【ぼろぼろのアトリエと結婚式】2
「人間の結婚式、面白かったです」
ルナはそう言いながら、セシルの指輪をまじまじと見ていた。アレックスは笑いながら、ルナに話しかける。
「もし、ルナさんが結婚するときは、セシルさんに結婚指輪を作ってもらったらどうっすか?」
「そうですね。それも、面白そうですね」
「その時は、僕も腕を振るうよ」
談笑する三人を横目に、シルバはどこかほっとした表情を浮かべていた。本当に、記憶がない間セシルを失う結果にならなくてよかった。
「では、私はこれで失礼します」
「旅、続けるの?」
「はい。特に行く当てもないですし。旅自体は気に入っていますので」
ルナは静かに言った。そしてセシルの手を握りながら耳に口を近づけた。
「『あの人』を、お願いします」
「うん」
そう言うと、ルナは踵を返し、歩いていく。旅人のマントをかぶり、やがて森の闇に消えていった。
「じゃあ、オレも帰ります」
「人間界に?」
「はい」
アレックスは誓いの書を小脇に抱えると、笑顔で言った。
「また、どっかで会いましょう」
「そうだね。また遊びに来てね」
「お前なら、我が家に来ることを許そう、勇者」
偉そうに言うシルバに、アレックスは笑いながら「そうだな」という。そして、二人に背を向け、歩き始めた。
「……勇者が我に笑うなど、気味が悪いな」
「打ち解けた、ってことじゃない?」
セシルのその言葉を背後に聞きながら、アレックスは考えていた。
(お幸せに)
それ以上、アレックスは考えるのをやめた。
***
『ゲーテ』は繁盛していた。工夫して作っている作品も好評で、仕事も軌道に乗ってきた。ただ困ったことに、客人の間で広まった「セシルとシルバは結婚している」という噂が町を駆け巡っていることだ。もちろん、それに文句を言われたことはない。ただ、中には祝の品を置いていく者や、旦那の愚痴をセシルに言いに来る人もいた。
「セシルさんは、シルバさんに文句とかないの?」
「え?うーん……特にはないですね」
「まあ、新婚さんはいいわねぇ」
商店街のマダムは嬉しそうに言った。女性というのは恋の話が大好きだな、とセシルは感じ始めていた。
「でも、浮気には気をつけなきゃだめよ?シルバちゃん、町では人気者なんだから」
「そうなんですか?」
「そうよ。イケメン、高身長、食材を買ってるってことは料理もできるんでしょ?女性から人気だから、気を付けてね」
そう言えば、前に婚姻紋の話で浮気をしてもバレる、と言っていたが、気を付けた方がいいのだろうか。いや、正直者のシルバだ。浮気をするくらいなら、自分と別れるだろうな、と笑う。マダムはその後もしばらくしゃべりながら、やがて帰っていった。
「……シルバ、帰ってこないな」
客足の途絶えた店で、セシルは頬杖をつく。自分の店で、愛する人を待つ。それがどれだけ幸せなことか。セシルは笑いながら、シルバの帰りを待った。
「あ、おかえり、シルバ」
「うむ、ただいま」
店の戸が開いた。入ってきた彼の左手には、指輪が光っていた。




