大きな森、というより山の裾野が広がっていた。うっそうとしている、という印象も受けるが、森にしては明るそうなのも事実だ。シルバは静かに高度を落とし、森に入る。入った場所は木が生えておらず、光りが差し込んでいる。周囲に木々はあるものの、そこだけ何もない。

 「ここにくるのも、久しぶりだ」

 「あれ?来たことがあるの?」

 「うむ」

 シルバは嬉しそうに言った。

 「我も、魔王城にいてばかりでは息が詰まってしまう。たまに此処に来ては瞑想していたのだ」

 「瞑想……ぼーっとしてた、ってこと?」

 「なるほど、そういう言い方があるか」

 セシルは周囲を確認する。土は固いが、乾いているわけではない。木々がそこだけないため、光りが差し込んでいる。どこかに道でもあるのか、風通しもよい。これなら、問題ないだろう。

 「で、どうやって家を建てる?」

 「こうやって……」

セシルは腰にあるマジックバックから大きな紙を取り出した。そして、それをシルバに見せる。シルバは訳が分からない、と小首をかしげた。

 「僕の能力、『魔術を作る』能力は、魔法陣を作る能力でもある。魔術を発生させるには魔法陣が必要だからね。で、そこに木材で壁を作る!とか、金属でドアノブを作る!みたいな情報を書き足していくと、あら不思議。家が建つ」

 「そんな細かいことができるのか?」

 「うん。実際、同僚の新婚祝に作ったことが……」

 そこまで言って、セシルは気づいた。そうだ。これからは二人で生きていかなければならない。主従やら恋人やら、よくわからない関係のままでいいのだろうか。

 (結婚……)

 「セシル、どうした?」

 そう言われ、セシルはびくっと肩を震わせる。どうやら自分の世界に入ってしまっていたらしい。

 「いいや、なんでもないよ。ちなみに、新しい家に対する希望はある?」

 「うむ。もちろん、コンロは三口必要だ」

 「了解」

 セシルはその言葉を最後に、大きな紙へ向かっていった。シルバは近くに座り、その作業を見る。

 (本当、仕事のときは真面目そうな顔をしているな)

 セシル、という人間は温厚で大抵は笑っているか、力のない真顔をしている。しかし、仕事に対しては真剣で彼の真面目さがうかがえた。締まりのない普段の顔も好きだが、シルバはセシルの真剣な顔が結構好きだった。

 何時間経っただろうか。すでに周囲は暗闇が支配している。シルバはセシルの手元を照らすように光魔術を使っていた。そして、しばらくすると、セシルが嬉しそうに顔を上げた。

 「できた!」

 「おお」

 その言葉に、シルバはようやく重い腰を上げる。そして魔法陣を覗き込んだ。

 「……細かいな。ここまでいくと、どこかの民族に伝わる絨毯のようだぞ」

 「まあ、家を建てる大工さんも、これくらいの仕事をしてるんだよ。きっと」

 セシルは立ち上がると、さあ、とでも言いたげに、魔法陣をシルバに向かって差し出す。

 「僕の魔力量だと無理ですので、シルバ先生。よろしくお願いいたします」

 「……セシルが少しずつ実行すればよかろう。魔力回復なら協力するぞ?」

 「ま、またそうやって僕をからかって!」

 「ふむ、まあ、それはまたの機会にするか」

 また赤面する主人を笑いながら、シルバは魔法陣と向き合った。そして、体内に巡っている魔力を魔法陣に流し込む。魔法陣が光り、目の前で『現象』が起き始めた。

 木の板、釘、瓦。それが何もない場所から生み出され、組み立てられていく。魔力の流れを止めず、シルバは「おお」と感嘆の声を上げた。

 数分。そんなに長くない時間で、家は完成した。その家は、どこかで見たことのある家だった。

 「これは、人間界で我らが住んでいた家か」

 「そうだよ。コンロも三口あるし、住み慣れてるし。ほら、苔も再現したんだよ!」

 嬉しそうにはしゃぐセシルに、思わずシルバは笑ってしまう。

 (魔術棟にいるときは、こんなに嬉しそうにはしてなかったな)

 セシルが自由になっていくのを感じながら、シルバは家の扉を開けた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ