【ぼろぼろのアトリエと結婚式】1
「大丈夫ですか?」
「ルナちゃんこそ、大丈夫?」
「はい。ガイは私に手加減していたようなので」
シルバがガイを倒してすぐ、ルナはセシルに駆け寄っていた。彼女の言う通り、彼女に大きな怪我はなく、しいて言うなら服が土で汚れている程度だった。
「セシル!」
その叫び声と共に、今度はシルバが駆け寄ってきた。そして抱きしめられる。セシルは全身にある傷が軋みながら、その痛さに耐える。
「シルバ……痛い……」
「まったく、お前はどうして逃げなかったのだ!」
シルバは、自分が許せなかった。セシルを傷つけた自分が。守れなかった自分が。それが、セシルを責める言葉で出てしまう。違う、自分が言いたい言葉はそうではない。
「……守れなかった……それが、悔しいのだ……」
そう言いながら、シルバは涙を流す。自分が、油断したせいでセシルを傷つけた。それが、これまでのどのような出来事よりもつらかった。
セシルは、涙を流すシルバの背をさする。昔、人混みを恐れていた自分に、シルバがやってくれたように。
「僕は、シルバが守れて、よかったよ」
もう、守られるだけではない。自分も、シルバを守れるのだ。きっと、セシルは変わった。それは悪い方にではなく、良い方に。
「うわ、なんだこれ」
と、そこに場違いな声が響いた。そこには、驚いているアレックスがいた。
「あれ、アレックス?」
「うわ!セシルさん、なんでそんな怪我してるんっすか!?ていうか、アトリエはどうしたんですか?なくなってますけど」
「いや……魔王がやっちゃった」
「……魔王、もう一度、倒してやろうか!?」
アレックスは剣を構える。しかし、シルバは泣いているためそれどころではない。その様子を見たアレックスは肩を落とし、剣をおさめた。そして近くに落ちていた指輪を拾うと、セシルに渡した。
「……ほら、セシルさん、立って。あと、指輪を魔王に渡して」
「……けが人に厳しいね、アレックスは」
笑いながら、セシルは自分の足に力を込める。シルバはようやくセシルから離れて立ち上がる。ルナも同様に立ち上がった。アレックスはそれを見終えると、一つ咳ばらいをする。
「……さて、これより結婚式をはじめます」
「え?急に?」
「急に?じゃないっすよ。してないんでしょ、結婚式」
そう言いながら、アレックスは手元にある本を見せる。
「人間界に行って誓いの書を取ってきました。これで、結婚式できるっすよ。ほら、参列者としてご家族もいらっしゃる」
「私、ですか?」
「そうっすよ。じゃあ、はじめるっすよ」
「……お前はいつも唐突だな」
ようやく自分のペースを取り戻したシルバを見ながら、アレックスは嬉しそうに誓いの書を開いた。
「えっと……難しいことは分かんないんっすけど、セシルさんは魔王を愛していますか?」
「そうだね、愛してるよ」
「じゃあ、魔王はセシルさんを愛してる……愛してないとぶっ倒すぞ」
「なんだ、それは」
アレックスの結婚式は適当だった。誓いの言葉も適当だし、セシル贔屓だ。それでも、セシルは笑いながらアレックスの言葉を聞いている。
「じゃあ、魔王はセシルさんのことを……きちんと守れよ」
「ああ、必ずな」
「セシルさんは、魔王に守ってもらってくださいね?」
「いや」
セシルは笑顔で制した。
「僕も、シルバを守るよ」
「……そうっすか」
その言葉に、アレックスは諦めに似たため息を吐いた。そして仕切りなおすように表情を真剣なものに変えた。
「さあ、それでは、指輪の交換です!まずは、魔王。お前がセシルさんに指輪をつけて差し上げろ」
「ああ」
シルバはセシルの左手を取ると、左指に指輪をはめた。思えば、セシルに指輪をはめたのはこれが初めてだった。
(前は、勝手につけていたからな)
少し後悔する。自分が人間の文化に詳しければ、もう少しセシルに歩み寄れただろうか。
「次は、セシルさん。魔王に指輪を」
「うん」
シルバが頭の中で様々なことを考えていると、セシルの柔らかい手がシルバの左手を掴む。その手は温かかった。シルバははめられた指輪を右手で抑える。
「今度ははずさぬ。はずさせぬよう、しっかり頼む」
「もし外れても、僕がはめてあげるよ。何度でも」
そう言いながら、二人は笑いあった。それを見て、アレックスは言った。
「では、これより二人を夫夫として認める!」
誓いの書を乱暴に閉じた。




